読割 50
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私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。 (講談社文庫)
著者 島村 英紀 (著)
国際的に有名な地震学者が、「業務上横領」で告訴され、二〇〇六年二月一日「詐欺」容疑で逮捕。七月二一日保釈。本書は、この不可解な逮捕劇を描いた本ではない。一七一日間という長...
私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。 (講談社文庫)
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商品説明
国際的に有名な地震学者が、「業務上横領」で告訴され、二〇〇六年二月一日「詐欺」容疑で逮捕。七月二一日保釈。本書は、この不可解な逮捕劇を描いた本ではない。一七一日間という長期の拘束期間、科学者は何を経験したのか。逮捕・勾留されると「どうなるか」を科学者の目で解析する。【「BOOK」データベースの商品解説】
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地球全体をフィールドとしてきた科学者が、ある日突然逮捕され、半年にわたって勾留されるという体験を、持ち前の好奇心を全開にして、新奇なフィールドに挑むように記録した異色の手記
2009/02/07 22:41
17人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エストラ言 - この投稿者のレビュー一覧を見る
今から3年前の2006年、メディアが騒ぎたてたホリエモン逮捕から9日後の2月1日、ひとりの学者が東京の自宅の家宅捜索を受けた。彼はそのまま拘束・逮捕されて札幌の拘置所に送られ、保釈を一切認められないまま、実に半年近く勾留されることになった。
逮捕され、その後起訴されたのは島村英紀。国際的に知られる地球物理学者。日本では地震学者として一般向けの著作でもよく知られている。北海道大学を拠点に、地震・火山・極地の研究機関で活躍してきた逸材だ。
起訴の理由は「詐欺罪」。北海道大学時代の島村教授が、みずから開発した海底地震計をノルウェーのベルゲン大学に売却し、その代価を教授個人の口座に振り込ませ、研究費にあてたというのである。
これは世にも奇妙な言いがかりというものだった。
そもそも北海道大学は研究費など出してくれず、研究者が外国から研究費を得ることになっても、大学には小切手を受け取る仕組みさえなかったのだ。
それどころか、「詐欺」にあった当事者とされるベルゲン大学が、自分たちは詐欺にあったとは思っていない、島村教授には感謝している、と証言している。
詐欺のかけらもない詐欺罪。一般常識から考えても、この件は、教授の側で煩わしい手続きを少しはしょっただけのささいな逸脱で、この機会に大学のほうで入金の仕組みを作ればよかっただけのことである。
しかし、一審で「懲役3年、執行猶予4年」の判決が下った。
これに対して被告が控訴すれば、あとに続く裁判で無限に時間をとられる。しかも、国を背負った検察の主張は上級審でくつがえされることなく、そのまま通ってしまう。
研究者として現役の島村は、控訴しないという苦渋の選択をした。
本書は、こういう体験を経てきた著者のいわばフィールド・ノートである。「事件」そのものについて順を追って語っているわけではないので、ドラマ性はない。初めて見聞きする事象に興味をかきたてられ、それを客観的に記録すべく、感傷を排して、事実を淡々と記していく。快活さすら感じられるその筆致はまぎれもなく科学者のものだ。
「いままでしたことがない経験に踏み出す。これからなにが起きるのだろう、そういった意味では、初めて南極に立ったときのほうが、よほど興奮していたと思う」(p.26)
独房は「(船の)キャビンだと思えば結構な広さがあるし、船と違って天井も高い。第一に、揺れないのがありがたい。・・・エンジンの音に煩わされることもない」(p.45)
「壁は分厚いコンクリートに白いペンキを直接塗ってある。殺風景といえば殺風景だが、いっぽう、厚い壁に囲まれているということから、これほど地震に強い建物はあるまい」(p.46)
「鉄格子だと思うと気が滅入る。障子の桟だと思うことにした」(p.51)
独房の外のガラス戸に、かつて見た景色を呼び起こして映し出す。「白い砂浜と椰子の林が眩しい太陽の下に拡がっているラバウルの熱帯の海岸や、マグマが冷えて固まった峨々たるアイスランドの岩山や、南極の氷河や、北極海で見た何千頭というアザラシ・・・」(p.122)
毎日、看守や雑役係の役割・行動を観察し、食事を楽しみ、その内容を丹念に記録する。もちろん取り調べ担当の検事もしっかり観察されている。
「検事も気の毒な商売だ。あんな形相を繰り返すのでは、ストレスもたまるに違いない。そして、町で飲んで憂さ晴らしもできない職業だけに、たまったストレスのはけ口もあるまい」(P.103)
そして、日本の司法慣習の理不尽さをあらためて知る。
「調書が「私が・・しました」という形式で書かれていることだ。実際には検事の質問に被疑者が答える形式で尋問が進んでも、調書になったときには、「検事が調べたところ・・と言った」とか「こう聞いたら、こう答えた」という形式にはならないのである」(p.64)
日常の些事に煩雑な手続きをとらせること。あるいは、長期勾留がまかりとおり、そのためには、どんなことにも拡大解釈できる例外規定をあてて、保釈を却下する現状。
それにしても、高名な学者がなぜこんな目にあわなくてはならなかったのか?
