紙の本
大震災を予知したかのような作品群
2011/05/03 17:01
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風紋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
9編の短編小説をおさめる。全編、近未来小説とも寓話ともいえる。どの短編にも共通して色濃く漂うのは喪失感だ。
寓意がことに目立つのは「午前四時八分」。ひとつの町全体が、標題の時刻以降、眠りについたのだ。例外的な少数が覚醒し、そして眠ることがない。歳をとらない。覚醒者は、旅人を無事に町の外へ連れ出すべく案内する。次の町にも、寓意に満ちた異変が起きている。
表題作「海に沈んだ町」は、このたびの震災を予知したかのような作品だ。少なくとも評者の読後感は、震災前とそれ以降ではまったく異なった。「失って初めてわかることもある」と主人公はつぶやく。ありふれた感慨だが、まるごと失われたものが故郷となると切実だ。
「橋」では、市役所から委託を受けた(小説では不明の機関の)女性が、一介の市民にカフカ的迷路をもたらす。昨日かくてありけり、明日もかくてありなむ、の日常性のもろさを剔抉する。これも、震災前とそれ以降では異なる読後感を与える作品だ。
書き下ろしの「ニュータウン」は、喪失感が希望に転じている。国家にささやかな抵抗を試みる庶民のエネルギーと狡猾さ、連帯が描かれて、読者にかすかな笑みをもたらす。幾分重苦しい作品群の最後にかかる作品を配するとは、心憎い。
白石ちえこの、随所に挿入された写真は、それ自体、鑑賞に耐える作品だ。小説と併せ眺めるとき、言葉なき写真の背後に無数の言葉が河となって流れているような錯覚を与える。
紙の本
三崎亜記さんの世界が写真となって
2017/01/20 00:56
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:koji - この投稿者のレビュー一覧を見る
実はこの本は去年の3月頃に買ったのですが、2011年1月の初版本に著者のサインが入ったものがポツンと書店に残っていたのです。単純に考えて5年もその本屋さんにいたことになるのですね(笑)
作品は9編からなる短編集ですが、三崎亜記さんのその他の作品とリンクするものも何編かあり、三崎亜記さんが好きな私には楽しめる本でした。
投稿元:
レビューを見る
数千人の人々を乗せて海を漂う“団地船”、永遠に朝が訪れない町、“生態保存”された最後のニュータウン…喪失、絶望、再生―もう一人の“私”が紡いでゆく、滑稽で哀しくて、少しだけ切ない九つの物語。『失われた町』『刻まれない明日』に連なる“町”を、気鋭の写真家との奇跡的なコラボレーションで描く連作短篇集(「BOOK」データベースより)
その街に住む住民は、かつてそこにあった遊園地の夢を見る・・・「遊園地の幽霊」
自ら飛び出した、海の下に沈んでしまった故郷に行ってみると・・・「海に沈んだ町」
かつて人々が憧れた夢の団地船も荒廃し・・・「団地船」
ずっと午前四時八分で時間が止まった町・・・「四時八分」
自分の影が見知らぬ男性の影と入れ替わってしまい・・・「彼の影」
不足を補うペアというシステム。そこにあるのは惰性か安心か・・・「ペア」
町の経済状態に合わせて、市は橋を架けかえるという・・・「橋」
一年前から町に巣箱が溢れかえり・・・「巣箱」
独自の文化を保護する目的で、ニュータウンは隔離され接触を断たれた・・・「ニュータウン」
静かに語られる世界の揺らぎ。
三崎さんの眼が見ている世界は、私が見ているこの世界と本当に同じものなのかしら?
いっぺんのぞきこんで見てみたいものです。
投稿元:
レビューを見る
町をテーマにしたシリーズの短編集。
引き込まれてしまうような独特の雰囲気があるし、いい感じ。
写真はあってもいいけれど、文章の流れが分断されないように、もうちょっとレイアウトを何とかして欲しかった。
投稿元:
レビューを見る
〈内容〉数千人の人々を乗せて海を漂う“団地船”、永遠に朝が訪れない町、“生態保存”された最後のニュータウン…喪失、絶望、再生―もう一人の“私”が紡いでゆく、滑稽で哀しくて、少しだけ切ない九つの物語。『失われた町』『刻まれない明日』に連なる“町”を、気鋭の写真家との奇跡的なコラボレーションで描く連作短篇集。
投稿元:
レビューを見る
区画。
そこで区切られるコトで、より浮き立つ町
失う切なさ、得る尊さ
薄い膜の先にある、異なる世界
やっぱり好みだ
投稿元:
レビューを見る
+++
数千人の人々を乗せて海を漂う“団地船”、永遠に朝が訪れない町、“生態保存”された最後のニュータウン…喪失、絶望、再生―もう一人の“私”が紡いでゆく、滑稽で哀しくて、少しだけ切ない九つの物語。『失われた町』『刻まれない明日』に連なる“町”を、気鋭の写真家との奇跡的なコラボレーションで描く連作短篇集。
+++
表題作のほか、「遊園地の幽霊」 「団地船」 「四時八分」 「彼の影」 「ペア」 「橋」 「巣箱」 「ニュータウン」
+++
挟み込まれた白石ちえこさんの写真が物語の雰囲気をそのまま視覚に訴えてくるので三崎流のほんの少しズレて歪んだ世界に丸ごと取り込まれてしまうかのような一冊である。
それぞれの物語には表に見えるものだけでなく、それに連なる深いところに別の混沌が潜んでいるようでくらくらする。不思議愉しい読書タイムだった。
投稿元:
レビューを見る
三崎亜紀さんって男性だったんですね?
