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紙の本
ピアニストで、文筆家でもある青柳いづみこ氏によるフランスの作家家ドビュッシー氏の評伝です!
2020/10/05 09:44
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『翼のはえた指 評伝安川加壽子』(吉田秀和賞)、『青柳瑞穂の生涯』(日本エッセイストクラブ賞)などの名作を発表されるとともに、ピアニストとしても世界を股にかけて活躍されている青柳いづみこ氏の作品です。同氏は、フランスの作曲家ドビュッシー氏を研究され、博士論文では「ドビュッシーと世紀末の美学」と題した内容を書かれました。同書は、神秘思想、同性愛、二重人格、近親相姦、オカルティズムといった印象主義という仮面の下に覗くデカダンスの黒い影に覆われた従来のドビュッシー観を覆し、その悪魔的な素顔に斬り込んだ、第一線で活躍するピアニスト・青柳いづみこ氏による画期的評伝です。頽廃の作曲家の光と闇を描いた名作です!
紙の本
オカルティズムの影がある
2012/04/03 17:22
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:k-kana - この投稿者のレビュー一覧を見る
今年(2012)は、ドビュッシーの生誕150年とのことだ。このところ、ドビュッシーの名を一般的なものにしたのは、あのベストセラー(映画にもなった)『ダ・ヴィンチ・コード』に理由があるらしいが……。著者は第一線で活躍するピアニストだ。エッセイストとしても名が知られている。そして、ドビュッシー研究で学術博士号を取得した演奏/理論の両道に通じた俊英でもある
「ドビュッシーと言えば印象派」と直ちに反応するほどに中学校の音楽授業から繰り返し聞かされてきた。印象派という言葉がまとわりついてぬぐうことができない。著者はそんなドビュッシーの仮面を引きはがし、隠れていた素顔に新たな光をあてたいという。ドビュッシーの実像には、オカルティズムの影があるとも。
ドビュッシー=印象主義者のレッテルは、管弦楽のための《夜想曲》が全曲初演されるころには、すっかり定着してしまう。たしかに、色彩を音の響き、輪郭線を旋律、構図を構成、と置き換えれば、ドビュッシーの音楽を印象派の絵画と関連づけることは可能だ。
印象派の画家たちは明確な遠近法を嫌って画面を平面分割した。ドビュッシーは、形式からみると、第1主題と第2主題の明確な対比やその有機的な展開・再現を極力避けた。この点で印象派の画家たちと同じような革命を作曲技法上にもたらしたといえる。
しかし、技法上の類似と美学的な意味は違う。すくなくとも美学的にはドビュッシーは印象派の影響を何も受けていない。ドビュッシー自身の発言はこうだ。「私は、あのバカ者どもがよぶところの『印象主義』とはまったく別のもの――一種の現実といいいかえてもいいですが――をつくろうとしているのです。印象主義は、絵画の批評家たちによって、考えられるかぎりの間違った使われ方をしています。彼らは、数ある芸術のうちでももっとも美しい『神秘』の創造者であるターナーにまで、この定義をあてはめようとするのですから!」
ドビュッシーの世界は不思議な光に包まれている、と著者はいう。明るいのにほの暗く、もやもやしているのに透明で、柔らかいのに鋭く、優しいのに意地悪で、静かなのにはげしく、冷たいのに熱く、漂っているようなのに深い、ちょうど、霊媒の口から吐き出されるエクトプラズムのように――霊能物質とでも言えばいいのか。いつとも知れぬ間に闇から発生して一瞬の光彩を放ち、またひっそりと闇に戻っていく。彼はつねづね、「音楽は言葉が表現できなくなったところからはじまる」と語っていたのだ。