紙の本
罪の苦しみは「死ねない」ことで償え
2009/06/05 17:13
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
心療内科・精神科医の北嶋涼子の元に
発作を起こすと、奇声を上げながら腹部に痛みを訴え、
激しく手指を動かし、トランス状態となる、
9歳の少女・あや香が訪れます。
一方、涼子の学生時代の親友、浅倉祐美はアメリカ留学中。
そこで「死なない男」の死刑囚に会います。
「S16」とあだ名される男は1949年、
少女を暴行殺害した後、自殺しましたが失敗。
判決後、3度の死刑執行のいずれもが失敗。
その後、がんに侵され、現在はほとんどすべての細胞が
がん化しているにもかかわらず、生きています。
そして医師による密かな、数回にわたる安楽死も失敗。
S16には肉体的な苦痛のみが残されます。
この一見、全く無関係に思える二人の意外な繋がりを
この二人の医者が見出すのですが、
それに至るまでのストーリーテリングがうまい。
見た目も医師としての能力も一般的で、ものぐさな涼子と、
頭脳明晰、美貌と行動力にあふれた祐美の親友関係によって
うまく結びついていきます。
乾ルカらしいグロテスクな描写で彩られた「死なない男」S16の
容貌やがんの痛み、彼に与えられる苦痛はすさまじく、
その屍独特の腐臭さえ、本から漂ってきそう。
死刑という刑罰が、本当に犯人への罰となるか、
というのは難しい問題ですが
このように死に至る痛みを感じながら
「死ねない」というのが一番の苦痛ですね。
紙の本
タイトルからも結末を想像できてしまう(のが、少々難点ですが)
2009/07/06 12:30
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:カフェイン中毒 - この投稿者のレビュー一覧を見る
たとえば物語の中に謎があるとして。
本を置いてでも、自ら謎解きを楽しむタイプと、
ストーリーを追うことで謎がとかれるのを待つタイプがあるとするなら、
あきらかに私は後者のようです。
じつはこの物語、鈍い私でも(わざわざ本を置いて考えなくても)、
かなり先が想像できてしまうのでした。
小出しにされるパーツが匂うとでも言うのでしょうか。
読み始めてまもなく、大筋は読めてしまいました。
加えて徐々に細部の謎もとけてしまい、ただ結末を見届けるために読み進めたような気さえします。
いくら私でも、安易に先が読めてしまうのでは興ざめです。
それでもページを繰るスピードは、後半に加速します。
描写や話の転がり方のおもしろさを前にすると、私の場合、やはり謎ときは二の次のようです。
ふたりの精神科医の女性がいます。
ひとりは日本でクリニックを開業し、たまたま訪れたかつての同級生の娘を診ることになります。
発作を起こすと悲鳴や叫び声をあげ、意味不明な言葉と動作を繰り返すその子供は、
どの医療機関でも匙を投げられた状態でした。
クリニックの医師の親友でもある、もう一方の女性は、
アメリカの研究室を渡り歩く生活をしています。
彼女が刑務所の囚人たちのカウンセリングで出会ったのは、
犯行後にはかった自殺、その後の数回の死刑、それらのすべてを生き延びた男でした。
身体じゅうをがん細胞に侵され、痩せ衰え、死臭すら漂わせながら、
それでも余命宣告から20年を生きているのです。
奇妙な発作に悩まされる日本の小学生と、遠くアメリカの刑務所で死ねないでいる囚人。
精神科医である彼女たちに一石を投じる患者ではありますが、
ふたりが信頼のおける友人で、なおかつ同業でなかったならば、
けっしてリンクする存在ではなかったはずです。
理屈では考えられないことが、データとして次々と提示されます。
それをどう解釈するか、医療現場のスタッフとして受け入れることができるのか。
しかしながら、どちらの患者も待ったなしの状態なのです。
大筋が読めても思わず引き込まれたのは、描写がとても丁寧になされた文章だったからでしょう。
そこからは、さまざまなものが浮き上がってきます。
死刑囚の体臭、医師に不信感を抱く母親の苦悩、独立して大きな壁を前にした女医の挫折、
遠く離れた地で育む友情、医師としての使命感。
謎がある物語なので、核心に触れずに紹介するのは、とてもむずかしい。
このあと、著者のデビュー作も読んでみることにします。
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二人の精神科医の女性。 一方の患者は突然奇妙な動作をする女の子 他方は全身を癌細胞に侵されながらも死なない元死刑囚の老人。 二人の患者がが段々と一つの事件へと結びついていく―
