紙の本
生命科学は面白い
2023/01/25 18:22
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投稿者:まなしお - この投稿者のレビュー一覧を見る
生命科学は面白い。特に遺伝子についてのものが一番面白いと思う。まだ解明されていないことがたくさんある。この本は、遺伝子の中でも死がなぜプログラミングされているのかという謎に迫っている。専門的な書物だが、大変わかりやすかった。そしていつも思うのだが、生命科学の本は、哲学的な問題に行き着くことが多い。この本もそうだ。
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最終章に書かれている死の捉え方が面白い
2019/11/09 12:41
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投稿者:akihiro - この投稿者のレビュー一覧を見る
哲学っぽいタイトルにも見えますが、ほとんどの内容は細胞の自死(アポトーシス)について書かれています。自死の理由については定かではないことも多そうですが、アポトーシスの例(正常な細胞を攻撃してしまう免疫細胞は、成熟する前に自死を命じられる、など)が紹介されていて勉強になりました。
最終章では死の捉え方についての著者の考えが書かれています。死から逃れる方法を探るのではなく、死の合理性について考えている印象を持ちました。聖書では死(寿命)は罰として与えられますが、本章を読むとむしろ環境の変化に耐えるために個体が「死を獲得した」ように思えました。
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細胞内に自死のプログラム「アポトーシス」があるという話は知っていたがそれがどういう意味合いを持つのかという興味で読んだ。
この本の中でも触れているが、遺伝子は「利己的な存在」であり、「生物は遺伝子の乗り物にすぎない」とリチャード・ドーキンスという人が言っている。個を殺してましで遺伝子の存続を図るとはなんと冷酷な利己的な考え方であろうかと思っていた。
しかし、田沼さんは『この「自らを消し去る」というふるまいは、遺伝子が「利他的な存在」であるとこを強く示していると言えるのではないでしょうか。』と書いている。
『むしろ無性生殖のみを行う細菌は、まったく利己的にしか見えません。有性生殖のシステムを持つようになった生物は、利己的なだけでは生きていけないのです。
遺伝子が本質的に利他的であることを思うと、その反映としての私たちの個体も、究極的には「他」のために生まれてきているのでしょう。私は、死の遺伝子が「利他に生きること」を本来の姿として求めているように感じます。それしそれが自利となってくるのだと思います。』
そうとも言えるわけか。
「種」VS「個」と考えると「種」は利己的で、「個」は利他的と言える。
江戸時代の「家」と「個」の関係を連想したりする。お家大事の思想が、種にも言えている。
「種」はどうしてそんな利己的な判断をするのかと思うが、おそらく利己的な判断をする種としない種があって後者は滅んだということだろう。
『私たち人間は、細胞と個体という二重の生命構造から成っています。細胞を「個」とすれば、人間の個体が「全」です。そして、「個」としての細胞が自分自身の役割を果たし、自ら死んでいくことによって、「全」としての人間はいきていくことができるのです。
人間を「個」ととらえれば、「全」は地球ということなるでしょう。そして人間はこの地球のなかでさまざまな役割を果たし、時が来れば「二重の死のプログラム」によって、その個体を消滅させていきます。さらに地球を含む惑星を「個」とすれば、宇宙を「全」ととらえることができます。~
このように、「死」や「消滅」によって「個」や「全」の時間が有限になると同時に、時間の限りのない「永遠」に還ることが可能になっているのだと思います。
「死」というものは遺伝子、細胞、生物、地球、宇宙という階層構造を成して、存在しています。ここにはすべての物が流転するというような、ダイナミックな大循環があります。これが「自然の摂理」と言われるものです。』
『もし人間に「死」がなかったり、生まれ持った寿命を無理に延ばして何百年も行き続けたりすれば、その生は空虚なものとなってしまうことでしょう。私たちは死の遺伝子がプログラムされていることによって、「必ず死ねる」のです。そして自死性を有する死すべき存在だからこそ、与えられた有限の人生をしっかり生きていこうと思うことができます。』
これまで死んでいった個が利他的であることの利益を今自分が受けている。そして利他のために自分は滅ぶ。無数の利他的行為の結果ある今の生の利をしっ���り受けることで死と向いあうことができるのだろう。
全と個は別々のものであるがつながっているというのは宗教の考え方でもありますね。
再生系の細胞の死「アポトーシス」のプログラムの発見は癌、エイズ、アルツハイマー病等に利用できるという説明も面白い。癌細胞の「アポトーシス」のスイッチを入れることができたら癌は撲滅できる。アルツハイマー病とはアポトーシス機能の異常で早い死が原因である。それを正常に戻せば防げることになる。
