紙の本
デュレンマットを読もう!!
2013/03/01 22:05
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投稿者:一茶茂ン太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書を読んで、こんな面白い作家を知らなかったなんて、損してたな。
まだまだ素晴らしい作品で好みに合う作家は沢山居ると思うけど(笑)
さて短編が4つ収録されている。
1.「トンネル」・・最後はどうなるうだろうと読み進んだ。書かれた背景、意味するところが判らず、解説を読んでなるほど。訳者がデュレンマットを卒論に選んだ(留学して)だけのことはあり、翻訳と解説とも素晴らしい。
2.「失脚」・・・・今でもありそうな状況の国があると思わせる。ソ◎◎◎だけじゃなく、近い国もね。しかし登場人物がA~Pで表記されていて斬新なのか?私の理解力じゃ確認するのに付いている栞(登場人物記載)は必需品!
3.「故障」・・・・主人公は最後どうなるんだって読み進めさせられる。このオチ、想像と違ったな、色んなオチがありえるなと思った。ウ~ン、清廉潔白なんて無い、正義なんて見方、立場でで変わる、グレーを知ってしまった現代に生きてることを考えさせられる。
4.「巫女の死」・・・オイディプス王のお話、ギリシア神話に疎いので大変面白く読んだ。蜷川さんの舞台はネットで見たんだけど。望んだ正反対の結末とは皮肉なのか悲劇なのか。
兎に角、デュレンマットは読むべき作家と思う。
初読みで直ぐに他の作品も読みたいと思った作家は久し振り、取り合えず書店にあった『判事と死刑執行人』(同学社)を入手、早速読書中。また、リサイクルで『約束』早川文庫)を入手しました。古本屋さん回り復活!!
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中短編4編収録
2017/06/05 20:15
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投稿者:igashy - この投稿者のレビュー一覧を見る
トンネル:短いはずのトンネルが、地球の中心への落下孔へと変貌してしまった話。葉巻の名前がブラジルなのは、地球の裏側だから?(舞台はスイスなので違うと思うが) 失脚:革命後の権力者たちの会議。書記長Aを頂点とする噂と疑心暗鬼が渦巻く集団で、核開発大臣Oが会議に姿を現さないことをきっかけに始まる心理戦。部屋から出たら逮捕されて銃殺されると危篤の妻の元に向かうことも拒む大臣。ラストは真っ黒。 故障:ちょっとした故障で運命が変わる世界で紡げる物語とは?で2部にそのお話。車の故障で民家に泊めてもらうことになった営業マンが、元は司法界にいた老人たちの裁判ごっこ(死刑執行人まで)につきあった結果。
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予想以上にブラックでした
2023/09/15 12:54
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投稿者:kisuke - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ギリシア人男性、ギリシア人女性を求む」が面白かったので読んでみたのですが、かなりブラックな作品でした。
「失脚」、独裁政権や軍事クーデターの起きた国はこんな感じだろうか…と思わせる短篇。日々緊迫した心理戦を繰り広げて勝ち残ったら人間性が失われてしまうも当然か。ニュースで聞く信じ難い発言も、こういう人達には何でもないのかもしれません。
それに「故障」、クリスティにも裁かれない犯罪を扱った作品がありましたが、登場人物それぞれが恐ろしい。
本当に良く出来た小説でしたが…著者の人生はあまり幸福ではなかったのかな。
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スイスの有名な作家で、スイスのみならずドイツ語圏ではデュレンマットの戯曲は定番として上演されているのだそう。
1921年生まれ、1990年没。
イメージ豊かで、登場人物が濃く、確かに演劇的。
ソ連首脳部の葛藤を思わせる政治風刺的な「失脚」などは、登場人物の名前が頭文字だけなので、俳優がやって見せてくれたほうがわかりやすいかも。
「故障」は車の故障で、たまたま立ち寄った家で、村に住む老人達の楽しみに付き合うことになった男。
その楽しみとは、模擬裁判。
彼らはとっくに引退しているが、元は裁判官など法曹関係だったのだ。
罪を白状するように迫られ、冗談半分に営業マンである自分の身に起きたことを説明していくと‥
極上の食事をしながら議論し、酒を飲んでやけに盛り上がり、互いにほめあい、感動して肩を抱き合ううちに‥?!
