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昔(バブルの頃)、画商でアルバイトをしていた(といっても、画廊があるわけではなく「担ぎ」の画商)ことがあって、絵画の流通システムというか、どうやって値段が付くのか、その裏側を垣間見たことがある。その頃から日本で絵画は投機の対象になっていったと思う。
本書は、印象派絵画がなぜ高額で取り引きされるようになったかを、印象派黎明期からの画家と画商、買い手との関係をつぶさに見ていくことによって、解き明かしてくれている。印象派が誕生した経緯などは、美術史で習うとおりで、最初の評判は惨憺たるものだった。しかし、それが巨額の富を象徴する存在になっていく過程は、スリリングですらある。それはまず、フランスではなく、19世紀末の「新興国」で、ニューリッチを生み出したアメリカの、しかも女性(富裕層の)によってその魅力を開眼させられていく。
第二次世界大戦前後のナチスドイツとの悲劇的なかかわりについては、1本の映画が撮れるくらいのエピソードが描かれる。また、フランスとは長年犬猿の仲であった英国が、如何に印象派を受容していったか…。
巻末のほうには、バブル期における日本人の印象派絵画買いあさりの状況が描かれ、まったく同じ日本人として恥ずかしくなる。
著者はサザビーズやクリスティーズで競売人として活躍したのち、サスペンス小説などを著した多彩な人で、その文章は読みやすく、英国人らしい時に毒のあるユーモアでニヤリとさせてくれます。印象派に少しでも興味のある人には、おすすめします。
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(2010.05.25読了)(2010.05.19借入)
印象派の絵画や印象派の画家について知りたいのであれば、この本はそのような用途には役立ちません。画商とコレクターについての本です。現代に近くなるとコレクターの死亡とオークション会社についての本ということになりそうです。
「印象派はこうして世界を征服した」という題名ですが、見方によると「印象派はどれだけ世界に拒絶されたか」という内容にも読めます。
まず、印象派絵画はどのようなものかが述べられ、フランス、アメリカ、ドイツ、イギリスでどのような拒絶に遭い、どのように受け入れられていったのかということが述べられています。後半は、オークションの話です。
印象派の絵画が登場した百年ほど前には、その絵の価値を認める人は少なかったのですが、いまでは、印象派の絵画こそが最も価値のあるものとなっています。オークションで、最高の値段を更新しているのは印象派絵画です。
●印象派の筆のタッチ(16頁)
印象派の画家たちの入り組んだ筆のタッチは、ものの形を決めるためのものではなく、視覚的な感動を画面上に揺らめくように織りなすためのものだった。
●カイユボットのコレクション(66頁)
1894年、印象派の画家のひとりカイユボットが亡くなり自分で集めた印象派の画家たちの作品をフランス国家に遺贈することを言い残した。これに対して、保守派の人々は「フランス政府が印象派ような堕落した作品を受け入れることは、甚大なモラルの衰退を招くことになる」と反対した。「このような排泄物の山を国立の美術館で展示することは、フランス美術の名誉を公に傷つけるものだ」と書いた雑誌記者もいた。
●アメリカ人の印象派受容(82頁)
アメリカ人が印象派を受容する上で影響力を持っていたのは、アメリカ人画家メアリー・カサットだった。
●コートールド(184頁)
英国の実業界の有力者で、フランス印象主義の重要な、そして献身的な収集を行った最初のコレクターは、サミュエル・コートールドだった。
●ギリシアの船主(194頁)
1950年代に印象派絵画の価格が劇的に上昇した。上昇は、その時代のニューマネーによって引き起こされた。目立って成功を収めていたのは、ギリシアの船主たちだった。
●印象派のどこが魅力?(212頁)
ニューリッチのコレクターたちは、ルノワールやセザンヌのどこに魅了されたのだろうか?その答えの一つは、魅力的な色彩と主題を持つ印象派の絵の親しみやすさにある。だが、もう一つの要因もあるだろう。専門知識の蓄積によって信頼に足る鑑定が可能となった印象派の作品は、反論の余地のない真筆作品として認められうるものだからだ。
●ルノワールがトップ(220頁)
