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紙の本
心の中で、何かが解き放たれる。
2011/02/10 10:30
10人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ルーティーン - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヘルマン・ヘッセ
彼そのものは、好かない。
現にこの時代にも、才能や正確な眼を持っていようとも褒める気の失せる人間が居るだろう。彼は何もかもを持っていて、そして何も持ってはいなかった。根拠の無い自信家で、夢想家で、彼は陶酔するほど自身が大好きだった。彼の自殺願望は寧ろそれが原因の一部であり、それを証明していたと言ってもいい。
だが、それも本書のピストリウスが語りジンクレエルが最も感銘を受けたとする"ことば"に因果する。私自身をも見透かされている。本書は名言の宝庫であり、今回私に一番響いたのは彼同様その言葉だった。
何が言いたいのかというとヘルマン・ヘッセを好きだと思った人は、私のことを好いてくれる可能性が大いにあるということである。
一向に純粋で、美しく、だからこそ重苦しい。ピストリウスとの日々、そして最後の約30ページは心の奥底で何かが弾けるような、いやされるような、それでいて救いがないような、悲しみと愛しさに溺れるようだった。
この本は読み手の経験や性格、現状況、視点等によって響く箇所も違ければ、同じ箇所であっても感動の覚え方も違うと思う。様々な角度から違った色に見える、まるでプリズムのような本。
しかし、それら全ては同じところへ向かっている。本質は、変わらないのだ。
再びこの本を手にするのは、もう少し経ってからにしようと思う。その時、私はこの本の美しいことば一つ一つにどんな想いを寄せるのか、今回とはどのように違った発想を見出せるのか、そんな期待と不安を抱きながら、時期を待とうと思っている。
最後に、新潮社の翻訳がいいと言われているが…この岩波の実吉さんの翻訳の方が自然で、彼の言葉に近いと感じた。ただ単に私自身の好みだったのかもしれない。個人差があると思うので一度どちらにも目を通してみては。
紙の本
少年像がナイーブ
2002/02/11 12:55
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くろこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
なんと言うか、ミステリアスなお話です。主人公の少年・シンクレールに近づいてくるデミアンという謎の少年。物語はシンクレールの視点で描かれます。
少年が抱いている、思春期独特の正体不明の不安、漠然とした恐れや悩みがストレートに表現されていて、人の思考や内面が鋭く書かれていると思います。ヨーロッパ的なのかどうかはわかりませんが、描写がすっきりしていて綺麗です。
道徳的というか、教養的な小説だなと思いました。
紙の本
魂を導く本
2001/03/29 10:36
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:桐矢 - この投稿者のレビュー一覧を見る
再再読である。はじめて読んだのは中学生だったろうか、高校生だったろうか。その時からデミアンとアプラクサスという名前が私の頭の奥底に住み着いた。
そもそも、私はめったに再読をしない。読むべき、読みたい本がありすぎて、一度読んだ本を又読む時間が惜しいからだ。
去年文庫本で見つけて再読し、感想を書こうとぱらぱらめくっているうちに結局もう一度読んでしまった。私の頭の中に住み着いていたアプラクサス(善悪併せ持つ神の名)は、思っていた以上に、私に影響を及ぼしていたらしい。お恥ずかしいことに、はじめて書いた小説(未刊行)のテーマがこの世は善と悪を併せ持つというものだった。その時は、自分なりのオリジナルな主張のような気がしていたが、これもアプラクサスのささやきだったのかもしれない。
そして、再読で見方が変わった部分もある。最初に読んだときは、主人公のシンクレールを導き、生涯の友人ともなるデミアンを、私自身シンクレールと同調して読みながら、なかば神化していたらしい。今回読んで、人と違った「しるし」を持つデミアンが、どんなに孤独か、そして内面には悩みも矛盾も抱えていただろうと素直に思える。だから、デミアンがシンクレール(同じくしるしを持つ者)を見出したときの、喜びの大きさが実感として分かる。
それにしても、ラストは、切なく、深く、感情をおもいきり揺すぶられる。この小説は、ただの自己実現に悩む青年の回想録ではない。善と悪だけでなく、思考と感情もまた、共存することが出来るのだ。