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商品説明
北国生まれの著者が、光あやなす南の風土にあこがれて名作を手に訪ね歩いた旅のエッセイ。【「BOOK」データベースの商品解説】
漱石、白秋、山頭火、牧水…。ゆかりの地で彼らの声に耳を澄ます。北国生まれの著者が、光あやなす南の風土にあこがれて、名作を手に訪ね歩いた旅の記録。『読売新聞』西部本社紙上の連載に加筆・補正し単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
乳井 昌史
- 略歴
- 〈乳井昌史〉1944年青森県生まれ。早稲田大学政経学部卒。読売新聞東京本社論説委員、文化部長などを経て、早稲田大学大学院客員教授。著書に「スローで行こう」「美味礼読」など。
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紙の本
贅沢な書評の旅。
2010/12/23 09:54
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:浦辺 登 - この投稿者のレビュー一覧を見る
なんと贅沢な書評の旅なのだろうか。九州に限定しているとはいえ、夏目漱石、山口瞳、北原白秋、石牟礼道子、水上勉、向田邦子、種田山頭火、松本清張、菊池寛など、文人たちが住み、あるいは訪ねた土地を巡る内容だが、紀行文の形をとった書評である。
のんびり、ゆっくり、名作の現場をなぞる旅だが、その旅の始まりは漱石の『草枕』だった。ヒロイン那美のモデルである卓の父、前田案山子の名前が出てきたが、孫文の辛亥革命を支援した宮崎滔天の妻、宮崎ツチは旧姓前田、前田案山子の娘である。おやおや、と思いながら更にページを進めると「維新の志士の如き烈しい精神で文学をやってみたい」という漱石の言葉が紹介されている。漱石が通った大学予備門の校長であった杉浦重剛は第二代の東亜同文書院院長にもなった大陸問題に関心の深い人物だが、漱石が尊敬する先生でもある。漱石の革命家を彷彿とさせる言葉は師の影響かと思いながら、杉浦重剛と盟友の頭山満も孫文の辛亥革命を支援し、浪人であった宮崎滔天も支援している。妙な人間関係に驚くが、著者はお構いなく、九州の風土を楽しみながら、純粋に文学の世界に浸っている。
本書には文学作品だけではなく、福岡県久留米市が生んだ画家、青木繁についても記されている。若くして亡くなった青木繁に子供がいたことは不覚にも知らなかったが、音楽家で料理研究家の石橋エータローが青木の子孫になることを初めて知った。才能はやはり、血となって流れていることを認識させられるものだった。
どこから読んでも、どのようにでも読み解くことのできる一冊だが、軽妙なタッチで、それでいて、呑ん兵衛にはより親しみを感じるものだった。
日常、一冊の本を読了することで他者よりも知ったかぶりの優越感に浸るが、さらに、奥底にある作者の真髄に触れるには現地を歩くことが大事と教えられた気がする。やはり、地の気、風、水に触れて作品を読みこなさなければ、本質には迫ることができないということである。
繰り返しになるが、なんと贅沢な書評の旅なのだろうか。
こういう旅に「あくがれて」しまう。