1960年ごろに、フランス印象派の神殿におけるもっとも人気の高い画家を市場調査したとしたら、おそらくルノワールが最もトップに近い位置にいただろう。三人のポスト印象派たち、セザンヌ、ゴーギャン、ファン・ゴッホも、リストの上の方に挙がっていた。しかし、驚くことに、この最高峰のランクから名前が消えていたのはモネだった。
●モネの再発見(220頁)
モネが20世紀になって描いた巨大な睡蓮の絵は、ほとんど抽���の域に達していた。晩年のモネを再発見した立役者は、ジャクソン・ポロックをはじめとした抽象表現主義の画家たちだった。
(2007年4月に国立新美術館で開催された「大回顧展モネ」では、モネの作品の他にモネの作品の影響を受けた抽象絵画作品が展示してありました。)
(2010年5月29日・記)
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印象派を美術史として学んでしまった不幸。印象派がもはや古典となってしまった今、当時の人々が印象派の作品を観た時の驚きを追体験することは難しい。
ある人がセザンヌの絵を観て「飛行機に乗っているような気持ちになる」と言ったその感性。私にはそんな素晴らしい直感はないけれど、もし自分が19世紀のパリにいたら、どのように印象派の絵をみたのだろうか。
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20190809読了。
新聞の書評コーナーで取り上げられてたのをみて手にとった。
オークション会社のサザビーズ・クリスティーズの双方で印象派部門を担当したフィリップ・クックによる著作。
印象派の絵画が世界をどのように席巻していったのかを
アメリカ・ドイツ・イギリス・日本といった各国での広がりとともに紹介している。
印象派の拡大につながった主要な画商やコレクター、またはオークショナーの活動を多彩なエピソードとともに紹介しており、印象派が好きな人であれば力を抜いて楽しんで読める内容。
鑑賞サイドだけだとなかなか知りえない、購入者や販売者側でしか見えない話が多数あり、なかなか興味をそそられた。
たとえば、絵画のコレクターの傾向として、社会のアウトサイダーな人々(宗教的にであったり出自的にであったり)が、絵画を通して、より良い人間に成長させてくれるのではないかという考えのもとに購入していることが多いというのは意外であった。
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原題を "The Ultimate Trophy: How the Impressionist Painting Conquered the World"。印象派絵画はまさに美術界究極のトロフィー。当初こそ異端と目されながらいつの間にか芸術の域を超えて世界的なセレブのステータスシンボルとなった。不思議なことに、芸術先進国から、その先進国にあこがれる準先進国へ、やがて未開拓の第三世界に手を伸ばしていく…の流れはグローバリズム経済の発展とそっくりである。よい絵を見極めるのは実は容易い。しかし高く売れる絵のお膳立てはとても難しい。これも企業がブランド価値を上げる戦略とほぼ等しいことに驚く。利益、利益、利益。近年の絵画評が、ともすればその絵自体の持つ価値ではなく、真贋問題に終始するのはそのブランド価値に対するステークホルダーへの責任であるのだ。
(続きはブログで)http://syousanokioku.at.webry.info/200908/article_10.html
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絵画鑑賞が趣味――そう言われたら、明るい色彩でどこかぼやっとした風景画や人物画が頭に思い浮かぶかもしれない。いわゆる印象派と呼ばれる絵画で、代表的な画家にはモネ・ルノワール・ゴッホといった巨匠が名を連ねる。印象派が生まれた19世紀の後半から現在にかけて、印象派の絵画に対する社会の見方がどう変わってきたのか。また、その背景には何があるのか。こういった内容が本書では論じられている。
著者のフィリップ・フックはオークション会社サザビーズの取締役を務めている人物だ。フックがアート市場での40年にわたるキャリアをスタートさせたのはやはりオークション会社のクリスティーズなので、彼は2大オークション会社の両方で仕事をした経歴をもつことになる。サザビーズとクリスティーズはどちらも18世紀に英国ロンドンで創立した老舗である。
