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  • カテゴリ:一般
  • 発売日:2009/06/01
  • 出版社: 早川書房
  • サイズ:20cm/251p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:978-4-15-209039-3

紙の本

夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

著者 カズオ・イシグロ (著),土屋 政雄 (訳)

ベネチアのサンマルコ広場を舞台に、流しのギタリストとアメリカのベテラン大物シンガーの奇妙な邂逅を描いた「老歌手」。芽の出ない天才中年サックス奏者が、図らずも一流ホテルの秘...

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夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

税込 1,760 16pt

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商品説明

ベネチアのサンマルコ広場を舞台に、流しのギタリストとアメリカのベテラン大物シンガーの奇妙な邂逅を描いた「老歌手」。芽の出ない天才中年サックス奏者が、図らずも一流ホテルの秘密階でセレブリティと共に過ごした数夜の顛末をユーモラスに回想する「夜想曲」を含む、書き下ろしの連作五篇を収録。人生の黄昏を、愛の終わりを、若き日の野心を、才能の神秘を、叶えられなかった夢を描く、著者初の短篇集。【「BOOK」データベースの商品解説】

ベネチアのサンマルコ広場を舞台に、流しのギタリストとアメリカのベテラン大物シンガーの奇妙な邂逅を描いた「老歌手」をはじめ、切なくロマンチックな調べを奏でる5つの連作短篇集。【「TRC MARC」の商品解説】

収録作品一覧

老歌手 7−42
降っても晴れても 43−99
モールバンヒルズ 101−140

著者紹介

カズオ・イシグロ

略歴
〈カズオ・イシグロ〉1954年長崎生まれ。イギリスで育ち英国籍を取得。イースト・アングリア大学大学院で創作を学ぶ。「日の名残り」でブッカー賞受賞。他の著書に「わたしを離さないで」など。

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みんなのレビュー65件

みんなの評価4.2

評価内訳

紙の本

カズオ・イシグロ初の短篇集とマイケル・ジャクソンの急逝をめぐるいくつかの断片のための覚え書き。才能の理想的な発揮と、それの妥当な受容について思いを馳せながら……。

2009/08/02 14:48

5人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 イシグロ初の短篇集『夜想曲集』を読んだ数日後、マイケル・ジャクソンの訃報が世界を揺るがした。テレビニュースで流れた「スリラー」のPVを見て、息子が「何これ? ヤバい、かっこいい」とつぶやいていた。
「そうだよね。だいぶ前の姿だけど、今の中坊が見ても十二分にかっこいいんだよね」と思った。本人のかっこよさだけでなく、モンスターたちを従える絵がまた「何て面白い」と子どもたちの目を惹きつける。独特の振付には他にない個性のアピールがあり、それがどの時代になっても「新しいもの」として新しい世代に受け入れられる。あの一曲のビデオに、不世出のアーティストの才能の粋が表現されており、それは古びてしまうことはない。

『夜想曲集』の五つの短篇は、いずれも「音楽の才能」と「その黄昏」を扱ったものである。「音楽の才能」は何も歌や演奏、ダンスなどのパフォーマンスだけではなく、良きリスナーや熱心なファンとしての才能も含めて取り扱われている。
 例えば、2番目に収められている「降っても晴れても」という作品。ミュージカル音楽やスタンダードナンバーの名盤をよく聴いていた男女の再会が描かれる。50歳手前に達した2人のうち、女性は未だそういった音楽を愛聴する才能があると素直に見せるが、男性の方は人妻となった女性とうだつの上がらない自分との距離を測りかね、良きリスナーたる才能を隠す。
 才能はたとえ自分で持っているという自覚や思い込みがあったとしても、他者や社会の中、あるいは時代を下って行く中で表現され、認知されていかなければ、持っていないことに等しくなってしまう。

