紙の本
これが見納め 絶滅危惧の生きものたち
2013/01/29 02:12
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投稿者:ステゴのすーさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
原題は『LAST CHANCE TO SEE』。
絶滅危惧種は放っとけという最近の科学者たちの言い分もきちんと根底に踏まえながら、BBCの番組らしくジャーナリストの視点から「目の前の命を放っておけない」渾身のルポ。文章も面白く一気に読破させていただいた。
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言うまでもなく、絶滅は遥かな昔から起こっていることである。かつて地球上で栄華を誇った恐竜たちは今や見る影もないし、ネアンデルタール人とて同様である。人類が登場するずっと前から、動植物は現れては消えてきたのだ。しかし、問題なのは、その絶滅のスピードにある。先史時代以降に起こった絶滅の過半数は、この三百年に起こっているという。そしてこの三百年に起こった絶滅の過半数は、この五十年間に。そしてこの五十年間に起こった絶滅の過半数は、この十年間に起こっているのだ。
本書は、世界一珍しくて、世界一絶滅の危機に瀕している動物たちを、足掛け一年近くかけて地球の果てまで見に行ったネイチャー・ルポである。著者は、『銀河ヒッチハイク』などでおなじみのSF作家ダグラス・アダムス。彼は、動物学のどの字も知らない素人として、なにが起きてもいちいち度肝をぬかされるというミッションを背負わされて、生物学者のマーク・カーワディンとともに旅に出た。そのリアクション芸人ぶりと卓越した観察眼は見事なまでに両立しており、その面白さは序文でリチャード・ドーキンスが太鼓判を押しているほどだ。
絶滅の危機に瀕した動物の生き残りを保証する道は観光であるというのが、定説となりつつあるそうだ。慎重に管理・監視するためにというのが、その名目だ。しかし、その敵は自然の摂理ではない。動物たちが生息する森を破壊する者たちや、密漁者たち、つまり人間こそが彼らの敵となっているのである。人間が捕食者でもあり、保護者でもあるとは、なんという皮肉な光景であろうか。
もちろん、観光というのはベストな選択肢ではない。観光客のために、慣らしという行為が必要になるのだ。野生の群れに接触し、何カ月も、ときには何年も、毎日群れのところへ出かけて行って、人間がそばにいても気にしないように訓練をする。このようにして動物園のような環境におかれてしまった動物は、もはや野生の動物とはかけ離れたものになってしまう。
しかし、本書で描かれている動物たちは、絶滅の危機に瀕しながらも野生の状態そのものである。そしてその白眉は、著者と動物との出会いの瞬間に凝縮される。
◆絶滅の危機に瀕している動物たちとの出会いの瞬間の描写
・アイアイ(マダガスカル島)
頭上数フィートの枝を伝って、ゆっくり移動しながら、降りしきる雨をすかしてこちらを見おろしていた。いったいこれはなんだろうと言いたげな、いわば静かな当惑の表情を浮かべて。
・コモドオオトカゲ(インドネシア・コモド島)
オオトカゲは、片方の目で関心なさげにわたしたちを眺めていた。こちらを向いているその目は、丸くて濃い茶色をしていた。こちらを見ている目を見ていると、なぜかひどく不安をかきたてられるものだ。こちらを見ている目がこちらの目とほとんど同じ大きさで、そのこちらを見ている目の持主がトカゲだったらなおさらだ。
・マウンテンゴリラ(ザイール)
山野でこんな生きものに初めて出くわしたときは、頭の中が高速で空転してまるで動けなくなってしまう。たしかに、こんな生きものはほかにいない。強烈���、めまいにも似たさまざまな感情が頭にのぼってくる。
・カカポ(ニュージーランド)
まるで聖母子像だった。その鳥は声も立てず、身じろぎもしなかった。こわがっているようには見えなかったが、それを言うなら周囲でなにが起きているのか、どくに気づいているようにも見えなかった。大きくて黒い表情のない目は、どこかあらぬ方をじっと見ているようだった。
なんとも神々しい描写である。ここに到達するまでのコメディタッチの珍道中とは、見事なまでのコントラストを織りなしている。そして、この瞬間にこそ、動物たちを絶滅させてはならない最大の理由が潜んでいるように思えるのだ。
野生の動物と見つめ合うことにより、日頃は理性で隠されている太古の魂のようなものを呼び起こされ、めまいにも似た感情を覚えたという。それは、三億五千万年前に共通の祖先をもっていたもの同士にしかわからない、本能的なものなのである。そして、その時に著者が感じたのは、長い間の経験を経て、人類が培ってきた進化は、本当に進化だったのだろうかということだ。彼らが言語を獲得していないのではなくて、人類がそれを失っているのではないだろうかと。
人類は唯一の善悪を判断できる生物などではなく、あくまでも自然界における相対的なもの。それを教えてくれるのは、残り数少ない絶滅危惧に瀕した生きものたちなのである。だからこそ、著者の描く人間模様は、皮肉に満ち満ちた痛快なものになっているのだ。