本書には8つの章があるが、大きく分けると2部構成になっている。印象派が登場した19世紀の後半から第2次世界大戦までを論じた前半と、第2次世界大戦より後を論じた後半である。これら2つの期間の違いをひと言で表せば、第2次世界大戦までは印象派に対する反応が国によって違うのに対し、それ以降では世界中が印象派に対する共通の姿勢を持ち始めたということになる。
印象派が生まれたフランスでは、当時、非難の嵐がまきおこった。印象派には「使用される色彩がまばゆく明るすぎること、仕上げがなされていないこと、主題がありふれていること」(70ページ)という3つの欠点があったからだ。しかし、印象派がやり玉に挙がった根本的な理由は、それが当時のアカデミーに対する抵抗運動しての前衛芸術だったからである(16~17ページ)。それでも印象派はフランスで段々と売れるようになっていった。デゥラン=リュエルなどの画商の存在が大きかったという(57ページ)。そして20世紀の初頭には、印象派はもはや最先端ではなくなっていた(68ページ)。
フランスから他国に目を向けると印象派に対する反応には色々と違いがあった。それはフランスという国そのものに対する態度が大きく影響していたと言える。フランス礼賛の風潮があったアメリカでは、19世紀の終わりまでに印象派は全面的に受け入れられるようになった(85ページ)。ドイツは印象派に限らずフランス美術自体を「軟弱」として認めていなかった。それでも、「自然に忠実」という印象派の性質がドイツ人に魅力的と感じられて、だんだんと印象派が受け入れられていった(122ページ)。そしてフランス嫌いのイギリスで印象派が受け入れられるには他のどの国よりも時間がかかった(193ページ)。
第2次世界大戦後には、印象派に対して世界は共通した認識を持つようになった。すなわち「印象派絵画は良い美術であり、それを所有することはさらに良いことである」というものである(193ページ)。今や、印象派の絵画は超富裕層にとってのステータスシンボルとなっている。フックは、アメリカが経済のみならず文化の面でも覇権を握ったことを要因と見ている。オークション会社の果たした役割も大きい。オークションという公開の場で高額の印象派絵画を落札することによって、超富裕層は財力を誇示することができる。価格高騰の大きな原動力だろう。
本書の内容が印象派についての分析であることには間違いないが、読んでみればすぐに分かるとおり、堅苦しい分析などではまったくない。ユーモアが利いていて読んでいて思わず笑いが出てしまう場面もたくさんある。本書には直接かかわらないものの、フック自身もオークショニアを務めていたことがあり、特に後半(6~8章)では元オークショニアならではの見方というのも読み取れてなかなか興味深い。印象派の絵画が好きな人だけではなく、オークション(会社)に関心がある人にもぜひ読んでもらいたい。
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第二次世界大戦までは、各国によってばらつきのあった印象派に対する評価。それがフランスよりも、アメリカとドイツをはじめとして、続いてフランス、イギリスへと波及していくまでの過程が描かれている。そして、戦後のバブル期の日本で<財テク>として不当に扱われた印象派の様なども、読んでいて悲しくなってくる。
あとがきにも書いてあるが、印象派の絵画を画家自身ではなく、画商や消費者、さらには文化的背景という観点から論じている。また、一流の画商である著者の回想記としても書かれていて、興味深い。
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★3.5。
印象派という一つの様式の絵画形式の解説ではなく、その受容の歴史の描写で、なかなかに興味深い視点で纏められている。しかもナショナリズムを微妙にくすぐる感じなんかも含めて、絵画への関心の惹かせ方・手腕は流石一流のオークショニアといったところかな。
純粋な絵画への執着なのか、マネーゲームの中での駆け引きなのか、色んな「欲」が渦巻きますが、その中心に新しい世界・自己表現を追求した究極の「欲」の持ち主である画家の渾身の結晶たる確かな絵画(いわゆる印象派)があることだけは確か。
印象派は確かに他にない魅力がありますもんなぁ、卑小な当方でも小品で良いから一つ家に飾って毎日拝みたいみたいな欲があるくらいですから、そりゃお金持ちは堪らんでしょ。
