紙の本
印象派の画家の背景の歴史を交えながら、その画家の生き方が決まった事情を克明に書いている
2012/02/10 02:03
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:らうろ - この投稿者のレビュー一覧を見る
19世紀の後半、サロンは凋落したといえ、やはり権威はあった。
社会は、革命が繰り返されていたとはいえ、旧貴族、新興ブルジョワ、労働者階級で、自ずから態度、考えが違う。裕福なものからの援助や、人間関係が交錯する。「印象派展」は、第一回は印象主義を定義する展覧会であったが、サロンに戻る画家、印象主義さえ捨てる画家、また、印象主義でない画家が「独立派展」に名前を変え、そして、そこにかかわりそこから販路を広げた画商の登場。
また、王党派と共和制派の政治態度の違い、経済危機からユダヤ人への態度つまりドレフュス事件への態度など、みな異なり、離合集散をする画家たち。そんな糾える縄が、全体を読み終わって強く印象に残る作品であった。
木村さんは、大学で印象派の講義の受講時にフランス近代史が必修であったそうであるが、印象派の歴史は、フランス近代史の一面であることがよくわかる。
また、一般に美術史は世界史の一側面であることもよくわかる良書である。
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ベルト・モリゾやメアリー・カサットにそれぞれ一章を設けられているのが特徴。
ただ、あまり文章がうまくなく、内容もそれほど深くない。初心者向けなのかもしれないが、それにしては不親切な文(言葉)の運びが多すぎる。突然、地名や用語をだされても、その説明(定義までいかなくても)がないことが少なくない。また、そもそも、「~なのである」という語尾が多すぎる。強調すべき点とそうでない点を使い分けなければ、読みにくいだけではなく、文の要点さえ曖昧になってしまう。外国語よりもさきに、日本語を勉強すべきだ。
さらに気になるのは、本の冒頭から半分くらいまでは著者の気合いがみなぎっていることが明確なのに、後半にはだれてきて、最後の1ページなんて手抜きもいいところ。もっとちゃんと書かないといけない。
ただ、絵の写真が100枚もあって、綺麗で、貴重だったのでこの評価。
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本書は第1章でフランスにおけるルネサンスから印象派が誕生するまでの美術史を概観し、印象派の「指導者」エドゥアール・マネ(著者によると彼は印象派と呼ばれることを嫌っていたという)、近代風景画の父クロード・モネ、肖像画の大家ピエール・オーギュスト・ルノワール、現代生活の古典画家エドガー・ドガ、そして二人の女性画家ベルト・モリゾとメアリー・カサットを紹介しています。
本書によると印象派による革命とは、それまでのサロンを支配していた新古典主義=アカデミズムに対する革命であり、「何を描くか」ではなく「どう描くのか」を探求するようになる絵画に対する新しい造形的アプローチであり、それはマネによって方向付けられた(そのためマネを「近代絵画の創始者」と呼ぶ)とのことだそうです。
印象派の特徴は「描く対象が持つ固有色ではなく、光や大気などによって影響された変化しやすい入りを描こうとした。対象に対してではなく、自分の視覚に対して忠実であろうとしたのである。つまり、見たものをそのまま描くのではなく、自分が受けた印象に対して忠実であろうとしたのである。彼らは永遠に変化し続ける自然の、自分の視覚がとらえた瞬時制を記録し、カンヴァスの飢えに造形的に表した(124頁~125頁)」です。それを表現するためモネやルノワールは色彩分割法(カンヴァスに細かい筆触で並べた2色が距離をおいて見ることによって、視覚の中で混合して見えることを利用した技法)を突き詰めました。
こうして19世紀フランス画壇に登場し、その斬新性と大胆さから批判を受けながらも受け入れられていった印象派は、数々の名作を生みながらも次第にそれでは飽き足らなくなった画家(ゴッホやゴーギャンなど「後期印象派」「ポスト印象派」(最近ではこの「ポスト印象派」という語の方が定着しているそうです))たちにより新たな「古典」となります。
