紙の本
長い旅の始まり
2020/03/07 08:04
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
紅茶に浸したマドレーヌを優雅に一口ほおばるシーンから、膨大な過去の記憶が流れ込んでくる描写に圧倒されます。新訳の文庫本サイズで持ち運びやすいために、はるか彼方のエンディングまで読み進めていきたいです。
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マドレーヌを浸した紅茶の一口から、忘れていた少年時代の日々が色鮮やかによみがえる。あまりに有名なこの作品の醍醐味は、書き手の脳裏に次々浮かび上がる記憶の断片、全体として「コンブレーで過ごした私の少年時代」とでも題して時系列に出来事を並べることも可能かもしれないある時期の記憶を、あえて断片のままよみがえるに任せ、その、時空や地理の縛りを超えてひらひらと漂う「記憶」のよみがえる様それ自体を言語化しているという、他の作品では味わったことのない体験にあると思う。
旅先のホテルでふと目を覚ました時に感じる、自分の居場所が分からなくなる一瞬の戸惑い。寝室でひとり母の「おやすみのキス」を待つ、子供の頃の切ない寂しさ。コンブレーでの生活の大半を共に過ごした家族たち、時折現れる隣人たちのエピソード。春の輝きに満ちた散歩、山査子の生垣越しに出会った少女の記憶。高貴なるゲルマントの血筋へのあこがれ。
それらは、「私」の体験であり、記憶であるけれど、読んでいる私にとっても「知っている」感覚であったり、「思い出せる」感情だったりして、プルーストの筆がいざなうこの「未知の過去を思い出す」感覚に、不思議な感動を呼び起こされる。過去のいつか、何かの折に感じたはずの感覚、胸をよぎったはずの感情が、この本によって言語化され、強い共感と共に沁み込んでくる。それは読書体験の中でも特別な、「あちら/物語世界」に没入するのでも、「こちら/現実世界」を解明するのでもない、「あちらとこちら」の境界が限りなく曖昧な、不思議な浮遊感と現実感を同時に伴う体験で、読書というものの一つの究極の愉悦を教えてくれる。
長い物語全体の導入部とも言える、第一篇「スワン家の方へ」の冒頭、眠りをめぐる描写は、『失われた時を求めて』全体の中でも、個人的に特に好きな箇所。誰もが体験している眠りと目覚めという行為について、こんなにもくっきりと言葉で表現できる作家がいるとは!というのが、初めて『失われた時を求めて』を読み始めた時の、何よりの衝撃だった。戸惑い、寂しさ、あこがれ、凡人にはそんな言葉で丸めるしかない感覚、感情を、プルーストはどこまでも細分化して掘り下げ、言語化していく。『失われた時を求めて』を読むとき、そうしたプルーストの言語化能力、そのベースにある感受性と表現力、それらの豊かさ繊細さを堪能しながら、読者は自身の言語化されてこなかった感覚や感情を改めて味わうことができる。急いで読んではもったいない、時間をかけ、飴をなめるように言葉を味わいながら読み進めたい作品である。
ちくま文庫の井上究三郎訳(全10巻)で9巻まで読み進めていたけれど、この度、光文社の高遠訳で再読開始。香り高い井上訳の重厚さも好きだが、高遠訳では繊細なプルーストの表現を丁寧になぞりつつ、文章全体の流れが明確にされていて、とても読みやすい。プルーストならではの一つ一つの表現の的確さだけでなく、「私」がたどる記憶の旅、大きな物語としての流れがきちんと頭に入ってくるので、読みながら「…それで、今どういう場面なんだっけ」と立地点を見失うことがなく、一冊を読み切るために要する体力もだいぶ少なくて済む。高遠訳はまだ完結していないが、既刊分をゆっくり読み進めていきたい。
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称賛の半分は訳業に対して。このくらい気取った日本語の方がプルーストに合っているし、何より光るのは解釈の適切さ。読みながらはっきり映像が浮かんでくる。そういう体験は今までの訳ではありえなかった。名訳。
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途中まで読みすすめたところで、これは続きが気になるし、集英社版で読んじゃうかもな…と思っていたのだけれども、あとがき解説に目鱗だったので、おとなしく刊行を待ちたくなった。といいつつ、とりあえず集英社版で読みすすめてみて(2巻までは手持ちで読了してる)これはこれで刊行を気長に待つのもいいかもなー。
フランス語が読める人には、邦訳よりも原文を読んだ方が読みやすいと言われる作品。日本語訳にすると難解度が増すんだろうところを、内容がスムーズに頭に入ってきやすい訳になっていると思います。全訳完結するまで応援。
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物語は、ある日語り手が口にしたマドレーヌの味をきっかけに、幼少期に家族そろって夏の休暇を過ごしたコンブレーの町全体の記憶が鮮やかに蘇ってくる、という「無意志的記憶」の経験を契機に展開していき、その当時暮らした家が面していたY字路のスワン家の方とゲルマントの方という2つの道のたどり着くところに住んでいる2つの家族たちとの関わりの思い出の中から始まり、自らの生きてきた歴史を記憶の中で織り上げていく。
前々から挑んでみたいなとは思っていて、アニメ「サイコパス」に関連することをきっかけに頑張りました。うーん、やっぱり難しい気がする。あらすじというあらすじがあんまりなくて、プルーストの紡ぐふわふわした言葉の美しさや麗しさを楽しむ作品なのかなあと、私なりに納得。正直、当時の編集者が、起きてからぼーっとする時間の描写だけに30ページも費やすとかどうかしてるぜっていう考えるのもよく分かる(苦笑)他の訳よりはだいぶすっきりしているようですが、それでも長くて流れるような文章は独特だなあと思います。全巻読み進められる自信はあんまりない・・・。紅茶にマドレーヌをひたすって、私には考えられないんだけど、おいしいのかな?今度試してみます。
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訳者の考えも、訳も気に入りました。中には写真とその説明もあり、楽しい。注で読むときに 本来必要でないものをそぎおとし、初めて同時代人が読むように 読んでほしいとは、利に敵っている。一般読者は研究者ではないのだから。注が、そのページにあるのも私は好きだ。 新訳 の意味がよくわかる久しぶりの本だった。