これだけ魅力的な内容が詰まっていれば、本書が絶滅の危機に瀕する可能性は当分なさそうで、ひと安心である。なにせ、三億五千万年後の生物にも読ませたいくらいの名著なのだ。
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棒きれテクノロジー
ここにチキンあり
豹皮のピルボックス帽
夜の鼓動
盲目的恐怖
まれか、ややまれか
灰をかきまわす
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英国の作家と動物学者がコンビを組んで、絶滅に瀕している生きものたちを見て回るネイチャー・ルポ。駆け出しの頃はモンティ・パイソンのコントを書いたこともあるというダグラス・アダムスの、ちょっとシニカルでひねりのきいた文章は、随所でイギリス流のユーモアを振りまいてくれる。展開はまさに珍道中だが、その内容は、加速度的に減少している生きものを取り巻く地球環境の変化と、その後ろにある人間の愚かさ・自己中心欲への警鐘がテーマだ。
絶滅に瀕している生きものはどれくらいあるのかわからない。そもそも生物種自体がどれくらいあるのかもわからない。3000万種ともいわれるが、少なくとも毎年1000種を超える動植物が、この地球から姿を消しているというのは定説だ。
野生生物の保護は常に時間との競争であることから、世界を調査している動植物学者たちのことを「まるで焼け落ちようとしている図書館を死に物狂いで駆けずり回って、決して読まれることのない書物のタイトルを少しでも書き留めようとしている人のようだ」というたとえは印象的だ。
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SF作家の著者が、世界各地の絶滅危惧種を見に行くノンフィクション。
マウンテンゴリラ・コモドオオトカゲ・カワイルカetc。
著者自身が、興味本位と言いながらも、ウィットにとんだ文章は読みやすく、写真も多数あって楽しく読了。絶滅危惧種を危ぶんで、という悲壮感が無く、押しつけがましさが無いところも読みやすさの一因かも。
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「ドードーの滅亡で、人間は以前より悲しみを知り、以前より賢くなったというのは簡単だが、数々の証拠から見るかぎり、人間はたんに悲しみを知り、知識を仕入れただけだったようだ。」
動物たちの悲劇を見るとき、人間の喜劇が浮かび上がる。
数々の動物を絶滅に追い込みながら、自分たちはまだその道を歩み続けている。
人間さえ幸せになれれば、自分たちさえ金儲けできれば、という思考から脱却するにはどうすればいいのか。
最前線ではたらく動植物学者の人間との戦いは、これからも続いていくのだと思う。
著者の皮肉っぽい書きぶりと、皮肉な現実がみごとにマッチしている。
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ユーモアSFの名作『銀河ヒッチハイクガイド』の著者が、絶滅寸前の動物を訪ねて世界の辺境を歩きます。偉そうに保護は語りません。とにかくトホホとしか言いようのない珍道中記で、1ページに1回は笑えます。でもその底流に、動物たちを絶滅の危機においやった人間に対する鋭敏な視線と、自らもその一員であるという含羞がありまして、たいへんたいへんキュートな本なのです。毒蛇のうようよしている島にコモドオオトカゲを見に行く「ここにチキンあり」で、毒蛇博士に助かる方法を教えてもらおうとするくだりはまさに腹を抱えて笑いました。
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表現力がすごい。文章自体がこれほど面白いと思った本はなかったかも。著者が既になくなっているのが残念。ヒッチハイクガイドも読もう。
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『銀河ヒッチハイクガイド』は1978年にイギリスBBCからラジオドラマとして放送され、その後出版されて世界中で大ヒットしたSFコメディ小説だ。そして、そのユーモアと風刺にあふれた小説の著者、ダグラス・アダムスの著作でしかも『利己的な遺伝子』のリチャード・ドーキンスが序文を書いているとなれば、読まないという選択肢はあり得ないのが本書『これが見納め』なのだ。
ダグラス・アダムスは動物学者のマーク・カーワディンと共に、絶滅が危惧されている生きものたちに会うために様々な地を訪れる。マダガスカル島のアイアイ、コモド島のコモドオオトカゲ、ザイールのキタシロサイとマウンテンゴリラ、ニュージーランドの太っていて飛べないインコのカカポなど、当然のことながら、絶滅が危惧されている動物が生息しているのは人が訪れるのが困難な場所であることが多い。渡航先との連絡が取れなかったり行き違ったりにイライラし、腐敗した官僚達の対応に辟易し、命がけと思える小型機やヘリコプターに肝を冷やしながら現地にたどり着くと、蜘蛛の巣だらけの小屋に泊まりながら毎夜ジャングルをかき分けたり、灼熱の太陽が照りつけるサバンナで迷子になったりしながら目当ての動物を探し歩く。その様子がユーモアとウイットに富んだ表現で、数々の滑稽な逸話を挟みながら生き生きと描かれているのだから、ページを捲る毎に思わず笑ってしまう。しかし、根底にあるのはその動物を絶滅の危機に追いやった人間の愚かしさへの怒りであり、絶滅から救おうと必死で取り組んでいる人達への敬意であり、絶滅を免れるようにとの祈りである。生物種はどれもその生態系を支える存在であり、ある種が絶滅すればヒトを含む他の多くの種も多大な影響を被る。非常な速さで多くの生物種が絶滅し続けている現在、人は環境保全と生態系の維持について真剣に考えるべきだろう。マーク・カーワディンは結びの言葉で、生物種を絶滅から救うことの一番大切な理由をこう書いている「それはきわめて単純な理由-かれらがいなくなったら、世界はそれだけ貧しく、暗く、寂しい場所になってしまうからなのである」。至言である。
