紙の本
ギリシャの昨今。
2023/01/23 18:41
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ギリシャの歴史というと古代ギリシャ文明について書かれる事が多いが、この本は題名通りオスマン・トルコからの独立戦争から経済破綻までを取り上げている。
独立戦争前までギリシャ語の話者は存在していても、自らを「ローマ人」であり正教徒と見なしていて、古代ギリシャとのつながりは意識していなかったという。ある意味において、緩やかな諸民族の集合体であったオスマン帝国がトルコ人の国民国家であるトルコ共和国への変貌と合わせ鏡のような関係にあるのだろう。
ギリシャ語という言葉を国家の中心にしたのはシオニストが現代ヘブライ語を作り出して国家の中心に据えたイスラエルに似ている。ヘブライ語はユダヤ教の聖なる言葉だったが、ギリシャ語は生きている言語なのが違うところだ。
ギリシャは初めはバイエルン王家、次にデンマーク王家から国王を迎えたが、20世紀に王制と共和制とを何回も体制が変わった国である。これだけ目まぐるしい国家も少ないのではないか。ギリシャ王室というと、あまり馴染みがないように思えるが、エディンバラ公やスペインのソフィア王妃がギリシャ王室出身である。
第2次大戦後のギリシャ内戦で共産党側についた人々は、ギリシャは西側の勢力圏に入ったので、スターリンに見捨てられたのは知っていてもチトーとの関係もあったのだ。
ドイツ軍占領下で編成された「治安大隊」という部隊が出て来るが、他の国々でも編成された警察大隊の事だろうか。
独立戦争当時のギリシャ王国から現在のギリシャ共和国までの国境内に住んでいるギリシャ人だけではなく、キプロスのギリシャ人やトルコに住んでいたギリシャ系の民族についても登場する。古代ギリシャの植民都市は言うまでもなく、かつてのビザンチン帝国の領地は現在のギリシャよりも広いので、ギリシャ語の話者が住んでいる地域が国民国家ギリシャの枠内では収まりきれない事を示している。
ただし1947年のパリ条約でイタリアから割譲されたからギリシャ領になったドデカネス諸島についての記述が71頁の地図でしか触れていない。
紙の本
ギリシャの歴史をあつかった貴重な本
2016/03/15 11:05
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投稿者:hope one - この投稿者のレビュー一覧を見る
債務危機で注目されるギリシャであるが、日本語でギリシャの歴史について読める本は意外と少ない。本書は、ギリシャの近現代史を描き出したものであるが、どちらかと言えば近代史に重点が置かれている。債務危機の背景となった戦後のギリシャ政治について知りたくて読んだのだが、戦後史についての記述はあまり充実しておらず、その点は少し残念だった。
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『ギリシャ語のかたち』(白水社)の著者による、ギリシャ近現代史の中からテーマを絞ってまとめられた「物語シリーズ」の一冊。
小著とはいえ、リチャード・クロッグ『ギリシャの歴史』(旧題『ギリシャ近現代史』(創土社)が1990年代までで終わっているのに対して、本書は2009年秋の政権交代までカバーしていて、いっそう臨場感が増す内容となっています。
まずは第五章「兄弟殺し」-第二次世界大戦とその後(一九四〇-七四)から、第六章国境外のギリシャ人、そして終章現代のギリシャ、の三つの章を読んで、この国が歩んできた「重たい」歴史がつかめると思います。
著者は「はじめに」で、「ステレオ・タイプ化されたギリシャ人像」とは違った、「複雑なイメージ」に気づき、「日本でも人気を博したギリシャ人映画監督テオ・アンゲロプロスが、なぜ青い空でなく、灰色の空のギリシャを撮り続けたのかが、理解できるだろう。」と述べていますが、それがこの著書の肝(きも)なのだと思います(本書「おわりに」の日付はそのアンゲロプロス監督の訃報に接した日、と記されています。。。)。
こうしたことを少しでも理解したうえで、欧州債務問題のなかでも異例の展開をみせているギリシャ問題を、トリプルAの諸国の視点からだけでなく多面的に考えていくようにしたいと思います。
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世界史の知識が乏しいのでなかなかに難しいところもありましたがどうにか読了。
古代ギリシャの燦然たる輝き以降は「かつての栄光を懐かしむ老大国?」的な幻想・誤解がありましたがそうではなく、近現代に至っては大国の政治的思惑に翻弄され続ける弱小国・・・。
そのような現実を知った今でも、ギリシアには何だか同情しずらいなあ~(笑)自業自得と言い切るのはさすがに酷かな?
