紙の本
果てしなく美しい喪失の物語
2012/05/01 20:53
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mayumi - この投稿者のレビュー一覧を見る
前衛芸術家、木原の娘は事故で9年間昏睡状態にある。
彼女は、都市を巻き込んで夢を見る。
読みながらずっと小松左京の「ゴルディアスの結び目」と萩尾望都の「バルバラ異界」を思っていた。眠り続ける娘の夢が共通だからといえばそれだけなのだが、それだけじゃないように感じていた。
眠りは、ある種の<死>だ。
その<死>の中で、「生きている」ということを探し続ける父親の姿は、普遍であり、愛情深いものだ。が、「夢」はそれを拒絶していく。
娘の主治医、龍神はそれを目の当たりにして、自身の喪失にうちのめされる。
もう決して手にできないものだからこそ、人は求めずにいられないのだ。
その当たり前が、悲しい。
シュールな表現で煙にまいてるけど、底辺にあるのは愛する人の死を悼む心なんだと思う。
ああ、憐れむ気持ちなのか。
それが、小松左京や萩尾望都を呼び起こしたのだろう。
紙の本
耽美・幻想のサイバーパンク
2012/04/10 10:22
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BH惺 - この投稿者のレビュー一覧を見る
最初は耽美・幻想小説の類かと思っていた。しかし、帯の惹句や書評によると実はSFにカテゴライズされ、しかもサイバーパンクであるとのこと。さらにかなり難解であるとも。なのでとても手こずる作品なのだな、と理解して心して挑んだ。
が、予想に反してとても読みやすかった。解説に冒頭、特に第一章は完全なるシュルレアリスム(超現実・不条理な世界、事物のありえない組み合わせなどを写実的書いたもの)なのだが、まさにその通りだなと。
第一章のメインキャラは造形家・木根原。娘である理沙は9年前から大脳を損傷して昏睡状態にある。
その木根原がある日突然あり得ない津波に遭い、さらに東京中が奇怪な物体からの襲撃に晒される。それらの現象は実は大脳を損傷している理沙の脳内で繰り広げられている「夢」=「理沙パニック」であり、東京自体が彼女の「脳」となる……というまさに「超現実」の世界が展開し、父である木根原はなんとかして娘・理沙に会おうとする。
その手助けをするのが、もう一人のメインキャラである理沙の主治医・脳外科医である龍神。
彼も溺愛していた自分の分身ともいえる姉・金糸雀を少年時代に亡くして以来、彼女を追い求め思慕を募らせているという複雑な人物設定。その2人が幻のような存在である理沙を追い求めてゆく──というのがメインストーリー。
あり得ない現実とリアルな現実が巧妙に入り混じり混沌とし、見事なコラボで読んでいて幻惑させられてしまう。
第二章は主に龍神の生い立ちが語られるのだけれど、彼と姉・義兄との淡く禁断の関係などは耽美小説を彷彿とさせる。そして一転して行方の知れない理沙の手掛かりを求めて木根原と龍神が奔走する後半ではまるでミステリー&サスペンス的な面白さ。父が最愛の娘の手掛かりを知る第二章ラスト部分では思わず感動で目頭が熱くなる。
次々と登場するキャラたちはそれぞれ魅力的でありミステリアス。特に魅力的なのが少年たち。木根原と関係する謎多き少年・トキオに少年時代の龍神。憂いていながらも強靭な信念を抱き、けれどそれぞれが母に姉に深い思慕の情を抱いている。そんな複雑な魅力を醸しだしている少年達を男性作家が描いていることに少しばかり驚いた。いや、男性作家だからこそ描けるのか? けれど反対に女性キャラが少しばかり薄い感が否めなかったけれど。
そして驚愕の第三章。これぞこの小説の真骨頂というべきか。まさにSF、しかもサイバーパンクなのだ。自分的には一番難解だった部分。
設定としては「理沙パニック」から40年後。理体(体)とヴィラージュ(意識)を別個に切り離せるエレクトロキャップが使用されている世界。「理沙パニック以後」という言葉が出来るくらいに、理沙の存在は「不死」の象徴としてある意味神聖化されている。そんな世界にヴィラージュ・ドードーとして生きる龍神とヴィラージュ・エディスとして生きるトキオがメインとして活躍し、龍神に雇われたトキオに命じられたのは、なんと理沙の殺害。
エレクトロキャップというガジェットを効果的に使用して自在にヴィラージュ(意識)を飛ばす2人の描写が圧巻。
白眉なのが、各章のラスト数行。謎と共に次章への関連を思わせ、そして強烈なノスタルジーを感じさせる。
耽美・幻想・禁断・不条理そしてSF。全てがぎっしりと詰まっていながらまったく破綻していない。そしてなによりこの作品の根底に流れているのは、物悲しさと愛情なのかなと。
姉であり母であり娘である、最愛の人を失った哀しさが痛烈に行間から溢れてくるのが、この作品を無機質なSFにとどまらず、哀切に満ちた稀有なものとしているのだと思った。この作者の他の作品も是非読んでみたい。個人的に名作。