 私は何もこの本にこじつけてマイケルが「たそがれていく最中だった」と言おうとはしていない。そうは感じていなかった。彼がもはや50歳になっていて、子どもまで何人かいたとは露知らず、そのうちまたユニークな曲を引っ下げ、世界のヒットチャートをにぎわせるであろうと認識していた。
『夜想集』の1篇目である「老歌手」には、フランク・シナトラあたりを彷彿とさせる往年の名歌手の隠居生活が書かれている。彼を見たところで、偉大な歌手だったとは思い起こせない人々が往来する異国の地ベネチアで、彼はただ1人に捧げるために甘い声で歌い、自分に賦与された才能を使おうとする。
 老歌手の意思をたまたま知った物語の語り手には、彼は偉大なスターのまま、絶対的な輝きを放っている。けれども、才能そのものに変化はなくとも、それを認める聴衆の有無によっては才能は意味をなさない。先ほど述べた通りだ。歌手の歌を聴きたいというファンがいなくなってしまえば、彼の歌手生命は終わりだ。「歌う人」「聴く人」両者の目的が一致する幸福な場こそが、音楽の生きる世界であることを意識させてくれるのが『老歌手』という短篇なのである。M・ジャクソンの音楽もまた、流されるところに聴く意思を持つ人がいて、生き続けていくものなのだろうと思える。

『老歌手』の筋を説明していくと何やら苦い小説のようだが、彼の試みはなかなか突飛であり、コミカルなものだ。そのコミカルな資質は、イシグロが自分の大切な一面として表現し続けてきたものだ。だが、『日の名残り』一作でイシグロ・ファンになった者は、長らく「イシグロのドタバタやコメディなんて読みたくもない。あの物悲しさを次回作でも表現してくれなけりゃ」と受け止めてきた。
 そういう読者のエゴは世界的にも懐柔しつつあるだろうし、何より古典的な味わいではなくSF風味で幅の広がりを見せた前回作『わたしを離さないで』のしっとりした味わいに満足を覚えた後なので、読者はやや寛容になっている。そのため次のようにも考えられるようになっている。
 ロマンチックなもの、絶望の極みを残酷に描き切れる芸術家には、底抜けの明るさやユーモアのセンスもあるのだ。そういう幅ある感性こそが読者を愉悦の至福へと押し上げたり、不条理の前に我を失うほどの愕然たる心情に至らせたりできる。ここにも、パフォーマーと受け手の才能が関わっているとも言えよう。

 M・ジャクソンの死後一週間ほど経ち、新聞広告に週刊誌の見出しが乱雑に踊った。そこには彼が幾度にも及ぶ整形手術での傷の痛みを和らげるため薬物を濫用していた節があるというニュアンスの文言があった。それを読んだとき、「ああ、マイケル……」と、小さく冷たい針が心臓の奥に刺さるような痛痒感があった。そして、イシグロの『夜想曲集』がざーっと頭の中を過ぎっていった。
 表題作『夜想曲集』は、整形手術直後、互いに顔に包帯をしたまま出会った男女の2週間ほどの日々が書かれた作品だ。これまたコミカルな味わいである。女性は有名な歌手で、男性は「見た目が良ければ売れるかも」と妻に勧められて手術に及んだ売れないサックス奏者である。ラグジュアリーなホテルでの優雅なおこもり生活に退屈していた2人が話をするようになり、ホテル内を探索する。その中で起こった愉快な出来事が紹介されていく。
 現代においては、圧倒的な才能ならば相応に道は開けて行くであろうが、そこそこの才能ならば、世に出る出ないの差はチャンスひとつによるところが大きい。業界で成功していくには、音楽の才能以外の付加価値が必要になる。その価値の1つとしてビジュアル、つまり外見が取り上げられている。
 ジャクソン5の一員としてパンチある歌声でヒットを飛ばしていた頃のマイケルは典型的なアフリカ系の容姿をしていた。皮膚病を患ったり、ケガを治療していたりという話もあって、彼の整形手術がどこまで美を意図してのものだったのかは判然としない。また、ファンがかっこいいマイケルを欲す時、それに応えるためにどこまで美を作り出す必要があったのかについて的確な判断を下せた人はいないだろう。
 絶対的存在として光り輝くイメージをマイケル本人や周囲のスタッフが思い描いたとき、どこにもいない人間離れした美しい統一感のある容姿が、床を滑るムーンウォークや楽曲のビデオには求められていたのかもしれない。
 そこにおいて、夢を具現するための代償が整形手術であり、その後にマイケルが引き受けた肉体の痛みや変調であり、それを和らげるための薬剤使用であったとするなら、代償はあまりにも大きかった。そう帰結させるのは容易ではある。

