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紙の本
年表は時間をはかり、地図は空間をはかる
2012/04/21 11:28
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:本を読むひと - この投稿者のレビュー一覧を見る
地図を見る/眺める/辿るのは、たぶん好きなのだろうが、あてもなくいつまでも見ていられるほどのマニアではない。小説や評論などを読みながら、必要があって都市や町や、あるいは都市のなかの細かな地点を探す実用的な地図好きに過ぎない。
10年以上前から利用している昭文社の『グローバルアクセス世界・日本地図帳』が古くなったので適当なものを購入しようかと考え、図書館から帝国書院の本書ほか新刊地図を借りてみた。所持しているのと同じ世界と日本が一緒になっているもので、その前に書店でこの種の地図帳が何種類もあったのを確認している。たとえば昭文社のものなど、以前のものよりページがずっとあって、しかも安い。この種の本が売れていることを推測させる。
各社の地図帳を比較するとき「地図」そのものに個性があると感じさせる。朝日新聞出版刊行(編集は平凡社地図出版)の『デュアル・アトラス日本・世界地図帳』の地図の特徴の一つは国境線や州境線が強く目立つことである。たとえばアメリカ合衆国全図を見ると、昭文社の地図では、東部の小さな州がはっきりとは分からない。慣れ、というのがあって昭文社の地図が見やすいとは思うものの、この平凡社製地図の太い国境線や州境線は悪くない。
合衆国全体(アラスカとハワイを除く)の2ページ大の地図を例にとって3種類を比較すると、いろいろなことが分かる。確かに朝日版は州境線がはっきりしている。昭文社版は(現在の版は未確認だが)、州境線と道路線が同じ赤なので、ただでさえ細かい地図が余計見にくくなっている。それに対して本書は、州境線が朝日版ほど太くはないが、小さな東部の州もはっきり分かる。
本書の利点を挙げれば、地図のアキ部分(海洋)を利用し、日本の影図を置き、日本と世界の各地域の大きさを比較できること、また「合衆国領土の変遷と行政区分」という色分けされたミニ地図があり、各州の成立時期が図示されている。
また州都に色分け指示がなされているのは、本書と昭文社版で、朝日版にはない。
あくまで見開きの合衆国図のことだが、本書には東部のマサチューセッツ州の場合なら、州都ボストンの南にプリマスが記載されている。これは昭文社版、朝日版ともにない。またコネティカット州の場合なら、ニューヘヴンの記載があり、これは昭文社版にあるが、朝日版にはない。また昭文社版には同州にブリッジポートとスタンフォードの記載はあるが、これは他の二つの地図にはない。細かいことだが、本書において「プリマス」とか「ニューヘヴン」のように朝日版にない地名など、英文字が併記されていない。次ページの拡大地図でカバーしているからすべて原綴り記載は必要ないが、ともかくそうした処理の集積によって一段と地図のごちゃごちゃ感がなくなり見やすくなっている。
三つのアメリカの地図を眺めて感じるのは、朝日版の州境線の太さ、昭文社版のごちゃごちゃした感じ、そして本書帝国書院版の地図としての美しさだ。たとえば昭文社版は密集しつつ、どこか地図が薄い感じなのに対し、本書の見開き合衆国図におけるロッキー山脈の色合い、山々を思わせる彫りなど見事である。朝日版が五大湖の色を、海の深いところの色と同じにしているのは疑問に思う。
本書は類書にくらべて悪くないと思うが、価格は高い。朝日版との比較ならページ数が飛躍的にあるので高いのは頷けるが、昭文社版は少し薄いだけで大幅に定価の差がある。購入するかどうかは、そのあたりが決め手になるだろう。ただし今現在、新しい昭文社の地図、『グローバルマップル世界&日本地図帳』を参照していない。これまで昭文社版として言及したのは10年以上前の地図帳である。
もうひとつオマケ。たまたま見ていた『もっとくらべる図鑑』という傑作な本のなかに、東京ドームから始まり、ペンタゴンやバチカンやセントラル・パークの広さがくらべられる、ページを開くごとに拡大していく一種の地図があったが、そこに東京23区で「いちばん大きいのは大田区」とあり、世田谷区ではないのかと思った。本書には23区の色分けされた地図があり、広さが分かる。正確には測定できないが、なるほどという感じだ。
私はこうしたA4サイズの地図のほかに、ソ連崩壊以前に購った、B4強サイズの『THE TIMES CONCISE ATLAS OF THE WORLD』を愛用している。この地図の合衆国北東部の拡大地図を見ると、おそろしく細かな密集した地名のいくつかに赤鉛筆で線が引かれている。これはスティーヴン・キングの『ザ・スタンド』を読んだときの名残りである。あの途方もなく面白い小説は地図で、主人公たちのニューヨークやメイン州からの脱出経路を確認しなくても十分楽しめたことだろう。だが地図で細かく確認することが小説をさらに面白くさせたことも確かだ。
『ザ・スタンド』の場合は日本製の地図にはその諸地名の多くが載っていなかったと思うが、多くの小説を読む過程で昭文社版の世界・日本地図帳を利用させてもらった。その痕跡はいたるところにある。ヨーロッパロシアの縦の見開き図における多数の都市が赤鉛筆で囲われているのは、トム・ロブ・スミス『チャイルド44』を読んだときのものである。だが中国の長江に沿った各都市に鉛筆で印がつけられているのが、どの本を読んだときのものかすぐには思い出せない。そんなこともある。