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国連が定める「絶対的貧困」の定義は1日2ドル以下で生活する人々のことを指す。先進国に住む人々にとっては到底理解し得ないこの状況において、彼らは一体どのように生活をしているのだろうか。これが本書を貫く一つの疑問である。そして、1日2ドルという金額でも生活を可能にさせる道具とは金融なのである。
ただ一口に金融といっても、先進国の人間が考えるような金融制度は当然途上国では利用できない。貧困層で生活する人間は信用供与の問題から、一般的に利用できる金融の額は小規模である。そのため、彼らは様々なところから金融へアクセスし、日々の生活を支えているのである。このような貧困層の戦略を「ポートフォリオ」として本書は説明する。もちろん、1日2ドルといってもそれは平均値としてにすぎず、何ヶ月も収入がない場合もある。ポートフォリオ戦略はこのような貧困層特有の流動性に対応すべく編み出されたものなのである。
ただ単にポートフォリオといっても、途上国のそれは先進国のそれは全くことなる。しばしばそれは先進国の人間からは理解しがたい。例えば本書ではアクセラレータとアキュムレータという2つの戦略が紹介されている。アクセラレータとは既に借金を抱えているにも関わらず、他の場所から新たに借金を重ねることである。そしてアキュムレータとは、日々の収入に対して不釣り合いな金額を預けることである。これらの戦略は先進国の人間にとって到底理解しがたいが、途上国の人間にとっては貯蓄を加速し、流動性に耐えうるためのポートフォリオ戦略の一貫なのである。
以上の点を踏まえた上で、本書の意義は大きく2つあるだろう。1つは貧困層の流動性に着目した点、2つ目は金融の「ポートフォリオ」に着目した点である。これまで、平均収入のような均一化された値はわかっていたものの、貧困層におけるそれを具体化した日々の生活がどのようなものかを実証する研究は少なかった。この点において、「1日2ドルという絶対的貧困の定義は平均値にすぎず、実際の生活はもっと流動的である」という当たり前だが直視しづらい事実に着目した点では大きな成果を挙げている。加えて、貧困層という一般的に信用に足らない存在において、金融のポートフォリオが生活の糧になっていると実証した点である。流動性に着目したからこそ、先進国の人間とは一線を画すポートフォリオ戦略が浮かび上がってきたのであり、この戦略の重要性が提示されたのである。
貧困層の生活を支える手段としてのマイクロファイナンスなど、金融セクターの更なる発展を期待できる作品である。
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貧困層がいかにお金を回していくかについて詳述している非常に興味深い内容。ただし、経済用語の知識と根気の不足により、本書の内容を十分に理解するに至らなかった。残念。
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開発経済学の佳作3作に評される『貧乏人の経済学』『善意で貧困はなくせるのか?』と本作は、それぞれ違った視点で書かれているので全て読むことで重層的な理解が得られます。平均して1日2ドル程度の収入の人たちの財務は極めて本質的なミクロ経済の姿を表していて、信用創造のラディカルな様相や、バランスシートを膨らますことがリスクヘッジになることがかなり刺激的なエピソードで思い知らされます。
『貧乏人〜』は総論とイシューの提示、『善意で〜』は実践とアイデアのフロンティア、そして本作は金融面の記述を扱っています。『善意で〜』と本作のどちらを先に読んでも良いですが、『貧乏人〜』は是非とも最初に読むと良いです。
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マイクロファイナンスの基本的な原則は 信頼性・利便性・柔軟性・構造
構造とは計画にしたがって体系的に金融サービスが利用できること
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金融の知識が浅いので、いまいちピンときていないのかも。読むのが少し辛かったけど、専門書としては優しめ。
何度も出てくるように、貧困世帯の抱える障害として①収入が少ない、②収入を得られる時期が決まっていない(毎日1日2ドルずつお金が入ってくるわけではない、収入の上下動を予測できない)、③世帯のキャッシュフローのパターンに必ずしも適合しない金融手段に頼ってやりくりしなければならない、ということが考えられる。
