紙の本
去年をいい年にするもしないも自分次第。
2011/08/16 07:06
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:道楽猫 - この投稿者のレビュー一覧を見る
もうずい分前になるけれど、この人の書いた「時の果てのフェブラリー」と「サイバーナイト」を読んだ。
山本弘と言えば、世間的には「と学会」会長の名を出すほうが通りが良いだろうが、私にとっては「トンデモ」についてはどうでもよい。
単純にこの人の書くSFはとても面白い。難解な理論もわかりやすく噛み砕いて説明してくれ読者に優しい。だから好印象を抱いている。
その山本弘さんが、また面白いSFを書き、それが星雲賞を獲ったというので、「これは是非読まねば!」と遅れ馳せながら手にしたわけだ。
9.11が起こったのって、2001年だったんだ。もう10年にもなるのか。
今でも、あの信じられない映像は目に焼きついている。CGかと思ったぐらい凄かった。
あれが"なかったこと"になるのなら、諸手を挙げて歓迎する人も多いだろうな。
けれど、本来起こるべき出来事って、そんな簡単に回避しちゃって大丈夫なのか?
(どうしても、回避してほしかった出来事も、あるけれど…。特に今年は思うところも色々ある。)
私は、昔から占いは無意味だと思っている。
たとえば、「あなたは右の道に行くと事故に遭う」と言われ、それならと選んだ左の道でもっと悲惨な目に遭うかもしれないし、ある出来事を回避したせいでそこからの未来が大きく変わることも有り得るだろうと思っているからだ。
遠い未来からオーバーテクノロジーと共にやってきたガーディアン(アンドロイド)がそんな単純なこともわからないはずはない。
彼らは、"その時代の人類を救えとプログラムされている"からそう動いているに過ぎない。
ガーディアンにとって「目の前の人間を守る」ことのみが使命であり、善なのだ。
それがどういう結果を招こうと、彼らにとっては知ったこっちゃない。
アンドロイドたちにとっては、さかのぼる1年1年が実験であり練習台。
いつも「次こそはもっとうまくやろう」と思うのみだ。
まさに「去年はいい年になるだろう」と思いながら人類救済に血道をあげる。
だがそれに巻き込まれる人類のほうはたまったものではない。
荒唐無稽とも思えるこのようなお話が、何故これほどリアリティをもって迫ってくるのかといえば、それはやはり「山本弘」という実在する作家の「手記」という形がとられているからだろう。
作者であり主人公でもある「山本弘」もガーディアンの出現によって、様々な被害に遭うこととなる。
けれど、それはガーディアンの出現のせいではなく、すべて自らの行動が招いた結果であると、実にSF作家らしい視点で客観的に自らを省みる。
私なら、どうだろう。そうも客観的になれるものだろうか。
「コイツらさえ来なければ」
そういう思考に陥りそうだ。
相手のせいではない。すべて自分次第。
いつもそう言い聞かせて行動しているつもりではいるけれど、許容量を超えるほどの出来事が起こったときにもそう考えられるか、自信はない。
ただ、私は思うのだ。
来年をいい年に出来るのが今の自分次第であるならば、
去年をいい年に出来るのも、今の自分だけ。
人は、過去にも未来にも生きられないからね。
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03年の作品「神は沈黙せず」を読んだ記憶が
蘇ってきた。相当面白く読んだ記憶が。
それ以降作者の他の作品を一切読んでなかったですが
自分の好きな作家さんなのかもしれません。
一般的に分かりにくくて敬遠されがちなSFですが
凄く丁寧に、伝えるんだという熱と意思がヒシヒシと
感じられる凄く人間味のある文章と、このSFド直球な
内容のギャップが堪らなく面白いです。
もう今年も4月になっていてビックリですが、個人的な
2010年のベスト3当確でしょうねー。
作家さんの人柄、そしてアィデア、ストーリー展開、
台詞まわし...とても自分の好みです。
丁寧に書かれてるのでSF苦手〜って方でも充分
楽しめます。何よりストーリーが秀逸でSF的な部分も
分からなかったら、勝手に頭が分かろうと働く筈...?
