紙の本
独裁者小説の白眉
2019/02/27 19:31
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投稿者:はるはる - この投稿者のレビュー一覧を見る
独裁者を主人公とした小説は他にもありますが、これが一番という気がします。これまで3回読みました。小説中、荒唐無稽なことばかり起きますが、それでもというか、それゆえなのか、読ませます。これぞ、マジックリアリズムというものでしょうか。
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立ちこめる花の匂い
2015/08/31 23:57
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投稿者:mooonday - この投稿者のレビュー一覧を見る
「百年の孤独」を読んでガルシア・マルケスにはまってしまい、「我が悲しき娼婦たちの思い出」「コレラの時代の愛」を経てこちらを読みました。
6章に分かれてはいますが、各章改行一切無しの1パラグラフという構成(どのページを開いても文字で真っ黒)&ころころ入れ替わる主語に読破できるか不安になりつつ読み始めましたが、第1章を読み終える頃には慣れてさほど読み辛さを感じませんでした。いや、むしろこの複数視点からの独白スタイルのリズムにのめり込んでしまいました。
他の作品もでも感じましたが、マルケスの物語の最後の締め方が好きです。読後感がいい。
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正直・・・
2020/01/04 16:57
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投稿者:ケロン - この投稿者のレビュー一覧を見る
正直読んでいる途中に何度も心が折れそうになりました・・・。
む、難しい・・・。
またいつか読み始めた時にすっと心にしみこんでくれることを願っています。
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むずかしい
2012/06/21 16:21
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投稿者:K・I - この投稿者のレビュー一覧を見る
改行がすくなく、
密度の濃い文章がつづくのに、
ついていけませんでした。
内容がおもしろくないわけでは決してなく、
ただこちらの読む技量が足りなくて、
途中で、挫折しました。
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ストーリーなんてないようなものだけれど、なんか知らない内に引き込まれて読み終えてしまった。きちんと細部に注意しながらもう一度読みたい。
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内容がどうとかいうより、まず、文章構成にびっくり。
一見てんでバラバラなのに、とっても読みやすい。
とても緻密に計算されている。
どんなふうにすれば、このような文章が作成できるのだろう。。
今、文章のストーリー構成に悩んでいる身としては、非常に学ぶところが多い。
絶対真似はできそうにないけど。。
内容の、独裁者とその周囲の人たちについては、考えさせられることが多い。
ヒトラー、スターリン、ムッソリーニ、その他現在における社長など、頂点にいる人たちは孤独を抱えている。
他人に下手なことを相談できないし、すべての責任は自分にのしかかってくる。
したがって、すべての結果は自業自得。
でも、目立ったところだけ意識しがちだけど、みんな人間なんだよなと再確認した。
各人がそれぞれの少年・少女時代を経て、それぞれの人格に形成されているんだな、と。
間違いを犯さない人なんていないし、成功だらけの人も多分いない。
私は、失敗を経験して、それを糧に努力を積み重ね、将来自分で自分に納得できる一人前の人間になりたい、と意識した。
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GW中に必ず読もうと、読み終えようと決意した1冊。読書会用。時間はかかってしまったけど読了。傑作。「百年の孤独」も素晴らしかったけど、「族長の秋」にも唖然。
物語の構造(主語の入れ替わり/独裁者の死の場面から繰り返される語り)が理解できてからは、夢中で物語に入り込む。キャラクター(独裁者)も魅力に富んでいる。大統領の残虐さ(舞台は中米だが、ウガンダのアミン大統領を彷彿させる)にも拘らず、最初から最後まで、大統領の姿は孤独そのもので、愛おしさがわいてしまう。