これらの障害に対して捕捉できるような金融サービスをどうすれば提供できるかが主題。例えばローンを有効活用することで季節による影響を緩和して消費活動を平準化させリスクを管理できる。
サンプル数は少ないのかもしれないが、定点観測しているからこそ、貧困層のやりくりの努力や収入を管理するための手段に不満を抱いていることが明確になっている。一見合理的でないインフォーマルな金貸しの利子率は手数料と考えていることや、やはり病気等何かしらのハプニングで最貧困層に転落したり、彼らが資産を消費する要因は冠婚葬祭で特に祭りである等なるほどーと思うこともちらほらあり、貧困層の生活を想像しやすい。当然だが、何かあった時に最も煽りを食らうのが貧困層だなと改めて。
肥料を購入できるような金融ツールが提供されると化学肥料を使用する農家が増え収穫量も増加したという事例はまさに金融ならではのアプローチ。生きていくにはいかにお金を管理するかが大事で、人々の生活に密着しているのがこのアプローチの魅力。
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新着図書コーナー展示は、2週間です。
通常の配架場所は、3階開架 請求記号:365.4//Mo42
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平均1日2ドル以下で暮らす貧困層の経済活動を「フィナンシャル・ダイアリー」に基づいて解説・分析した本。「フィナンシャル・ダイアリー」とは読み書きのできない貧困層の世帯に15日ごとに調査員を派遣し、根気強いインタビューをすることを通じて作成された、貧困世帯の金銭の動きを記録したもの。インド、バングラデシュ、南アフリカの3カ国を対象に調査が行われ、「フィナンシャル・ダイアリー」は作成された。
本書の基本的な考えとしては、収入の絶対額が少ないということも問題だが、それと同じくらいに重要なことは、収入が安定的に入ってこないこと(あくまで「平均」1日2ドルであって、もっと多い時もあれば、まったく収入がない時もある)である。したがっていかに収入を安定させるか、ということに貧困層は常に気を配っており、貯蓄クラブをつくったり親類と融通しあったりたり、貧困というイメージからは想像しがたいほど頻繁にお金の貸し借りをしている。また貧困層が本当に追いつめられるのは借金が多いか少ないかというよりも「必要な時にお金がない」ことであるので、彼らがアクセスしやすい良質な金融サービスが欠かせない、ということである。
本書を読むと、貧困層が行っている複雑な金融取引に驚かされるし、また、金融の利便性・必要性を痛感させられるだろう。マネーゲームだの強欲資本主義だのと偽善者ぶる人たちが、本書を読んでマイクロファイナンスなどの金融サービスがどれだけ貧困層を助けているか理解してほしいものだ(読まないだろうけど)。
また高金利をとる金融機関を、暴利をむさぼる悪徳業者と捉える見方にも、反省を促すだろう。南アフリカの貸金業者の場合、複利法で実質年率に直すと2230%で貸すところが多いが、それでも喜んで借りていくのである。もちろん実際は短期間で返済してしまうのでそれほど支払う利息は増えないとか単利であるのが一般的とか日本との違いはあるが、法定金利の意義を再考するきっかけを与えてくれるだろう。
個人的には、本論とは直接関係のないところにも、面白さを感じた。例えば保険が生むモラルハザードは富裕国と貧困国では異なるというところ。富裕国では使いすぎて保険が成り立たなくなるが、貧困国では保険料を払えるほど収入が安定しないから保険が成り立たない。また、55ドルの貯金を持っているのに月利15%で20ドルを借り入れた女性の例(P.146)も面白かった。
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1日2ドル未満で暮らしている人々が、実際にはどのように生計を立てているのかを、インド・バングラデシュ・南アフリカでの家計調査によって得られた「ポートフォリオ」に基づいて分析した研究成果。貧困層といわれる人々の生活戦略の緻密さ、妥当性には目から鱗が落ちたと同時に、その脆さも垣間見ることができた。
貧困層=その日暮らしで何とか生活できている人たちで、貯蓄なんてできないだろう、という先入観を持っている読者に推薦したい。
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「収入が小さい」「収入が不規則」「資金の調達が難しい」
これらの課題に対処するために、
「マイクロクレジット」「マイクロ貯蓄」「葬儀保険」「ROSCA」「マネーガード」…
農村金融のあらゆるツールを駆使して、資産の10倍以上のキャッシュフローを生み、日々の生計をやりくりする1日2ドル以下で生活する貧困層の生存戦略には舌を巻く。
