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紙の本
「人生が不条理で満ちているなら、私がそれをみんなに知らせてやろう」。そうおもった若者が皇帝の力を持ったとしたら。カリギュラの若さが良く出ている翻訳。
2009/02/09 09:36
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
史実とされているのと同様、この舞台の上でも若い皇帝カリギュラは愛した妹の死を境に変貌し、不可解な行動をくり返し、最後には臣下の手で殺されてしまう。
カミュはしかし、「皇帝カリギュラ」というよりは「突きつめすぎた若者」の姿を書きたかったのではないだろうか。このカミュの「カリギュラ」を読むと、人生を真剣に突きつめていくとこんな風にもなってしまうのかと、考えつめていきつく先の哀しさのようなものをどうしても先に感じてしまうのである。
若者はいつの時代も、自分が生きている世界の不条理に向かい合わされて悩み、進んでいくものなのだろう。その時、大半は妥協や、忘却という手段で世界と「馴れ合って」行く。それができなくて突出する若者の行動はその人の性格によって、時代時代によって、いろいろな形をとる。
そんな「不条理から逃げられない」、あるいは「逃げない」若者がカリギュラのように「皇帝の権力」をもったら、という設定として、カミュはカリギュラを使っただけなのかと思う。「人生が不条理で満ちているなら、私がそれをみんなに知らせてやろう」。そうおもった若者が皇帝の力を持ったとしたら。それがカミュのカリギュラではないだろうか。悪であることを知りながら、冷静にそれを行っている、自分のしていることを知り尽くして、すべてを冷ややかに行っている姿は、カミュが「ペスト」で表現した考え方に確かに通じるものである。
カミュがこの作品を著したのは1958。ヒトラーをまのあたりにしてこのような作品を思いついた、と言う人もある。しかし、カミュのカリギュラが平民であったら、ヒトラーのように権力を握ってまで権力を暴虐的に振るおうとはしなかったのではないか。もしかしたら「誰でもいいから殺す」などと路上を走ったりしたかもしれない、と思うのは考えすぎだろうか。
こう考えると、カミュのカリギュラの行動はとても現実的な色合いを帯びてくる。現代でも、不条理な現実に若者はぶつかって悩む。大半は前にも書いたように、現実と妥協したり、慣れあったり、忘れたりして通り過ぎているのだろうけれども、その時、とても冷静に(本人だけそう思っているのかもしれないが)その現実に立ち向かおうとしたら、カリギュラのように考える場合もあるのではないだろうか、などと。
戯曲の中では、カリギュラに近しい4人の人間がそれぞれに違った形での理解、共感する姿が描かれている。それぞれの心の痛みもかなしい。
本書の翻訳は、2007年に蜷川幸雄演出、小栗旬主演で上演されたときのものである。歴史的な主人公カリギュラの年齢(20代後半)にしっくりあうみずみずしさがよく出ていると思う。残念ながら公演は見逃してしまったが、再演があるならぜひみてみたいものである。
解説は「フランス現代思想」の内田樹。『「おじさん的」思考』あたりのタッチとは違う、大学講義的文章なのでわかりやすい、とはいえない解説である。彼の言うとおり、「戯曲を読むことよりむしろ上演すること、部隊の観客となること」で理解する、という気持ちが、戯曲を読むときには必要だ、ということととっておきたい。
紙の本
内容紹介
2008/10/10 19:16
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:早川書房 - この投稿者のレビュー一覧を見る
“不可能! おれはそれを世界の涯てまで探しに行った。おれ自身の果てまで”――。ローマ帝国の若き皇帝カリギュラは、最愛の妹ドリュジラの急死を境に、狂気の暴君へと変貌した。市民の財産相続権の剥奪と無差別処刑に端を発する、数々の非道なるふるまい。それは、世界の根源的不条理に対する彼の孤独な闘いだった……『異邦人』『シーシュポスの神話』とともにカミュ〈不条理三部作〉をなす傑作、新訳で復活。解説/内田樹
著者説明
■アルベール・カミュ Albert Camus
1913年、アルジェリア生まれ。アルジェの労働者街ベルクールで幼少期を過ごす。
アルジェ大学卒業後、様々な職を転々としたのちにパリで新聞記者となるが、ドイツ軍のフランス侵攻により離職、地下出版《コンバ》紙の編集など、レジスタンス活動に携わる。
42年に発表した『異邦人』が大反響を呼び、戦後『ペスト』(1947)によって作家としての地位を確立。
小説・戯曲・評論を通じて人間の根源的不条理を追究し、本作『カリギュラ』(1945年初演、ジェラール・フィリップ主演)は、『異邦人』および『シーシュポスの神話』(1942)とともに、カミュ自身によって〈不条理三部作〉と位置づけられた。
演劇活動にもきわめて熱心で、劇作家・演出家・脚色家・俳優として活躍。他の戯曲に『誤解』(1944年初演)『戒厳令』(1948年初演)『正義の人びと』(1949年初演)などがあり、ドストエフスキーやフォークナーなどの作品の脚色も手がけた。
57年ノーベル文学賞受賞。60年1月4日、自動車事故で急逝。
■岩切正一郎
1959 年生,国際基督教大学教授 著書『さなぎとイマーゴ ボードレールの詩学』, 訳書『ノアノア』ゴーギャン,『世界文学空間』カザノヴァ,『サタンが稲妻のように落ちるのが見える』ジラール,他『ひばり』アヌイ(ハヤカワ演劇文庫)および本作で第15回湯浅芳子賞(翻訳・脚色部門)受賞