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津原泰水さんは『11』を読んだ時から、文章が綺麗な作家さんだなぁ。という印象。
今回の『バレエ・メカニック』は、『11』とはまた違った綺麗さがあるなぁと感じました。でも、とってもSFっぽくて、固有名詞が多い印象。
SFは慣れていなくて、多分この小説世界の設定も「なんとなく分かる」程度だけれど、それでも文章に惹き込まれました。
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たとえ不可抗力であったにせよ、ちょっとした不注意や油断が、自身を含め、多くの人の人生を狂わせてしまうということは、往々にしてありがちなことだと思います。超現実的で不条理な世界観や、作中で繰り広げられるパニックに眼を奪われがちですが、これは人生を踏み外してしまった人々の想念が織り成す、救いのない悲しい物語です。読み始めると、どんどん深みにはまり込んでしまいますよ。
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夢想渦巻く夢幻の世界へ。
幻想きらめくシュルレアリスムの世界から始まりSFの世界に着地する、一幅の奇譚。
3部構成は、少しずつ主要人物と時系列をずらしながら繋がっていく。
さて、話を要約してしまうと面白くとも何ともないレビューになってしまうのが悩ましい。
感想だけ述べるなら、情景描写も世界観も、話の展開もすべて心地よく、作品世界にすっかり埋没し、感動させられた。各部とも、その結末部で鳥肌が立った。
本書が分かりづらい、という感想も見かける。
最初から理屈で考えると難しい作品に見えるのかもしれない。しかし一言でいえば、これは"夢"である。
夢だと思って、まずはその奔放なイメージを素直に受け止めて頭の中で情景をそのまま展開すると、そのうち作品のほうから割とサービス精神旺盛に秘密を次々披露してくれる。
そういう意味ではテンポが良いし、しかも各部ともしっかりとオチをつけてくれる。
その種明かしが、どれも美しく、どこか物悲しく、そして、人は一人で生きられないという人間の本能に根差した世界観が根底にあるように感じられ、それが得も言われぬ共感と感動を呼ぶ。
少しとっつきにくいところもあるかもしれないが、個人的には大変お勧めできるエンタメ作品だと思う。
すっかり魅せられてしまったな。
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1章までだが、退屈以外の何物でもない。妖都の方がまし。ブラック津原。
わざとなのは承知だが、それにしてもまともな状況描写が無さ過ぎで、読んでいて頭に状況や風景が全く浮かばない。
読み疲れする。
サイバーパンクとかそういったものでは決して無い。
あれらはもっと感情を揺さぶる詳細な描写があったと思う。
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3章から成る、第1章。
冒頭から混乱しっぱなしの脳みそに、なぜか意識の右上の方から「パプリカ」のアニメーションが流入。
歯止めの利かない超現実にワクワク、たまらない。
第2章からラストへのサイバーパンク。私の脳も補完して欲しいってくらい超ハード。
重厚なるレイヤーは無視して表層だけ掬い取る。
しかしながら、本筋は一貫して明確で、せつなくて胸打たれる。
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筒井康隆が書いたオビの紹介文に惹かれて購入した。読み進めるにつれてこの物語に描かれたシュールな世界に目が眩む。これをそのまま映像化したものを見てみたいと思うが、多分実現は無理だろうな。
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著者の訃報を受けて再読。初読時はまだ『ニューロマンサー』を読んでなかったのでわからなかったけど、この小説は『ニューロマンサー』を逆向きに読むみたいな構成なんだな。最後のシーンが百閒の「冥途」なのも今回初めて気づいた。
ガスや電気が使われ始めるのと同じく興隆してきた19世紀の心霊主義のように、テクノロジーを信じるがゆえに死後の世界がいつか可視化されると信じる人もいる。日常的にメタバースという言葉が飛び交うようになった今、VR空間で「不死を売る」ビジネスは前より容易にイメージできる。
津原さんは「電脳空間に幽霊が生まれる」のではなく、「幽霊が電脳空間を生みだす」未来を幻視した。そこがギブスンと比べて人間中心主義だと言ってもいいだろう。都市を神経的に操るのはウィンターミュートでもニューロマンサーでもなく、7歳の少女なのだ。でもはじまりはきっとこうなんじゃないかと思う。そしていつかお互い混じり合って気がつかないうちに人間とAIの主従が逆転するのだろう。