有川浩さん同様間違えました。
インフルエンザ闘病中に読んでもすんなり読めて、心に独特の世界を残してくれる。
団地船は小さい頃よく想像したなぁ。
もう少し未来的だったけど
投稿元:
レビューを見る
この本に収められている一編「団地船」がいいですね。
あの名作「動物園」に匹敵する、浮遊感と幻想性と情感をたっぷり堪能できるのがうれしい。
投稿元:
レビューを見る
三崎亜紀「らしい」短編集。
「団地船」とか「ペア」とか「巣箱」とか、現実世界にはあり得ない設定で現実世界にも通ずるような物事の「不和」とか「不自然」のようなものを描き出された作品。
ありえないんだけど…でもどこか現実との境界があいまいになるようなそういう世界観を創り上げるのがすごい。
そしてこの本の特徴は写真。
所々に差し込まれた白黒写真が三崎亜紀の世界観と見事にマッチして、物語がさらに深まったように感じた。
投稿元:
レビューを見る
かつてその場所にあった遊園地の夢を見る
「遊園地の幽霊」
生まれ故郷が海に沈み、20年以上ぶりに帰ってみる
「海に沈んだ町」
人々の憧れだったが転覆事故をきっかけにすっかり寂れてしまった
「団地船」
案内人の女の子に連れられてとある町を旅人が通過する
「四時八分」
夏至の日から影が反乱を起こし始め、私の影が知らない男性となる
「彼の影」
どこの誰とも知らない相手にペア解消を申し出る
「ペア」
住宅入り口の橋を交通量が少ない用の橋に架け替えるという
「橋」
中に棲みつかれる前に一刻も早く巣箱を駆除しなければならない
「巣箱」
保護政策によって外界と完全に隔離されるようになった
「ニュータウン」
装丁/本文レイアウト:バーソウ
カバー&本文写真:白石ちえこ
日常から少しずれたさまざまな町を舞台とした連作短編集。
白石さんのモノクロの写真のおかげで
本当にその町が存在するかのように思えてしまいます。
特にP.50-51の写真は団地船の姿そのもの。
これだけ巨大な建物が海の上に浮いていることに
なんら違和感を感じさせない見事な一枚だと思います。
にぎわっている町が登場しないので
どこか物寂しい雰囲気が一貫してありますが、
「彼の影」だけは初々しい仕上がりとなっています。
現実的に一番ありうるのは「橋」。
こういう問いかけをする女性がいるだけでもうこの世界は完成します。
「磐石な橋が架けられ、安心して進めるはずの私の人生。だけどそれは私がそう思っているだけで、実際は頼りない木橋にすぎないのではないだろうか。」
投稿元:
レビューを見る
まず、見開きの写真がもったいない。本なのだからその辺の工夫が欲しい。
短編だが世界観が広がる。個別がなんだか物足らない。
お役所的な気持ち悪さの表現が印象に残った。
投稿元:
レビューを見る
良くも悪くも三崎亜記。
それが良いか悪いか、ではなくて、
この人はこういうスタイルなんだと思うし、
実際世界に惹きこむ力はあるんだよなぁと思いつつ、
やはりある程度長編じゃないと、その世界が浅く感じられてしまうのが残念。
なんか阿刀田高選のショートショート読んでるみたいな気分になってしまう。
投稿元:
レビューを見る
「三崎的町」が主題の短編9編はあいかわらずの三崎ワールドそのもの。過去作品とゆるくリンクしているところも今まで同様。町とそこに生きる人を時にはシュールに、時には暖かく、時には滑稽に描きます。ただ、時折挿入される写真は蛇足ではないかと思います。この余計な写真のせいで、読者が思い浮かべる三崎ワールドのイメージがスポイルされてしまうような気がします。
投稿元:
レビューを見る
図書館にて。
相変わらずの不思議な世界。でも、「バスジャック」のころより少し優しくなったような気がする。
「ニュータウン」「彼の影」は好きな作品。
「巣箱」は、これからどうするんだろう…と冷静に考えてしまった。