貧困家計のバランスシートを長期にわたって収集するという斬新かつ粘り強い調査により、援助される側からの要望を浮き彫りにし、開発側偏重のマイクロファイナンスの現状へ新しい視座をもたらしている。
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目を引くための表題なのだろう。そして引っかかった。最底辺というよりは、「1日2ドルで暮らす」ことのできる世界で、どういう生活が成り立ってるか、という程度の内容。何となく何が書いてあるか分かってしまうの
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確かザッカーバーグがおすすめしていた本。安定した仕事をもたない「貧しい」とされる人たちは、裕福とされる日本人よりも金融リテラシーに明るく、知恵を駆使してキャッシュフローを組み立てていたのにはびっくり。
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根気強く長い期間調査をしたその調査結果を知ることができる。貧困やマイクロファイナンスにとって非常に有意義な研究だろうということがうかがえた。
・貧困者はお金を銀行に預けるためにお金を払うことがある
・貯蓄は切実な欲求である
・1日2ドル以下の生活でもキャッシュフローは非常に活発である
などの点は本書を読んで常識がくつがえされたポイントである。
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1日2ドル以下のコストで生活する所謂貧困層の人が,日常的にどう家系をやりくりしていたか.
ー>仔細な調査によりそれまでに見えてこなかった実態が見えた
ー>彼らは其の日暮(稼いだらすぐに使ってしまう)のではなく,あの手この手で金融資産を管理していた.
・突発的なイベントに備えるため
・収入がそもそも安定的でないため
経済や金融,格差問題を生業とする人にはよいインスピレーションを与えるかもしれないけど,一般の人にとってはやや退屈してしまうかなという内容.論文と本の間にあるという感じ
俺たちの調査だからこんなことが分かったんだ!的な言い回しが度々出てきてくどい.
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想像もつかないような貧困層がどのように資金繰りをしているのかを示したものであり、とても面白かった。
貧困層には、不安定、少額、手に入れる方法がないという三重苦に襲われている。
その中で、インフォーマルな借り方をしている。(友達から借りたり、クラブを作ったり)
貧困層がお金を借りる上で重要なことは、利便性、信頼性、柔軟性、構造の4点である。
また、自分を律することができないために、わざわざお金を払って、貯蓄に当てる人もいるという。
平均とは脆いもので、リスクが降りかかって来たときに、払えるお金が必要。
何種類も方法があったほうがリスクが分散される。
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発展途上国における貧困世帯の暮らしを非常にミクロな視点から捉えようとした一冊。著者は、1日2ドル未満で暮らす貧困世帯がいかにして金銭をやり取りしているかという点について、ファイナンシャルダイアリーという独自の調査方法を用いて明らかにしている。1日たった2ドルしか稼がない人々がここまで詳細な金銭やり取りを行っていることに驚きを隠せない者も多いだろう。しかし、むしろ彼らは1日に2ドルしか稼げないからこそ、少ない資金をどうやって管理すべきか日々頭を悩ませながら暮らしているのである。
貧困世帯による日々の金融行動の詳細は、実際に現地に足を運ばなければ情報収集は難しい。実際に現地に赴いたとしてもここまで細かい情報を得ることは困難であろう。しかし、この本を手に取って読んでみると、途上国における貧困世帯の日々の暮らしやそこで生じる葛藤のリアルがまさに目の前で起きているような、そんな感覚に浸ることが出来る。これから開発の道に進もうとする人。貧困について興味はあるけどいまいちその実態をよく知らない人。貧困世帯を対象にこれから活動を始めたいと考える人達にぜひ読んでもらいたい一冊である。
また近年、途上国において金融のデジタル化が進んでいる。1日2ドルで暮らす人々もモバイルフォンを通じた送金、決済、支払いサービスを利用している状況にある。この本は、現金をやり取りする貧困世帯を対象に彼らの金融行動を浮き彫りにしているが、金融がデジタル化する今、彼らの金融行動はどのように変化しつつあるのだろうか。
(名古屋大学国際開発研究科博士課程 綿貫竜史)