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商品説明
全財産は、三円。転落はほんの少しのきっかけで起きた。大手証券会社勤務からホームレスになり、寒さと飢えと人々の侮蔑の目の中で閃く—「宗教を興す」。社会を見つめ人間の業を描きだす著者の新たなる代表作、誕生。【「BOOK」データベースの商品解説】
大手証券会社勤務からホームレスに転落した男。段ボールハウスの設置場所を求めて辿りついた公園で出会ったのは、怪しい辻占い師と、若い美形のホームレス。世間の端に追いやられた3人が手を組み、究極の逆襲が始まる…。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
荻原 浩
- 略歴
- 〈荻原浩〉1956年埼玉県生まれ。成城大学卒業。「オロロ畑でつかまえて」で第10回小説すばる新人賞、「明日の記憶」で第18回山本周五郎賞を受賞。ほかの著書に「押入れのちよ」など。
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紙の本
宗教詐欺を扱うむずかしさ
2011/06/09 10:51
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:カフェイン中毒 - この投稿者のレビュー一覧を見る
貧乏のどん底からの再起をかけて、新興宗教を創り、詐欺をはたらく」
この設定、篠田節子の『仮想儀礼』に似ているなと思ってしまい、
思ったからには、無意識に比較してしまうのは仕方がありません。
どちらの作品も、分厚い上下巻。
けれど、ページを繰る手が止まらず、読後感も大満足だった『仮想儀礼』に対して、
こちらは少々軽めな印象でした。
それぞれの作家の色が、とてもはっきりと出ている印象です。
主人公の山崎遼一は、妻に出て行かれ、仕事も失い、酒びたりになったところで力尽き、
逡巡の末にホームレス生活を始めることになります。
その日暮らしを抜け出したいと願うのですが、一度手放したものは簡単には彼の手に戻りません。
知り合ったばかりの、観察眼と文章力に長けた占い師、妙なオーラを持つホームレス仲間を誘い、
新興宗教で儲けようと企みます。
贅沢な生活を望んでいるわけではなく、もう寝る場所や食べるものの心配をする生活に戻りたくない一心で。
教祖のカリスマや、インチキ占い師、それらを統率してシナリオどおりに動かす山崎。
それぞれの思惑もあるのですが、ひとまず目先の利益のためにそれを飲み込み、
宗教団体「大地の会」は、どんどん膨れ上がっていきます。
自分で考えることを放棄すると、人はこんなに胡散臭いものにもコロッとだまされてしまうのか。
呆れてしまうと同時に、そこを巧みにつく詐欺の危うさを感じてしまいます。
膨れ上がった信者たちは、思うようには動いてくれません。
嘘を取り繕うために嘘を重ね、眠れない夜が続く山崎に対して、
そこをやっと見つけた居場所にしてしまう人たち。
それは信者だけに限らず、一蓮托生であるはずの男たちにも当てはまることなのでした。
しょせん詐欺です。綻びは目立ち始めます。
しかし、すでに手に負えなくなった規模の団体は、すべての発案をした山崎をも追い詰める力を持ち始めます。
心理的にも、物理的にもです。
長い長い物語に物足りなさを感じたのは、多少のご都合主義的な展開のせいかもしれません。
人間の醜さは描かれているのだけど、人の怖さや闇の深さについての描写は、
画一的というのか、底が浅い感じがしました。
著者の持ち味である軽さゆえに「物語に囚われてしまう」恐怖は感じません。
それが良いのか悪いのかはともかく、宗教を題材にしたものとしては、
物足りなさを感じてしまうことも否めませんでした。
紙の本
所持金3円からの人生逆転への挑戦
2010/12/03 19:11
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
大手証券会社のエリート・サラリーマンから
あっという間にホームレスに落ちた山崎遼一。
その転落、ホームレス生活をリアルに描きます。
そこから這い上がるには、気力と運以外にも
大切なものがありました。
所持金3円からの人生逆転への挑戦は
人物鑑定と口先がうまい辻占い師の龍斎と
不思議と人を引き付けるオーラをまとった仲村がいて
はじめて成り立つものでした。
二人の才能があれば、新興宗教を立ち上げ
地道に信者を獲得することも難しくはない。
ビジネスマンとしての才覚を忘れなかった山崎は
着々と計画を実行していきます。
山崎を駆り立てるのは、世間への逆襲。
実態のないものへの復讐はやはり実態のないもので
対抗していくしかないのでしょう。
自己実現の場ならなんでも飛びこむ中高年女性や
スピリチュアルに簡単にハマる若者たち。
やや落ち目の芸能人に元プロスポーツ選手、政治家。
彼らの存在も物語には大きくなっていきます。
本作は「宗教」よりも「人生逆転」が主題で描かれます。
頂点を目指しつつ、その頂点へは決して到達できないのもリアル。
そして人生には「ひと」が欠かせないと感じさせます。
荻原浩らしい、人間への信頼を感じさせます。
山崎は最期、誰も信頼できなくなるのですが
それでも彼は誰かと一緒に這い上がっていくでしょう。