読書会が楽しみ。もう少し、考えをまとめたい。
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権力の破綻、独裁者の孤独。
舞台は南米、軍事力にまかせた独裁政権のもとにある、とある架空の国。
視点というか、語り手のいったりきたりする、独特の文体です。主人公である独裁者本人の言葉によってその場面が語られたかと思ったら、突然その続きをそのままほかのキャラクターが語りだしたりするんですけど、そのときに章立てや場面転換を示す空行などはありません。というか、改行さえなく、なんの前触れもなく語り手がつぎつぎにスイッチ……というより、錯綜している。話の時系列的にも行きつ戻りつ。過去と現在、願望と現実のあいだをめまぐるしく行き交って。
独特の文体です。かろうじていくつかの章にわかれているけれど、段落変えというものが、いっさい存在しません。ページをひらくと文字がぎゅぎゅぎゅっと詰まり、そのあいだを読点が小刻みに分割しています。
そのうえに文脈もめまぐるしく移り変わり、一文のなかの語順さえ倒置されていて、読んでいてとまどう箇所は多数。人はどんどん死ぬし、悲惨な事件はばんばん起きるし、主人公は絶えず不安と孤独にさいなまれているし、とっつきやすい小説とはいえません。
が、美しい。
独善、虚栄、猜疑、欲望……。見たいものだけを見つめ、己を鏡に映すことをしらず、奪うことしか知らない、子どもじみた、独裁者。孤独に怯え続け、醜く老いた哀れなひとりの男の物語です。
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圧倒的な言葉の饒舌によって生まれた靄は、ある定まったイメージに収斂することなく、と云って、まったく拡散するわけでもなく、大きなうねりを持続したままカリブ海の国や島々を覆い尽くし、、大統領の死と断定できない死でもって、消えて無くなったのである。
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段落がなく、語り手がごちゃごちゃしててびっくりしたが、勢いがあって意外と読める。休みの日に一気に読もう。
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作者は現実とは隔絶された完全なファンタジー(例としてディズニーが挙げられていた)は書かないスタンスらしく、そうであるなら風変わりな登場人物達も理解できそう。
大統領も、その部下も、母親も、特定の個人というより抽象化されたもので、ラテンアメリカの現実と作品とを見比べることでその意味がより深く感じられると思う。
知識が足りず消化不良なので改めて読みたい。
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語り手はどんどん替わるし(しかも唐突に)、ほとんど改行もなく、セリフも括弧でくくられてないからものすごく読みにくかったけど、読み応えがありました。
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<追記:ガボさんの自伝「生きて、語り伝える」に、「『族長の秋』とバルトーク ピアノ協奏曲 第3番には親和性がある!」と指摘されたという。そしてガボさんは実際に執筆しながらこの曲を掛け続けいていたのだそうだ。しかしまさか指摘されるほど影響を受けていたとは、ということ。
これから読む方はこれを聴きながらどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=1esPHLSdPtg&ab_channel=eijuwara>
ハゲタカが舞い降り牛が出入りするようになった大統領府に押し入ったわれわれ目に写ったのは、無残に潰えた栄光の跡だった。全く情けない国もあるもんだ、どうやって牛が大統領府のバルコニーにあがったのか。かつてレティシア・ナサレノが泣き叫んでいた庭を抜け、ロドリゴ・デ=アギラル将軍の丸焼きが饗された客間を通った。三個の掛け金、三個の差し金、三個の錠前をかけた執務室でハゲタカに食い荒らされた彼の死体をみつけたが、それは初めてのことではなかった。最初に彼の死体を見つけたときと同じ、麻の軍服や長靴、骨になった指に権力の象徴である指輪、生まれついてのヘルニアのため牛の腎臓ほどある睾丸を持ち、右腕を枕代わりに頭の下に敷いた姿だった。彼の年齢は百七歳から二百三十三歳の間としか分からなかったけれど。
↑だいたいこんな感じで、段落変え無し語り手が移り変わって350ページのおしゃべりが続きます。
読書会(オンライン)に参加するために慌てて再読しました。
最初に書いた感想はこちら。この頃はまだラテンアメリカ文学読み始めだったなあ。
