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商品説明
村も母親も捨てて東京でモデルとなった由貴美。突如帰郷してきた彼女に魅了された広海は、村長選挙を巡る不正を暴き“村を売る”ため協力する。だが、由貴美が本当に欲しいものは別にあった—。辻村深月が描く一生に一度の恋。【「BOOK」データベースの商品解説】
村も母親も捨てて東京でモデルとなった由貴美。突如帰郷してきた彼女に魅了された広海は、村長選挙を巡る不正を暴き“村を売る”ため協力する。だが、由貴美が本当に欲しいものは別にあった−。『別册文藝春秋』掲載を書籍化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
辻村 深月
- 略歴
- 〈辻村深月〉1980年山梨県生まれ。2004年「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞を受賞しデビュー。11年「ツナグ」で吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に「オーダーメイド殺人クラブ」など。
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紙の本
けして爽やかではないけれど
2011/10/02 15:37
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紫月 - この投稿者のレビュー一覧を見る
山間の村に暮らす広海。睦ッ代は、集落を寄せ集めたような小さなだ。
唯一の自慢は、ムツシロ・ロック・フェスティバル。
毎年、楽しみにしているこのフェスの会場で、広海は初めて由貴美を見た。村出身の芸能人、由貴美。進学校で学年一位の成績を誇る広海は、村長の息子だ。
閉ざされた村社会の中で、まとわりつく幼馴染や過干渉の母親にうんざりとしていた。
これまでにずっと繋がってきた幼馴染よりも、東京で問題を起こして村にやってきた粗野で乱暴な達哉を友達だと思う。そんな時、広海は由貴美に再会した。
優等生がメインキャラクターの学園もの。いつもの、著者得意のストーリーだと、最初は思った。
しかし舞台は学園ではなく小さな村だ。
広海は、退屈だが純朴で単純だと信じていた村社会の闇の部分を知らされる。
物語を流れるのは、ダークな村の暗部だ。
村の隠された部分と、広海の純真さが奇妙なハーモニーをなして最後まで流れていく。
正しいと信じていたものが嘘だったと知り、無知だとバカにしていた友人が、実は自分よりよるかに事実を把握していたのだと知り、広海は激しく混乱する。
最後に、広海がとらえた事実と彼がとった行動は、重い。
けして爽やかではないけれど、何かが残る読後感。
それにしても『水底フェスタ』というタイトルは、怖い。
紙の本
水底の澱みを見てしまった少年
2011/10/05 04:34
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
村長の息子として、また優秀な高校生として過ごしてきた広海は、当たり前の日常をうっとうしく思いながらも、そこから抜け出したいという強烈な意思は持たないでいた。織場由貴美という、村出身の芸能人に会う、その日までは。冒頭で広海が由貴美を見かけたムツシロロックフェスティバルでは、彼女は「びっくりするほどヘンな顔だ(p8)」などと特に美人という描き方をされていない。ところが、二度目を見かけた時には「織場由貴美は美しかった。この世のものとは思えないほど、現実感がなかった(p52)」と、全く逆の描写がなされている。ああ、この子は彼女に惹かれたんだな、と一発でわかる。そして彼女に惹かれたことが、広海の変わりない日常を劇的に変えていくのだった。
十七歳という思春期真っただ中の少年が、年上の女性との恋愛を通じて大人への通過儀礼を果たすという物語は古今東西見受けられて今更新味もないが、本作は「由貴美の突然の帰郷」から村に起こるかすかなさざ波、平凡な村の秘密というミステリー的要素を絡めている。
前作『オーダーメイド殺人クラブ』で「非日常が嫌いな思春期」女性版を描いた著者の、今回は男性版といったところか。著者のここまでの性描写は初めて、ということで驚きを隠せない読者もいたようだ。ネットで書評を検索したら、好悪相半ばする内容だった。うすぼんやりとした広海の未来、作品中に起きた事件によって、全てが浄化されるわけではないリアル感のある結末などが、“悪”の理由だろうか。帯や小説の紹介では「“村を売る”」という由貴美の物騒な目的が書かれていたが、読了後の印象では、彼女はそこまでのファム・ファタールではなかった。彼女の美しさ、哀しさが広海に刻んだ傷、穏やかな中に怖さを秘めている大人達、従兄や両親の裏の貌。十七歳が背負うにしてはあまりに重いような経験を経て、優等生広海がこれからどのように変わってゆくのか、読者それぞれに想像させる、余韻を残すラストになっている。
紙の本
これは著者の方向転換か?新境地か?はたまた?
