紙の本
ほどけた結び目の心地良さ
2009/07/22 23:05
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yama-a - この投稿者のレビュー一覧を見る
短編小説集というものは、書くほうにしても読むほうにしても、これは却々厄介な代物なのである。書く者にも長編とは異なる「書く技術」が要求されるのだろうが、読む側にしても短い分量の中から何かを読み取る瞬発力が試されることになる。
この10篇の小説をいずれも幻想的な作品と総括してしまうのは簡単だが、僕はこれらを端から幻想的なものを目指して書かれた小説ではなく、結果として幻想的に仕上がった小説だと読み取った。
普段は巧緻なミステリや精緻なファンタジーを描いている作家が、ミステリやファンタジーに特有の、あるいは長編では避けて通れない制約や常套からぬるりと滑り落ちるようにして書いている感じがする。あたかも酔っぱらいの語り口が「あらぬ方」に飛んで行くように、まるで自由奔放な筋運びに作者自身が遊びながら、にやりとほくそ笑んで書いているさまが目に浮かんでくるのである。
そして、この短編集がそれぞれの作品の冒頭に掲げられたフランス文学者の詩歌と新鋭画家の絵にインスパイアされて書かれたものだと知って、「なるほど、だからこんな感じに仕上がったのか!」となおさら納得してしまった。そういう刺激の表れが、例えばタイトルになった「あわい」という語の選択であったりするのだろう。あくまで「夜と昼のあわい」であって「昼と夜のあわい」ではないところもミソだろう。
「なんだかよく解らないままに終わってしまう小説」と言ってしまえば確かにそう言えそうな作品もいくつかある。「そういうほどけ方が楽しいのだ」と言えばそうとも言える。そんな中で割合この作者らしい結び目をしっかりと見せた作品が例えば「Y字路の事件」であり「酒肆ローレライ」である。そして、そこからもう少しほどけたのが「夜を遡る」や「翳りゆく部屋」である。この辺の「抜け具合」がものすごく心地良く思えるのは僕だけではないのではないだろうか。
いつもその筆力に驚かされる恩田陸だが、今回は彼女ではなく、彼女が握った筆が勝手に走って書いたような印象さえある。
読み終えてちょっと嘆息。
by yama-a 賢い言葉のWeb
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久しぶりに行った馬場の本屋で平積みされていたこの本を見つけ、まずは彼女の今年の多作ぶりに驚く。こんなに立て続けに出せるなんて、どれだけ書き溜めてるんだろう。
そんなことを思いながら手に取りたいのに、ちょうどその前に立ち尽くすいかにも文学部生っぽい地味ーな男女。ウズウズしながら周りをうろちょろする私の前で、男はこの本を戻しながら「この人も中途半端だよな〜(笑)」「SFともミステリーともどっちつかず」「結局、この人がミステリー大好きなんだろな(笑)」…みたいなことを二人でのたもうて去っていった。
…よりにもよって私の目の前でそれを言うか!「小説好きって言うと、村上春樹とか読んでると思われるけど、全然読んだことなくて困っちゃう」「これはSFだっけ?」「これうちにあった気がする」なんて『1Q84』の前で言ってねぇで、とりあえず読んどきゃいいじゃん!「うわー、この煽り方(苦笑)」みたいな態度は読んでから言ってくれる!?読みもしないで知ったかで話してんじゃねえよ、読まず嫌いってのは少しは読んでみてから決めるもんだぜこのバカ学生!!
…なんてことを念じながら遠くから睨みつけていました。
そんな切ないファーストコンタクトを経て、地元の本屋で買ったこの新刊。(上の時には、さすがに買う気が削がれてしまって悲しかった…)
新境地と帯に書かれているだけあって、一冊に色んなジャンル、小説形式が散りばめられてる。「Y字路の事件」「夜を遡る」なんかは私好みの大好きな雰囲気。ファンタジーっぽいの好きよね。「恋はみずいろ」も若干近いけどね。「夜を遡る」なんかは超自然的なものを何の違和感も無く受け入れてる世界観が大好き。『常野物語』シリーズ思い出した。
「唐草模様」「酒肆ローレライ」「翳りゆく部屋」「コンパートメントにて」なんかは話の展開とかが非常に恩田さんらしい。「コンパートメントにて」は舞台である列車のコンパートメントをあまり日本では見かけないせいか、日本のような海外のような。
単行本の体裁、一編ごとに現代絵画が挟まれる形式(山田詠美の、一編ずつどこかに色紙を挟んだ形式の短編集『色彩の息子』を思い出した)などなど、どことなく本の外観からしても新境地かも。ちょうどいい分量の短編10作で、一日で一気に読み終えてしまいました。
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ちょっとだけリンクしたりしなかったり。久保田順子のやつが好き。さらりとしているようで、ねばっこいような。不思議な読了感でした。
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恩田陸の「夢十夜」的短編小説。
フランス文学者の杉本秀太郎による詩、俳句、短歌に秘められた謎。
新鋭画家による十の作品のイメージに誘われた物とは?
呼び覚まされる記憶、溢れる出る感情、立ち上がる論理。
文章によって登場人物の営みが伝わってくる・・。
ミステリー、ファンタジー、SF、私小説、ルポルタージュ・・・あらゆる小説の形式に恩田陸の文章が踊りだす。
恩田ワールド全開の作品です。
ま〜あらすじは、カットして題名だけ・・・。
「恋はみずいろ」
「唐草模様」
「Y字路の事件」
「約束の地」
「酒肆ローラレイ」
「窯変・田久保順子」
「夜を遡る」
「翳りゆく部屋」
「コンパートメントにて」
「Interchange」
以上10の作品です。
もう、読みましたか?どの話が好きですか?