相変わらず仕事に殺されるような糞のような日々ですが
こういった作品に少しでも浸れる時間が、まだあるのは
壊れずに済む...救いです。
いやー。面白かったぁ。
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「神は沈黙せず」、「アイの物語」の山本弘氏の新作。主人公は作者自身がモデル(?)のため、作中上記代表作のネタバレが多発し、未読の方は注意が必要。
作者が代表を務める「と学会」の話や主人公の家族の話等、どこまでがフィクションなのか興味深いが、純粋な小説としては及第点レベルといった印象であり、上記代表作には残念ながら遠く及ばない感じ。
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ふんぎゃあ。
なるべく読み終わった直後に感想を書くことにしている。その興奮なんかを冷まさずに書く為に。
ふんぎゃあ。
ああもう。
本当は五つ星なんて連発したくない。
これも読んでる途中まで、「よくできている。物凄く良くできている。でも、これじゃ四つだな」と思っていた。
いやもう。
ラストの章。
間違いなく五つな訳で。もっと星ないの。
神様ありがとう。
全然いると思ってないけど、ありがとう。
『アイの物語』を手に取らせてくれたことと、新刊のこの本に気づかせてくれたこと。
作中、『アイ〜』にて、人と云う存在に絶望している的な気持ちが込められているって云う下りがある訳ですが、でもね、やっぱり作者は人が、人を、信じたいんですよ。
人は、そりゃもうビックリしちゃうくらい愚かで、非論理的で、間抜けで、残酷なんだけど、でもさ、人が人を愛してやらなければ、誰がこの孤独な存在を認めてあげられるの?と。
云っているようにしか思えない。
あなたとわたし。
決して同一にはなれない。
でも、なれないからこそ意味が、意義があるんだよね、って云う。
生涯ベストに間違いなくランクインしました。
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ブクログのシステムが許せば星6個ですね。いつもながら……と言うほど毎回じゃないですが、山本弘のSFは、なんというか、肌に合います。
今回は時間テーマ、というか未来からの訪問者ですね。
山本弘の固定ファンをニヤリとさせるモノをちりばめながらも、じわじわとナニカが襲ってくる感じは、読んでいる間じゅう、ゾクゾクさせられました。
ただ、一方で「山本弘?誰それ」という人なら星4つ、という所かもしれません。
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20100614読了。実在人物が結構出て来て、自伝的、ではあるけども、パラレルというべきか。いかにも、でした。
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人間の善意や賢明さに期待するシステムは必ず破綻する
大切なのは許容することだ。生身の女性を脳内の理想像に当てはめてはいけない。「これを喜んでくれるはず」とか「これくらい許してくれるはず」とか、勝手な思い込みで決めつけてはいけない。
彼女には彼女の意思があり、好みがある。君の方が彼女に合わせなくてはならない。
結婚生活は理想通りにはいかない。疲れることも多い。しかし、理想と違うところも含めて素晴らしいのだ。
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SFなんだろうと思うけど、頭が固いのか今ひとつ楽しく読み進められませんでした。
おもしろくないわけではなく、難しい感じ。
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京都在住の自分には関西弁で綴られる文体に親しみがあり、細かいニュアンスも理解できるが、SFを読んでいる時に感じる特有の「本」との距離というか間合いになれなかった。
美少女ゲームにありがちな「美女アンドロイドが押し掛け女房状態」という設定から始まるが・・・。
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山本弘「去年はいい年になるだろう」読書中。AIである「ガーディアン」が登場するため、「アイの物語」と重なる部分が多々ある。ただ、メインアイデアは時間遡行だろうし、それを踏まえてタイトルをみると少し不穏な印象も...。後半に期待。
それにしても、長編作品ではよくも悪くも山本節が炸裂するのだよね。もちろんそれが好きなわけだけれど、たまには純粋に「物語」として楽しめる山本弘の短編も読みたくなる。短編集、そろそろ出ないかなー。彼は本当に短編がうまい作家さんだと思うのだよ。
山本弘「去年はいい年になるだろう」読了。未来からロボットがやってきた、という設定で、私小説スタイルで山本弘本人(この分岐とは異なる山本弘)周辺に起こった様々な歴史改編の爪跡を描いて行く形式。前半から中盤は、仕掛けの割に話が地味に見えるかも。
後半になって話が大きく動く。パラレルワールドものとしては短編的なネタなんだろうけれど、一人の人生を改編することの重みは、私小説形式によって伝わってきた。エピローグがよかったです。
山本弘は歴史改変によって生じる複雑なパラレルワールドについて、図を使って説明してくれるから親切で嬉しい。複雑な話がでてくる小説は、もっと図を使ったほうがいいと思うんだ。小川一水「第六大陸」なんて、ロケットの形状に詳しくない私にはちんぷんかんぷんな説明が多すぎた。
