紙の本
☆ピアノを科学する☆
2022/11/28 23:39
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ACE - この投稿者のレビュー一覧を見る
ピアニストは、もちろん天性の才能も必要ですが、毎日の地道な努力のお蔭で、ピアノを弾くのに適した身体構造、脳機能等を構築していっていることを、実験データを交えて解析されているところが、他のピアノ教本等にはない点で面白かったです。
この本を何度も読み返して、自身の練習方法も見直すと、思わぬ効果が生まれるかもしれません。
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【第1章:超絶技巧を可能にする脳】
ピアニストの洗練された動きの1つの要因は《脳》にある。
確かに、生まれた時は誰もが同じ状態であるが、早い段階からの教育によって、ピアニスト特有の脳(手指等への信号の伝達が強くなり、沢山の情報を処理できるよう省エネ化される脳)へと発達していくことが分かった。
早期教育がこの様な脳への発達を促すのによく役立つが、大人になってからであっても脳の機能を引き上げることがある程度可能であることも分かった。
重要なのは、鍵盤を触っているときも、触らずにイメージトレーニングをするときも、ピアノと脳を結びつける時間を多くすることであろう。
【第2章:音を動きに変換するしくみ】
ピアニストは、素人音楽家に比べ、音楽を過去に、現在に、未来に幅広く音楽を見通す力があることが分かった。この力が、即座に演奏できる能力、演奏に表現を膨らませる能力、ミスをカバーする能力等を支えているのだと思った。
聴覚を掌る場所だけでなく、身体の動きを掌る部位でもピアニストの脳が反応していることに驚き!
【第3章:音楽家の耳】
音楽家に求められるのは《高い演奏技術》だけではなく《良い耳》も重要であることを、実験記録等を通して解説していく。
【第4章:楽譜を読み、記憶する脳】
演奏をする上で大事な《楽譜の読み取り能力》について、ピアニストはどのように素早く、正確に、沢山の情報を読み取り、かつ、その情報をどう運動機能に反映させているか、また、楽譜の情報をどのように記憶しているかを繙いていく。
【第5章:ピアニストの故障】
ピアノ演奏に付き纏う、心身の故障についての話です。
【第6章:ピアニストの省エネ術】
1日に何時間も練習をこなし、本番では何曲も弾きこなすピアニストの手や腕は、疲れ知らずなのか?
この答えのキーワードは《省エネ》にあった。
アマチュアは正確な打鍵を意識しすぎるあまり、筋肉を硬直させて演奏してしまうようだが、その硬直自体が無駄なエネルギーとなっている。正しいフォームから腕のしなり、打鍵直後の脱力等が、《疲れ知らずのピアニスト》の武器であることが分かった。
図解もあり、アマチュアがいかにエネルギーを無駄にしているかがよく分かった。
【第7章:超絶技巧を支える運動機能】
ピアニストの速く正確な打鍵はどのように確立されているのか。
手指の独立性が音楽家でない人と比べると高いことはわかってはいたが、身体的構造だけでなく、長年の練習の積み重ねにより、脳からの洗練された伝達回路により、全ての指がむらなく独立性を維持できるようになったことが分かった。また、指先だけでなく、肘等の腕全体の動かし方も確立していったことが分かった。
それにしても、「練習時間1日当たり3時間45分」の壁は、アマチュア演奏家にはなかなか厳しい壁ですね・・・
【第8章:感動を生み出す演奏】
音色を自在に操るピアニストのスキルについて触れていきます。
紙の本
話すように弾いている
2020/09/22 18:09
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:翔 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ピアニストは、話すように弾いているというのが一番印象に残っています。あらかじめ次に話す言葉を念頭に置きながら、今話す言葉の口の形を自然に変えるというのが話すときに起こることです。それと同じように、ピアノも弾いているみたいです。
紙の本
凄く納得
2022/03/22 15:10
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ピーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
難しい本かと思って覚悟して読み始めたが、とても分りやすく、しかも著者もピアノを弾かれる方なので的確な表現。
ピアノを弾くものにとっては当たり前に思っていたことが、実は永年の間に培われた特殊能力的?!ものだったと再発見して引き込まれた。
これを読む限りでは、ピアノを練習することは、脳の刺激に欠かせないことだと感じて、より練習に励もうと思った。興味深かった。
