紙の本
読む本ごとに、印象が様々です。やっぱり……幅が広いんですね。
2012/03/04 20:29
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紅葉雪 - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公・風祭翔のところに父親が急死した、との連絡が入る。
ただ翔にも色々事情があり、帰省が出来たのが、父親の死後一か月も経ってからだった……というところからして、なかなか一筋縄ではいかない出だしだ。
翔はそこで、父親の代わりに、「任期が切れるまでの」3か月だけの間、病院の理事となることに。
ところがその病院は、なんと倒産寸前。身売りの話までもが出始めていた。医師でもなく、さらには病院のことなど右も左もわからない「ド素人」の翔が、なんと病院の業務改善に取り組む事に…。
相変わらずの、綿密な取材に裏打ちされた「総合病院」の世界の描写。総合病院の世界のあれこれを知って「そうなのか」と目が点になることも。問題点の目の付け所も素晴らしい思う。
しかも本作品は、今までの福田さんの「クライシス」ノベル系の、ハードなイメージとは全く異なる。
カバーの絵からも推測できる通り、読了した感想は、あっさりとライトな感覚で、すいすいと軽快に読めたというところだろうか。
きっとそれは、主人公の翔が、さまざまな人の助けをかりて、右も左もわからない病院経営と格闘するという、どちらかというと翔の成長に主軸がおかれているからだと思う。
もちろんそこに、「紛失したアンケート用紙のなぞ」や、「突然に退職した産婦人科医長」の謎などを絡めながら、だがそれもすべて「病院の業務改善」に関わる伏線として話がすすんでいく。
翔が理事として病院にいるのは三か月のみ。その間に、経営改善をしなくてはならない……。
実は。
読む本ごとに、受ける印象が変わる作家さんがいる。もちろん読み手の自分が大変に我儘な読者であることが、大きな一因だとは思うが。
自分にとって、そんな作家さんの代表といえば、恩田陸さんだ。
「とにかく感動した」と思える作品から、「ちょっと苦手かもしれない」……、同じ作者が書いているのに最後まで読めなかった作品も存在する。
好き嫌いがハッキリと出てしまう、とでも言えばいいだろうか。
じつはこの本の著者、福田和代さんが、自分の中でそんな作家さんの「仲間入り」をしつつある。
最初に読んだ福田さんの作品は「ヴィズ・ゼロ」。荒削りながら、緻密な取材に裏打ちされたその舞台に、これは面白い作家さんが出た、と非常に楽しみに思ったものだ。
そして次作「TOKYO BLACKOUT」、これには書評もかかせていただいた。そのあとも福田さんの作品は手に取り続けながら、気が付けば書評を書いたのはその次の「黒と赤の潮流」の一冊にとどまっていた。
理由は単純だ。自分の中の、福田さんの作品に対する期待が大きすぎて、だから納得できない作品、ひいては納得できないシーンと出会ってしまうと、「ちょっとがっかり」してしまう。(もちろんこれは、単に自分が非常に我儘な読者だから、ということを再度繰り返させていただく。)……にも拘らず、作品が出るたびに手に取らずにはいられない。そんな不思議な魅力に溢れた作家さんなのだ。
そんな作品との出会いが続く中での本作。
今までのイメージを完全に覆された、という感じだろうか。
先に述べたとおり、本当に気軽に読める作品だった。
最後に。
実は自分の周辺では、この本のラストに賛否両論あった。
もちろんラストのラストであるし、完全なネタバレになってしまうので、ここではそのシーンに触れることは避けるが。
自分はこのラスト、なかなかに気に入っている、とだけ述べておきたい。
そして。
これから先も、福田さんの作品は読み続けたいと思っている。
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父の急死で、突然病院の理事となった翔は・・・
倒産寸前の病院を立て直す為に東奔西走する翔の目線を通して、現在の病院の裏側が一般人にもわかりやすく書いてあるのは流石。
でも、個人的にはもっとゴツゴツしたやつが読みたいんだな。
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いつもはオトコの熱気がむんむんと満ち満ちた福田さんが描く医療現場は、熱さを極力抑え、無駄に涙や感動を求めない、リアルな世界だ。
院長や理事長や役職を持つ医者の医療に対する考え方や矜持や思惑のいちいちにうなずきながら読んだ。
ご都合主義的ハッピーエンドで終わらないところもリアルでよかった。
「医は仁術」とよく言うが「人術」でもあるのだな、と、この小説を読んで思った。
そして、号泣や大げさな感動を求めない、普段着の医者の姿を多くの人に読んで欲しい
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院長で理事だった父の死をきっかけに、3ヶ月だけ病院の理事を勤めることになった青年の奮闘記。
「神様のカルテ」といい、病院経営&医療の在り方、どうなっちゃうんでしょう。お金のない私は健康に年を重ねられるような努力をしつつ、考える。外国とは違いすぎるので。個人負担が少ないのはいいことなんだけれども。
医師や看護士のワークライフバランスとか、ホームドクターとか、ホスピスの在り方とか東洋医学とか。
軽く読みやすいけれど、テーマは重い。
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病院院長である父の急死で田舎に帰り、理事を引き受けることになった翔は、幸か不幸か、勤め先のIT企業が倒産したばかり…。病院は大赤字で売却先を探しているところ。
本来、父のポストでもあった理事の任期が三カ月だけ残っているから、
ということであれよ、あれよという間に病院勤務になってしまったのだけど、
医者の息子とはいえ、医療に素人の彼にはわからないことばかりで、読んでいてドキドキしてしまった。