(追記)
誤植が散見、結構珍しいかも。
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印象派はこうして世界を征服した
(和書)2011年03月21日 15:56
フィリップ フック 白水社 2009年7月
柄谷行人さんの書評から読んでみました。
印象派の投機的な価格形成というものがどういうものなのか分かり易く書かれている。印象派絵画の価格以外にもその魅力とは何なのかも知ることができた。
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逗子図書館で読む。図書館で読む本ではありません。購入すべき本です。再読の価値があります。それだけです。
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印象派は、その革新的だが親しみやすい画風、デュラン・リュエル等の有能な画商(レンブラントなどとちがって印象派は彼らによって写真のカタログにされていたので、真贋が明白だった!)、また種々の歴史的要因によって新興国アメリカから徐々に世界的に浸透していった。写真などのメディア登場やチューブ入り絵の具の誕生などが、伝統的なアカデミズムへの反発を必然的にさせただろう(歴史的要因)。作品がお金では買えない何かを含んでいるということを度外視すれば、アートはつくり手にとっても売り手にとっても、また買い手にとっても、ゲームであるということがわかる。
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絵画オークションの歴史とその発展の過程で印象派の作品の評価(落札額)の変化が述べられている。
本当に日本がバブルの頃買った絵にすごい名画があったのは驚き。
今売ったら怒られそうな作品が‥
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二大オークション会社、サザビーズとクリスティーズの元オークショニアで画商の筆者の視点が面白い。
印象派絵画の顧客価値の変遷から見える米仏関係の歴史が新鮮だ。
見栄と虚飾に満ちた世界で、オークショニアは、ニューリッチに食いつき、亡くなった資産家の絵画を売る…その生態には辟易する。また、バブル期の日本の資産家を斜め下に見るような記述にも閉口する。しかしそれらも含めて絵画の価値について考えさせられる。
本書は2009年に出版されたものだ。2021年現在のコロナ禍において、オークショニア達はどうしているのだろうか。バンクシーの絵画の落札を最後に、その後オークションのニュースを見ていない。ビットコインや宇宙旅行にお金が流れている現在の印象派絵画の価値を知りたくなった。
翻訳物につきものの読みにくさがあり星4つとしたが、内容は興味深い。
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印象派絵画が生まれた当時のフランスの社会・経済的背景や流通における画商の役割について興味を持って手にした本。 印象派の絵画を社会的な側面から知るにはとても良い入門書。
数々の印象派の展覧会が日本でも開催されており、美術史において最も人気のある画派であると言える。
誕生当時はアバンギャルドであった印象派がいかにして美術界の主流となったのかについて、経済や流通と絡めながら解説した本。
印象派が生まれたフランス・アメリカ・ドイツの3つの国別に印象派絵画需要の違い、画商とオークションが美術そのものの価値をどう左右していったかなどがわかりやすく書かれている。
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過去の人気課題本ということで、手に取ってみた。著者はオークション会社の取締役をされている方で、本書はそんな著者ならではの視点で、印象派の作品が高値で取引されていく過程が描かれている。序盤は小中学校の美術の教科書か?と思うような、通り一遍の解説であまり面白くないが、第二章以降は興味深いエピソードてんこ盛りで、楽しめた。絵画の歴史もコレクターやバイヤーに焦点を定めたら、こんなにも違って見えるのかと。他のジャンルの美術品についてもこういう本があったら面白いなと思う。ただ、美術の歴史の本なのに本編中の写真が白黒なのが、少し残念であった。