紙の本
東京の古い街の古い事件
2021/04/24 09:24
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投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
佐々木譲の警察小説である。東京の代官山を舞台にした『代官山コールドケース』で登場した水戸部警部補が再登場である。今回はOBの相談員との共同作業である。とはいえ、当時の捜査に加わっていたという経歴がある。時間軸でいえば、こちらが先で、代官山はその続編ということのようだ。
今回の舞台は四谷荒木町である。東京に住んでいても行ったことのある人は少ないかも知れない。昔は芸子が街を歩く夜の街だった。ここで元芸子で芸者置屋の女将が殺害された。代官山同様、地域の詳細な描写が巧である。しかも実名をうまく隠している。実際に地図を広げていくと、それらしい地名が確かに存在している。
地図好きにはたまらない小説である。ストーリーもなかなか凝っており、怨恨がこの街には隠されていたということである。この水戸部警部補シリーズは代官山とこの四谷荒木町の2本だけのようだが、是非続編を読んでみたい。それだけ他者の作品とは趣が異なっている印象を受ける。
相棒が前作は勘が鋭く、頭の回転の速い女性巡査部長であったが、本作ではOBの相談員であった。その違いは大きそうに見えるが、どちらもプロの警察官として、読者としても安心感がある。単なるアシスタントではなかったようだ。
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伏線回収型ではなくて、裏向きのカードを一枚ずつめくっていく展開。プロセスは二時間サスペンス並みなのだが、質感と重みがまるで違う。地層捜査とはうまく言ったもので、事件の層を掘り起こす地味な捜査なのだが、退屈させない安定感がある。
地の文は舞台となる町についての描写がほとんどで、事件の手掛かりは関係者や住人たちの会話の中に存在する。この、町と人とのバランスが良く、過去の事件なのに時間差を感じさせない筆運びで、小粒なネタなのにどっしり感がある。
『新参者』を連想させるが、読了後にその違いを実感する。証人の多さに混乱しようと、途中で真相に気付こうと、ラストの情景で言い含められたような。そこに作者の余裕を感じます。
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とある事情で15年前の殺人事件を捜査する事になった謹慎明けの若手刑事&退職刑事の相談員コンビの捜査物語。捜査の過程自体は非常に面白いのですけど、犯行に至った動機に今ひとつ説得力がないように思います。シロクロはっきりしない結末も不満。
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時効廃止により、15年前の未解決殺人事件を再捜査することになる手法も無理やりな感じがするが、実際、力関係で掘り起こされたり、逆にうやむやにされたりしていくのだろうか!?
現在と花街で賑わっていた時代を層に、新宿区荒木町が描かれているのだが、土地勘が乏しいため、地理的なものを追うのが大変。
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新シリーズらしいが、主人公の水戸部が過去に上司と衝突し、謹慎中の身から特捜本部に入るところから始まる。
事件は15年前の未解決の殺人事件。
人間関係の層と荒木町と言う街の層とが絡みあって、このタイトルになったんだと実感。
ラストの10ページぐらいまで、真相が分からず、最後はドタバタな感じが、ちょっと残念。次作の水戸部の活躍に期待。
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佐々木譲は、警察小説に活路を見出し、今や、次々と個性的な警察官を世に送り出している。『うたう警官(文庫化時なぜかスウェーデンの名作シリーズの雄編と同じ『笑う警官』に改題)』では、道警裏金問題を内部から抉る正義の警察官たちの一団を描き、『制服捜査』では道警裏金不祥事の煽りを食って十勝の駐在警察官になった元刑事の活躍を描く。『廃墟に乞う』では心的外傷後ストレス障害を煩っている休職中の刑事の活躍を。そして本書ではまた新たなアイディアへの取り組みを見せるのである。
本書は、今流行りと言っていいだろう、コールドケースを扱う特別捜査官の活躍を描く。殺人の時効が廃止されたこと、科学捜査の進歩による再捜査の意味が認められていることから、過去の未解決犯罪を掘り起こして再捜査するチームがここに出現する。正直なところもう少し主人公の境遇にパンチが欲しかったのだが、とりあえず上司に逆らって謹慎中であるという反骨の刑事・水戸部を主人公に据えているところが佐々木譲らしい。
こちらの舞台は、四谷荒木町。かつての花街に起こった古い事件を調査するのは、謹慎から復帰させられた水戸部刑事と、かつてその事件を捜査した加納という退職刑事との二人だけ。警察という組織が形だけとりつくろったような捜査部門作りである。そうした組織に対して、個が意地を見せるというのも、何となく佐々木譲の構図である。西部劇スタイルの蝦夷荒野節を唸るこの作家の正義感の面目躍如たる設定で物語は走り出す。
過去の事件を掘り起こす捜査をどう描くかというところが小説の要となる部分であると思うが、毎日の水戸部と加納のやりとり、業務分担してゆきながら、お互いの性格や度量を測ってゆく様子などが、男の世界という空気で、なかなかに人間臭く、興味深い。荒木町に生きる人々の精一杯の様子が、街の歴史を掘り起こすことによって描かれるあたりも実にいい。