俺は、「恋はみずいろ」「Y字路の事件」「コパートメントにて」なんかが好きです。
・・・どれも魅力溢れてるさくひんでした。
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内容紹介
ミステリー、SF、ファンタジー、ノンフィクション等々……あらゆる小説の形式と恩田作品がもつ魅力をすべて投入した、「夢十夜」を思わせる全く新しい小説集。フランス文学者・杉本秀太郎による序詞(詩、俳句、短歌)に秘められた謎と、希代の新鋭画家による10のイメージに誘われた、摩訶不思議な10の作品世界。本好きであれば手許におかずにはいられない、恩田ファンには必携の奇書、ここに誕生!
内容(「BOOK」データベースより)
よび覚まされる記憶、あふれ出る感情、たち上がる論理。言葉によって喚起される、人間のいとなみ。ミステリー、SF、私小説、ファンタジー、ルポルタージュ…あらゆる小説の形式と、恩田作品のエッセンスが味わえる「夢十夜」的小説集。フランス文学者・杉本秀太郎による詩、俳句、短歌に秘められた謎と、希代の新鋭画家による十のイメージに誘われた、摩訶不思議な十の作品世界。
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序詞と絵がとてもよかったです。
本文の方は、ちょっと入り込めないまま終わってしまいました。
1編、常野っぽい雰囲気の作品があったけど…続き書いてほしいなぁ。
2009.7.11〜7.20読了
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最近遠ざかってる恩田陸
短編集はいろいろな味があると言えば聞こえがいいけど、ちょっとまとまりないなと感じていた
今回は「夢十夜」的小説集らしいので期待
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新鋭画家さんたちの画がとてもいい。
杉本氏の序詞はちょっと味わいきれてないけど。
「恋はみずいろ」
これにやられてしまったのだ。
「PMが亡くなったそうです」で始まるこの短篇で、
私は高校生のころに引き戻されました。
呼び覚まされた過去。
「こいはみずいろ、というのよ」
そう教えてくれたあの頃の彼女と、
私は今、同じくらいの歳になっただろうか。
梅雨時期に少しづつ、読み進めるのにピッタリな短編集。
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断片のようなショートショート。
恩田陸の何が好きかって、この雰囲気なんだよなぁ。
読み終わった後、とても静かな気持ちになるのは何でなんだろう。
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2009.08.21. イメージを集めたような本。ここからいくつかの物語が始まるような、そんな予感をさせる…ものもあるんだけれど。このまま1冊にまとめられてしまうと、宙ぶらりんな気持ちのまま。
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その文章やストーリーにこめられた作者の真意とかってどれだけ私は理解してんのかなっていつも思う。
でも、完全には理解なんかできないし、かけらが見えればいいほう。楽しめたらいいよね、っていつも無理やり納得してたりする。
この本に対しては特にそういう思いが強い。
だって、わかんないんだもん。
序詞と絵と文章との構成はおもしろい。いろいろな小説の形式が楽しめるのもよい。相変わらずの恩田さんの雰囲気や文体は好き。
なのに、なんとなくそれぞれに雰囲気があってまとまりがあるわりになんとなくすっきりしない不可思議なかんじなんだけど、好きになりきれないのはなんでだろう。
今回の一番お気に入りの点は表紙。雰囲気が本全体の雰囲気を示しているし、存在感が不思議とあるかんじがとても好き。
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不思議な短編集。装丁がひたすらかっこいい。
『夜を遡る』がすきです。『Y字路の事件』もわりと好き。
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恩田さんの意識の世界がつまった幻想的な短編集。
各篇ごとにフランス文学者である杉本秀太郎氏の詩と、さまざまなイラストレーターの絵で飾られていて、それが物語と合わさって、何とも言い難い独特の雰囲気を作り出していて素敵な装丁でした。
「 」で括られた会話文がほとんどなく、聴覚や視覚、そして想像力を大いに働かせてくれる、映像のような音楽のような妖しい夢の世界を流れているように感じました。
詩と絵にインスパイアされた物語なのでしょうか?
明瞭な調和は無といってもいい感じなのですが、そのいくらでも深みがありそうな曖昧さがまたより浮世離れした世界に連れて行ってくれるようです。
本当にイメージ的なものから、ちょっと毒のある話、ミステリアスな話まで。
個人的にはちょっと切ない「Y字路の事件」、なんとも皮肉な「窯変・田久保順子」、
白昼夢的な「翳りゆく部屋」、海外ミステリーのような「コンパートメントにて」
がお気に入りです。
「窯変・田久保順子」は、こんな視点の置き方があるんだなぁと感服です。
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いかにも恩田さん!という雰囲気たっぷりの短編集。装丁も、物語の始まる前に挿入される絵も詞(俳句など)も、全てが合わさって耽美な世界観が幕を開けます。
短編は一つ一つ全く毛色の違う作品で、時に謎に包まれ煙にまかれ懐かしさを連れてくる。突拍子のなさ故にじっくり読まないと入り込めないけど、恩田さんならではの言葉の世界をしみじみと噛み締められる本。物語本編と、本編の前に入れられた杉本さんの詞の意味をついつい考えてしまうのだけど、掴めそうで掴めない、ような、掴めているような・・・。この不思議であいまいな感じが後を引く!!
「Y字路の事件」がいちばん好き。読んでいる間ずっと、セピア色の町の様子が頭に浮かんでは流れていきました。
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なにがなんだかよくわからない。
だけど、それが恩田陸を読んでる!って手ごたえ。
モチーフとなっている絵と詩がそれぞれきれい。
「約束の地」同じような形式のくりかえし。どこにむかっているのか。つい何度も読み返す。
「窯変・田久保順子」シュールなこわさ。
「夜を遡る」宮沢賢治みたいな童話。
短編の恩田陸はほんとうに難しい。