紙の本
懲罰では更正できない。
2010/02/08 05:09
11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちひ - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本にデータを挙げて紹介されている事実の一端は以下のようなものである。
◇少年犯罪は増加傾向にない
◇団塊の世代の周辺人口の犯罪は増加傾向にある
◇「割れ窓理論」は拡大解釈しない方がよさそうだ
◇「スケアード・ストレイト」は再犯率を高めた
◇「ブートキャンプ」はそれほど効果的ではない
◇怒りをコントロールするプログラムがある
◇犯罪防止にまつわるショック療法には副作用が多い
法務省等が集めた公式な・信頼できるデータを精査すると、マスコミが煽るほどに少年犯罪は増加傾向にない。逆に犯罪数が増加傾向にあるのはいわゆる「団塊の世代」、戦後生まれの世代においてである。また、明治以降の近代日本でいちばん犯罪が多かったのは、わたしたちがノスタルジックに振り返りたがる昭和30年代であった。
外国から輸入される「割れ窓理論」や「ブートキャンプ療法」が万能ではないのは、冷静にデータを読めばすぐにわかる。また「スケアード・ストレイト」(交通事故防止ではなく犯罪防止の方)など、犯罪防止にまつわるショック療法には一時的な効果があっても、根本的で持続的な効果は認められない場合が少なくない。
なお、犯罪を防止するために「懲罰」を与えるのは逆効果である。そんなふうに痛めつけることに重きを置くよりは、更正を促すプログラムを充実させた方がより効果的だしコストパフォーマンスも良い。
「誤解を恐れず大胆に要約すると、犯罪者が立ち直るためには、その人を立ち直らせたいという思いを強く持った人との出会いや関係性が重要であり、その関係性を通して、自分が社会にとって役に立つ人間であるという自己イメージを持つことができたときに、人は立ち直ることができる」
「北風と太陽」みたいな話だ、ということだろうか。
浄土真宗本願寺派の機関誌である『宗報』の2009年11・12月号に掲載された「治安悪化の真実と厳罰化の意味」は、この本の内容をまとめたものである。そこにはこうある。
「人は社会とつながらずに生きていくことはできない。刑罰後の更正には社会とのつながりを取り戻すことが不可欠であるが、社会的制裁を含む厳罰は、社会とのつながりを断ち切ってしまう。当然、これによって刑罰後の再犯が助長される。厳罰化は、刑罰と社会的制裁の微妙なバランスを崩し、更正の道を絶つことで再犯を促進している。」
「事実は小説よりも奇なり」と言われるが、この本には逆に淡々と「事実はそれほど劇的でもなければ面白くもない」という事実が書かれている。だからあまり顧られていないようだが、もったいない。大変に建設的な内容である。
紙の本
自己責任の議論に組み込まれないために…
2011/07/23 09:21
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Genpyon - この投稿者のレビュー一覧を見る
「2円で刑務所、5億で執行猶予」という刺激的な書名にも関わらず、本著では、刑事・司法と刑罰・矯正に関してデータに基づく堅実な議論が行われる。議論の結果、一般的な常識とは異なる認識が説得力をもって導かれ、興味深い内容を多く含んだ著書となっている。
日本では、刑事・司法と刑罰・矯正の実務には大きな溝があり、両者を経験する人はまれであるらしいのだが、著者は幸運にも両者を経験できたとのことで、本著からも全体を俯瞰する視点を感じることができる。
著者は、犯罪と自己責任を結びつける厳罰化などの議論には犯罪防止に対する実効性はなく、犯罪の原因を社会と個人との関係から考えるべきとの見解を示す。一見、犯罪者を甘やかすかのように思えるこのような見解においても、多くのデータに基づく堅実な議論が行われており、説得力がある。
同様の議論は、貧困についても成り立つが、米国のような二極化が進む日本では、一部の勝ち組を除けば、犯罪や貧困までの距離はそう遠くなくなってきている。本著のようなデータに基づく議論に加え、明日は我が身と考えられる想像力が、勝ち組が強調する自己責任の議論に組み込まれない秘訣と思われる。
紙の本
刑事政策
2017/02/27 13:06
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kentex - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本の刑事政策について、報道や噂ではなく、事実を知るために自ら調べることが大切だと感じました。
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(2009/10/30読了)久々に大ヒットだった本。マスコミがあおる社会不安のせいで、実は日本の凶悪犯罪は減少しているにも関わらず厳罰化の世論が形成されていることを指摘する。「あの頃はよかった」なんていう昭和より、平成の方が明らかに犯罪は減っているのである。しかも日本の殺人は家族内が多く(それ以上に自殺が多いのだが)、通り魔的な、知らない人にいきなり殺されるリスクは実はかなり低いのだそうだ。
