- カテゴリ:一般
- 発売日:2007/07/19
- 出版社: PHP研究所
- サイズ:20cm/503p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-569-69292-0
紙の本
オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇 上
著者 カイ・バード (著),マーティン・シャーウィン (著),河邉 俊彦 (訳)
【ピュリッツァー賞】ひとりの天才物理学者の生涯から見えてくるアメリカという国家の光と影。「原爆の父」と呼ばれた物理学者オッペンハイマーの栄光と挫折をつづる評伝。【「TRC...
オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇 上
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商品説明
【ピュリッツァー賞】ひとりの天才物理学者の生涯から見えてくるアメリカという国家の光と影。「原爆の父」と呼ばれた物理学者オッペンハイマーの栄光と挫折をつづる評伝。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
カイ・バード
- 略歴
- 〈カイ・バード〉1952年生まれ。歴史研究家。スミソニアン・ウッドロー・ウィルソン国際センター研究員。
〈マーティン・シャーウィン〉1937年生まれ。タフツ大学歴史学教授。「破滅への道程」で米歴史本賞受賞。
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紙の本
天才物理学者の悲劇
2007/11/06 05:02
9人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:良泉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
広島への原爆投下機エノラ・ゲイ号の機長ポール・ティベッツ元大佐が亡くなった。
最後まで、この人の口から謝罪や後悔の念が聞かされることは無かった。
「原爆投下により戦争を終結させ、何百万人もの生命を救った。」
いまでも米国首脳からさえ聞かされるこの詭弁に沿い、この詭弁からはずれることなく、「英雄」と称されたまま一生を終えた。
原爆投下は、絶対に過ちであった。そもそも、原爆使用を決断するに至る動機が不純であった。それは決して戦争終結を早めるためではなかった。米国による実験だった。はやくも戦後の米ソ対立をにらんだ示威行為であった。原爆使用は史上最大そして最悪の人体実験であった。原爆投下がなされなかったとしても、日本は早晩、降伏するであろうことは、あの時点では誰にでも読めたこと。決して「仕方のないこと」ではなかった。
そして何より、一般市民まで含め、無差別に大量殺戮を行うこの兵器は、どんな理屈をこねようとも使われるべきものではなかった。このことは、議論するまでもない。
ポール・ティベッツ元機長が本当はどう考えていたのかは、今となっては誰にもわからない。しかし、戦後、次々と原爆による被害が明らかになり情報が公開されていく中で、元機長の心の中にもなにがしかの葛藤があったことであろう。口には出せない思いがあったことを想像し、故人の冥福を祈ることとする。
原爆の恐ろしさは、その破壊力・殺傷力だけではない。それが使われない時でさえ、それを保有するだけで十分に相手を威嚇する効果があるということに、それはある。そしてそのことが敵対国どうしの恐怖心を異常にあおることになる。米ソ冷戦時、両国が地球を何度も破壊し尽くしてあまりある原爆を作り続けたアホらしさも、その恐怖心からくる。
原爆の父と呼ばれたオッペンハイマーであるが、この人はポール・ティベッツ元機長よりよほど正直な人のようである。原爆をつくってしまったこと、そして核の増大が歯止めなく続いていこうとする状況に、露骨に懸念を示した。そのそうな性格が共産主義者へのシンパシーも生み、晩年は権力からにらまれながら生活せざるを得ない運命につながる。
この人は確かに天才であった。物理学者としては大成功をおさめた。しかし原爆はものが悪すぎた。ただ単に机上の物理学では終わらなかった。
この人自身が自分の人生を振り返ってどのように感じていたかはわからない。しかし、このような天才は、原爆ではなく、もっと違うところで、その頭脳を発揮して欲しかった。