https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4087602354#comment
南米の架空の国の大統領の悪夢のような君臨の日々をガルシア=マルケスの饒舌により途方もない非現実性を現実と融合させた長編小説。
スペイン語原題では「El otoño del patriarca」になる。翻訳ページでかけてみたら「家長の秋」であり、「El otoño」は秋、「otoño」だと「落ちる」と出てきた。日本語でも「人生の秋」などと、頂点を過ぎた状態を意味するけれど、「秋」をそのように例えるのは各国語での共有認識なのか。
(以下、打つのが面倒なので「ガボさん」と書かせていただきますm(_ _)m)
大統領府に入った6人の語り手が大統領が君臨していた時代を思い出してゆくのだが、1人1人の語りは60ページほどで、段落替え一切なし、語りの内容は次々に移ってゆき、同じことが何度も何度も繰り返され、一人称と三人称が入り交じってゆく。
『まわりに集まった男女との話し合いでは、どんな小さなことでも覚えてそれを口にした。全国民の一人ひとりや、統計の数字や、解決すべき問題などをすべて頭の中に入れているように、彼らをちゃんと名字と名前で呼んだ。そのせいね、目も開けないでわたしの名前を呼んだのよ、こっちへ来い、ハンシタ・モラレスって、そして言ったわ、さんざんてこづらされたが、この手でヒマシ油を飲ませてやった、あの子供の容態はその後、どうだ、って。彼はおれに言ったよ、おい、フアン・プリエト、耳についた虫が落ちるように、わしが厄除けの呪いをしてやった種牛の具合はどうだ、って。おい、マチルダ・ペラルタ、逃げた亭主を無事に戻し��やると言ったらわしに何をくれる、首に縄をかけられているが、これこのとおりだ、こんど女房を捨てるようなんて気を起こしたら、うんざりするくらいさらし台につないでやると、この口からよく言い聞かせておいた。おなじ親政的な感覚で、公金を使い込んだ役人の手首を公衆の面前で刎ねるよう、人夫に命じた。(P123)』
この調子で350ページほど続くガボさんの饒舌が心地よい。ガボさんは読者に親切でありその文体はリズムに乗りやすい。いきなり「彼の死体を見つけるのは二度目だった」と書いて読者を「?」にさせても、その後一度目は何だったのかを詳しく語ってくれる。
6人の語り手が好き勝手に思いを巡らせてゆくので、時系列は入り乱れているし、同じ言葉や出来事が何度も繰り返される。
三つの錠と鍵と閂、百年に一度の彗星、大統領の体をびっしり覆う海の生物たち、生まれつきの巨大な睾丸、月足らずで生まれた子供たち、地味な小鳥を高く売るために着色する絵の具、売られた海、老いた大統領が備忘のために書き壁の隙間に隠したメモ…。
それでも1人の語り手ごとになんとなくテーマも通っている。
最初の語り手は、大統領にそっくりな風貌で詐欺を働いて、その後影武者になったパトリシオ・アラゴネスとの同体関係と、彼の死。そして、「大統領の最初の死体」を利用し、権力簒奪者たちを皆殺しにしたこと。
次の語り手は、貧民街出身で美女コンテストの優勝者で大統領を通わせるが、大統領ののぞみを叶えることなく日食のなかに消え去ったマヌエラ・サンチェスのこと。
3人目の語り手は、大統領のとんでもない君臨と圧政の数々。
4人目の語り手は、大統領の母ベンティシオン・アルバラドの死後の聖列について。
5人目の語り手は、大統領の正妻レティシア・ナサレノとその息子の悲惨な最期。
そして最後の語り手は6人目の語り手は、妻と息子を殺した犯人を探すための殺戮と、大統領の衰えた姿について。
この6人の語り手の中から浮かび上がるのは、途方もない権力を持ちながら、誰も信じられず、愛する者たちは消えてゆき、国外からは常にアメリカやイギリスからの圧迫に晒され、国内においても常に反乱やクーデターが起き、大臣たちにより真実から遠ざけられた大統領の深い深い孤独だった。
かつてただの軍人だった大統領はイギリスの後ろ盾で大統領となった。その後もアメリカやキリスト教会と支配力を争い合っていた。
アメリカ軍は『黒人の淫売屋をお返しする、われわれはいなくなるが適当にやってください(P74)』と言って去っていった。
大統領は時間を変え、熱帯雨林の雨を砂漠に移し、海を売るほどの独裁を行うが、大臣や官僚たちに囲われて、国民からは生存を疑われ、恐れられてはいたが、敬愛されユーモアの対象でもあった。
『われわれは居酒屋でよく笑い話をした。ある男が大統領閣下がなくなったと内閣に報告すると、大臣たちはおびえた顔を見合わせ、そのことを誰が閣下に報告すべきか、おびえた目で探り合っていた、というのがそれだ、ハ、ハ、ハ。(P175)』