2011/10/31 14:58
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ネットでも書評でも言われている通り、辻村作品らしくない…もしくはこれを新境地とも言うのだろうか。とにかく今までの、ラストに「救い」のある物語とは違ったテイストである。
田舎育ちにありがちな「こんな処に染まりたくない」という反発。都会からやってきた「よそ者」への憧れと劣等感。同年代への冷めた目と、女性への性的興味と恋愛。
つまりは自分は違うのだという優越感と選民意識が溜まり溜まっている最後のスパンが、きっと青春期であったり思春期であったりするのだろう。
それを一度過ぎてしまえばどっちつかずであった彼(女)らは外に出るなりうちに留まるなりして自分の生きる道をひたすら歩いていくことになる。そうして「大人たち」になっていく・・・。
辻村氏の描く小説の主人公の多くは都会出身ではなく田舎出身で、家族やその周囲の環境、田舎の閉塞的な集団生活を卑下しているのだが、自分自身を映し出したような主人公を描き続けてきた著者のこと。もしかしたらこうした感情も(一般論というだけでなく)身に覚えがあるのかもしれない。
舞台である睦ツ代村は過疎化からロックフェスを開催することをきっかけに、言ってみれば村興しに成功した山間の古い集落である。フェス(ムツシロック)の効果により周囲の村と合併することも無く存続できるほど裕福になったこの村では選挙も無投票で代替わりするほど何事も無く平和な日常が続いている。
フェスの価値も意味も理解せずただ経済的恩恵を受けているだけの村の中、湧谷広海とその父、現村長である穏やかな飛雄だけは心から音楽を理解し愛していた。
何も起こらない日常と閉じた村社会に嫌悪しながらも、それを全否定し出て行けるほどの覚悟も気概も無い広海だったが、その年のフェスで睦ツ代村出身の落ち目の女優、織場由貴美に出会ったことで急激な変化を遂げる。彼自身が言う通り、「魅せられてしまった」というわけだ。
母親の葬式以来である彼女の来訪は瞬く間に村に広がり、村の開発を勧めた家のドラ息子をはじめ多くの野次馬が彼女に群がる。そして彼女自身はまるで興味がないかのようだが、なぜか村に留まっている。
偶然湖のほとりで由貴美に出会い、よりによって村長の息子である広海に彼女は「村を売る手伝いをしてくれない?」と意外な提案を持ちかける。そして村ぐるみの隠し事と、病死とされた母の死の真相と、不正選挙と大金が動くことを、それに誰より村長である広海の父をも関わっていることを暴き、呪わしい自分の過去と出自への復習を遂げたいと広海にもちかけた。彼女の真の目的が何なのか、彼女の言っていることが本当に真実なのかどうか。それは最後に一気に明かされるのでお楽しみ頂きたい。
主人公、広海の周りには単純明快、数種類の人間しかいない。
村に染まり生涯そこに留まるものたち。村の秘密を知りながらも隠蔽し続ける大人たちがこれにあたる。
村を捨て否定するもの。悪意すらもって復習する由貴美や最初から眼中に無いドラ息子がそうだ。
そして村を嫌悪しつつも否定しきれず村から出ることが出来ずにいる広海やその従兄弟、友人たち。
ただし。
物語が全て終わった時、そこに残っているのは結局村から逃れることが出来ない者だけだ。
それが全てなのだと。何ものから逃れることも決別することも出来はしないのだと改めて思い知る。
田舎や閉塞的な社会を卑下するもの、何も変わらず何もしないことが良しとされる世界。そうしたものから脱皮して自分は違うのだと信じ込む若者は少なくない。
また、自分が選ばれた人間だと思い込み他人を卑下する幼稚な時期も一度は通る道だろう。
彼、広海の場合は、たまたまそこで「自分を選んだ人」が村に復讐を誓う由貴美であり、村の開発や選挙と言った大事が絡んできたため「事件」となっただけのこと。
この物語はなにも特別なものではない。 誰もが一度は体験したことがあるであろう・・・幼稚でどす黒く、無知な頭の中に様々な感情が湧いては消える、そんな一瞬の物語なのである。
最後に、全てが終わった数日後。彼は「行ってきます」といって学校へ向かうと嘘を言って家を出る。
彼がその後どうなったのかは語られぬままだ。
けれど、彼は「行ってきます」と言ったのだ。
その言葉はいつか帰ってくることを私たちに予測させるに十分である。
行って来ます。行って、帰って来ます。