とりわけ、ゲノム創薬といって遺伝情報を規定する遺伝子を構成しているゲノム情報を利用して、新しい薬を効率的に作ることができる。アポトーシスのスイッチを入れる薬を偶然見つけるのではなくて蛋白質の鍵穴の構造からそれにあう鍵を設計するという方法とのことだ。薬が効く効かないは各々鍵穴が違うからで、個別に鍵を作ることができるオーダーメイドの薬の開発だって可能とのこと。
こうなると「アポトーシス」のプログラムの果たす役割って大きい。
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アポトーシスの意味と意義、その医学における応用、そしてそれらを踏まえ、筆者の死生観までが語られている。
アポトーシスについてほとんど知識は無かったが、専門用語を多く交えつつも必要な部分は易しく説明されており、最後まで分かり易く、かつ面白く読めた。
アポトーシスとは細胞の自殺であり、細胞の総体としての個体を生かすための死である。筆者は、それが死の本質であるとし、それは個体の総体としての地球にそのままスライドでき、すなわち人間の生の意味、死の意味もそこに繋がっていくのだと語る。
しかし、その考えは、現在医療が果たしている役割と矛盾しないだろうか。寿命や病気による死のスイッチが入った個体が、医療によって命を救われる。これは地球の生を脅かすことにはならないのだろうか。事実、「死ぬべき個体が死なない」ことにより地球はバランスを崩し、かつてない危機を迎えているように感じる。
また、不治の病にかかった人間は、「遺伝子が傷ついてしまった」個体とも言えるわけで、医療によってその命が救われた場合、異常な遺伝子が受け継がれる可能性は高まってしまう。
ただし、本書でも言及されているように、人間は生物の中でも死を知覚できる唯一の存在なので、ことはそう簡単ではないのは分かる。もし自分や身内がガンにかかれば、なんに縋ってでも生きようとするはずだからだ。
この矛盾は、人間が地球に住み続ける限り、考え続けなければいけない問題だろう。(正直、自分にはまったく答えが見えない。)アポトーシスから人間の死の意味を考えた筆者であれば、当然この矛盾に気付いていたはずである。本書では、筆者の医療に対する並々ならぬ情熱が感じられただけに、この問題に対する筆者の意見を是非聞いてみたかった。
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生物学は「生」「発生」にスポットを当てます。そこに「死」という切り口で研究を開始したのが筆者です。
生物はアポトーシス(自然に細胞が分裂を止め、死んでいくこと)という巧妙な仕組みを持っています。
たとえばエイズは、ウィルス感染した細胞が「死なず」、接触する抗体細胞を「死なす」という2重の意味でやっかいな病気、とします。同じウィルス感染でもインフルエンザでは感染した細胞は自然と死んでいく、というのですが…
細胞と人間、人間と地球、地球と宇宙、という対比で考えると、
個と全体、という関係がよく解る、と。個である存在は「死ぬ」ことで全体、すなわち永遠に戻るのだ、と。
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死とは生物にとって異常事態なのかと思っていたけれど、為すすべがなくて死ぬわけではなく、死ぬ時が来たから死ぬのか…と改めて生の神秘を感じた。
生命の研究は、こんなことまで分かってきてるのか…とパンドラの箱を開けてるようなドキドキ感。研究で得られたものを如何に倫理的に活かしていくのか、というのを考えなければならない時代になってきてるのではなかろうか。
簡単な用語の説明も入ってるので、文系でもあまり詰まることなく読み進められた。
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細胞の死、個体の死の必然性がよくわかる。まだまだ解明中のことも多いので、この分野からは今後も目が離せない。ちなみに自分はNHK教育「サイエンスZERO」をよく観ているので、割と既知の事柄も多かった。
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生物学的な観点からの「死」の本。
細胞が持つ「アポトーシス」という機能から、生物にプログラムされている死を読み解く本でした。表現が平易で、扱っている題材が専門的な分野も含む割にはとても読みやすくて、楽しかったです。
今まで考えたことがなかった視点に触れることができました。
そして、序盤は生物学のお話しだったのが、終章でもっと観念的な「死」論が出てきたのも、興味深く。
「性」が「死」を必要としているというのは納得の論で、そこから導かれる死生観もとても勉強になりました。遺伝子は利己的か利他的か。人は死ぬべくして死んでいくのか。考えるテーマとしては、思った以上に面白かったです。
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ヒトは、必ず死ぬ。
寿命は、100歳とも、120歳とも言われている。
なぜか?