それにしても、私としては本書は第1章がとくに勉強になりました。17世紀以降フランスの芸術を牽引したアカデミーの創設者シャルル・ル・ブランが崇めたニコラ・プッサンはラテン語の教養を持ち、知性と理性に訴える「フォルムと構成」を重視したため、これがアカデミーの公的な美の規範、フランス古典主義となっていきます。しかし17世紀末には(理性に訴えるデッサンのほうが感覚に訴える色彩よりも高尚だとするプッサン派に対し)自然に忠実な色彩は万人に対して魅力的であると主張したルーベンス派(当然フランドル派でありバロックの巨匠ルーベンスを理想とする一派)が登場します。ここに理性vs感性、デッサンvs色彩の闘いがおこります。そして18世紀には台頭してたブルジョワジーを中心に人気を博すロココ絵画が登場します(創設者と言われるのはヴァトー)。ロココの特徴は恋愛の世界がメインテーマで、フラゴナールらによってこの「色彩と感性」が勝利したロココ絵画の時代が続きます。この背景には、16世紀の国王を中心とした男性的な古典派よりも、17世紀後半にフランスの中心となった貴族やブルジョワジーは感性豊かな、女性的なロココを好んだとのことです。
しかし「成り上がり」から「本物の上流階級」を望むブルジョワジーは、絵画の収集を上流階級の「よき趣味��とするため、権威による保障を求めます。絵画の権威といえばこの時代もまだアカデミーであり、ここにダヴィドやアングルらを中心とする新古典主義が台頭します。とくにダヴィドは、自身を古代ローマの皇帝になぞらえて帝政の権威を高めようとするナポレオンに見いだされて数々の名作を世に送り出します。
しかし第一帝政崩壊後、産業革命後の社会の近代化を背景に新古典主義のアンチテーゼとして登場したのがドラクロワらによるロマン主義です。このロマン主義も色彩と感性を重視し、ドラマティックな構造を特徴とします。ちなみにロマンとはラテン語の俗語であるロマンス語で書かれた中世の歴史物語(ロマンス)が由来の言葉です。つまり古典主義が題材とするラテン語で書かれた神話や聖書などに相対しています。
しかし産業革命後新たな購買層となった人たちは古典的な教養、美術作品に対する審美眼を持たず、風俗画や風景画など身近な題材を好みました。ここに登場するが現実的で平凡な風景を写実的に、または主観的に描いたバルビゾン派(ミレーなどが中心)が登場します。また産業革命は新たな階層であろう労働者を生み、彼らの姿をありのままに描く写実主義(クールベら)も登場します。クールベは「主題の近代化」の扉を開きました。つまりそれまでの「見たことのない世界を描く」歴史画的主題から、「自分の見たままの世界を描く」主題に変わり、これが印象派によって引き継がれ発展していくことになるのです。
それにしても、ルノワールの名作で私も一番好きな絵画『ムーラン・ドラ・ギャレット』を購入し「死んだら棺桶に入れて一緒に燃やしてくれ」とのたまった日本の恥齋藤○英の話題が本書にも登場しますが、人類の遺産は本当に大切にしなければいけませんね・・・
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タイトルからも分かるように印象派の歴史と当時の画家の特徴がとてもよくまとめられている。
巻頭に111枚もの作品の写真が掲載されており、本文を読みながら該当の作品を見ることが出来るのがありがたい。
印象派についての概要を知るのにとても適した本だと思う。
歴史だけでなく、著者の作品に対する考察も勉強になった。
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以前、パリに行ったときオルセー美術館に行きました。
素晴らしいな~と漠然と思ってみたものの、この本を知り、読み、たまたま開催中のオルセー美術館展を観に行ったところ、絵が語りかけてくる気がしました。
歴史を知ることで観かたが全然違うんだなと。
この木村氏の本は、絵に対して非常に興味が沸く本です。
また絶対オルセーに行ってみようっと。
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印象派と呼ばれている画家 マネ、モネ、ルノワール、ドガはある程度知っていたが、女性のモリゾとカサットの話は非常に興味ある内容だった.112枚の口絵を絡めた本文の展開は、著者の広範な知識がほとばしるもので、楽しく読めた.口絵では既知のものがかなりあったが、歴史的な背景や作家の家庭環境などを含めた解説で更に深い理解ができたと思っている.