最近の本のタイトルは釣り的なモノが多い。筆者自ら前書きで「手にとってもらうために、編集さんの助言であえてこういうタイトルにしました」と記し、更に本文中(P121)でも「5億円詐欺事件での執行猶予は妥当だと思っている」旨、太字で強調されています(笑)
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タイトルに1本釣りされて(この文章を書くのは何回目だろうか・・・・・・)読んでみた1冊。
てっきりタイトル通り、2円で刑務所にいれられてしまって5億で執行猶予っていう他人の不幸話だと勘違いしていた。だが実際は犯罪学をテーマにしたお堅い本であった。目次を見て、読むのをやめようとすら思ったくらいだ。
だが、1つのテーマを読み進めていくうちに本書に対するイメージがすっかり変わった。著者の主張を伝えるために統計や引用がうまく使われているし、話のつかみにしているネタも万人の興味を引くものがチョイスされている。これはレポート作成にも活用できるではなかろうか。
食わず嫌いはよくないね、と改めて感じたのであった。
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今問題なのは少年非行ではなく高齢者犯罪。
「昔はよかった」は大ウソ。
街灯を明るくすると犯罪が減る。
徴兵制や新兵訓練は非行を抑止しない。
犯罪の認知件数と刑務所人口には因果関係がない。
刑務所に入るかどうかは犯罪の重大性と関係ない。
裁判で真実は明らかにならない。
人が更生するために必要なものは?
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12月に原田正治さんも来られたシンポ「“いのち”と刑事司法」で、関連本や資料をいろいろと売っているところに混ぜてもらい原田さんのインタビューを掲載した『We』163号も販売した。
そのときに「すごくいい本なんです」と売ってはるのを聞いていて、帰る前に『被告人の事情/弁護人の主張』を買った。この『2円で刑務所、5億で執行猶予』も「めっちゃおすすめ!」と売っていたのだが買いそびれ、図書館で借りてきた。
読んでみて、このタイトルを見て手に取る人もいるだろうが、このタイトルのせいで手を出さない人もいるような気がした。この本は「世の中にあふれている、犯罪や刑事政策に関するさまざまな神話や間違いだらけの常識」をとりあげ、ウソはウソだとちゃんと指摘し、こんなことをやっててエエのか?と問いかける。
たとえば、「治安の悪化」「少年犯罪の激増」はウソである。そのウソに左右されて、「厳罰化や!」といきりたつのは、社会をばらばらにしてしまう。
刑務所に入っているのは「選りすぐりの悪もん」ではなく、むしろ「社会的弱者」であることは、山本譲司の『累犯障害者』などでも指摘されている。
私は裁判とか刑務所がらみの本も多少は読んできたけれど、この本の「すべては検察官のさじ加減ひとつ」の章は、読んでかなり驚いた。「犯罪の認知件数と刑務所人口に因果関係はない」とは説明されて納得。しかし「刑務所がいっぱい」報道はかなりされていて、刑務所いっぱい→悪いことする奴が増えているという感覚はあるよなと思った。
毎年、警察に検挙されるのが約200万人、そのうち刑務所に入ることになるのは約3万人、割合でいえば検挙者数の2%である。
▼ある意味、刑事司法手続きは、98%の人が不起訴や罰金刑で勝ち抜けるゲームであり、受刑者は、その中で2%弱の負け組なのである。ただし、ここで重要なことは、負け組になる理由は、犯罪の重大性や悪質性とは限らないことである。(p.116)
勝ち抜けの条件は、財力、人脈、知的能力で、家族や仕事があり社会基盤がしっかりしている者、経済的に豊かな者は、被害弁償や身元引受の点での有利、内省力や表現力のおかげで、起訴猶予や執行猶予を受けやすく、よほどのことがなければ実刑判決にはなりにくい、と著者は書く。このことが本のタイトルにもなっている(ただし著者は、5億円の詐欺で執行猶予は妥当な判決だと評価している)。
この本は、メディアリテラシー的な話や、社会学的な犯罪理論の話、貧困と犯罪、ポピュリズムと厳罰化といった話もまじえて、自業自得だ、自己責任だと人を追い込む社会ではなく、「お互い様」の社会であるほうが望ましいと、人が生きていくにはつながりが必要であると呼びかける。「めっちゃおすすめ、いい本」という売り言葉にウソはなかった。
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自分のイメージと随分、差がある事に驚いた。それだけでも価値のある本でした。
刑務所が最後のセーフティーネットの役割
ホームレスは自己責任と思う人の割合の高さ(2010年現在もそうなのかな?)