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ドイツのバイエルン王室から招いた国王を戴く王国としての独立、領土拡大の過程、第二次大戦の枢軸国側による占領、左右勢力の内戦を経た軍事独裁政権の成立と崩壊、現代のユーロ危機の発端までが扱われている。個人的には現代のギリシャ人のアイデンティティがどのように形成されてきたのかを扱った序章が面白かった。序章ではビザンツ帝国以降のギリシャ人は自らをローマ人として規定していたことや古代ギリシャと自らの連続性をギリシャ人自身が意識し始めたのは独立戦争あたりからだということが述べられている。また、国境外のギリシャ人を扱った第6章、特に黒海沿岸に住んでいたポンドスギリシャ人を扱った部分が興味深かった。彼らの一部はオスマン帝国崩壊とともロシア領内に移って行ったことが述べられている。ペレストロイカ当時のモスクワ市長ガヴリール・ポポフがギリシャ人だったので不思議だったのが、ポンドスギリシャ人の子孫なのかもしれない。
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最近のギリシャ情勢を理解するのに最適な本だと思います。ギリシャとヨーロッパの関係が良く理解できました。
今のギリシャが古代から脈々と続く歴史ある国だと思っていた私のような人にはおススメです。
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古代ギリシャについてはよく知っているが、近現代のギリシャについてはよくわからない。いまのギリシャの錯綜ぶりはなんだろう? そしてあのヤニス・クセナキスはどんな場所に立ち現れたのか?
しかしこの本は教科書的というか、読み物としてはあまり面白くなかった。ギリシャ現代の政治史じたいが複雑きわまりないのかもしれないが、かなり筋がもつれていて、民衆の声を感じられなかった。
ところで著者の言うように、「古代ギリシャ」と近現代ギリシャとのあいだにはまぎれもない断絶があって、「古代ギリシャ」イメージがヨーロッパ人にとってあまりにも輝かしいため、それと同一性を維持しようとした近代以降の「ギリシャ人」(1830年にやっと生まれた国だ)は躍起になりすぎたのかもしれない。「古代ギリシャ」というシンボルは西欧にとってあまりにも大切すぎたのだ。
言語のレベルでまで、近代ギリシャ人は「古代そのままの格式ある古代ギリシャ語」を無理に存続させようともめたらしい。
小坂井敏晶氏の『民族という虚構』に指摘されていたような、まさに「民族という虚構」が展開されたのだ。
20世紀以降もギリシャの政治はあまりに不安定なようだ。しかし現実のギリシャ民衆の息づかいは、先に書いたようにこの本からは伝わってこない。
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小さい国の歴史は、人生にあんまり恵まれてない人が、それでも必死で生きていく姿に重なります。大国の思惑に翻弄されて、なかなか真に自国(民)のためになることを追及できない悔しさは、日本人にもよくわかる気持ちではないでしょうか。読み終わった頃には、すっかりギリシャ近現代史に魅了されていました。アンゲロプロスの映画の物悲しさは、こんなギリシャの歴史から来るのかとも思いました。
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近代のギリシャ人が古代のギリシャと自分たちをつなげ、アイデンティティーとすることに労力を注いでいる、という本書の流れが面白かった。
本書では国家としての「ギリシャ」という外見をつくり上げなければならなかった歴史背景、周辺環境の影響力を大きく取り上げている。
ギリシャは経済ではヨーロッパの周辺になり、観光業中心の外部依存型の経済になってしまっている。それにもかかわらず西側ヨーロッパの人々からは古代ギリシャというフィルターで見られ、自力で経済を立て直すように要請されている。
