紙の本
天国への見果てぬ夢を紡ぐひとの巨人的な幻想の産物
2012/02/19 12:20
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投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
76歳になる主人公の父親を執拗につけ狙ってきた87歳の元保安官代理は、コルト45の凶弾を胸にぶちこんでついにその黒い宿願を果たすが、58歳の息子であり作家でもある主人公の20口径のウインチエスター銃の3発の散弾を浴びて息の根をとめられ、親の因果が子に報いる因縁の復讐劇はとうとう幕を下ろした。
しかしいかに元警官が冷血漢で、己の愛人を寝取られ、その殺人の濡れ衣を着せられたとはいえ、およそ半世紀に亘ってその憎悪と殺意を持続し、あらゆる困難にもめげずにその復讐を貫徹できるものだろうか? 恐らくその凶悪な暗殺者の悪への暗い情熱は、同伴し続けた作者の内奥にも不気味に蠢めいているのであろう。良きものを大切に育もうとする作者の善き情熱と同じ重さで……。
哀れ我らが主人公は、父親ばかりか最愛の息子も事故で失う。そして父親の親友で主人公の親代わりだった偉大な樵ケッチャムの悲愴な最期、9.11後の母国アメリカを覆い尽くす亡国現象……相次いで襲いかかる死と人世の虚無と無常を、著者はこれでもかこれでもかと描きだす。そう。作者に指摘されるまでもなく、世界は確実に死と滅亡に向かっているのだ。
しかしながら極寒の吹雪の大空から天使が降臨し、絶望の淵に沈む主人公に愛の光を注ぎ入れるささやかな奇跡は、私たちがかつて映画「ガープの世界」の冒頭で見たみどり児のほほえみをただちに連想させ、まるでダンテの「神曲」のように地獄と煉獄をさすらうこの神話的な長編小説が、天国への見果てぬ夢を紡ぐひとの巨人的な幻想の産物であることを思い知るのである。
冬空の下、もういちど物語の素晴らしさを信じ、もういちどそれぞれの「人生の大冒険」を始めよう、と説く作者の孤独なアジテーションが、ボブ・ディランの嗄れ声のように寥々と鳴り響いている。
宙天に孤鳥嘯く冬の朝 蝶人
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やはりアーヴィングは面白い。ニューヨークタイムズ紙のミチコ・カクタニが「この作品はアーヴィングの特徴のショーケースである」と言っているように、これまでのアーヴィング作品を思い出しながら、面白く読めた。後半、時系列に沿わなくなってからもアーヴィングらしい周到さで話が見えなくなることはなかった。また時間をかけて少しずつ詠んだが、アーヴィングは詳細に書き込む作家だから、時間がたっても細かい部分を忘れることもなかった。登場人物が死んだと書かずに過去形で語るところなどは、スタインベックの書き方を彷彿とさせる。物語を組み立てていく描写は、アーヴィングもこんな風に書いていくのだろうかと興味深く読んだ。
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ダニーの逃避行の後半生。
上巻の最後に、いよいよカウボーイがやってくると思わせておいて、またここからが長い。 しかし、一つひとつのエピソードが厚みがあって面白い。作家の自伝ではないそうだが、この圧倒的なリアリティは何なんだろう。アメリカ反骨精神の魂柱のようなケッチャム、逞しい女達。アメリカ北東部からカナダにかけての自然のイメージと共に堪能した。
歳をとっても枯れない登場人物達に喝采。
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初めて読む「巨匠」ジョン・アーヴィングの作品でした。そもそも祖母からの贈り物。本の帯通り、父と息子の逃避行物語です。新鮮だったのは主人公が従軍はしていないが、ベトナム戦争の時代を生き、また9.11のテロの時代も生き、その当時の主人公の主観が本に描かれていること。いままでのアメリカ文学にはなかった視点だと思いました。
なかなか辛い人生を歩む主人公ですが、必ず誰かが主人公を支えていて、それは自分にもきっと当てはまるのだろうなと自然と思えてしまう、そんな素敵な作品でした。
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下巻ではドミニクの息子ダニーを中心に物語が進む。
ジョーが二歳のときに道路の真ん中で死にそうになったことを題材に小説を書いていると、すでに成人になったジョーが恋人と雪崩事故に巻き込まれて死んでしまう。
自分の体験をもとに物語を紡いでいくことは「事故の起こりがちな世の中」にとってすごく危険だと思う。
ケッチャムの手が『第四の手』のエピソードを思い出したり、ジョーの死に方が『ガープの世界』に似ていたり、アーヴィング独特な世界観が盛りだくさんだった。
解説でアーヴィングが癌で手術をし、再発率が30%だと書かれている。すごく心配。次作も来春に決定していて『In one person』というらしい。楽しみ♪
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ジョン・アーヴィングの本を読むのは初めて。
上巻の最初、読み始めはなかなか物語の世界に入り込めなかったけれど、3分の1を過ぎたくらいからページを繰るてが速くなった。
驚くほど人が死ぬ。
でも本当は死はありふれたもの。
大切な人を失った喪失感が見事に描写され、胸に迫る。
失ったときの衝撃。そのあとに続く日々。
埋めることできない悲しみを抱えながらも、新しい人と出会い、希望をつないでいく。