『夜想曲集』はこのようにして、「マイケルが死んだ頃に読んだ短篇集」という付加価値を伴って私の記憶に留められる。イシグロという書き手と、私という読み手によって成立した小説世界が拓けたのだ。収められた短篇は、そのように私的な音楽体験に響き合いながら楽しむ機会を提供してくれる。
 機会あらば、イシグロが読み解いたマイケルの物語を聞いてみたい気がする。しかし、何もそういうことがなくとも、イシグロの作る物語は常に誰かの人生の分身となり、移し身となり、読み手自身の部分となって、心の一隅に確たる存在感を占める。それがこの作家の才能なのであろうか。

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紙の本

吐息のように音楽が流れる。カズオ・イシグロの初短編集「夜想曲集」。

2010/06/23 18:19

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:オクー - この投稿者のレビュー一覧を見る

 カズオ・イシグロは世界がその最新作を待ち望む作家の一人だ。「夜
想曲集」と名付けられた初の短編集は「音楽と夕暮れをめぐる五つの物
語」という副題が付いている。各話の主人公は往年の名歌手や無名のミ
ュージシャン。彼らはそれぞれ問題を抱えている。

 そんな音楽家たちにからんでくるもう一人の人物がいる。その関係が
なかなかおもしろい。例えば、往年の名歌手の物語にはカフェバンドで
ギターを弾く共産圏出身の男が、離婚の危機を迎えている夫婦の物語に
はスタンダードジャズを愛する定職を持たない男が、無名ながら才能を
感じさせるチェリストの物語には自らの才能を守るためにチェロに触れ
ることさえしない中年女がそれぞれ登場する。どの話も出てくる人物は
少なく、会話中心に物語は進んでいく。それでも、さすがイシグロ。ま
ったく飽きさせないし、先の展開が気になりページを繰るのももどかし
い。

 5つの短篇を読み終えればわかるが、これはコミュニケーションと才
能の物語だ。才能のあるものとないもの、成功したものとそうでないも
の。彼らは互いを理解できたのか、できなかったのか、それとも理解し
ようとしなかったのか。そこに人間のエゴと哀しさが見えて来る。物語
のバックではまるで吐息のように音楽が流れている。巻を置いてもその
音は頭の中でいつまでも流れ続けているような気がする。

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紙の本

なぜか、夜想曲にはダンスしている人々の絵がついて回る、きっと歴史的な由来があるんだろうなあ、欧米には・・・なんて思いを抱かせます。それが夜の冒険、恋人にささげる歌、音楽の才能といった形になって・・・

2009/11/09 19:58

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

私の好きな洋画家に小杉小二郎さんがいます。彼の代表作の一つに『夜想曲』という傑作があるのですが、真っ先に思い浮かべたのが、それでした。机の上に紙人形が立っていて、ダンスをしている、そういう作品です。この本のカバー、そのままじゃん、連想でもなんでもないじゃん、といわれるの必至なんですが、タイトルと装画、二つから思ったわけです。

ちなみに、この本の装画は塩田雅紀、装幀は坂川栄治+田中久子(坂川事務所)。でも、こうして「夜想曲」という言葉をもった二つの作品にダンスの絵がついてくるということは、欧米ではこの二つが密接に結びついている、っていうことなのでしょうか。それとも偶然? 小杉小二郎といえばフランス生活がとても長かった画家として有名、イシグロはイギリス、やはり欧米の習慣なのかしら・・・

で、カズオ・イシグロ。読んだ本はまだ五冊に満たないのに、私の中で最重要の作地位を得てしまった作家です。文章は難しくは無いけれど、中身が一杯詰まっていて、普通の作家の倍は時間がかかる、エンタメ系で言えばスティーヴン・キングの小説を思えばいい。無論、今のところホラーは入っていませんが、でもSFマインドはあるかもしれない、そんな作家です。

早速、内容紹介。まずはカバー折り返しの言葉。
          *
ブッカー賞作家イシグロが
切なくロマンチックな調べで奏でる
五つの物語。

ベネチアのサンマルコ広場を舞台に、流
しのギタリストとアメリカのベテラン大物
シンガーの奇妙な邂逅を描いた「老歌
手」。芽の出ない天才中年サックス奏者
が、図らずも一流ホテルの秘密階でセレ
ブリティと共に過ごした数夜の顛末を
ユーモラスに回想する「夜想曲」を含む、
書き下ろしの連作五篇を収録。人生の
黄昏を、愛の終わりを、若き日の野心を、
才能の神秘を、叶えられなかった夢を描
く、著者初の短篇集。
          *
目次に従って各話について、もう少しだけ書いておきましょう。