権力を手にした大統領は百年に一度しか現れない彗星を二度見る間独裁を行っていった。『下野した元大統領の身元証明書はただひとつ、死亡証明書である(P30)』ということを知っていたのだ。大統領は側近こそを信じなかった。『真実に通じる者がだけが嘘をつくことを知っているのだ。(P206)』
だからかつて反乱者を皆殺しにして生涯の友と呼ばれたロドリゴ・デ=アギラル将軍を裏切り者であると判断した大統領は彼を死体にして野菜を詰めて丸焼きにして晩餐会に出すこともした。
しかし大臣たちは、大統領の目から真実を隠し、権力を傘に来て汚職を繰り返していた。
最初は大統領にだけ利益をもたらしていた籤引きのインチキだが、大統領の手を離れて側近たちの公然とした詐欺となっていった。その秘密を知る2千人もの少年たちを船ごと爆破させ、それを実行した兵士たちを始末する。
『この野蛮な犯罪を実際に行った三人の士官が直立不動の姿勢を取り、閣下、ご命令どおりにいたしました、と報告すると、大統領は、に階級特進の処置をとると同時に勲功賞を与えた。しかしその直後に、階級章を剥奪した上で、一般の犯罪人として銃殺させた。出すのは良いが、実行してはならん命令もある、ま、気の毒なことした。(P156)』
そんな大統領だが、個人として持った愛情もあった。
貧民街出身で美女コンテストの優勝者のマヌエラ・サンチェスを見たときには、決して力を行使することなくただの求婚者のように通い詰めた。しかし大統領に秘密は持てなかったのだ。側近たちは彼女の家の周りに狙撃兵を配置し、友達を排除し、貧民を追い出し上流階級者の街に作り変えた。それでもマヌエラ・サンチェスは大統領の望みを叶えることなく日食のなかに消え去ったのだ。
母親のベンティシオン・アルバラドは娼婦まがいの生活で父親のわからない息子を産み、その息子が大統領になっても無学で慎ましい生活を続けていた。権力など続かず息子が衰えその座から引きずり落とされるなら大統領になどなってほしくはなかったと思う。
『郊外の屋敷で眠っている母親が頭に浮かんだ。(…)シュロとランの花に囲まれながら眠っているベンティシオン・アルバラド、横向きの死体のような母親の姿が頭に浮かんだ。お休み、といった。お前もお休み、と郊外の屋敷のベンティシオン・アルバラドが眠ったまま答えた。(P94)』
残酷な独裁者だが、たまに見せるこのような呟きに人間としてほしかったものを感じる。
そのベンティシオン・アルバラドが死んだときに大統領は聖女として聖列しようとしたが、キリスト教会からその調査に遣わされたエリトリア人のデメトリオス・アルドゥス猊下は、大統領の周りに巡らされた欺瞞や大臣官僚たちの汚職、隠された大統領自身を知ることになる。大臣たちはデメトリオス・アルドゥス猊下の暗殺を企むが、真実を知りたがる大統領はデメトリオス・アルドゥス猊下を庇護するように、官僚たちに脅しをかける。
『四十八時間以内に生きているエリトリア人を発見して、ここへ連れてこい、仮に見つけたときに死んでいたら、生かして連れてこい、仮に見つからなくても、ここへ連れてこい。(P206)』
そして大統領は、周りの誰も信じられないこと、虚像に飾られた自分自身を知ってゆくのだ。
デメトリオス・アルドゥス猊下を送る大統領は言葉を漏らす。
『猊下の厳しい調査から最後にただひとつ良い結果が残った、それは、この貧しい連中は自分たちの命を愛しているように、閣下を愛しています、という猊下のことばに支えられた確信だ、とつぶやいた。デメトリオス・アルドゥス猊下は、大統領府の内部そのものに配信の影を見たのだ。権力の庇護のもとで私腹を肥やしている者たちの狡猾な奴隷根性や、阿諛追従のやからの貪欲さを見抜いたのだ。そしてその代わりに、大統領から何も期待していない貧しい大衆のなかにある、新しい愛のかたちを知ったのだ。この者たちは、何かを期待することでなく、手ですくえるほどの地上の愛を、およそ迷いのない忠誠心を大統領にささげています。神のためにもそうあってくれたら、と思うほどですよ、閣下。(…)そこが困ったところだ、いそ、連中がわしを愛してくれないほうがいい、あんたはここを出てゆき、あのまやかしの世界の黄金の丸屋根の下で、わしの不幸せを種に出世できるから、まだいい。ところが彼はここに残って、耐えていく力を貸してくれるかいがいしい母親もなく、左手のように孤独な状態の中で、真実という不当な重荷を背負っていかねばならない。この国だって、わしが自分の意思で選んだものじゃない。見たとおりの状態でわしに与えられたわけだ、昔からずっと、この非現実的な雰囲気や、くその臭いや、歴史を持たない人間などであふれている、ここの連中は日々の暮らしいがいのものは何も信じていない、これが、否も応もなくわしにわしに与えられたものなんだ、(P211〜)』