孤独と貧困が犯罪の温床(犯罪に限らず自殺、うつ病もでは?)
社会保障の手厚い国ほど寛容な人の割合が高い(これを維持するには国の経済成長が前提では?)
スケアード・ストレイト(反面教師)は再犯を促進する。不安を喚起するだけで解決方法をしめさないため、逆に悪い見本を他に良い対象がない為に模倣してしまった可能性が考えられる。
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読みやすく、問題点も分かりやすい。どうしてもこういう本はタイトルが先走ってしまうが、中身は良い本だと思う。「古き良き時代」なんて言ってるやつたくさんいるよなぁと思った。
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司法制度の問題点、人々の心理と統計との乖離、司法の現場が分かりやすくまとめられてた。
犯罪率の低下と高齢化、認知件数とマスコミの報道による認知度の高さの関係も分かりやすかった。
なにより、随所に引用される統計データが重みをましてた。
特にポピュリズムについてのくだりは面白かった。
皆が理解しやすい形にすることが悪ではなくて、それに必要な情報や教育が追いついてない現状が悪い、っていうのは膝を打つものがあった。
司法制度が抱える問題点を理解する上での入門書としていいんじゃなかろうか。
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[ 内容 ]
おかしいぞ日本の司法と犯罪対策。
さまざまな“犯罪神話”を解体し、事実に即した犯罪対策・刑事政策を提案する。
[ 目次 ]
第1編 犯罪と犯罪予防(減る少年犯罪、増える高齢者の犯罪 間違いだらけの犯罪対策 エビデンスに基づいた犯罪対策-キャンベル共同計画)
第2編 刑事政策(刑罰)(すべては検察官のさじ加減ひとつ 人はなぜ犯罪を犯すのか-犯罪理論について 法律と科学 ポピュリズムと厳罰化 貧困と犯罪 「刑務所太郎」はなぜ生まれるのか?)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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タイトルが俗っぽいけど,内容はしっかりしてた。ポピュリズムに翻弄される刑事政策を憂慮する犯罪学者の著者。特に刑の執行段階に視点を置き,社会がどう犯罪に対応すべきか探る。
「ポピュリズムの基本的手法は、わかりやすさと情緒の味付け」(p.12)と著者は言う。確かに。マスコミのアジェンダセッティング力は大きい。そしてなるたけ叩かれないようにとの行政の事なかれ主義が火に油を注ぐ。
本書は,各章冒頭に常識的で分かりやすい「犯罪神話」を政治家の仮想演説として示し,本文でそれについて犯罪学の見地から論駁する形式。以前読んだ『陰謀論はどこまで真実か』も似たような形式だったな。陰謀論を提示し,それを論駁するというやつ。
「最近凶悪犯罪が増えている」というのはメディアに触れることで作られた印象だったりして,実際にはそんなことはない。もちろん,犯罪統計には暗数というのがあって,人々の犯罪に対する許容度や価値観,警察の取り組みによってその割合が変化する。
つまり犯罪被害に遭っても,世間体等を気にして届けなければ,警察の統計には表れず,その比率も様々な要因で変化する。しかし,これを無作為抽出による犯罪被害調査で補うこともでき,それによって犯罪被害についてかなり正確な推定を行なうことができるらしい。
心の問題や,「昔は良かった」的説明は,わかりやすくて説得力があるのだが,統計的な分析によると,実はここ50年ほど一貫して最も人を殺している世代は団塊の世代とその少し上という結果が出ているそうだ。最近の若者を最も憂いている世代が最たる加害者という皮肉。
小中学生による殺人などが起こると,それが一般的傾向を示す事例かどうかなど一切検討抜きで,ネット社会の闇,モラルの低下とか叫ばれるが,これは悪ポピュリズム。エビデンスに基づいた犯罪対策が,副作用を減らし効果を上げるのに不可欠。