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この人の本は色々読んだしもういいかな、と思っていたが、印象派というカテゴリーに絞っているので手に取ってみた。話の使い回しを予想していたのだが、時代背景に詳しく、全く新しい本だった。
なぜ日本では印象派だけあんなに流行っていたのだろうか、とずっと思っていた。宗教性が(一見)ない、というのが大きな理由かと考えていたが、睡蓮など、花鳥風月に親しんできた日本人が好む絵の題材にも理由があるのだと知った。
また、成金が増えたバブルの時代、お金はあるけど家柄がない人たちは、自分たちが文化教養に富んでいる人であることを示すため、絵を買いあさったという。人類の遺産であるゴッホの絵を棺桶に一緒に入れて燃やそうとしたことで、日本人の文化教養の乏しさが露呈することになるのだが。
「印象派は絵の謎解きがないし綺麗だから、純粋に美術として楽しむことができる」という話を聞いたことがあるが、印象派にも強烈なメッセージがあり謎解きが隠されている。そしてその背景があるからこそ、美術としての地位が確立されたのだと思った。「モネって見てるだけで心が癒される~、きれい~」という人に読んでもらいたい一冊。
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なかなかよかったと思います。
私も印象派の絵画は大好きな部類の絵ですが。
なぜ日本人は印象派が好きなのかという解説の序章から
フランス近代絵画に至るまでの歴史と流れ、
特にアカデミーとサロンの成り立ち、またその特性
の解説を簡潔に整理してあり、ここまでがベースとして
の内容があり。そのあと各画家についての解説という
流れと配分がなかなかいいと思います。この本1冊で
大枠の流れがよくわかる本の構成になっていると
思います。
エドワードマネから
クロードモネ。ルノワール。エドガードガ。
ベルトモリゾ。メアリーカサット
と印象派の主たる、みんな繋がっている仲間の画家
の解説(作品・歴史・考え方・関係性など)と、
巻頭にそこでの作品のカラー口絵があって非常に
分かりやすいと思います。
ここにセザンヌがあればなあと思ったりしますが。。
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今まで漠然とした知識しかなかった「印象派」という絵画について
覆っていた靄が晴れた感じ。代表的な画家たちの生涯や時代背景がよくわかり、印象派絵画を見ることが楽しみになる。
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第一章で印象派が登場するまでのフランスの美術史を手際よく解説し、貴族からブルジョワジーに社会の主権が移っていくにつれて、印象派が広まっていったことがよくわかる。二章以降は、マネ、モネ、ルノワール、ドガ、モリゾとカサットと、代表的な画家の生涯と作品の変遷についての解説が続く。口絵に、たくさんのカラー図版が掲載されており、文中に引用がある都度、眺めるのが楽しいが、出来れば、もっと大きなサイズの図版にして欲しかった。モリゾとカサットのところが一番面白かった。
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序章【なぜ日本人は「印象派」が好きなのか】に納得する。それまでの西洋の絵は、感性で「観る」ものでなく、知性で「読む」もの。日本のようにそのままの自然を描くのではなく、神話や宗教のシーンを使って理想を描くもの。西洋の歴史や文化を知らずには、ピンとこないのも仕方ない。が、せめてそういうものだということは知っておきたい。
第一章はフランスの美術史、第二章以下は、マネ、モネ、ルノワール、ドガ、ベルト・モリゾと、著名な画家の人生が書かれている。印象派とひとくくりにされている中でも、それぞれの目指すことが違っていたこと、各人が家族ぐるみの付き合いをしていたこと、フランスの階級社会の様相など、興味深かった。
「恋愛美術館」西岡文彦著と同じ人物の紹介も多いのだけれど、こちらの本のほうが淡々とした文。絵が、小さいながらも、ぜんぶカラーなのも良かった。
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オルセー展ガイドにあたって何冊か印象派関連の書籍にあたったけれど、一番ためになった。印象派が誕生するまでの美術界の流れと、印象派の作家が個別に語られている構成がわかりやすかった。
古典だと思って半ば軽視していた印象派が新鮮で、ガイドでもこの喜びが伝わるように話したいな☆
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現代の私たちに最も知名度があり受け入れられている印象派のアウトプットが、宮廷画家から美術アカデミー・サロンとくる保守本流の流れのなかで、いかに異端であったか、よくわかった。書名の通りまさに革命。
また、この時代の画家達の、例えば現実をそのまま描くこと、社会の闇を描くこと、約束ごとを破って描くことは、既存の絵画解説でもよく指摘されることではあるが、当書では、フランスの歴史の流れの中で、もしくは当時の社会の中でそれらのムーブメントを語っているため、より理解が深まる。なぜ歴史に残ったのかも理解できた。
もちろんヨーロッパ社会も変わりつつあったため新しいうねりが定着したわけだが、アメリカ社会の新たな隆盛も印象派にとって追い風だったことは、なるほど、と。新興勢力にとって新興芸術はとても相性が良いようだ。
加えて
・印象派の面々が極めて濃厚な関係性にあったこと。しかも、少なくとも当書での紹介では、それが良性で上品な関係性であったこと
・自分が勉強不足で寡聞にして知らなかった重要な女流画家
を知ったことが、当書の収穫。