しかし、その古代ギリシャは経済的な自律性を持っていたのだろうか。
過去における古代ギリシャの諸都市は、その都市国家一つ一つを単独で見ても、経済の循環を説明できない。歴史家、F・ブローデルが指摘したようにギリシャ諸都市と地中海、さらには地中海諸地域との交易の中でそれら古代都市国家が成立していたことを考えなくてはいけない。
ギリシャにおける現在の問題も、また近代以来のアイデンティティーの問題も同様に考えなくてはいけない。
つまり、ギリシャとその周辺環境、世界経済の中でのギリシャの位置について、見なければならない。
本書の最後で語られる筆者の感じる変化というのは、産業基盤のない国がユーロによって消費できるようになり、外見的な近代化を果たしただけ、ということかもしれない。
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ギリシャを旅行するに当たって、今のギリシャを理解するのに非常に役立ちました。
オスマン帝国の歴史、塩野さんのローマ人の物語や十字軍物語、ベネチアをテーマにした海の都の物語等の地中海世界の歴史が好きな方にも、今のギリシャの成り立ちを知っておくのに、最適の書といえます。
著者の文章力や表現力も大変素晴らしいので、物書きとしても優秀な方だと思います。
結構、記憶に残る名言が一杯あって、そんな所も評価を高くした理由です。
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ギリシャの歴史の紀元前から今までに経緯をわかりやすく纏めている。まず2000年間を隷属で送ってきていること。ビザンチン帝国からオスマン帝国。そして外敵と戦うより以上に内紛の歴史でもある。またギリシャという国自体が(国土)という面で非常にあやふやであった。国という概念以上に人種・個人で小アジアに黒海沿岸にコミュニティを築いていた。また首都としてはイスタンブールがアテネより首都意識が強い。ギリシャ正教の中心。内紛の延長線で国民の理不尽な要求、それを為政者は認めてきた結果、今の状態に陥る。
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歴史にこんなに興味があるのに、そういえばギリシャについては、古代ギリシャ以来全く知らないことに気付いた。今回の財政危機で改めてスポットライトを浴びた(といっても暗いものだが)ギリシャ。この機会に1800年から現代までの歴史を知り、ギリシャショックを巻き起こした原因を探りたいと思った。
国民を裕福にさせる方法は2つある。経済を回してお金を生み出す方法、そして税金を徴収して国民に社会保障として還付する方法。ギリシャは政策に行き詰ると、国民の人気取りも兼ねて、後者の方法をよく用いる。ただし、粉飾決済付きで。
現代のゼロ成長と言われていた日本を見て、厚い社会保障に傾くと、より経済が悪化すると感じていた私は、ギリシャが常に後者の方法を選択していることを苦々しく思った。
「古代ギリシャの過去の栄光を今でも背負っている」「怠惰な国民性」などと揶揄されるギリシャ。そういった精神性の部分を含めて、今後、より理解を深めたいと思った。
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EUのお荷物であるかのような扱いをされているって聞くけど、過去の出来事を見てみると欧州各国にいろいろと酷いことされているなぁ。
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建国以降のギリシャの歴史をたどる。
ギリシャ史については全くの素人であったが、
読みやすくわかりやすい内容で、
かつ非常に興味深く読むことができた。
明確なビジョン無きまま、お膳立てされた独立では、
国家運営はうまくいかないのはどこの国でも同じだが、
偉大すぎる過去故にナショナリズムの拠り所を求めて
迷走する姿はギリシャ特有の姿であると感じた。
また、ヴェニゼロスについては評伝などあれば触れてみたい。