この本を読むと理解できる。
簡単に言えば、
再生される細胞の場合、遺伝子の中に、死のプログラムを持っていて、それが起動される。
これを「アポトーシス」というそうだ。
つまり、分裂回数が決まっているわけだ。
ヒトの場合は、50回〜60回、マウスの場合は、8回〜10回だ。
ヒトとマウスの寿命は、ここに現れてくる。
再生されない細胞(脳、心臓)は、寿命が100年と決まっている。
ヒトの死は、このどちらかで決まる。
なぜ、ヒトは、死ぬのか。
有性生殖で子孫を残すシステムでは、遺伝子がシャッフルされる必要がある。
老化した個体が生き続けると、古い傷ついて遺伝子が残される。
最悪、種の絶滅に繋がる。
だから、古くなって遺伝子を持つ個体を丸ごと消去する仕組みが必要なわけです。
生と死そして、性は、密接に関係しているわけです。
「性」による「生」の連続性を担保するためには、「死」が必要であり、生物は「性」とともに、「死」という自己消去機能を獲得したからこそ、遺伝子を更新し、繁栄できるようになったのです。
自然界は、こんなすばらしいシステムがあるのに、人間界は、いつまでも、古い人の発言力があるように思えます。ある年齢まで達したら、後進にゆずることが大切なのかもしれませんね。
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テーマは興味あるが、表層をすくうのみの物足りなさを感じた。
脳の中の幽霊を読み終えた後だったからかもしれない。
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アルツハイマーで、一度壊れてしまった中枢神経の回路網を回復させるのは非常に困難。
死や消滅によって個や全の時間が有限になると同時に時間に限りのない永遠に還ることが可能になっているのだ。
環境、生活要因による悪影響を最大限に減らすことによって、与えられた細胞の寿命を最大に生かすことができる。
未だに日本人の死亡原因の1位は癌。
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長々書いてたレビューが消えた・・・ショック過ぎる。
もういいや、思い出したくなったらもっかい読も。
内容はかなり知的好奇心をくすぐられるものだった。おすすめです。
生命の神秘にあふれてます。
アポトーシス(細胞の自死)というものをはじめて知った。
ガン、アルツハイマー、AIDS、糖尿病などの治療薬開発に死の遺伝子の解明が関わっているということをとてもわかりやすく説明してくれています。
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「プログラム細胞死」の研究者による「死」の解釈。
前半は、細胞の「自殺」と言ってもよい、プログラム細胞死=アポトーシスを語る。
・「事故死」に当たるネクローシスとの違い
・非再生細胞(脳細胞など)のアポトーシス
・発生・免疫ににおけるアポトーシスの役割
等に触れ、わかりやすく、よくまとまっている。アポトーシスの入門としてはよいのではないだろうか。
病気を「死んではならない細胞の死」と「死ななければならない細胞の増殖」の面から捉える見方は、そうか、なるほど、とおもしろかった。
後半は、有性生殖の始まりと個体の死の出現のつながりや、個体死の意味(?)を語る。
タイトルからしても、著者がより語りたかったのはこちらの方なのだろうが、個人的に、あまりこういう議論には興味が持てず、流し読み。
世界観を持つ上で、ストーリーはあってもよいけれど、目的論みたいになってもちょっと安易なような。
個人的感想としては、前半★4、後半★2。
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アポトーシス
60兆からなるヒトの細胞社会では、毎日3000億もの細胞が死んでいる。全人類の人口の50倍もの生が、毎日あなたの体から喪われているのだ。それも、単純に古い細胞が新しい細胞に置き換わるというのでですらない。我々の姿形は、文字通り死の造形。イモムシはさなぎの中で死んでチョウとなる。五本指は指が延びるのではなく、指の間の細胞が死ぬ事によって五本指となる。
細胞が破壊されて死に至る事故死を「ネクローシス」 necrosis
変化には二つの方法がある。それのまま変えるか、新しいものを作って古いものを捨てるか。生物が選んだのは、後者だった。劇的に変化することを我々は「生まれ変わる」と言うが、これは比喩ではなく事実なのである。
遺伝子にとって、新しいものを作ることが性であり、そして古いものを捨てることが死である。
性がうまれたとき、死もうまれたのである。死は性の双子の妹なのだ。
ここでもし、死なななかったどうなるのか?
それこそが、ガンである。あれは死ぬべきときに死ねなかった死に損ないの細胞なのだ。アポトーシスを忘れた細胞たちは、ついには個体をネクローシスに追い込んでしまう。研究者としての著者の目標の一つは、このガン細胞たちにどうしたらメメント・モリしてもらうか思い出してもらう方法を見つけることでもある。
死こそが、遺伝子が利他的である証拠なのだと。
もちろん、細胞と個体の生と死の関係をそのまま個人と社会に当てはめるのには無理がある。生まれて数日で死なねばならぬ細胞もあれば、一生を通して死ねない細胞もある。「細胞間の格差」は、とても個体としてのヒトが受け入れられるものではないだろう。個としてのヒトは、細胞ほど全体主義ではないし、そうである必要もないと思う、いや願っている。
しかし「全」の生は、「個」の死によって成り立っていることは、根源的に同じである。
引用元:http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51502186.html
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"ヒトであり、人ではない。ゆえに科学的。"
【選書理由】
大学の図書館で見つけた。
【感想】
非常に読みやすくわかりやすかった。入門書としては最適だと思う。
ヒトの死、細胞の自殺"アポトーシス"の歴史・解説にはじまり、
代表的な病:ガンやアルツハイマー病とアポトーシスを関連づけ、
いま期待されているゲノム創薬まで。
とにかく幅広い。ゆえに、内容は深くない。
アポトーシスについて既に知識があるのなら、
この本は物足りなく感じると思う。