「巫女の死」
オイディプス王の悲劇をさまざまな角度から見る話。
テーバイの王子がいずれ父親を殺し母親と寝るだろうという予言によって父王ライオスに捨てられ、コリントスで成長する。
運命なのか?後に予言は成就されてしまうのだが‥
巫女パニュキスは、アポロンに仕えるデルポイの神殿の女司祭長。
長年、口からでまかせに思いつく限り妙なことを言ってきたという衝撃の出だし。
しかも、パニュキスによる問題の神託とは、テイレシアスの意図によるものだった‥!
テイレシアスは盲目の預言者で政治家でもあり、法外な額の金を受け取った上で、依頼者に都合のいい予言を行っていたのだ。
もうろうとした老女パニュキスの視点というのも珍しい。
さらに、二転三転‥王妃イオカステの告白や、スピンクスの視点まで?
あるいはそれも、運命の環の中だったのか‥?
山岸さんの古代ギリシアを題材にしたコミックスなど思い起こしながら、読みました。
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20世紀スイスの劇作家・ミステリ作家の短編集。
とは言ってもミステリ色は弱く劇作家らしい色合いが強く出た作品が多い。
「トンネル」★★★
普段使い慣れた列車に乗っていたはずなのに、突然二度と戻れない暗闇に落ちていく。筋書きとしては既視感がある。特別いいとも思わなかった。
「失脚」★★★★
とある一党独裁国家の党幹部たちを描いた佳作。
ほんの数十ページの会議でのやり取りという舞台で、見事に一党独裁制の幹部が抱える失脚への恐怖を描き切っている。いわゆる社会主義国家の中枢で何が起こっているのか、解説にあるように見事に普遍化させることに成功していると思う。
さっきまで守りにいた立場の人間が、あっという間に攻めに転じる筋運びも見事。
「故障」★★★★★
営業中のセールスマンが、車の故障が原因で田舎の館に一泊することに。そこで元司法の職についていた老人たちの手によって裁判ゲームに参加することになるが・・・。
これはもう、ただただ面白い。ありもしなかった殺人犯に断定されて、かえって自分に箔がついたと喜ぶ主人公の俗物っぷりが楽しい。相変わらず登場人物たちのやり取りだけで読ませるのも上手い。
「巫女の死」★★★★
「父を殺し、母と寝る」との神託を受けたオイディプス王の有名な悲劇を、バコっと裏側からぶっ壊したような短編。
当の神託を下した巫女は全くの気まぐれから当てずっぽうにそう言っただけ・・・で始まるのだが、それが実はどんなに様々な人間の勝手な思い込みや策略で、予想外の事実を生んでしまったかという冗談みたいな話。
結局、起こった事実としては語られている悲劇と変わりはないのだが、、一気に悲劇を喜劇に転換してしまった。これもまたとても面白い。
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「トンネル」……いつも乗り慣れた列車だが、気づくともうずいぶんトンネルに入ったまま。不審に思って車掌を探すと…。ありふれた日常が知らぬ間に変貌を遂げる。皮肉と寓意に満ちながらかつ底知れぬリアリティに戦慄させられる物語。
「失脚」……粛清の恐怖に支配された某国の会議室。A~Pと匿名化された閣僚たちは互いの一挙手一投足に疑心暗鬼になり、誰と誰が結託しているのか探ろうとしている。だが命がけの心理戦は思わぬ方向に向かい…デュレンマットの恐るべき構成力と筆力に舌を巻く傑作。※本邦初訳
「故障」……自動車のエンストのために鄙びた村に一泊することになった営業マン。地元の老人たちと食事し、彼らの楽しみである「模擬裁判」に参加するが、思わぬ追及を受けて、彼の人生は一変する…。「現代は故障の時代」と指摘するデュレンマットが、彼なりに用意した結末に驚き!