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この豊饒な表現力を持った文章を存分に感じとるにはまだまだ力不足でした;;それでも空気の匂いが感じられるのが凄い。圧倒されました。
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教科書とか問題集みたいな実用本ならともかく、一般小説で「挑戦」もないとは、思いますが…
いわゆる「読みやすい」作品ばかりがもてはやされて、小説は、効率よくあらすじを把握して消化するものという感が強い昨今、こういう作品に「挑戦」してみるのもいいかと。
訳者が、あらすじを追おうとするな、と繰り返し説くのも、肯けるところ。
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何度目かのプルースト。冒頭、夢と現実の境を彷徨いつつ子ども時代の記憶を思い出すシーンを読むといつも忘れていた大切な思い出が浮かび上がってくる気がします。
この第1巻、一度最後まで読んでから再読するとよく分かるのですが、一見散漫でとりとめのないエピソードの羅列に思えるものが物語全体では重要な伏線になっています。名前すら出てこないふと見かけただけの人物が後に準主役になったり、会話の中で名前が出てきただけの祖母の友人が主人公を上流階級に導くきっかけを作ったり。
ただ、ヒロインであるアルベルチーヌの名前だけは一度も出てきません。というのもアルベルチーヌは当初の構想にはなかった人物だから。この辺りの緻密な構成と構想にないエピソードが大きく膨れ上がるダイナミズムが不思議に同居しているのもプルーストの魅力のひとつでもあります。
さて、高遠氏の訳ですが、平易で読みやすく(あくまでプルーストにしてはの話!)、不要な解説や訳注を最小限にとどめているのも好印象です。ところどころ写真が掲載されているのも読書の助けになります。初めてのプルーストにおすすめできる翻訳だと思います。
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光文社の新訳、やはり読みやすいです。
しかし、やっぱり冒頭部分は長い!!
語り手が寝付くまでに、私は何度眠りについたか・・・(笑
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光文社古典文庫の翻訳はどれも意欲的。すごいと思う。この本もそうだ。プルーストは何度も挑戦して1ページも読めなかったが、これなら読める。パリに居たときおじいさんやおばあさんが日向の公園のベンチでプルーストを読んでいる光景によく出くわした。長い話だけれど面白いからみんな読んでいるんだよね。日本のプルーストの翻訳はそれには似つかわしくなかったのだと本書は教えてくれる。
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集英社で出版された鈴木道彦氏の訳で以前読み、第四編で挫折した者です。ということで、以下集英社との比較。フランス語や作者について詳しい知識は無いので、あくまで見た目。
・1ページにぎっちり文字が詰まって無いので、開いて「ウッ」と感じることは無い。
・原作で長い文は括弧やダッシュで読みやすくされており、長文も怖くない。
・註の数が集英社訳に比べて6割弱と少ない。巻末にまとめてある集英社のスタイルと異なりそのページ毎にページ左側に載っているので、
テンポよく読んでいける。図による解説も嬉しい。(但し、一文一文をがっつり理解する上で註が減るのは人によっては不満かも。)
・「刺戟」「亢奮」等、古い漢字が僅かに使われているけれど、読む上で支障は無い(と思う)。
・前口上や読書ガイドで、「こうやって読んでね!」と訳者が私たちに語りかけてくる。読書ガイドも他の小説の解説に比べてやや激しい。
(好みが分かれると思うので、これは実際に見てほしい。)
私を含め、この小説を途中で挫折した人は決して少なくないのでは、と思う。そんな人にとって、格段に読みやすくなったこの光文社訳は、良くも悪くも通読する上で最適ではないだろうか。今秋、岩波文庫でも新訳が出るそうだ。学術的な面で絶大な信頼を誇る(らしい)岩波での訳は、光文社訳とはまた違った方向の名訳になると想像できる。どちらが自分のスタイルに合うか、比べてから読み始めても遅くは無いだろう。間違えてamazonでキッズレビューにしちゃった。
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二度目の挑戦。他社の文庫で、一揃え持っていますが、それは最初で挫折しました。訳文が良いのかな。すんなり話が入ってきます。いわゆるまったりした感じで、話が進んでいきます。本編の語り手の私の子供時代の出来事がつづられて行きます。登場人物も少ないのですが、伯父の家でであったさる女性との出会いが、女性を意識した少年の姿がリアルに描かれている。失われた時を求めてを、こんなに楽しく読めるとは思っていませんでした。続巻の発売が楽しみです。
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恋人というのは、信じているさなかでも疑ってしまうものであり、その心を我がものにすることなど決してできない。
心理学の教科書には必ず、マドレーヌの香りで記憶がよみがえる箇所について言及される本書。一度は読んでみたく気軽に手に取ってしまったのだが、14巻まであるということで長い旅路になりそうだ。それにしても語りが長い。カラマーゾフもお喋りだと感じたが、こちらの方が勝ちかもしれない。そしていつの間にか違う話題になっている。普通なら結論のない話にイライラしてしまうところだが、そこは20世紀を代表する小説。いつの間にか引き込まれていってしまう。そして気づいたら同性愛の話になっていた!訳はすらすら読むことができる。解説も詳しいし、14巻まで頑張れそうな予感。
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ロッシーニの、
『チェロとコントラバスのための二重奏曲』
が聞こえてくるんちゃうかと思いました。