著者にはその理由がわかっている。だが、本書では科学者らしい態度を貫いて、第三者の発言として示唆するにとどめる。
「私が著書や発言で、政府の地震予知計画を厳しく批判してきたしっぺ返しなのではないか、というのであった」(p.301)
問題の著書は、逮捕の2年前、柏書房から出た『公認「地震予知」を疑う』。これが国の逆鱗に触れたのである。
門外漢の私が島村英紀を知ったのは、岩波ジュニア新書の『火山と地震の島国――極北アイスランドで考えたこと』を読んでからで、視野の広い、魅力ある人物として記憶にとどめていた。その人が、鳴り物入りの「地震予知」を批判しているというので、問題の本には驚かされたが、堂々と「王様は裸だ」と言ってくれているのは痛快だった。
この本はさいわい講談社から再刊されている。『「地震予知」はウソだらけ』という、より明快なタイトルに変えられて。
地震予知は国策だった。それを専門の立場から批判する人間は、国として放置しておくわけにいかなかった。――著者がそう言っているわけではない。しかし、それは重いメッセージとして本書からつたわってくる。
[付言]
「地震予知」には国民的願望がこめられている。だからといって、メディアが「大本営」にすり寄った希望的観測を流すのは無責任ではないか。
最近も、最相葉月が地震学者の石田瑞穂に取材した、「未来の地震予知へ道を拓く」というタイトルの記事を見かけた。
一般の人の求める「いつ、どこで、どの程度の地震が起きるか」ということとは無縁の内容であるにもかかわらず、このような見出しをつけずにはいられない。――こんなところにも、地震研究が科学にとどまることを許されない現実がかいま見える。
紙の本
あの彼はなぜ逮捕され、そこで何を見たか?
2008/10/17 21:54
8人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:sheep - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者には面識もなければ、啓蒙書もほとんど拝読していない。お名前だけ存じていたが、本件新聞報道をみて、「高名な学者が、なぜつまらない詐欺をしたのだろう」と記事をそのまま信じてしまったことを告白しておく。それで偶然本書をみかけた時、あわてて購入した。小生もうかつだっただ、著者も書いているように、お上のお先棒をかつぐマスコミがそういう誤解を招くのだ。本書は彼が突然逮捕され半年も勾留された時の記録。
今にして思えば、これは国策調査でしかなかったろう。
著者は著名な地震学者、地球物理学者だ。そして著者は「地震予知は不可能」と主張していたし、今でも主張している。地震予知計画が、まさに国策で、有象無象の地震学者が、膨大な国家予算をもらって地震予知研究をしている。要するに著者の主張、国策に反するのだ。
それで、北海道大学で、内部告発?を受け、無理やり犯罪人にされたのだ。
虎の尾を踏んだのかも知れないと、著者は書いている。
地震予知はできないという学問の現実を見てほしい、不意打ちに備えてほしいというのが著者の立場だ。著者の主張、マスコミ上では少数派に見えるが、著者の主張が誤っていることの証明にはなるまい。(評者も、個人的に何度も経験したが、「多数派説が正しく、多数派説を採用すれば成功する」わけではない。少数派説こそ、新製品開発に寄与することが多いかった。)
地震予知に関しては、故竹内均氏による講演の光景を今でも覚えている。トイレット・ペーパーだったろうか長い紙を、演壇上で、上下に引っ張りながら、彼は言った。
「このまま紙の両端を引いてゆけば、紙は必ず破れます。それは誰にもわかります。しかし、この紙でさえ、どこが、いつ破れるのか、誰にも予言できないのです。まして地球規模で、一体どうやって地震が予言できますか?」
本書は、理科系の学者らしく実に几帳面な事実の記録だ。随所にユーモアというか精神的余裕さえ読み取れるのに驚かされる。読んでいて一番衝撃を受けたのは、本筋とは関係ない43ページの記述だ。これは是非ご紹介しておきたい。
引用開始
自殺をもっとも恐れる拘置所当局
ところで、収容者に自殺されることを、拘置所ではもっとも恐れている。責任問題になるからだ。
英国の刑務所では、初犯の収容者が、収容後すぐに自殺を図ることが多いという。