もっと早くこの作家の本を読んでおけばよかった。
自伝的な要素を含んでいるみたいて、今までの作品を読んでいたほうが楽しめるように思った。
他の作品を読んでから、もう一度読み返したい。
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最後まで読んで、モヤモヤが取れた。
もしかすると、映像化した方がうまく伝わるかもなぁと思った。
料理の描写がアメリカ小説としては最高(笑)
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田舎の小さな町で暮らすコックと息子に起きた事件。そしてそこから始まった逃避行のおはなし。
場所を変え、職業を変え、名前を変えて逃げる親子。
そしてそれゆえに生まれる悲劇と人間模様。
相変わらず、翻訳本どくとくの言い回しや表現に慣れるのには時間がかかったな。やっと読み終わった・・・と思っちゃった。
冒頭から死と悲劇のニオイがぷんぷんで、途中ちょっと滅入ったりもしたけれど、それでも、逃避行の合間にある親子の幸せを思いうかべながら読み終えました。
たくさんの登場人物の中で、一番心に残ったのはケッチャムかな。
ずっと2人と「家族」であろうとしたケッチャム。
なんとなく、あったかかった。
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翻訳があまり上手でなかったので、読みにくかった。けど、ストーリーは素晴らしかった。英語で読めたらもっと楽しめたんだろうなと。
「ときとして、人は我々の人生のなかにいとも簡単に落っこちてくるーまるで空から降ってくるかのように、あるいは天国から地上への直行便があるかのようにー同じようにとつぜんに、我々は人を失う、常に自分の人生の一部だと思っていた人を」
この一説がこの小説のテーマでした。
それからラスト。ネタバレになるかな?もう一回最初から読み直したくなるラストです。
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久しぶりにいい物語を読ませていただきました。歳をとるのも悪くないなと思える小説だった。数ヶ月したら再読したい。
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やっと読み終わった!
J.アービングらしく、相変わらず長いんだけど、それゆえに登場人物に親近感が湧いてくる。
家族の一員的な視点で読んでる。
父子の長い物語。
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下巻は上巻に続く第三章の途中、新たなドラマが展開する場面から始められる。
ここから先は、特に時代を前後する回想シーンが多く挿入され、過去の出来事の整理に加え、作家となったコックの息子ダニエルの作品内容と共に、今後の展開への予感が強く示唆されていく。
「事故が起こりがちな世の中だ」とコックのドミニクが呟くシーンがあるが、まさにそのとおり。1983年にヴァーモント州を離れ、故国アメリカを離れカナダのトロントへと向かうコックの父子。
そして、物語の舞台はオンタリオ州の湖に浮かぶ小島を経て、元のニューハンプシャー州の山奥、コーアス郡へと向かう。
最後に明かされていく、いくつかの真実と人の生死。最後まで読み手の心をとらえながらドラマを展開させていく手腕はさすが。物語を陰で動かしていくケッチャムという人物の存在が重要なモチーフとなっている。
何よりもこの自伝的な作品の中で、アーヴィング自身が自身の創作手法を明かしているところが興味深い。作中の主人公の一人、アーヴィングの分身と思われる作家・ダニエルを通して、事実をフィクション化する方法について詳細に語っているのだ。
メモの作り方、作中エピソードを書きとめる方法や、最終章の一文(結末)を見通してから物語を作り込んでいき、第一章にたどり着いていくといういったところなど創作秘話満載だ。昔からのアーヴィング・ファンにとっても、生い立ちからその女性遍歴、あるいは政治姿勢など、ゴシップ満載の内容で楽しめること請け合い。
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この人の小説は、読み終えるといつも、ああたどり着いて本当によかったあ〜と、「物語を読む至福」を感じる。長ければ長いほど。
今回も、最後の1行にたどり着いた時、ああ、ここまでこれて本当によかったあ〜と、つくづく思ったのだった。
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アーヴィングにとって、非常にパーソナルな小説という印象。それにしてもたかい。しかし書店ではあまり在庫がなかったから、アーヴィングは根強いファンがいるんだね。「未亡人の一年」の後は、今ひとつかな。
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久々に堪能した米国純文学で、「タマをぶっ違いにしない」で読み切りました。
総じては父子の物語であることに尽きます。
下巻では3組の父子の別れがメインになっていて、ラストで、作者のトリックにまんまと引っかかっている自分に気づかれました。
(それほど老樵ケッチャムの存在感は圧倒的ですから)
また、これほど一文、一語を徹底して追及している作家は、最近の日本では高村薫、村上春樹が思いつきますが、だからこそ、自分も真摯に文と対面したいと思います。
訳者の不慣れな点が散見されて、若干読みにくいでしたが、満足しました。