本書はダグラス・アダムスがコメディ作家としての本領を発揮した大変面白い本であると同時に、環境保護活動家として絶滅危惧種の現状と保護の難しさ、大切さを訴えている本なのだ。数々の写真とともに楽しんで読みながら地球環境問題について考えて欲しい。
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絶滅危惧種にスポットをあてた旅行記だけど、旅の途中のエピソードと軽妙な語り口が愉快。同時にちゃんと絶滅動物に対しても危機感を感じられるようになっている。
古い本だけど、最近になって翻訳出版されたそう。「文化系トークラジオlife」で紹介されてました。
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数年前にgoogle電卓で有名になった「人生、宇宙、すべての答え」の『銀河ヒッチハイクガイド』の著者ダグラス・アダムズの本。
初刊は1990年刊行だが、本書が初めての日本語訳。
BBCラジオの取材の一環で、「絶滅寸前の動物を見る」というテーマながら、全ページに渡りユーモアに溢れ、かつ読みやすく面白い。
存在しか知らなかった『銀河ヒッチハイクガイド』も読みたくなった。
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世界各地に絶滅危惧種の保全に人生をかけている人達がいる。
初刊刊行後20年以上立ち、成果が上がったものもあれば、失敗に終わってしまったものもある。
こういったテーマにありがちな、「そんな生物を保護してどうなる。絶滅して何か問題があるのか?」といった問いに対する動物学者マーク・カーワディン(取材に同行)の答えが好きだ。
(環境や生態系等への影響を述べた後)「かれらがいなくなったら、世界はそれだけ貧しく、暗く、寂しい場所になってしまうからなのである。」
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文化系トークラジオLifeで詳細されていた。
コメディSF作家ダグラス・アダムスが動物学者マーク・カーワディンとともに世界中の絶滅危惧種を見に旅に出る抱腹絶倒?の珍道中。
ユーモアにあふれているが、その特徴は「面白いでしょ」という押し付けがましさがなく面白いことをさらっと書いているところ。
面白い!
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非常に読みやすく楽しく読み進められた。…がしかし、原著が出版された1990年からの二十年という時間経過の中で、本書で紹介されてきた動物たちの行く末を考えると…複雑な思いがよぎることになる。
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絶滅が危惧されている動物たちを見に、SF作家と動物学者が世界各地へと旅する様子をルポした本書は、種の絶滅を追跡・検証する社会派の告発書ではなく、しばしば声を出して笑わずにはいられない、抱腹絶倒の一冊だ。絶滅寸前の動物に会うためにはトンデモない苦労があり、悲劇と喜劇は紙一重。そのことを呵呵大笑の筆致で綴った本文は、読者に笑われるのを今か今かと待っている。
一方で、地球の生態系は人間が原因で多くの生き物を失ったが、本書では失われたものが何かをよくわかっている人たちが、被害を最小限に食い止めようと奔走している姿もコミカルに描かれる。彼らは狂信的にも見えるが、それは我々が何を失ったかを知らないだけなのかもしれない。なぜなら、著者らがカカポ(オウム目の鳥)に出会う章では、読者はクスクス笑った後に、突然熱い想いに胸を衝かれるのだ。我々は、彼らに何をしてしまったのかと。
「彼ら(絶滅危惧種の動物たち)がいなくなったら、世界はそれだけ貧しく、暗く、寂しい場所になってしまう」。本書は、こうした危機感を広めることに、一役も二役も買うだろう。
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ユーモアSF作家が自然科学者とともに、世界各地の絶滅しかけている動物たちを訪ねていったエッセイ集。原著は1990年の発行だが、古さなどまったく気にならないほど面白い。ふきださずには1ページも進めないくらいだ。写真のキャプションからしてこんな調子である。「腐らない形で携帯された4羽のニワトリは、根深くも恐るべき疑惑を抱いてこっちをにらんでいて、こちらにはその疑惑を晴らす資格がまるでない」。読者をたっぷり笑わせつつも、人間の愚かさと思いあがりをちくりと戒める良書。