「巫女の死」……実の父である王を討ち、実の母と結婚するというオイディプスの悲劇。しかし当時政治の行く先を決めていたのは、「預言」を王侯に売る預言者たちであった。死を目前にした一人の老巫女が、驚愕の告白を始める…。揺らぐことのない権威的な神話の世界に別の視点を取り入れることで、真実の一義性を果敢に突き崩す挑戦的な一作。※本邦初訳
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スイスの作家デュレンマットの短編集。どれも特異なシチュエーションが人間心理を照射し、物語を動かして行く。悲劇的だが、圧倒的に面白い。
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戯曲「物理学者たち」を読む機会があり、その前に読了しようと思ったもののくどさに中々進まず…演劇受容史など詳細な経歴があり、先に読み終えておけばよかったと大後悔。戯曲をこれから読んでみたいと思っている方も一旦はこちらの解説から触れることを勧める。
「トンネル」:電車通学をしている大学生の男。トンネルに入ったが中々出ない様子。おかしいと思い移動した所…
/掴みにはちょうど良い。トンネル=奇妙な世界への入口というのは例を紹介するまでもなく定番だけれど、その始祖と言える。既に男は死んでいて、終りのない悪夢を見続けているというありがちな想像が浮かぶ所も…
「失脚」:政治家たちがお互いの存在に恐れつつ行う駆け引き。/とにかくくどい。それぞれの心理を執拗なまでに書いており、これなら言葉の心理戦として戯曲化してほしいと切に思った一作。
「故障」:車の故障で困った男。ひょんなことから、老人たちの集う場で夕食を共にすることとなる。彼らは裁判ゲームを日夜楽しんでいた。男は被告人役になり、過去の経歴を語り始めるが…/テーマとして死が関わって来る遊びというものは迂闊にしてはいけないと思う。誰かが本気になりかねないのだから…こちらも前作と同じく舞台で見たい。ただし、簡潔なので作品としては「故障」の方が優れている。収録作品中ベスト。
「巫女の死」:こんな劣悪環境の神殿で働いていられない、と怒る老婆。彼女には死期が迫っていた。亡くなる直前に見る「オイディプス王」の様々な裏側とは/「ギリシャ劇大全」を読んだ後だとパロディ劇?と笑いが零れるものの、最後はしんみり終わる。このミスにランクインもしたそうだけれども、どうも純然たるミステリは好んでいなかったらしいことがこちらで分かる。アンチミステリのような要素も有りつつ深く考えさせられる一作。
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「ロムルス大帝」のデュレンマット、小説を読むのは初めてだが、これがこれが大変楽しい読書体験だった。「故障」のような冷静な眼を持っていたのがやはり戯曲になったのだなあと思わせる。
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こっちも、買ってしまったよ。
(2012年9月27日)
ちょっとだけ、読み始めています。
(2014年10月26日)
「故障」は、巨匠のワザです。
「巫女の死」ともども、21世紀の重要なテーマです。
(2014年11月3日)
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「トンネル」、「失脚」、「故障」、「巫女の死」の4篇収録の短篇集。各所で評判が良いようなので手にとってみたのだがこれが大当たり。特異な舞台設定やそれに翻弄される人間心理の描写が素晴らしく、収録作のどれもが面白い。バラエティに富んだ作風ではあるけれど共通するキーワードは”諦念”かな。
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私の評価基準
☆☆☆☆☆ 最高 すごくおもしろい ぜひおすすめ 保存版
☆☆☆☆ すごくおもしろい おすすめ 再読するかも
☆☆☆ おもしろい 気が向いたらどうぞ
☆☆ 普通 時間があれば
☆ つまらない もしくは趣味が合わない
2013.1.12読了
光文社によって、これらの古典が現代語訳で刊行されたことは、とても喜ばしい
ちゃんとお金を出して、本を買って読もうと思うが、少し価格が高いな。
で、このデュレンマットという作者や作品については、全く知らなかったのだが、以外と面白いし、なにより驚いたのは、中の故障という作品のストーリーはどこかで見ている事があったのでした。
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20世紀スイスの劇作家デュレンマット(1921-1990)による短編小説集。劇作家による小説らしく、いずれも読んでいると演劇を観ているような気分になる。
