紙の本
作者の選択は、「冴えた」(neat)という表現で形容するには重い
2009/12/31 08:28
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
15歳の少女コーディー・キャスは誕生日祝いに両親から小型の宇宙船を贈られる。冒険心あふれるコーディーは、それを長距離用に改造して遠大な旅に出てしまう。
宇宙空間で漂流中のメッセージ・パイプを回収したことから、それに付着していた微小なエイリアンとの間に奇妙な関係を築いていく…。
以前、ハヤカワSF文庫から『たったひとつの冴えたやりかた』としてまとめて出版された3編のうち、表題作を改訳して切り出したものです。
物語は健気で無邪気な少女コーディーの宇宙冒険譚として始まります。まだ人生のとば口にも立ったとはいえない彼女の、恐れ知らずで猪突猛進の行動には危うさを感じつつ、同時にまた、若さのもつほほえましい青さを妬ましく思わないでもありません。
しかしやがて彼女が宇宙空間で孤独なファーストコンタクトを経験し、その邂逅をある形で終息させなければならなくなるという展開を見せるに至り、私の中には大きな疑念も生まれてくるのです。
彼女のその決断が「たったひとつの冴えたやりかた」なのか、それとも彼女の幼さから来るつたなく、拙速のそしりを免れないものなのか。
実は読了後にもまだ私は決めかねているところがあります。彼女の選択を「冴えた」という表現、もしくは原題にある「neat」という英語の語感とぴったりくるだけのものとして捉えきれない自分がいるのです。
翻って思うのは、作者ジェイムズ・ジュニア・ティプトリーの人生最後の決断のこと。
訳者あとがきに記されているとおり、彼女のその決断はSF業界と多くのSFファンに大変大きな衝撃を与えました。そのショッキングな選択も彼女自身は「たったひとつの冴えたやりかた」とみなしていたのではないか。しかしそこにもまた私は、「冴えた」という言葉で形容するにはどこかしっくりとこない、胃の腑にすとんと落ちてくれない居心地の悪さを感じるのです。
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すでに文庫として刊行されている「たったひとつの」からスピンアウト、
改訳されて出されたソフトカバーの本。新書サイズでとても軽い。
上質な本といった印象。短編三つのうちの最初の物語を抽出して
一冊にしたものなので、あっという間に読みきることができる。
行間もゆったりしているので、電車で読むのに最適。
それにしても、なぜこれなんだろうか? という気がしないでもない。
が、文庫版の少女漫画炸裂の表紙と挿絵が恥ずかしい人には
コッチのほうが絶対いいし、人にも勧めやすいボリュームとセンス
なんじゃないかと思った。肝心の改訳は、同じ翻訳者の手によるもので、
さすがとしか言いようのないスムーズな言葉運びであるが、
旧約版でちょっと気になった時代を感じさせる言い回しが、
全てきれいに取り除かれ、洗練度が増している。旧版(というか文庫版)で
満足している人には別段どうということはないと思うが、
ティプトリーに興味を持っている新しい読者には大プッシュしたい。
最初に読んでほしい一冊。
それにしても、コーティーとシルのやり取りは瑞々しさに満ちている。いいなぁー。
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「生まれも、育ちも、種族さえちがっても、ともだちになれると思った。」というステキすぎる帯に惹かれて購入した初ティプトリーでした。
飽くなき宇宙への探求心と超資産家の娘という立場を強みに、ひとり宇宙の溝〈リフト〉へと旅だった16歳の少女コーティーと、そこで出逢った未知のエイリアン、二人の友情の物語。
ラストには「ええっ、マジで? そんな!」と感じてしまうけれど(オチが変とかいう意味ではなく、二人の決断に圧倒されて)、この二人の関係性――本当に何もかも違うのに、お互いのことを慮るやりとりとか、コーティーの真っ直ぐな好奇心がいいなあ、と純粋に思いました。浅倉さんの訳も絶妙。なんかSF界って訳がべらぼうに巧い人が多い気が。
ただこの本に収録されてるのって、もともとの中編集の一部なんですね。間に挟み込まれる、デネブの中央図書館のエイリアン描写がもうちょっと読んでみたいかも。
それにしても、世に言うティプトリー・ショックはすごかったんだろうなあ。
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すでに文庫化された、3つの短編の最初ということで文庫版買えばよかったかと少し後悔。もちろんこれだけでも十分面白い。
内容は「冷たい方程式」と少し似ている、ここではちょっとした冒険心によるものだけど、脳寄生型の知性体が存在することで葛藤がより濃く描かれている。分かっているけどどうしようもできない結末というのは、人をむしろ冷静にさせるものなのかもしれない。
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溌剌とした若い力が
異文化との融合の末選ぶ英雄的決断
時間を隔てた周りとのやり取り
ハヤカワ文庫と異なりイラストが入らないから