紙の本
ピアノ×人体工学の入門書
2021/08/30 01:02
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たまご - この投稿者のレビュー一覧を見る
ピアノの演奏技法×人体工学、ピアノにまつわるメカニズムにまつわる既往研究を豊富なイラストでわかりやすく紹介してくれている。章立ててはいるが厳密に体系づけられているわけではないので、あまり順番にとらわれすぎずピックアップして読むことも可能で、総じて読み易い。他方、論を受けて、では具体的にどういった練習を積み重ねていけばよいのか、トレーニング方法やメソッドを書いているわけではないので、詳細を知りたければ引用されている文献を辿っていく必要もあり。
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ピアニストって、1分間にすごい数の音符を正確に打鍵するし、長い時間の曲の譜面を覚えて演奏しているし、さらに感情豊かにいろんな音色のタッチができる、、、それって、どうしてだろう、、、小さいころから習っている訓練と言う要素だけなのか、そうじゃなくってピアニストとその脳の関係はどうなっているのだろう、、、そんな話の本です。と言う事ですごく面白い本でした。私のように50過ぎにピアノを始めた人には、小さいころからやっていたほうがよかったと思うようなこともあるだろうけど、それはそれで大丈夫。直近の10年間のピアノ練習が多い人は加齢の影響も少なくなるとのこと。まあ、年相応に楽しんで、脳を使いましょう(^^)
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脳科学のエビデンスを背景にしたピアノ演奏の神経生理学的側面にカンする概説。経験的ノウハウの裏付けが得られる場合もあるし、新しい知見もある。練習するときに知っておくと便利かも。
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ピアニストの脳と身体の使い方について分析・解説した本。タイトルに脳科学とあるものの、専門的な話は少なく、あっても大変読みやすい内容なので、プロ・アマチュアのピアニストに限らず、音楽愛好家であれば気楽に楽しめる内容だと思います。またピアノを弾く人にとっては、練習にも役立つ内容だと思います。
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ピアニストではなくても非常に参考になる本だと思う。
脱力などの定義が客観的で明確。
そして、なによりも演奏障害についてジストニアをしっかりととりあげている。その治療法や予防法もある程度の知識を得ることができる。
一般的に音楽教師達の間で言われてきたことも、科学的に裏付けがとれる部分なども多いのだなあ、となるほどと思った。
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ピアニストの脳と身体が、いったいどのような働きをしているのか、さまざまな実験と調査を駆使して探究された本。読みやすく興味深い内容でかなり面白かった。子どもに小さいうちからピアノを習わせてみようかと思った。反面、ピアニストの3大疾病(腱鞘炎、手根幹症候群、フォーカル・ジストニア)と言えるものがあるからちょっと迷うけど。
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毎日10時間練習をしていても一度も身体を痛めない人もいれば、4時間でも手を傷めてしまう人もいる。単なる使いすぎが手や腕を傷めるのではなく、、現在主流になりつつある考え方は、不適切な身体の使い方や弾き方が身体を痛める引き金となるというものだ。たくさん練習して、もっと上手くなりたいと願うピアニストが、身体を痛めずに健やかにピアノを引き続けていけるように、正しい身体の使い方を研究したり、どうすれば筋肉の不必要な仕事を減らせるかについて著者は研究している。
ピアノを毎日4時間弾いたとして、1年間で手が移動する距離は、およそ490kmと言われている。これは東京と大阪を結ぶ直線距離が515kmなので、それに匹敵する距離をピアニストは1年かけて手で移動しているようなものだ。フルマラソンが42.195kmだから、ピアニストの手は1年に10回以上もフルマラソンに出場していることになる。私達はともすればピアニストの指の動きの素早さに目を奪われがちだが、ピアニストになるためにはこのような並外れた持久力も必要となるということだ。ただし、持久力といっても、マラソン選手のように心肺機能を高めることが必要というわけではない。手や腕を動かす筋肉が疲れにくいこと、つまり、筋肉の持久力が必要ということになる。