同じ理事や院長代行でもある理事長は、高齢だったり、なぜか非常に機嫌が悪かったりで、
あんまり頼りにならないみたいだし、しかも、素人なりに病院の問題点を探ろうとすると
出てくる、出てくる、といった感じに不穏な気配と日本の医療事情のお寒さが。
翔本人の持つ向日性の明るさと、IT企業で培った「企業運営」の数々がとても面白く、
また、弁護士や病院の生き字引・有希ちゃん、一度は退職していた門倉医師、また、東京での同棲相手・有能な美人社長秘書でもある夏樹さんなど、とてもとても力強い援軍の話も楽しかった。
それにしても、日本の医療事情ってどうなってんの???というのが一番の感想かなぁ。
こんな、行き当たりばったりの行政では、医師も患者も辛いだけなのに、もっと血の通った政策を通してくれないと。
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福田和代さんの新作ですが、今までとずいぶん系統が違うので驚きます。表紙のイラストを見ても今までの作品とは違うというのはよくわかります。自衛隊が出てきたり、何かの社会パニックにも起きませんし、危ない謀略サスペンスもありません。話は病院経営の青春小説です。
病気を治すという行為は営利業務となかなかなじまないものですが、病院と言う組織がある以上、そこに働く人がいるわけですから、儲からないまでも赤字にならないように運営しなければなりません。病院自体がつぶれるなんてことがあっては、医療の場と言うことからもあってはならないこと。お医者さんは収入も多いし医療費は保険もあるのだからと思って、なんとなく病院は安泰ってイメージがありますが、この本を読むとそうそう一筋縄ではいかないってことなんだなあ。
最初は福田和代さんの作品らしくなく戸惑いましたが、それはそれで面白かったです。でも、またパニック小説に戻って読んでみよう。
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医療もののエンタメ小説。
テーマとしては病院経営。
ただ産婦人科問題とか貧困ビジネスとか医療被曝とか、わりと医療関係のトピックを総なめした感はある。
逆に言えば、医療に関する問題は膨大なようで、しかし、いま問題になっていることはさほど多くない。いやむしろ、社会が問題としていることは限られている。
この前も『インターセックス』のレビューで書いた気がするけど、医療ものの小説を遡って読み解くことで、ひとつの医療社会学ができる気がする。そのとき、社会は何を医療に感じていたか。
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福田さんの男気溢れるクライシスとうってかわって、表紙からしてなんとも爽やかな作品。普段からお世話になっているけど、あまり内情の知らない医療業界もので、近年問題になっているあらゆることがてんこ盛り。ラストもお涙頂戴の感動ものでない辺りがよかった。連載時は知らなかったが、同じラストならすごいなぁと思ってしまいます。
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扱っているテーマは重いんですが、軽い感じであっという間に読めてしまった。たぶん出てのは全部読んだと思いますが、最近テーマや作風の幅を広げようとしているのか、前の作品と結構違います。このタッチでドタバタユーモア物なんかいけるのではないでしょうか?
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医療小説って、
難解で膨大な情報が盛り込まれることによって、
理解するのが大変な作品になりがちですが…、
福田さんは、素人で、またライトノベルなので、
取り上げた現代の医療問題も理解しやすく、
とても読みやすい仕上がりになってました…。
福田さんのこれまでの作品と比べると、
題材も、作風も、異色な感じもしますが…、
ボクは、好印象を持ちましたね。
取り上げられたいくつかの医療問題について、
自分なりに調べてみたぃなとも感じました…。
ライトノベルとして、面白かったと思います。
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別世界だと思っていた病院について、主人公の翔の目を通して少し分かった気がした。病院も会社と同じように経営問題を抱えている、ということ。ストーリー展開も早くて、楽しめました。
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父親の死で病院経営を突然任されることになった主人公のお仕事小説。今話題のTPPにも絡んでくるかもしれない医療制度の問題がわかりやすく書かれています。面白いです。
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あなたの町の病院があぶない!?
市で唯一の総合病院院長の父親の急死で理事を引き受けることになった風祭翔。
ところが、病院が大赤字で倒産間際であることを知り、医療にも経営にも
縁のなかった若者が経営改善に乗り出すことに…
消えたアンケートの謎、勤務医たちの相次ぐ退職など、トラブル続発のなか、
病院と「医療難民」を救う切り札とは……!? 病院のウラ側がわかる青春お仕事小説!
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本格的な作品が多い彼女の作品の中では、かなりライトで読みやすい。
急死した父親に代わり、病院の理事に期間限定で就任した主人公が、周囲の協力を得て、病院再建に乗り出す。病院の裏事情も分かりやすく描かれ、エンターテイメントとして楽しめる。
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表紙からしてちょっとひく感じではありましたけれど、軽い!
福田さんでなければ別段可もなく不可もなく、というお話だけれど、福田さんですから、やはり期待してしまう分、残念かな。
初期の頃のような硬質なものが読みたい。