これだけ抜き出されたから
集中して読める。
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後半につめこみすぎた印象をうけた。テーマはおもしろくて、もっとていねいに書けばすごくいいものになっただったろうに、これだと消化不良。残念。
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うまく言えない!とにかく衝撃的でした。まさかあんなラストを迎えるなんて思ってなくて、泣きたくなりました。好きにはなれない、でも心に残る本でした。
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16歳の少女コーティの宇宙探検は、宇宙船に偶然付着した、寄生型超微小エイリアン、シロベーンと行くことに・・・。完全にSF的な世界観から始まるので、最初は出てくる用語に苦戦するが、すぐに慣れる。コーティの頭脳明晰さと、暖かい人情が余韻に残り、今でも悠久の宇宙をゆっくりと漂うCC-1(コーティの宇宙船)が目に浮かぶよう。
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傑作中編の再約。
なので、以前より読みやすくなっている。
内容はスペーストラベルファーストコンタクトもの。
小気味良く話が進み、そして怒涛の展開をみせる。
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SF初挑戦の作品。馴れないからか想像力の限界を感じてしまった……。でもコーティーのかっこよさには胸が打たれた。
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おだやかで知的な雰囲気がすごい好きだ―… 作者略歴にまたため息。こういう人からこういう作品がうまれるのか〜 う―ん 今までアンソロジーとかでこの人の短編読んでるはずなんだけど、印象に残ってなくて、再読しなきゃ。旧訳は読んでないけど、この作品の訳は素敵。読みやすくて、キュートで賢さにあふれるコーティーが生き生きとしていて。
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寄生獣(岩明均)という私が好きな作品を
思い出しました。
自分の中に別の生き物が寄生する。
そして自分の意志とは関係がなく
行動してしまうとしたら・・・
しかし「たったひとつの冴えたやりかた」の
主人公である15歳の少女コーティーは
そこに恐怖を感じて混乱したり、しないんです。
冷静に確実に、その時自分が最善と
思う行動をとります。その結果、
悲劇を防ぐことができるのです。
朝倉久志さんの翻訳がすばらしく読みやすいので
物語の世界を容易に描くことができました。
この物語を好む人は、設定に魅かれるのでしょうか?
主人公に魅かれるのでしょうか?
私自身がこの本を読もうと
思ったきっかけが、好きな人が好きだと
いった本だから、なんですけど。
面白いお話だとは思うものの、この作品を
自分のお気に入り本リストには、私は
いれないので、気になるところです。
同じ設定で、もう二つの中篇があるようなので
そちらも、そのうち読んでみようと思います。
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宇宙に冒険に出て、寄生性のエイリアンとの友情を育む少女コーティ。しかし、そのエイリアンのある生態のために、コーティは非情な決断を下さねばならず。
エイリアンの生態の問題とコーティの決断は、コーティの残した音声記録を聴くという形で明らかになる。怯えを感じさせず、前向きにみんなのために決断し、音声記録を残すコーティの姿の裏には、記録には残っていない絶望や葛藤があったと思うと泣けてきます。
読みやすいです。児童書っぽいかも。文庫版では、同じ世界観の中編2編があるらしいのでそれも読んでみたいです。
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極限の状況で、人はどう生きるのか、何を選択するのか、何を捨てるのか
これがSFだ
たった一人で宇宙を旅する少女と友達になった宇宙人
彼女たちの間に友情が芽生えるが、それも束の間の話
自らの生存をいかにするか、選択を迫られる
彼女たちの選択はひとつ
美しく、勇気ある、たったひとつの選択
哀しく美しい友情と決断の物語
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勇敢なるコーティ嬢に敬礼…。
偉大な宇宙探検家たちへの憧れを胸に、素敵な冒険を求めて宇宙へ飛び出した彼女はまだ15歳。
だけどコーティは大したもので、親がプレゼントしてくれた小さな宇宙船を勝手に改造し、面白そうな(危険な)場所へと飛び込んでいく。
行方不明の巡回船員のメッセージ、善良なる脳内寄生型宇宙人の子供との出会い。
只ならぬ事態のなかで、自分のやるべき事とやりたい事を考えて出来る限りの対応を取る姿が頼もしい。
子供らしい素直な友情が微笑ましいが、その結末は意外にも遣る瀬無いものだった。
切ないタイトルだ。