身体を動かす際、まずは脳が筋肉に指令を送り、筋肉を収縮させる。このとき脳から筋肉に送られる指令にはノイズが混ざる。ノイズの量は筋肉が大きな力を発揮するときほど増えるという性質がある。たとえば、ボールを投げる速さを速くするにつれてコントロールが悪くなるのは、速く投げるときほど筋肉にたくさんの指令を送るので、そこに混ざるノイズも増えてしまうためとされている。したがって同じ速さで手を動かすとしても、もし筋力をあまり使わなければ、ノイズの量も減り、より性格に身体を動かせるはずだ。これはまさに、脱力の話である。ピアニストは重力や腕のしなりを活用し、筋力をあまり使っていない。これによりノイズを減らし、狙った音量で正確に打鍵しやすくしているのだ。ピアニストが脱力して打鍵するメリットは、単に疲労を避けるためだけではなく、正確に打鍵することともつながっている。
毎日何時間練習すれば、演奏技術をキープできるのかといった実験も行っている。2年間の実験の結果、2年後に正確に演奏するスキルを向上させることができたのは、1日平均して3時間45分以上練習していた学生であることがわかった。逆にそれ以下の時間しか練習しなかった学生は、演奏の正確性が低下していた。このことから、1日あたり3時間45分というこの平均時間が、ピアニストが演奏技術を維持するために必要な練習時間だと研究者は結論付けた。それに加えて、1日の総練習時間を同じにして、時間配分を変化させた場合、1回あたりの練習時間が長いピアニストほど本番で良い演奏ができるようであったと結論付けた。休憩を挟んで何回かに分けて練習するよりも。
最後に、音楽家は偉大な作曲家の遺した音楽を現代の世の中に再現できる唯一の存在だ。音楽を奏でられる人がいなければ、いくらすばらしい音楽の詰まった��譜があっても、誰も生の音楽を鑑賞することは出来ない。音楽家は文化の担い手であり、音楽家の健康な演奏活動を守ることは、ひいては人類のかけがえのない文化資産を守ることだといえる。音楽家と音楽演奏についての正しい理解が深まり、世の中に素晴らしい音楽がより一層あふれるようになることが著者の願いと締めくくっている。
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ピアニストと脳の関係。
わかっちゃいるけど、幼少からの教育は大事な訳ですね。
そして深刻なのが、指が上手くうごかせなくなる病気に、この脳が関わること。腱鞘炎だけが指の病気ではない。
改めて、脳の不思議、ヒトの身体の奥深さを感じました。
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音楽の訓練を受けてない一般人から見て、ピアニストの特殊とも言えるあの能力は何なのか、脳の中で起こっていること、一般人の脳との違い、どうやって身につけたものなのか、手や腕の筋肉がどう動いているのか、というピアニストの身体や脳について解説した本。著者は医学の専門家らしいが、著者自身「ピアニストを夢見た時期があったほど」(p.ii)ピアノが弾ける人でリサイタルにも出たりする?人。ただ「大学生になり、ピアノの練習で手を傷めてしまった」(p.241)らしく、そこから「音楽演奏科学」という分野を開拓したらしい。
ピアノの先生が、おれが持って行った楽譜を初見でスラスラ弾くのが驚愕で、おれなんか譜読みに時間かかって仕方ないし、その後もおんなじところをアホみたいに練習しまくって、それでも弾けるか弾けないか、という感じなのに、あれはどういう能力なんだろう、というのをずっと思っていたので読んでみた。
これは子育てとかする人だったら読みたい本かなあ。例えば「指を素早く動かすための脳の発達」(p.16)という点では「11歳までの練習時間に比例」(p.17)するということで、12歳以降だと効果は激減するらしい。(「大人になってからの練習はムダではない」(p.19)という項目がその次にあって、希望を持たせられる内容かなと思ったら、「ムダではないけど難しいし、指が速く動くだけがピアノのうまさではないよね?」という話をはぐらかされる感じで、ちょっとガッカリしてしまう。)そして「音のピッチやタイミング、ハーモニーを聴き分ける能力」に関しては「7歳までにピアノを始めた人と、7歳以降にピアノを始めた人では、前者のほうが聴覚野の神経細胞の数が多いことが知られています。音感は9歳までにほとんど決まると言う意見もありますし」(p.70)ということだから、大人になってからこの本を読んで自分を振り返っても後の祭り、という感じ。というかおれはたぶん幼稚園から小3の途中までろくに練習もせずにダラダラ習ってたけど、もっとちゃんとやっておけば良かった、という話。とは言え、今度は加齢の影響という話で、「現在からさかのぼって過去10年間のピアノの総練習時間が多い人ほど、この加齢の影響が少なく、手指をより機敏に動かしたり、両手の動きを巧みに操作できる」(p.208)ということがあるらしい。…と言っても、そんなに手指や両手を巧みに動かす場面って日常であるんだろうか??モノを落としたりしなくなるのかな?