題名の元ネタになったレジェの映画とアンタイルの音楽をYoutubeで視聴したけど、やっぱりこの小説には坂本教授の同名曲のほうが合っている。人類がかつて幻視した未来のイメージに対するノスタルジア。世紀末に十年遅れてアナクロニックになった滅びのヴィジョンが、逆にこの作品を普遍的なものに引き上げたのではないだろうか。
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も、大好き。もっとはやく読めばよかったけど、文庫の装丁もすばらしいので、よしとするか。
幻想で、SFで、たいそう美文である。素敵すぎる。とにかく文体が好みすぎて、読み出したら止まらない。この作品も冒頭の一行でノックアウトだ。
そして、男が、娘を、姉を、母を想い突き動かされる物語でもあるのだ。届かない女を追い続ける奴らの気持ちがなんとも切なくて、そんなところも好きだ。
ブラジャー談義がおもろい。
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読み始めは耽美的な小説かと思ったけれど、モーツァルトしか流れなくなるカーラジオ、過去へのトリップなど、次第にSF色が強くなって独特な幻想小説が創られていた。マルドゥック~のプールかな??とかチルドレンとかいろいろ聞き覚えがあったけれど、立ち上る世界観にやられたので☆5。
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不安で不吉な暁の夢のような今作。
混沌としている。
でも嫌いじゃない。
後半、走り読みしてしまった。
いつかまたゆっくり読み返したい。
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前衛芸術家、木原の娘は事故で9年間昏睡状態にある。
彼女は、都市を巻き込んで夢を見る。
読みながらずっと小松左京の「ゴルディアスの結び目」と萩尾望都の「バルバラ異界」を思っていた。眠り続ける娘の夢が共通だからといえばそれだけなのだが、それだけじゃないように感じていた。
眠りは、ある種の<死>だ。
その<死>の中で、「生きている」ということを探し続ける父親の姿は、普遍であり、愛情深いものだ。が、「夢」はそれを拒絶していく。
娘の主治医、龍神はそれを目の当たりにして、自身の喪失にうちのめされる。
もう決して手にできないものだからこそ、人は求めずにいられないのだ。
その当たり前が、悲しい。
シュールな表現で煙にまいてるけど、底辺にあるのは愛する人の死を悼む心なんだと思う。
ああ、憐れむ気持ちなのか。
それが、小松左京や萩尾望都を呼び起こしたのだろう。
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シュールレアリスムに始まりサイバーパンクで終わる。
発売当初から感想や書評を読んでも、どんな話かさっぱりわからなかったけれど、実際読んでみて、これは読まなきゃわからないな、と思った。
様々なところでシュールレアリスムとかサイバーパンクとか言われていて、実際各章を取り上げるとそういう分類になると思うけれど、すべて読み終わったときの印象は、綺麗な話だな、ということだった。
抽象的な表現だけど、私の内にある言葉では具体的に表すのはとても難しい。内側にある言葉で表そうとすると、そういう表現になってしまう。
たぶん個々のキャラクターについて書けば、それなりに具体的な書き方もできるだろうし、個々のキャラクターにも魅力を感じているけれど、この小説を思い返してみるに、むしろ綺麗な話と抽象的な表現に留めておいていいんじゃないかと思う。
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こういうのSFっていうのかな?SFの定義ってよくわかんない。ゆーたらガンダムもおジャ魔女も全部SFじゃね?みたいな。でもこういうのSFっていうんだろうなー。サイエンス・フィクション。サイエンス・ファンタジーとかでもいいんじゃないの。
初っ端からぶっ飛ばしてて最初こそ???だったけど、変調子な雰囲気にどんどん嵌ってった感じ。作中で出てくる絵画やら曲やらはほとんどわからなかったので、わかっている人は尚楽しいのだろうな、とも思うがわからなかったからよかったようにも思う。ビートルズもよく知らないからなあ。そういう諸々キーワードを無固形に受け止めていたからだらだらっと読めたんじゃないかとも思う。
しかし日本人作家の小説にはわりと木根原みたいな人出てくるよね。フランス人みたいなおっさん。フランス人みたいなおっさんだなって本当に思った(笑)フランスのおっさんの知り合いとかいないけど(笑)
日本のリアルにこういうおっさんは実在するのだろうかとそこが一番気になりました。おわり。