「神話」に反して,裁判で真実は明らかにならない。例えば,部活動中に熱中症で中学生が死亡し,顧問が訴えられた事例。体育教師だったというような事情も災いし,有罪判決が下る。この裁判で明らかになったのは,顧問に業務上過失致死の責任を負わすことが可能という「理窟」だけだ。
本書タイトルの意味は,実刑になるか否かは被害の大小以外の事情が決める,ということ。財力,人脈(身元引受人),知的能力(内省力・表現力)に優れる者は勝ち組で,被害弁済と謝罪をすることで,執行猶予の付いた判決を得られる。起訴前段階でも保釈が受けられる。
反対に財力も人脈も知的能力ももたない「弱者」は,保釈も執行猶予も受けられず,塀の中で長い期間を過ごすことになる。道徳教育でモラル強化などの前に,こういった受刑者たちの現実に目を向けて,考えるべきことがあるだろうと著者は言う。キーワードは社会での居場所。
刑務所に収容されている人の多くは,「弱者」であるが,その中でもまるで志願してるかのように何度も収監される受刑者がいる。彼らは「刑務所太郎」と呼ばれる,刑務所の外に居場所がない人々である。彼らの多くは,刑務所の中では大変に優等生。
受刑者の中で,刑務所運営に携わる「経理夫」がいる。経理要員は受刑者中のエリートで,職員から名前で呼ばれ,報奨金も高く,待遇も良い。刑務所から必要とされる仕事にやりがいを見出す。退所したあとは社会に溶け込めないから,また刑務所に舞い戻ってくる。刑務所が居場所になっちゃう。
刑務所の中には凶悪犯を多数収容するところもあるが,平均的な受刑者というのはこういった弱者なんだろう。そういう現実はなかなか見えなくて,何となくのイメージが社会の中に普及している。こういう状況ではなかなか物事が変わらないのかも。
日本では死刑制度がかなり支持されているが,犯罪学としては,死刑の犯罪抑止力はほとんど認められていない。刑罰の抑止力を信じる刑罰信仰は,長い歴史で受け継がれてきたもので,30年程度と歴史の浅い多変量解析等の統計手法ぐらいでは,なかなか揺るがない。
ポピュリズム刑事政策とは,秩序を求める市民グループ,犯罪被害者の権利を追求する活動家やメディアが社会の代弁者となって政策に影響を与え,司法官僚や研究者の意見が尊重されなくなる現象。これをどうやって変えていくのか,やはり知ることから始まるんだろう。
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(推薦者コメント)
日本の司法は本当に正しく動いているのか。書名におかしさを感じる人は、是非読んでほしい。
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[主な内容]
治安の悪化の問題から刑罰、犯罪への対策など、いろいろな日本の疑問点・問題点について統計や調査などを踏まえて、読みやすく紹介されています。
[おすすめの理由]
文章が読みやすい言葉や言い回しで書かれており、筆者の言いたいことがハッキリ伝わってきます。また、グラフや図も多く、飽きることなく読み進めます。
身近な問題について多く書いているので、刑法の勉強をしたことがない方も是非読んでみてください!
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「ある刑罰が残虐であるかどうかの判断は国民感情によって定まる問題である」
そして国民感情は、マスコミによる影響を強く受けている。
治安はほんとうに悪化しているのか、
少年犯罪はほんとうに増加しているのか、
その再犯防止策は功を奏しているのか、
などなど、テレビを見ていて不安に思うことに対して、データをもとにわかりやすく示されています。
なぜマスコミがそのように報道するのかにも言及されています。
さらに、法律家の役割についても自分の中の誤解に気付かされました。
犯罪について、犯罪者について、再犯について、法廷で扱われることについて、興味のある方におすすめです。