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ディーン牧師の事件簿 (創元推理文庫)
八十歳を迎えたのを機に牧師の任を退き、愛犬とともに静かな老後を送るはずだったサディアス・ディーン。そんな彼のもとに、次々と不可解な殺人事件の謎が持ちこまれる。屋敷を相続し...
ディーン牧師の事件簿 (創元推理文庫)
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商品説明
八十歳を迎えたのを機に牧師の任を退き、愛犬とともに静かな老後を送るはずだったサディアス・ディーン。そんな彼のもとに、次々と不可解な殺人事件の謎が持ちこまれる。屋敷を相続した五人兄弟を襲う“足跡のない”連続殺人、密室状態のアパートから消えた狙撃者、教会で行われた聖餐式の最中の毒殺…元牧師の名探偵ディーン先生が六つの難事件に挑む、不可能犯罪連作短編集。【「BOOK」データベースの商品解説】
収録作品一覧
プロローグ | 9−14 | |
---|---|---|
足跡のない連続殺人 | 15−61 | |
四階から消えた狙撃者 | 63−133 |
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無理!なことに直面したときに「できっこない」と思ってしまう人にも「できるはずだ!」と思える人にも贈りたい
2011/02/03 01:33
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けい - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本はミステリの盛んな国です。テレビでも刑事ものの連続ドラマはあり、二時間サスペンスなんてものも定着しています。書籍に目をむけても、新刊やベストセラーには推理小説が。あまり注目されていなかった作品が書店員さんにより‘発掘’されたり、海外の作品が古典から現代まで揃っている。ミステリ好きには幸せな先進国ですね。
先進国である、ということは、競争が激しく、常に新しさを求められがちだ、ということでもありそうです。推理小説の魅力には‘驚き’の要素が占める割合が高い。これまでになかったものを、というのが一つの指針であり、原動力でもありました。
そのせいでしょうか。どうも昨今のミステリには、なじみにくさを感じることもしばしば。昔ながらの古きよきミステリが読みたい、という気持ちがわきでてくるのです。
じゃあ、かびくさい古典をひっぱりだしたらいいじゃないか。意地の悪い人はそう言いそうです。贅沢なようですが、今の作家がつくるオールドファッションを読みたいのです(あぁ、なんてワガママなんだ!)。
かつて黄金期と呼ばれた1930年代に、ジョン・ディクスン・カーという作家がいました。ファンのかたにはあらためて紹介するまでもありませんが、施錠された部屋や、被害者以外の足跡がない雪の上など、出入りのできない状態、いわゆる《密室》などの不可能犯罪をテーマにした作品をバンバン世に送り出しました。たくさんの基本的なトリックを開発したかたです。
今、読むと確かに古さを感じます。カーがミステリの大地に蒔いたトリックの種は、水を与えられ、芽吹き、たくさんの傑作の花を咲かせました。現代からすると、原始的にすぎて、むきだしであり、洗練が足りないように感じるのです。
ですが、とても魅力的なのです。飽きもせず不可能犯罪を演出することに身を捧げたような、ミステリの本質的な面白さをそのまま丸かじりできるような作品を今だって読みたい。そう願うファンはいるはずです。
死んだカーが蘇ってまた不可能犯罪を描く。ミステリマニアにとって、ある意味、究極の不可能興味です。
その不可能が可能になりました。それが今回、紹介する『ディーン牧師の事件簿』です。さまざまな密室に人間消失、カーの匂いがプンプンします。MP3プレイヤーや携帯電話、インターネットなど、時折、登場する現代的な単語に「おや」となってしまうほど、カーの時代の作品を読んでいるような気にさせられるのです。あとがきによると、著者の公式サイトには、月夜の教会のそばに雷が落ちる動画が貼られているとのこと。これだけでカーマニアならニヤリとしてしまいますよね。
カーはトリックの作家でした。ハル・ホワイトもそうなのですが、それだけではありません。「不可解な謎のからくりはわかった。では、犯人は誰?」というところにもぬかりなくロジックを用意しているのです。そこが歴史を積み重ねた今、出版するに値する意義でもあるのでしょう。
ここで冒頭に触れた日本の状況を考えてみます。ミステリ先進国になぜ現代のカーが現れないか? これは日本が先進国ゆえのジレンマなのかもしれません。おそらく、新人賞応募作品には、『ディーン牧師の事件簿』に収められているような不可能犯罪を扱ったトリックメインの昔ながらの作品はあると思います。「たくさん」あるのでしょう。日本のアマチュアはそれぐらいのレベルのはず。そういった作品を今、出版してどうなるのだろうか、という疑問がそういった作品群を一次選考あたりで「目詰まり」させているのではないでしょうか。 「どうなるのだろうか?」という問いかけには、「売れるのだろうか?」という投げかけでもあるでしょう。カーの世界を現代風に再現したうえで、なお上乗せできるなにか。それが今、求められているのかもしれません。やはり、日本のミステリのレベルは高いです。
仮に、出版社など送り手がただ単に「今更、カーみたいなものを本にしても意味ないよね」という程度で本書のような作品を見逃しているならば、それは由々しき事態。
今、台湾はじめ、アジアで本格ミステリのムーブメントが起きているようです。もし、アジア発の傑作が生まれ、それと同じようなアイデアの作品が日本の新人賞の選考で埋もれていたら……。今、書かれるべき、読まれるべき、時代を超えるなにかとはなにか? ミステリ好きは、始祖ポウの亡霊に試されているのかもしれません。
『第四の扉』でデビューし、フランスのカーと称されるポール・アルテの登場に狂喜乱舞したむきには、自信をもって、ハル・ホワイトもオススメできます。マイ・フェイバリットは「四階から消えた狙撃者」。