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紙の本
はじめの一歩に最適
2012/02/10 00:04
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:想井兼人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
2009年、フランスの人類学者クロード・レヴィ・ストロースが鬼籍に入った。1世紀におよぶ人生で、研究にいかほどの時間を費やしてきたのだろうか。彼が世に示した数多くの著書は、研究人生の一端を示している。彼の惜しまれる死は、勝手ながら著書の文庫化に繋がるのではと期待を持たせてもくれた。本書はその一冊と言えよう。彼の研究人生からすると、ほんのささやかな一冊なのかもしれない。
本書はカナダ太平洋沿岸の先住民ツィムシアン族の神話に関する研究である。研究の目的は2つ。1つは神話が展開してゆく様相を、地理・経済・社会・宇宙観といった様々なレベルで抽出して比較検討すること。もう1つは同一神話の相異なる伝版の相互比較であるという。取り扱った神話はアスディワルを主人公とする物語。まず神話の基本版の概要を紹介し、それからその分析を実施。そして、伝版の分析へと論は展開する。
この1つの神話の分析により、神話的思考の1つの特性が示された。それはある神話的シェーマが他方の住民に伝達される時の特性である。2つの部族間に言語・社会組織・生活形態に相違があり伝達に困難が伴う場合、「神話はまず貧弱になり曖昧になる」(118頁)という。そして、伝達がさらに進んで臨界点を超えると神話はその精密さを取り戻すような経路を捉えることができることも指摘している。彼はこの様相を、光学的現象を例えにして示している。このような例えをさらりと挟むところに、レヴィ・ストロースの学問が広く世間に浸透している要因があるのかもしれない。
本書は全4巻からなる『神話論理』(邦訳では全5巻)や『構造人類学』などと比べると認知度は劣ると言えよう。しかし、レヴィ・ストロースが確立した構造主義的思考の基礎が凝縮された好著であることは間違いない。レヴィ・ストロースの神話学の、そして構造主義の入門書として一読をお薦めしたい。