と、disっておきながら、同じく歴史改変パラレルワールドものの小川一水「時砂の王」はいい作品ですよ。「去年はいい年になるだろう」を読むと、また読み返したくなるな。「時砂...」はかなり派手な出来事が起こる作品です。
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2001年9月11日、ワールドトレードセンターが崩壊する映像の直後に
画面の中に現れたのはガーディアンと名乗る美女だった。
彼らはこれから起こる事故や自然災害、戦争を防ぎ
人間を保護するために24世紀からやって来たと言うのだ。
歴史を1年ごとに遡ってはその時代に10年滞在し、また次の年へ向かう彼らは
その経験から我々の反発を見事に抑え込んだかのように見えた。
さらにSF作家の私の元には広報活動のため
カイラという名のアンドロイドが訪ねてきた。
未来の私のメッセージや小説を持って。
未来の私が書いた物を自分の作品として発表してもよいものか、
悩んだ結果編集者に相談してみるが
考えることは誰も似ているようですでに未来の作品で
出版計画は満杯になってしまい仕事がなくなってしまった。
ただでさえガーディアンの出現でSFのアイディアが限られてしまったというのに。
家計は苦しくなり、カイラと私の仲を疑って夫婦仲も険悪に。
彼らは人間を保護するためにやって来たと言うが、
犠牲となる個人が未来とは変更されただけではないのか。
装丁:多田和博 カバーイラスト:西口司郎
カバー写真:アフロ
著者を主人公としたノンフィクション風SFです。
人間を救うことを生きがいとして未来からやってきたアンドロイドに対して
2001年の人々はどのように行動するのか。
実在の人物や出来事も多く登場するので、
「「そのまんま東が宮崎県知事になる」というのはどうだろう。
ギャグっぽいが微妙にリアルで、判断に困る。」のような
未来の自分が教える出来事を信じられない私、という
ユーモアのあるシーンも多いです。
山本さんのプロフィールや作品を知っていればより楽しめそう。
しかし実際の奥さんと不仲になってしまった場面や
精神を病んだ未来の自分など厳しい描写も多く
よく自分を主人公として客観的に書けたな、と感じます。
パラレルワールドの不毛さと人間の愚かさが浮き彫りになった作品。
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歴史改変 SF、パラレルワールドもの。
主人公は著者山本弘氏自身。
その分私小説的な著者の熱い想いが伝わってくる。
実在の人物も多数登場。
途中、読者そっちのけのおふざけもあるが、
なかなか楽しめる、素敵な作品だ。
読了後に、タイトル「去年はいい年になるだろう」はちょっとグッと来る。
2011 年 第 42 回星雲賞日本長編部門受賞作品。
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作者自らが「私小説SF」という本作。
普段通りの小説家としての日常を送る作者の世界がある日を境に一変する。突如やってきた、9.11テロを未然に防いだ、という未来からのアンドロイド。
彼らは「歴史上起こった災害や事故」を未然に回避させるためにやってきたのだという。
そして作家山本弘は美少女アンドロイドの訪問を受け、未来の自分からのメッセージとこれから書くであろう作品を受け取る。
実名とかもバンバン登場する一風変わったつくりの小説。なるほど。私小説SFか。
SFというと結構ややこしい理論だとか複雑な設定を読み込むまでにちょっと骨みたいな印象が強くてあんまり手を出さずにいたところが大きいんですが、こういう感じだと自分のような人間にも読みやすくていいです。非常に間口が広いというか。
それでいて内容もなかなかに面白いし。後半の暗い展開はそれまでが(それなりに)ほのぼのとした日常めいていたせいか幾分鬱になりましたが・・・
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メタフィクション。ってこういうことでしたよね?
小説家が本人で登場して
ほぼ現実に沿った世界で暮らしている。
そこへ途轍もなくSFな要素が到来する。
SF的な要素が大盛なのだが、
作者以外の人物も
現実を律儀に踏まえて登場し物語を展開していく。
入れ子細工のような、合わせ鏡のようなくらくらする感覚。
苦く切ない読後感。
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多彩な活動で知られるSF作家の山本弘自身が、自らをモデルに私小説として描き上げたパラレルワールドを扱ったSF小説だ。タイムトラベル物をよく読みこなしているSFファンにはかなり面白い作品かもしれない。トンデモ本を楽しむ集まり、「と学会(とがっかい)」会長でもある著者が、それを逆手にとってパロディ精神とSF実証主義を駆使して書いた作品だ。2001年9月11日のニューヨークでのテロ事件が、300年後の未来からやってきたアンドロイド達により未然に阻止されたという書き出しで、「2001年の自分」がどうなっていったかを描いている。いわば、もしもの世界の実証的な再構築だ。自虐的なところも多々あるのだけれど、しっかり自分好みの美人アンドロイドも登場させて、苦しみながらも楽しんで書いた様子がありあり。