自殺を図るのは二四時間以内が多いので、最初の夜は、医療棟という特別な場所に収容するのが普通だという。最初の日というのは、それだけショックが大きいのだろう。
たとえば二〇〇一年に、英国の刑務所で七三人が自殺し、うち二二人は初犯だった。未遂を入れれば、二〇〇〇年には一五〇〇人以上が首吊りを試みたという数字がある。
日本の統計は明らかになっていないが、自殺願望は似たようなものかもしれない。
それゆえ、日本の拘置所でも、ネクタイはもちろん、ズボンのベルトも、部屋着の腰に入っている紐も、独房には入れられない。差し入れの衣料も、差し入れのときの検査で腰の紐を抜き取ってしまう。
独房の壁に作りつけになっている幅五五センチメートルほど、二段の小さな木の棚も、側板の上端が斜めにそぎ落とされていて、首を吊ろうにも、その紐が滑って落ちてしまうような形になっている。このため側板の高さは、前が四〇センチメートル、後ろが五五センチメートルになっている。
また、棚の下部に作りつけでタオル掛けになっている、塩化ビニールの親指ほどの太さの弱々しいパイプにも、これも紐を掛けて首を吊られないよう、ご丁寧に鋸で半分まで切れ目が入れてあって、十分弱く作られている。
ひとつだけ支給される衣紋掛けも、金属ではなくプラスチック製で、念の入ったことに、三角形の下の辺が切られていて、首を吊る道具にはできないようになっている。
引用終わり
85、86ページにもある。
引用開始
このうち『未決被収容者遵守事項』には、禁止事項が列記されている。
第1章‥拘禁作用を害する行為
1-1.逃走
1-2.自殺企図
1-3.無断離席等
1-4.不正連絡
1-5.自傷
1-6.拒食
1-7.異物嚥下
1-8.刑罰法令違反
第1章には刑務所や拘置所がもっとも恐れていることが挙げられている。逃走はもちろん、自殺や自傷や拒食や異物を呑み込むことなど、いずれも刑務所や拘置所側の責任問題になることである。
引用終わり
そう、つい最近ロサンゼルスで起きた事件を思い出したのだ。戦後日本人を拉致した北朝鮮を「テロ国家」指定から解除するというアメリカ発表と同じ日に起きたあの拉致事件の結末を。本当に自殺なのだろうか?
彼こそアメリカという「テロ国家」による「共謀罪」という恐ろしい法律を根拠にした国策「拉致」被害者に他ならない。しかし大本営マスコミはそう言わない。
アメリカでは日本や英国のような自殺防止の配慮はしないのだろうか?
他の国策捜査の話が長くなった。話を戻そう。もちろんご本人、そもそも犯罪など犯していないのだから、落ち着いておられ、自殺を意図する可能性など本書では全く読み取れない。詐欺罪で告訴されたわけだが、被害者とされる「ベルゲン大学」のミエルデ教授が、「自分たちは被害者だと思っていない」と証言する。こうした事実からか、微妙な判決を受け、著者は控訴を断念する。懲役三年、執行猶予四年。万一判決が「無罪」であれば、検察が控訴し、長い裁判が続いたろう。判決は検察が控訴をしない限界だった。
ナショナル・ジオグラフィックの地震特集号に「地震予知は不可能と主張する」著者インタビュー記事が掲載される。ところが、その後に刊行された日本語版では、著者発言がすっぽり削除されていた。日本のマスコミが大本営広報部であるという証の一つだろう。
不幸なことに、本書のまえがきにあるように、政党のビラ配りのような思いがけないことで同じ目にあわされる可能性が増えている。(この恐ろしい制度に、間もなくもう一つの恐怖が増える。裁判員制度だ。)本書のような書物も増えるだろう。不幸な目にあう前に、その時一体何がおきるのかの思考訓練として、「地震予知」に関係ない人々にも読まれるべき本と言えるかも知れない。
本書はあくまで勾留の記録、事件詳細について知りたい方は著者webをどうぞ。最初に新聞記事を信じてしまった罪滅ぼしに、新刊本を読ませていただこうと思っている。
電子書籍
逮捕されたくない
2023/08/08 19:23
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投稿者:とても面白かったですさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルからとても興味を惹かれました。
この作者には以前から興味を持っていて、とても読んでみたいと思いました。
他の作品も読んでいきたいです。
逮捕されたくないなぁ