リアルで気持ち悪い描写があって軽く吐き気がしたけど何とかかんとか。身体を這う蛆虫とか結構キツイ。
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小説だからこそ書ける…というか、現実と乖離しているからできる話。
要するにフィクションで、現実的じゃない。
いくらか展開を予想しようとしたけど、当たらなくて、逆に引き込まれて夜中の二時まで起きて読んだ本。
S16の描写がすごい。ぐちょりの辺りの描写は少し怖気がしました。
…グロには慣れていると思っていたのに。
読後は少し寒気がするような感じ。表紙のせいでもあるかもしれない。
知らないところで繋がっている、そんな話だと思う。
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まずは表紙に惹かれた。
サスペンスホラーやオカルトでありながら、ヒューマンドラマでもある。
実に面白く、さくさく読めた。
ありきたりなネタではあったけれども、そこに至るまでの二人の医師の葛藤や内面が、うまく物語に縺れていて飽きない。
時々、繰り返される理屈臭さが少々鼻に付くが、
著者ならではのグロテスクさと、巧みなストーリーテリングで、十分楽しませてくれる一冊となっている。
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何をしても死なない(病気でも、外傷でも、毒物でも)死刑囚と遠く離れた日本で突然謎の発作をくりかえす少女が背負わされた使命についての話。
本のあらすじを読んだとき、『一度殺した人間を二度殺すことはできない』という聖書のことばを思い出して、読もうと選んだのですが直感はあたりで、キリスト教関連の話題が出てきます。
(といっても小道具のようなものなので、キリスト教文学ではないです)
あと、個人的にはご飯食べられない程度のグロ描写あり。ほんの一部ですが。
以下ネタバレのため数行改行します
転生した子どもが10歳までしか生きられない理由に繋がると思われる最後のキャリーの独白にぞくっとしました。
キャリーのための転生だから、子どもたち=キャリーと考えてもいいのかもしれないけれど、転生した子どもたちには前世の記憶はないし、こどもたち自身や周りの家族の人生があるのに勝手じゃないの…?誰かの犠牲で成り立つものを奇跡って呼んでいいものか否か。。
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謎の発作を繰り返す少女と、殺しても死なない死刑囚の謎が2人の女医によって解き明かされる話。
特に目新しさは無いんだけれど、オカルト風ではありつつも、ちゃんと正解は用意されているし、ミステリーとして普通に面白かった。
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奇声をあげ妙な動きをする発作が起こる少女を治療する精神科医と
死刑囚でありながら
三度の執行も生き延びて死ねない男のカウンセリングをする医師
二人の患者にはとんでもない繋がりが…。
展開は予想を超えないし
サブキャラが使い捨てなのも気になるが
昔のB級映画を見ているような疾走感が魅力。
「メグル」で出逢った作者が気になりこの本を手にしてみたが
やはりこの作者は当たり。
今後に期待の意も込めて四つ星。
【図書館 初読 9/30読了】
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謎の行動を繰り返す10歳の少女とアメリカの刑務所で末期ガンを患う死刑囚との因果関係を、二人の女医の視点で描いていく。内容は輪廻転生にまで触れ、少しオカルトチックだが、読後感はそんなに悪くない。
いつの間にか引き込まれ、一気読みしてしまった。
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輪廻転生もの。
こういった話は、映画の中ではありがちなんじゃないかしら?
奇妙な発作を幼いころから繰り返す少女と、何をしても死なない死刑囚とのつながりは早々に読めてしまいます。
読めてなお楽しめるのならいいのですが、これはちょっとそこまでいかなかったかな。
少女の担当医となる涼子と、死刑囚の定期検診に当たる祐美のやり取りもなんだかおかしいし。
死刑囚が「サターン16」と呼ばれる謂れはちょっと面白かったけれど、「へぇ!」と思ったのはそこくらいかな。
あと涼子と祐美のつながりも必要か?