・老歌手:人生の黄昏 ベネチアのサンマルコ広場を舞台に、流しのギタリスト・ヤネクとアメリカのベテラン大物シンガー・トニー・ガードナーと彼の妻リンディの奇妙な邂逅・・・

・降っても晴れても:愛の終わり フランクフルトの会議に出席する友人チャーリーの家で二日間、チャーリーの妻で大学時代の友人エミリと二人だけで過ごすことになったレイ。チャーリーから音楽の話を禁じられて・・・

・モールバンヒルズ:若き日の野心 ロンドンでギターのオーディションのたびに問題となるのが、僕の弾く曲が自作であること。そんなロンドンに嫌気がさしてモールバンヒルズの姉のカフェで夏を過ごすことになった僕の作曲三昧の日々は・・・

・夜想曲 :才能の神秘 芽の出ない天才中年サックス奏者・スティーブが、妻とマネージャーの薦めで整形手術を受け、回復を待つ間、図らずも一流ホテルの秘密階でセレブリティ リンディ・ガードナーと共に過ごした数夜の冒険の顛末・・・

・チェリスト:叶えられなかった夢 それは七年前のこと。ロンドンの王立音楽院で学び、ウィーンでオレグ・ペトロビッチの教えも受けた若いチェリスト ティポール、彼の前に現れた女性は彼にチェロを教えたいと言って・・・ 

最後に、土屋政雄の訳者あとがきがつきます。基本的に独立した話ですが、繋がっている話もあります。私などは、まったく気付かず読んでしまい、あとがきを読んで、え、なに? と思って評を書くために再確認して、ああ、そうだったんだと得心した次第。むしろ、私は各話を繋ぐ音楽のほうに頭がいっていました。

出来からいうと、表題作がトップ。以下、チェリスト、降っても晴れても、モールバンヒルズ、老歌手の順でしょうか。私はどちらかというと甘めの展開とヘタレ男が好きではないので、モールバンヒルズ、老歌手、が最後になってしまいましたが、読めばお分かりのように出来不出来の差はあまりありません。好きな作品から自分の傾向を知ってみるのも一興かも・・・

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紙の本

「もののあはれ」を覚える短篇集

2019/09/09 15:19

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:燕石 - この投稿者のレビュー一覧を見る

本書におさめられた「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」は、それぞれ独立した短編でありながらも、全て音楽家を語り手として音楽にゆかりのあること、そして、哀愁と抒情を基調としたものであること、この2点で調和と統一を持った短篇集となっている。
いずれも、若き日の野心や叶えられなかった夢という人生の哀しみを感じさせるとともに、その後の時間を想像させる膨らみをもった好短篇である。

 『老歌手』は、観光客相手にヴェニスの複数のバンドを助っ人として渡り歩くギタリストが語り手。ある日、往年のアメリカ人老歌手と偶然知り合い、彼が妻に向けて行うサプライズ演出に協力することになる。そのサプライズとは、老歌手が夜、彼らの宿泊するホテルの部屋に一人居る妻の窓の下にゴンドラで漕ぎ寄せ数曲を歌うので、その伴奏をしてくれというもの。六十男は五十女と離婚する予定でいる。彼らの旅行は、二十七年の結婚生活の果ての離婚旅行だったのだ。

『夜想曲』は、才能はあるものの、見た目が悪く、うだつの上がらないテナー・サックス奏者が、マネージャーと妻から顔の整形をすれば花形になれる、しかも、離婚した妻の再婚相手が費用を出すと言われ、手術を受けてビバリーヒルズの超一流ホテルに長期滞在する。隣室にいるのが同じ医師からやはり美容整形を受けている、同じように顔を包帯でぐるぐる巻きにしている一流の映画女優-『老歌手』でアメリカ人老歌手と離婚した五十女-で、暇つぶしの相手をするうちに、彼女の深夜のホテルの中での散歩の道連れとなって、奇妙な冒険に巻き込まれる。