① 現代は、世界には不変的/普遍的な意味秩序が貫徹しているという前提が不可能となった時代である。
② つまり、世界から「もっともらしさ」が消失してしまった時代である。
③ そこにあるのは、各サークルがそれぞれの真善美を喚きあう胡散臭い喧騒だけである。
④ そして、「世界に真理はない」という言明自体が喧騒の一部としてしか成立し得ない。
⑤ よって現代は、世界に関して有意味な表現が可能なのかが常に問題となる時代である。
彼の不条理で奇妙な作風の背後には、こうした現代という時代への痛切な問題意識があったように思う。現代において「まだ可能な物語」とはいかなるものなのか、と。
□ 「トンネル」
① どうも何かが食い違っている気がする。
② つまり、世界は既に破綻をきたしているのかもしれない。
③ しかし、誰も世界の根源的なメカニズムを見通せない。
④ だから、何もなす術がない。
⑤ よって、誰もが世界の破綻を直視せず日常をそのまま継続しようとする。
ひとは日常という分厚い肉の内奥に押し込められて、世界の実相にまるで近づけなくなってしまったよう。
□ 「失脚」
① そこでは誰もが恐怖に支配されている。
② しかし、誰もその恐怖の内実を捉えられていない。
③ よってなおさら、恐怖は空虚な中心を取り巻きながら自己増殖していく。
確固たる世界の認識とそれに基づく安定的な自他関係の構築が不可能な、一種の極限状態。
□ 「故障――まだ可能な物語」
「われわれを脅かしているのはもはや神でも正義でもなく、交響曲第五番のような運命でもなくて、交通事故や設計ミスによるダムの決壊、注意散漫な実験助手が引き起こした原爆工場の爆発、調整を誤った人工孵化器なのだ。われわれの道はこのような故障の世界へと通じている」(p119)。
□ 「巫女の死」
「われわれふたりの前に立ちはだかっているのは、途方もない現実、それを引き起こす人間と同じくらい不可解な現実なのだ。神々が――そういうものが仮に存在するとして――このお互いにもつれ合ったとてつもない事実、しかも恐ろしく破廉恥な偶然によって引き起こされた事実の巨大な塊の外にあって、その全体像を、表面的であるにせよ、何らかの形で把握しているのに対して、われわれ死すべき運命にある人間は、この救いようもない混乱のまっただなかにあって、途方に暮れてただ手探りしているだけなのだ」(p274)。
「世界を理性に従わせようとした私、想像力でもって世界に打ち勝とうとしたお前とこの湿った洞窟の中で対峙した私と同じように、これから先もずっと、世界を秩序とみなす者が、世界を怪物とみなす者と対峙することになるだろう。一方の者は世界を批判可能なものとみなし、他方の者は世界をそのまま受け入れるだろう。一方の者は、ノミを使えばひとつ��石に形を与えることができるように、世界を変革可能なものとみなし、他方の者は、常に新しい顔を見せる怪物のように、世界がその不透明さとともに変わっていくこと、また人間理性のごく薄い層が人間本能のもつ非常に強い構造的な力に対して影響を与えることができる程度には世界を批判できるだろうということを指摘するだろう。一方はペシミストとののしり、他方は夢想家と嘲るだろう。一方は、歴史は一定の法則のもとに進行すると主張し、他方は、そのような法則は人間の頭の中にだけ存在すると言うだろう」(p276)。
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この著者の作品も古典新訳文庫も初めてだったが、古典!と身構えずとも普通に読みやすかった。
短編4つ収録でどれもシュールな話。
ベストは「巫女の死」。オイディプス王の神話をミステリ的に再構成したような話で、関係者の語りで真相が二転三転してゆく。
解説によると”スイスの現代作家たちには、スイスの牧歌的イメージを破壊しようとする傾向がある(中略)牧歌的なイメージはスイスを美化・理想化し、数々の問題を抱えた現実をその美しい風景で覆い隠してしまうからである。”そうだが、まさにスイスと言われて思い浮かべるのはハイジしかない。デュレンマットの他作品や他のスイス作家の作品も読んでみたい。
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推理小説のような要素ももつ短編集。劇作家が書いたのがよくわかる、独特な雰囲気がある。
粛清に支配された政治局の閣僚の攻防が繰り広げられる会議を書いた「失脚」、オイディプス神話をモチーフにした「巫女の死」が良かった。
特に「巫女の死」は、ドストエフスキーの大審問官のようで、こちらは丸で神話殺しのようだ。オイディプス神話の登場人物がそれぞれ登場し、自分だけが知る真相を神託を下した巫女に語る。読み進めるうちに何も信じられなくなり、神を疑うような展開になる。