特に百合っぽくするでもなく、突っ込んで描いてもいないから、その必要性はちょっと疑問。
全体的に、なんか惜しい!という作品でした。
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「夏光」で衝撃を受けて読んだんですが、
こちらは別の意味で衝撃を受けました…
奇怪な発作を繰り返す少女、死なない死刑囚、思わせぶりな大掛かりな謎があるんですがそれがなんだか響いてこない。その描写にしてもキャラクタのやりとりにしても同じような比喩、表現が繰り返され、徐々に事態がなんとなく進展していく、という感じで…淡々というか、決められた流れどおりに物事が動いていってはいおしまい、というような、なんとも平坦な話に感じてしまいました。女医のほうを描写するのにいちいちいったいなんでそこまでズボラだってことを強調しつづけなくてはいけないのか、事件の謎よりもそっちが気になりました。
残念の一言でした…。
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一気読み。二人の女医と、謎の行動を取る少女と死なない死刑囚。
どこでリンクするのか。伏線の張り方が絶妙。
涼子と祐美の関係性があってこそのあや香とS16の関係性が映える。
医師であるが故の「患者を救う」とは何ぞや。
神の領域に手を出していいのか。
そして、S16が意味するもの。
無宗教の自分には全くピンとこない感覚が、キリスト教という宗教を通すことで意味ある感覚になる。その感覚の差めいたものが面白かった。
札幌でクリニックを開いている涼子。
札幌在住の身としては、リアルに楽しめる。
とはいえ、ミステイクなのか、わざとなのかは測りかねるが、位置関係に誤りが。
東西線は札幌駅ではなく、大通。恐らく自宅は琴似。
前半で「住所は南区のマンション。」とあるのに、後半で「住所を見ると、JR一本で来院できるようだ。」と。
南北線一本で来院できるなら、真駒内あたりだろうと想像できるが、JRは通っていない。
二人の患者をリンクさせるために、二人の友情そのものにも前世からの因縁めいたものを予感させる記述。
サターンシックスティーン。土星の周りを公転する衛星の一つ。
一般的に「プロメテウス」と呼ばれている。
この会話をもってくる場所も、悪くない。
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「初めて会ったときから、祐美のこの眼差しが好きだったと、涼子はあらためて知った。それはきっとこの先も変わることはない。多分、死ぬまで。」
乾さん2冊目。
一体これはなんなの!?という、ドキドキ感にずっと支配されて、
それでいて、なんだか、怖い!と思いながら読みました。
精神科医のある姿とか、、ちょっと引いてしまった部分も
ナキニシモアラズなのだけれど、
先が気になって仕方ない展開は凄い。
結局これも(って最近そういうのばっか!?)
完全なミステリーではなくて、不思議な部分を残していて、
そういうの多いなぁ、、という一連の本たちを思い出しました。
いや、全部方向性は違うのだけれど。。。
これからも、乾さんの本、読んでいきたいです。
【読了・初読・市立図書館】
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著者初の長編書き下ろしの医学ミステリ。この著者の持つ独特のテイストについて版元の「文藝春秋社」は、『巧みなスト−リーテリングと独特のグロテスクな美意識で異彩を放つ』と評している。確かに何作か読んでみて、生理的に好き嫌いの分かれる作家かも知れないと思う。しかし、この作品も、序盤から読み手の興味をかき立て、話の展開を追うために先へ先へとページをめくらせてしまう。大した力量だ。今回のテーマは医学で取り扱うには非論理的なものだが、、、「サターン16」とは土星の第16衛星のことで、「プロメテウス」とも呼ばれる。ギリシャ神話に依ったこのタイトル、なかなか意味深だが謎解きのためにはぜひ一読を。
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奇怪な症状に悩まされる少女。一方では決して死ぬことのない死刑囚。一見何の関係もなさそうなこの二つの現象が、いったいどう繋がるのか。読み始めたら目を離せないホラー。この繋がりが徐々に見えてくるところでは、ミステリとしてのぞくぞく感も味わえます。
「不死」ということがどれほど恐ろしいものか、それを見せつけられた気がしました。「死なない」んじゃなくて「死ねない」んですね。これは一番残酷な罰であり、呪いなのかも。
ラストに向けての展開と緊迫感は、まさしくはらはらどきどき。最後にもたらされるものは救いなのか、絶望なのか。それは……読んでのお楽しみです。