 5作目の『チェリスト』の語り手は観光客相手のバンドのサキソフォン吹き。ある日、客のなかにかつての同僚、チェロ奏きのティボールを見かける。七年前、ハンガリー出身の彼は、「入り」は悪いものの、ヨーロッパ各地でリサイタルを開くほど有望で、バンド仲間皆が引立てようとした。ところが、ある日、彼の演奏を聞いたアメリカ人女性が、「あなたには可能性がある。しかし、私レベルの『大家』の指導者がいなければ駄目だ」と言われる。それ以降、ティボールは、その女性に師事を仰ぎ、確かに、その指導により、これまでにない音を出せるほど才能を開花させる。しかし、彼女は一向にチェロの手本を見せず、部屋にチェロのケースすら見掛けない。不信感を持ちつつも、レッスンに通い続けるが、ついに、彼女は真実を語る。「自分はチェロを弾くことはできないが、天才である。天才であるがゆえ、並みの指導を受けて才能を壊す訳にはいかず、11歳から今日までチェロを弾くことができずにいる。ティボールも同じレベルの才能があるので、自分が才能を壊さないように指導をしたのだ」と。アメリカの地方から、前々から彼女に求婚している実業家の男性が、彼女の居場所を突き止め、連れて帰ることにより、ティボールへの指導が終わりを告げる。ティボールは、一度は断ったバンド仲間の紹介で、アムステルダムのホテルの演奏チームの一員として流れて行った………。
ティボールらしい男が手を振ったので、サキソフォン吹きは自分への挨拶だと思ったが、ウェイターを呼んだに過ぎなかった。その呼び方には、以前のような遠慮深さも見えなかった。何よりも、可もなく不可もないスーツ姿が音楽家というよりは普通の勤め人を連想させ、何かの仕事の関係で出張に出た次いでに、かつて居たこの街に立ち寄ったとも思える。しばらくすると、その男はもういなくなっていた。(恐らくは)夢敗れたかつての若者と老楽士との、言葉を交わすこともない、苦い再会を描いて、そぞろ「もののあはれ」を覚える。

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紙の本

抒情たっぷりの五つの物語。

2017/12/27 18:17

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る

カズオイシグロさんの作品は書評で気になっていて、
いつか読もうと思っているうちにノーベル文学賞受賞となりました。

残念ながらバーナード嬢三巻のセリフを言えませんでした。
無理やり結びつけるなら、
前から知っていたよ、読んだことないけどな!
と悔しまぎれに言うくらいでしょうか。
「バーナード嬢曰く。」1巻 の、一度も読んでいないけど
私の中ですでに読破したっぽいフンイキになっている!!
というのが当てはまる状態ですね。

とはいえ、本当に早く読むべきでした。それだけは言えます。
一冊目にこの短編集を選んだのもよかったのでしょう。
崩れていくものの美しさを、懐かしみながら味わう作品でした。

第一話の老歌手と、第四話の夜想曲集が気に入りました。
この二篇はつながりを持っています。
第三話のモールバンヒルズも心を惹かれましたし、
ほかの二篇も秀作で、全般的なレベルの高さに
こころを打たれましたね。

五篇とも音楽が重要な役割を果たしています。
しみじみとした歌、チェロの響き、ジャズの旋律。
聞いていると心が穏やかになる曲たち。
楽しい気持ちもスパイス的にふりかけられていますが、
物語を流れる主旋律にゆったりと崩れていく美意識を感じました。

第一話の老歌手は、フリーの演奏家の男が、イタリアのベネチアの
広場である有名人を見つけたところから始まります。
東欧から来た男にとっては、数少ない宝物のレコードで
すり切れるまで聞いていた歌手本人であり、身がふるえるほどの
感激をもたらします。

しかし老歌手の表情は冴えず、過ぎ去った栄光の日々という
想いが伝わってきます。

老歌手の妻のリンディともあいさつをすませた後、
話しのはずみで老歌手から頼まれごとをされます。
光栄です、ガードナーさんと答える男の心は湧きたち、
尊敬する人のために最大限の誠意を尽くそうと誓うのです。

自分にとって名誉なこと。老夫婦の思い。
イタリアゴンドラからの歌のしらべ。

一つ一つが美しく、壊れやすいものでできています。
キンと澄んだ音が響きました。

ほかの短篇も素晴らしいです。ぜひお読みください。

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