加納の動きが最後にはこの物語の肝になるのだが、最後までこの加納という老刑事と若い水戸部との人間臭い交流や距離感が本書の読ませどころとなって、なかなかに渋く、そして哀感溢れる情緒的な作品となっている。『地層捜査』という不思議なタイトルがいつの間にかこの捜査にしっくり合って見えてくるのも、この小説の視点、切口など、個性的で新鮮であるところに結局は落ち着いてゆくのか。
シリーズとしてどう定着させるかは、難しいところだと思うが、北海道警察小説の雄と見られる傍ら、この作家は警官三部作で東京を背景に傑作を書いてもいる。是非とも期待したいところである。
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公訴時効の廃止を受け、未解決となっている15年前の老女殺人事件を、謹慎明けの刑事・水戸部と退職刑事の加納がコンビを組んで、再捜査する。
元花街であった荒木町界隈で起こった殺人事件。地上げトラブル絡みの事件かと思いきや、元芸妓だった被害者の過去に事件の鍵を見出す。タイトルの意味が最初分からなかったけど、最後の加納の言葉を読んで納得。ナルホドねぇ。終始淡々と、地味な展開だった割に、主人公の水戸部が謹慎明けだったり、料理学校通いをしていたり、何かキャラ設定が唐突だなぁと思っていたら、シリーズ化しようということなのか。これも納得。
それなりに面白かったし、最後まで一気読みだったものの、結末がいまいちな感が。加納の立ち位置が微妙。
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相変わらずの佐々木節。警官の矜持や罪に対する市井の思いやら。郭の風景が浮かぶ。荒木町の地図を片手に、読了。ちゃんと実在する場所なんだから地図をつけてくれたらよかったのに、と佐々木作品に限らずいつも思う。お願いしますよ、出版社さん。
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水戸部は、15年前の荒木町老女殺人事件を再捜査することになり・・・
昭和を感じさせる風情に、地道な聞き込みと、安心して読める。
ただし、怪しいと思った人がホントに怪しかったり、意外性は無い。
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つまらなくは無いが面白くも無い。いつかどこかで読んだことのあるような既視感。ページを破ったのは誰かは想像がつき、なぜかがまた一つの謎として二人の関係に緊張感をもたらす。しかし主人公の水戸部さんはスーパーマン的な名探偵。今文春で連載しているのも同じシリーズかと今気付く。最近そういう世界を作ってまわしていくスタイルがはやりなのか。
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佐々木譲氏の得意とする警察もの。
時効が無くなり、いつまでも犯人を追い続けることが出来るようになったが、
流石に効率性の問題もあり、いつまでも捜査本部を設置し続けることは出来ない。
そんな中ふとしたきっかけで再捜査をすることとなり、
たまたま干されていた刑事に白羽の矢が。
定年を迎え相談役という立場の元刑事とともに事件解決に取り組む。
地主であった元置屋の女主人が殺された事件であるが、
戦後の混乱の時代、バブル時代、地上げが横行した時代と
歴史を掘り下げて、解決へと繋げる。
アンテナを張っておかないと気づかない繋がりが事件解決の糸口に。
なかなか興味深いお話でした。
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時効制度が撤廃され、迷宮入りとなった事件を捜査する部署が設立された。そこに配属となり、ある1つの捜査を命じられた謹慎明けの水戸部。そして定年退職したが、当時の捜査本部にいた加納が相談役として再捜査にあたる。
地層捜査、うまく言ったもんだな、と。
ストーリーはおもしろかった。
現場周辺の雰囲気も想像できたし。
でも実際の迷宮入りした事件はこんなに簡単には解決されないだろうな、とは思う。
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定年退職した捜査員とお蔵入りの事件の解決を命じられた警察官。
1995年の事件の掘り起しのため四谷の街を洗いなおしていく中で、様々な過去の人間模様が再構築される。様々な伏線がもう一つの事件のキーにもなり、最後に事件の図柄が浮かび上がってくる仕掛けは、うまい。
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昔の出来事の真相を時間が経ったからこそ解き明かすことができるというお話。捜査一課の現職刑事である主人公のシャープさと相談員となった元刑事の渋さ、荒木町の様々な人間模様が重なって、とても面白い。
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謎を解き、心が揺らぐ刑事を舞台となった荒木町の喧噪が包む。「多くの下駄の音、草履の音。〜女たちの笑い声。気風(きっぷ)のいい男衆の声。引き戸が開く音、閉じる音。」謹慎処分明けの刑事で突然の異動に不服そうだったが、最後は、この町での出会いが充実感となって前向きな印象を与える。表層の問題から過去の事件を探る「地層捜査」。自分の中で久しぶりにちゃんとした警察小説でした。