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商品説明
偉大な父を超えるには、狂うしかなかった(「ダイダロスの息子」)。この世でもっとも憂鬱なことは、どんなことだろうか(「神統記」)。死ぬことと生きることは、少しも違わない(「最初の哲学者」)。世界は、“語られる”ことではじめて、意味あるものになる(「ヒストリエ」)。13の掌編から解き明かされる、歴史を超えた人間哲学。ギリシアをモチーフに、吉川英治文学新人賞・日本推理作家協会賞をダブル受賞の著者が満を持して放つ、文学の原点であり極上のエンターテインメント。【「BOOK」データベースの商品解説】
この世には、解いてはならぬ謎がある−。ギリシアをモチーフにした13の掌編から解き明かされる、歴史を超えた人間哲学。すべての物語の原点がここにある。『ジェイ・ノベル』掲載に書き下ろしを加えて単行本化。〔「ソクラテスの妻」(文春文庫 2014年刊)に改題〕【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
オイディプス | 5−19 | |
---|---|---|
異邦の王子 | 21−32 | |
恋 | 33−46 |
著者紹介
柳 広司
- 略歴
- 〈柳広司〉1967年生まれ。「黄金の灰」でデビュー。「贋作『坊っちゃん』殺人事件」で朝日新人文学賞、「ジョーカー・ゲーム」で吉川英治文学新人賞・日本推理作家協会賞を受賞。
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紙の本
一年の〆。真実と事実をもう一度見つめ直す一つの機会に。
2011/12/27 09:26
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
古代ギリシアには数多くの悲劇と哀れなヒーロー、はかないヒロインが登場し、読むもの観るものを楽しませてくれる。
復習、運命、犠牲、失恋、裏切り、転落・・・どれもこれも起承転結のはっきりした物語であり、一人称の「微妙な」心が吐露されることが無い分、非常に簡潔で分かりやすい印象を受ける。
それはこれらの物語が伝説、神話、昔話といった「伝聞」であり、歴史の父ヘロドトスにより抽出され書き留められた、昔の物語=歴史の断片 であるからにほかならない。
ではもしこのギリシア神話が一人称で、タイムリーな口調に描かれたらどう感じるのだろう?
受け身的に悲劇を受容するヒロインたちが、実は黒幕その人だったら?
儚くも愛らしい蝶々のような乙女たちが、実は欲しい物を捕えて話さぬ女郎蜘蛛であったら?
主観的に、当事者の目線から感情的に描かれたら歴史や神話はどうなるのか?その挑戦が本書である。
なんとバロック派の宗教画からルネサンスの人間味あふれた絵に変換されるくらい、様変わりするのだ。
例えば誰もが良く知っている迷宮ラビリントスとそこに住む半人半獣の怪物ミノタウロスのお話。
ミノス王の思惑により怪物の潜む迷宮に入った勇敢な男は、王女の裏工作により無事脱出。
彼と王女は恋仲となり自国へ連れて帰るわけだが、これが彼の脱出劇ならぬ、彼女がしくんだ「脱出劇」であり狂気じみた復習であったとしたら?
またその迷宮から抜け出るべくロウの翼で羽ばたき、太陽に近づきすぎたため落下して死んだ天才大工?家の息子の葛藤。彼は「いい気になって」高く飛びすぎたために死んだというのが普通よく知る「ギリシア神話」だが、本当に彼はそんな愚かだったのだろうか?
灼熱の太陽に突っ込めば当然そうなることは知った上での、覚悟の上…いや偉大な父を持った息子ゆえの行為だったとしたら?
随分前に「本当は怖い~」シリーズが人気を博したことがあったが 本書はそれともまた違う面白さと怖さと意外性…いや、よりしっくりくるドラマ性を帯びているのだ。
かのシリーズのように言い習わされている童話が実はもっと怖い物語であったとか血なまぐさい話であったという意外性を売りにしているのに対して、本書はより人間らしく心情的に分かりやすい「事実」を提示している。ありそうも無いドラマ同様、あり得そうなリアルなドラマもまた、恐ろしくも引きつけられる・・・魅力あふれる物語なのである。
そして本書が面白いのはもう一つ、ギリシア神話だけで構成されるファンタジーではないという点だ。
神々の物語「ギリシア神話」と人間と王たちの物語「歴史」が交互に登場し、最期に表題の最初の哲学者や「歴史」を後世に遺した偉大な歴史家ヘロドトスの物語が語られる。
とはいえ、この構成を「神話」=嘘物語と「歴史」=事実で分けてしまうのは野暮というものだ。
最終章でヘロドトスは物語を構成に伝え遺すのに何が大切なのかを切に語ってみせてくれる。
「なぜ?なに?」と聞いては驚くことの天才、ヘロドトスは「語り手が心底その話を信じて後世に伝えたいと願っている」
物語だけを抽出して記憶し続けた。
単なる事実ではなく、人の数、国の数だけ存在するそれぞれの信じる「真実」の物語(ヒストリエ)を。
さあどうだろう?
そうして抽出された濃密な物語や歴史が現代人である著者の信じる「真実」で描きだされている本書。
これが現代人に面白くないはずが無い。ましてや加工好きの日本人においてはだ。
さあ、年末といえば『忠臣蔵』が飛び交う季節である(笑) 歴代あれほど様々な視点と解釈をみせてきたこの物語、今でこそ吉良=名君という一つの事実がかなり浸透しているようだが一昔前は彼は暴君であった。
著者の、そして民衆の信じる「真実」と事実が一致しないからこそ真実の物語、ヒストリエは面白みを増していく。
本書は飛び抜けた怖さも感動も無い、けれどどうしてどうして、目が離せない妙に「腑におちる」物語だ。
一年の締めくくりに、もう一つの自分だけの真実をここから見つけ出すのも悪くない。