そしてある時大統領は修道女の一人に目を留めた。大統領が名簿に書かれたレティシア・ナサレノという名前を呟くのを聞いた彼の側近たちはレティシア・ナサレノを攫って大統領のベッドに運んだ。野生的な匂いのする粗野な女は大統領夫人になり、産まれた子は他の数多の女の産んだ数多の子供たちとは違いたった一人の息子として認知された。
『子供が理解できることをすべて教えた。しかし、忠告はひとつしか与えなかった。実行されるとはっきり分からなければ、命令を出すんじゃないぞ。権威と識見を与えられたものが生涯に一度も犯すことを許されない、たったひとつの過ちは、実行に移されることに確信のない命令を下すことだ。(P256)』
だが権力を傘にきたレティシア・ナサレノを憎んだ民衆により、彼女とその息子は訓練された野犬たちに食い殺され、大統領の生涯たった一つの純粋も消え去った。
大統領は妻と息子を殺した相手を探すために権力を与えられた残酷なるサエンス=デ=ラ=バラは、6人の敵の首を切りそのために増えた60人の敵の首を切り、さらにそのために増えた600人の敵の首を切り大統領に送り続ける。こうして圧政と反乱は続いてゆく。
大統領は、大統領だけに向けたドラマを見て大統領にだけに向けたニュースを見て、誰もいない大統領府の奥で衰えてゆく。
返しきれない外貨の棒引きとして海を売ってからこの国は砂漠になっていたが、大統領の体には海底の岩に住む虫がびっしりと張り付き、背中にはコバンザメがしがみつき、脇の下には小さなポリープや甲殻類が巣食うようになったが、大統領は、ほら、売った海が戻ってくるのだ、という。
『この耄碌した老人がかつての救世主と同��人物であるとは、とうてい信じられなかった。(P122)つまり彼にとって、国民の日常生活上の不便は、たとえどんなに些細なことでも、重大な国事とおなじ意味を持っていたのだ。彼は、幸福をみんなに分かちあえ、兵隊上がりらしい小細工を弄して死を買収することが可能だと、心から信じていたのだ。今のこの老いぼれが、かつて雑題な権力を握っていた男だとは、とうてい信じられなかった。今何時だ、と彼が訊くと、閣下のお命じになる時間です、と答える。(P124)』
圧倒的な言葉の波、圧倒的な言葉の嵐。このような目線も時系列も入り乱れた文体で、ここまで入りやすく乗りやすい文章があるとは。ガボさんの語りの心地よさに乗っかって350ページが通り過ぎてゆく。
大統領の圧政は途方もなく非現実的で大袈裟なのだが、ガボさんの語り口によりむしろ途方もない現実を示しているかのようにも思えてくる。
さて、読書会ででた話はこんな感じ。(違ってたらすみません)
✓段落変え無しってなんだ!エンターキーが壊れたの!?(笑)
✓このような書き方をするのはガボさん以外にいるのだろうか?
✓ラストの大統領が衰えて死に物語が収縮するというものが印象的。最後の方で「生を知らなかった」と書かれていることが生々しさを感じる。
✓詐欺を隠すために関係者を殺すのは、他の本でも呼んだことがある。⇒人間のやることは同じ、物語は時代と土地を越えて通じる。
✓今の日本、今の世界状況を鑑みて読んだ。
✓語り手の目線が次々変わってゆくのは、テレビで街角インタビューを聞いているような、舞台で出演者たち全員のセリフが聞こえるような感じで、小説でありながら映像が頭に浮かぶ。
✓大統領と影武者が同体のようになるが、影武者は一人じゃなくていいし、大統領本人だって別にその本人一人じゃなくて良いと思った。⇒大統領本人は民衆からも隠れているので。登場人物の中で大統領だけには名前がないし。
✓笑っていいのだろうかと思いつつ、ところどころユーモラス。
✓大統領は結局何歳?⇒百歳から二百歳の間、大統領の座にいたくらい?
✓(他の雑誌を見て)ヤマザキマリさんも「テルマエ・ロマエ」を「族長の秋」のように書きたがっていたということ。
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生きているか死んでいるか、ひとりなのか世襲なのかわからない、独裁者大統領の物語。読み始めた途端、われわれ読者は迷宮の森に迷い込む。おふくろよ、ベンディシオン・アルバフトよ、誰もわしのことをわかっていないのだ。そうよ、あのじじいったら、制服姿のあたしを見たら興奮しちゃって大変だったのよ。このような、改行のない文体の途中に主語がコロコロ変わる物語を読んでいる方もだんだん混乱してきて、それでも最後まで夢中にさせるところは、さすがにガルシア・マルケスだと、僕は単純に思うのであった。
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ざっくり言ってしまえば、とある国の大統領の生活とその及ぼす影響を複数の視点から描いた小説。複数の視点といってもそれは国民全体を含有するようなとてつもなく膨大なもので、大統領が一向に像を結ばない。というかむしろ像がボコボコと増えていくような…。大統領、名前もわからないけど、とにかくデカイです。