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商品説明
“中橋小町”の歌吉は、お狂言師にして、お小人目付の協力者。宿下がりしたままの坂東流名取・照代を再び召し出そうとする上様に、一夜だけの舞台に立つ事になった照代と連れ舞を舞う事に。大奥の陰謀から照代を守ってやれるのは、歌吉をおいてほかにいない。直木賞作家が描く長編時代小説。【「BOOK」データベースの商品解説】
お狂言師にして幕府の協力者である“中橋小町”歌吉は、宿下がりしていた照代と、上様の前で連れ舞を舞う事に。大奥の陰謀から照代を守ってやれるのは、歌吉をおいてほかにいない−。長編時代劇小説。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
狙われた女 | 5−36 | |
---|---|---|
渦の中へ | 37−70 | |
未練ごころ | 71−103 |
著者紹介
杉本 章子
- 略歴
- 〈杉本章子〉1953年福岡県生まれ。金城学院大学大学院修士課程修了。江戸文学を学ぶ。時代小説作家。「東京新大橋雨中図」で直木賞受賞。ほかの著書に「間謀」「残映」「銀河祭りのふたり」など。
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紙の本
「大奥という花園の主は、上様」……だからなんなのだ!
2011/01/28 23:23
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
まずは、敵役、水野土佐守忠央が、妹のおひろを、旗本杉源八郎の養女として大奥へ上げ、首尾良く将軍の側室お琴の方としたこと、また、水野土佐守の領地の新宮は木材と炭が名産で、その財力をもとに、紀州徳川家の付家老の地位から一国の大名に上ろうとしたこと、これらは史実である。ついでに、のちに井伊直弼とつるんで桜田門外の変まで権勢を振るったこと、新宮市では、水野忠央は、西洋の軍事技術を導入し、大規模な学術書の編纂事業を行った名君として称えられていること、本人も文武両道に秀でた武人であり文化人であったこと、井伊直弼もまた、文武両道に秀でた武人であり文化人であり彦根市では名君とされていること……なども、この『大奥二人道成寺』とは直接関係ないけど、敵役がいかに大物かということを実感するために、憶えておきたい。
敵役とはされていないがものすごく迷惑な存在が、小説中になまえの記述されていない「上様」、徳川家慶である。息子の「家祥」は心身共に虚弱で子供を作ることもできないだろうと噂されており、お菓子を作ったり鳥を追いかけたりするのが好きという描写でわかるとおり、後の家定である。家慶の好色と家祥の虚弱とが、水野忠央の野心をあおる。
私としては、水野忠央は悪人といっても知恵があって損になることはしないから対処の仕様があるが、「上様」は、悪人ではなくとも悪人以上に迷惑で、こいつが一番悪い、と思ってしまう。ま、ここが、フィクションの要なのだけど。
大名屋敷のお狂言師に相当するのが大奥の御茶の間子供らしい。御茶の間子供は住み込みだが扶持を与えられていない、非正規の職員で、江戸三座の芝居見物を許されていた。坂東照代も御茶の間子供だったが、上様のお手がついて身籠った後、病気と称して依願退職した。そして、実家で女の子を産んで、踊りの師匠をしながら暮らしている。ところが上様がまたも彼女を大奥に召し出そうとし始めたので、忠央が刺客を放ったのである。照代の身を守るため、目付井出内記は、隠密の日向新吾や岡本才次郎たちに警固を命じ、お吉には大奥での照代の守護を命じた。
一方、材木商角善の宗助は、傾きかけた経営を建て直すため、新たに新宮の炭の卸しに手を広げようとしていた。日向新吾たちは彼にも、水野家探索の手伝いを命じる。新吾と宗助とは、お吉をめぐっての恋敵でもあるので、このふたりが新宮まで隠密旅をするくだりでは、丁々発止のやりとりがおもしろい。また、新宮の人々の言葉のリズムが良く、作者杉本章子は江戸の言葉だけでなく、和歌山の言葉もちゃんと美しく表現できるのだと、感心した。まるで有吉佐和子の『有田川』や『紀ノ川』を読んでいるようだった。
水野忠央とお琴の方との抗争に加えて、水木歌仙の秘かな恋人西川扇蔵が重病で臨終が近くなり、彼らの生涯を賭けた恋にお吉と照代も絡んで、情緒と気風と知恵と心意気がたっぷりの物語が繰り広げられる。
ところで、あの、前作で、お吉の顔に生涯消えない傷をつけたお糸とその両親の、すごい親子がどうなったのか、私は気になって仕方ないのだが、今作では、お糸の元婚約者の朔之助だけが登場し、お糸は登場人物の話の中でその行状が語られるだけである。お吉はお糸の駄目っぷりを心配しているけれど、私としては、また親子そろってどんな大馬鹿をやらかすか、見たくてたまらないのだけど……次作に描かれるのか?期待したい。
そのお糸と朔之助の行状をお吉に教えてくれたのは、茶屋鐶菊の娘おさよだ。おさよはお吉の兄の直太と恋仲で、直太は、お吉のために、結婚を先延ばしにしてきた。だが、そろそろ、待ちきれなくなってきて、親と言い争いになった。その声を聞いてしまったお吉は、兄が遠くに行ってしまうような気がした。
おさよは、残念ながら、お吉と気が合う娘ではない。しかし、悪い娘でもない。お吉としては、おさよと気が合おうが合うまいが、自分のために、兄との結婚を延ばし延ばしさせてはいけないと考える。
お吉の、潔さ、優しさに、声援を送りたくなる。新吾と宗之助の張り合いもおもしろい。ところが、そこへ、あの「上様」が、お吉を所望、ときた。もう~っ、どこまでも好色で、しかも、望んだ女を手に入れるためにはなかなか策に長けているんだ、これが!
> 「大奥という花園の主は、上様じゃ。思いのおもむくところ、どの花を手折られようともかまわぬさ」
新吾!照代のことなんかひとごとだと思うてそんなこと言うてたから、あんたの大事なお吉っちゃんにまで、上様の思いがおもむいてきはりましたで……どないしますねん!