紙の本
サブリミナル・インパクト 情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)
著者 下條 信輔 (著)
それは、本当にあなたの意思ですか? 「情動」と「潜在認知」に関わる認知神経科学の知見をもとに、現代の諸相をつぶさに検証、創造性をもたらす暗黙知の沃野に分け入って、新たな人...
サブリミナル・インパクト 情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)
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商品説明
それは、本当にあなたの意思ですか? 「情動」と「潜在認知」に関わる認知神経科学の知見をもとに、現代の諸相をつぶさに検証、創造性をもたらす暗黙知の沃野に分け入って、新たな人間観を問う。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
下條 信輔
- 略歴
- 〈下條信輔〉1955年東京都生まれ。東京大学大学院人文研究科博士課程修了。カリフォルニア工科大学生物学部教授。著書に「まなざしの誕生」「視覚の冒険」など。
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紙の本
社会を語り出した脳・神経科学
2009/06/21 18:45
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『サブリミナル・マインド』『〈意識〉とは何だろうか』という一般向けの新書で、鮮やかな解説を見せた著者による待望の1冊である。今までの研究知見を丁寧に解説しながらも、その現代的な意味を明らかにし得た手腕は見事の一言に尽きた。情動(感情)と潜在認知をテーマに据えた本書でもそれは衰えてはいない。
「情動(感情)」というと、「感情的になって・・・」といった表現にも見られるように、近代社会においてはあまり良いイメージはない。しかし、研究の進展は、その画期的な役割などを明らかにしつつある。単なる理性の反対物、というわけではないのである。
こうした関連分野の研究の現状を把握したい人にとっても、便利な1冊となっている。また、「です・ます」体で書かれ、わかりやすい解説に注意を払っている。
さて、本書が以前の下條の書に比べて異なるのは、より現代社会の現象についての解釈を試みようとしている点ではないだろうか。音楽や広告の話について程度であれば、神経科学のみならず、今までも多くの心理学者も言及していることだろう。しかし、第4章のタイトルは、そのものずばりの「情動の政治」である。そこでは、選挙やイデオロギー、世論の誘導などが俎上に載せられていく。特に4章末尾での、「自由で責任のある個人」の理想像がゆらぎはじめている、という指摘は近代思想に対する挑戦といってよい。ただ、こうしたテーマはポストモダン以降、盛んに議論されていたことでもあり、決して目新しいわけではない。けれども、神経科学さらには脳科学的な裏付けをもって語られると、改めて説得力をもってくる。ましてや、脳科学者がタレントとなり、ドラマの主人公にもなる現在である。
ところで、1980〜90年代の前半くらいまでは、こうした「社会を語る」役割とタレントを担ったのは社会学、とくにメディアや消費社会を語った者たちだったように思う。その前はニューアカか。当時と今とで、議論されている内容がどう変わり、どう同じなのかを整理するのは、私の手にはとても余る。ただ、いつのまにか、役者が交代していたわけである。
情動のもつ役割についての理解は、心理学者や脳・神経科学者の活躍によりだいぶ進んできたし、そのイメージも変わってきた。しかし、この社会の制度は、まだ近代的理性を前提としていることには変わりはない。この齟齬を、次は誰がどう埋めていくのか。次の「役者」に期待したい。
紙の本
仕事は「見える化」へ。広告は「見えない化」へ。
2009/04/06 11:05
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ソネアキラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「学問のサイドでも、広告の効果に関心が高まっています。もともと社会心理学の中の広告心理学や説得の心理学などでテーマとされ、また商学分野でのマーケティングリサーチなどで研究されてきたわけです。最近は、これに脳神経科学が加わりました」
ってことで、「脳神経科学」の立場から広告などについて考察し、さらに現代を探るという本。話があちこち飛んでは、結局、つながっていて、いたく刺激的。あえて広告にテーマをしぼって書き進む。
まず、こんなとこ。
「若者だけではなく現代人は皆、食べ物やお金のような外部からの報酬とは関係なく、感覚そのものの内にある快を楽しむ動物になったのではないでしょうか」
はは。これって糸井重里の西武百貨店のキャンペーンスローガン「おいしい生活」だよね。
自分の価値観、尺度で好きなモノ・コトを選択する。
「たとえば、同じくらい魅力的な対象がふたつありどちらかを選ばなければならないとします。ひとたびどちらかを選択すると、それを自分で正当化しようとする動機が潜在的に働きます。そこで次の(同じ選択肢からまた選ぶ)機会には、そちらをより魅力的と感じそちらを選ぶ傾向が高まるというのです。チョイス・ジャスティフィケーション(機会の正当化)などと呼ばれます」
「自分で正当化」ってぶっちゃけていえば、言い訳だよね。自己弁護。でなきゃ他人と同じはイヤとかいうくせして、同じブランドもののバッグを抱えたりはしないわけだし。
「ヨーロッパでのある研究によれば、コーヒーショップでコーヒーを飲むとき、人は「スモールトリップ」つまり日常からのささやかな旅を求めているのだそうです」
これは、モノ(製品)ではなくモノ語り(ストーリー)という言い回し。一時期、企画書にお題目のように書いていた。
「ブランドイメージとは意味の連合ネットワーク」
「意味の連合ネットワーク」という表現がえらいカッコいい。ブランドストーリーなどブランドエクイティ(遺産)から広告、店構えやショップ店員、コールセンターなどの対応にいたるまですべてが連合してブランドイメージを形成している。
「このようにして、潜在的な報酬にアクセスしながらブランド・ストラテジー、またはコンシューマー・インサイト(消費者の洞察)についてリサーチする。その上で、それの報酬や潜在的なインサイトにアピールする広告への応用を考える。このような二段階で臨むのが、今後のマーケティングの姿になっていくでしょう」
たぶんこの「二段階で臨む」方法を具体的にしたものが、この引用箇所。
「現代社会は選択肢を狭め、誘導する方向に動いている」
しかし、ただ単にそれだけではなく
「選択を行動として誘発し、しかも「さりがなく」「気づかれないように」誘導するという点に現代コマーシャリズムの特徴があることです。-略-まとめれば、(1)狭める、(2)誘発する、(3)気づきにくくする、ということです。この戦略によって、消費者が自らの自由意志で企業側の望む選択をしてくれるという構図が見事に実現します」
(1)狭める、(2)誘発するまでは、従来の広告が得意としてきたところだが、(3)気づきにくくするというのは、はてさて。量販店の店頭に立って手をたたきながら威勢良く「安いよ!安いよ!」とシュプレヒコールするんじゃなくて、バリ島の銀製品で有名なチュルクのショップの売り子さんのように「アナタダケ、コノ価格。オ客サン、今日、来テ、ラッキー」と流暢な日本語でささやきかけることなのだろうか。
賢い(あるいはひねた、成熟した)消費者は、いいことしか言わない広告を鵜呑みにはせず、バズ(クチコミ)マーケテイングとかでのやらせブログにもあおられはしない。「現代コマーシャリズム」は消費者に購買させるための黒子役だったが、さらにその透明度が増した。透明度じゃないか、巧妙さか。