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商品説明
「ウソ」だらけの報道は、構造的に生み出されていた! 取材力の劣化と蔓延する事なかれ主義、原発タブーと大メディアの官僚化など、内幕を知るジャーナリストたちが、大メディアの危機の本質を語り尽くす。
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紙の本
真摯なメディア批判の書
2012/05/18 20:24
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:24wacky - この投稿者のレビュー一覧を見る
われわれはみな「メディアの罠」に嵌って生きている。声を大にして叫ばなければならないことは、そのことがいかに深刻な問題であるかを多くのひとびとがいまだに知らないことにある。本書は数多あるメディア批判の書より明快かつ先鋭にその深層を読む者に突きつける。それぞれ立ち位置の微妙に異なる青木理・神保哲生・高田昌幸という3人のジャーナリストの差異がパチパチと電光石火を放ちつつ擦れあい、暗闇に火を灯す。われわれは本書を手にし、自らがメディアの「担い手」となることをついに決意せざるをえない。
冒頭に提示される神保の「ジャーナリズムのノウハウは公共財」という問題意識は明快だ。新聞・テレビなど「旧メディア」はインターネット時代に入り影響力を失いつつあるとよくいわれるが、そのことは吟味する必要がある。宅配網・伝送網という既得権益に守られあぐらをかいてきたが、ネットの世界の競争原理に晒されるようになった。インターネットというプラットフォームに参入するには、それまでよりも低コストで従来の読者や視聴者に見てもらうことができるのだから、旧メディアとしても本来は歓迎すべきであるがそうならない。なぜなら、膨大な費用をかけてきたその経営スタイルをそのままにして参入すれば、そこで得られる収入はそれに反比例して少なくなってしまうからだ。利益率が高い紙の顧客を自らが配信するネットに取られる、自分で自分のしっぽを食う状態に陥るからだと。
このような旧メディアを尻目にインターネットメディアで10年以上飯を食ってきた神保は旧メディアの温室育ちぶりを批判しつつ、しかし重要な指摘を忘れない。新聞やテレビに蓄積されたノウハウはいわば社会に必要とされる公共財である。組織内にいる人にはその自覚が足りない。そう簡単になくなってしまわれては困るのだ。人材を一から育てる困難さを経験から語る神保ならではの危惧であろう。
問題は既得権益に守られ蓄積された公共財が市場にさらされたときにどうなるか。青木は新聞の「パッケージ力」をどう評価するかという興味深い問題提起をしている。いわく、これまでは宅配や再販制度に支えられているがゆえに、あまり読まれない記事にも記者を投入し、深く取材することができた。その結果、地味だけれども大切な報道ができた面もある。一言でいえば営利と離れたところで記事を書くことができたわけだ。
高田はこれを受け、パッケージをはずして一本一本の記事をバラバラにした場合、どの記事が本当に読まれているのか分からないと認める。しかしながら、ネット記事のランキングをみれば上位に上るのは三面記事ばかり。「売れる」記事を書けばそれでよいのか。それ以上に高田が危惧するのは記者の取材力の低下だという。
旧メディアが既得権益に守られその地位を独占してきたという弊害はあるにせよ、同時にそれが「ジャーナリズムの公共性」を維持してきたという皮肉な経緯がわかった。そこには営利で切り落とすことができない価値がある。インターネットという自由な商品交換の世界とそれはときに相反する。公共性と営利の背反という教訓は、インターネット上でのオルタナティブメディアであっても、いや、であるからこそ対峙しなければならない課題としてある。とりあえずここまでで明確になったことがある。公共性のあるメディアのコストを誰が負うべきかという問いをたてることがそれだ。