あと、ピアニストの能力については、例えば「言語をつかさどる脳部位(言語野)は、音楽を処理するためにも働いています」(p.78)ということなので、言葉のニュアンスをよく聞き取れる?とか、「音楽のレッスンを長期間受けることで、IQが向上する」(p.86)とか、想像できそうな話が結構出てきた。「ちなみに、演劇のレッスンを受けていた子供たちはどうかというと、『他人との協調性が特に向上する』という結果が出たそう」(同)っていうのが面白い。じゃあ子供には音楽と演劇と両方レッスン受けさせようかな、とか思ってしまう。
そして著者の主要な関心事でもある、ピアニストの故障について、おれはあんまりピンとこないけど、色々あるらしい。スポーツ選手のイップスとか��あるいは声で仕事する人が仕事の時だけ声が出なくなるとか、そういうのと似たような「フォーカル・ジストニア」というのがあるらしい。脳が指や腕に指令を送り続ける状態を過度に継続して「一線を超えて変化してしまった脳の状態」(p.131)ということらしい。パソコンとか打ちまくってもこういうことにはならないのだろうか??「1日の練習時間が4時間を超えると、手を傷めるリスクが増える」(p.143)とか。
あと普段の練習に役立つ話としては、まずイメージトレーニングだけでも十分効果がある、という話。「たとえば4泊5日の旅行に出かけて、その間まったくピアノを弾けなかったとしましょう。しかし、旅先で毎日イメージ・トレーニングをし、帰宅してすぐにピアノを2時間練習すれば、指を動かす脳の働きに関しては、5日間毎日家でピアノを練習していたのと同じ程度まで向上する」(p.24)そうだ。へえ。おれみたいな初心者でも、効果のあるようなイメージトレーニングは可能なのだろうか?あと「大きい響かせる音を出す」時に、体重をかけてやれ、みたいなことを最近言われて、先生もやってくれるのだけれど、なんとなくしか出来ない。これで納得したのが、「ピアニストは大きな音を鳴らそうとするときほど、上腕の動きにより強くブレーキをかけ、肘から先をより強くしならせていました。一方、ピアノ初心者は、上腕や前腕の筋肉をより強く収縮させることで、より大きな音を鳴らそうと指先を加速させていました。」(p.167)という部分。確かに。結局指の力に頼っちゃうので、仕組みの違いは分かった。けどその肩の筋肉を使ってブレーキをかけるって、どんな感じ?と思っちゃうけど。
あとは「学校教育には音楽が必要」(p.83)のところは付け足しみたいになっているが、『音大崩壊』という本でも書いてあったけど、この部分がもっと世間的に知られるべきだと思う。大学受験で音楽とか課せばいいんじゃない?みたいな。
最後に「音楽を聴いて鳥肌が立つ?」(pp.232-3)の話が面白い。これはピアニストの話ではなく、一般的にみんな、ということだと思うが、「たとえば、ラフマニノフの《パガニーニの主題によるピアノ協奏曲》で、第18変奏の甘美なメロディに感動する人がいるとしましょう。この場合、この変奏に入る直前に『来るぞ来るぞ』と思って期待する脳の働きと、その後、『来た!』と感動する脳の働きのそれぞれで、脳がご褒美を得られるわけです。サビやクライマックスの直前で、少しテンポを遅くするピアニストがいますが、これは、聴き手が感動を予測することで得られるご褒美を増やそうとしていると言えるかもしれません。」(p.233)というのは、なるほど、という感じだった。そうか、やっぱり好きな音楽を聴いている時はドーパミンが出てるんだ、と思ったり、確かに好きな部分の前に「来るぞ来るぞ」は思っているよな、と思って、納得した。
譜読みの話はあるにはあったが、譜読みの速さやそれを実現する能力がどういうものなのかという話はあんまりなかったような?
いずれにせよ、『音大崩壊』もそうだけれど、ピアノを弾く人はこういう身体的なことや脳のことも知っとくべき知識なんじゃないかなと思った。結構すぐ読める本。(23/01/31)
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ピアニストが超絶技巧を駆使できるのは、長年に渡る長時間の練習により脳が変化しているからだという事を、様々な実験を通して結論付けている。ピアニストの卓越した技術と脳の働きの関連性を研究した大変興味深い内容であり、ピアニストを目指す人は必読の一冊。
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ピアニストにしろスポーツ選手にしろ、何かを極めている人は脳のつくりも変わっていっている、という話。
こういう話を読むと、自身が思って意識して行っていることって案外少なく、無意識に脳に支配されていることって多いんだなと再認識する。
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経験的事実に科学、工学的な分析を加えて数値化している点が非常に新鮮でよかった。論文等を検索してみると、たまに音楽の計測制御のような文献が見つかるが、成書としては少ないので、良い文献。感覚的には「まああたりまえかな」とおもうことも、数値化して、何が何倍違う、となると具体的かつ一義的となるので、目標を立てやすい。
本書のような計測を個人で自宅ではできないだろうが、何かと参考になった。脱力に関する記事は特に参考になった。おかげで少しアレルギーが軽減したような!?