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商品説明
イエス・キリストのおおまかな生涯を知った上で、西洋名画を楽しみたい人のための手引書。絵画に描かれた、神と悪魔と人間が織りなす壮大なドラマを紹介する。傑作・名作絵画43点をオールカラーで掲載。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
中野 京子
- 略歴
- 〈中野京子〉北海道生まれ。作家・ドイツ文学者。歴史や芸術に関する連載を新聞・雑誌に多数持つほか、TVの美術番組に出演するなど各方面で活躍。著書に「名画の謎」「危険な世界史」など。
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紙の本
さまざまな画風の画家が描いた名画を挿し絵のようにしてキリスト教の発祥を辿れる。イエスの物語が西洋絵画をいかに刺激してきたのかが分かる良書。
2012/10/23 15:16
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
昔、まだ文字だけでびっしりの本を読むのが苦手だった頃、挿し絵を追っていくのが楽しみだった。
幼年向け童話が中高学年用児童文学になり、挿し絵が数ページごとしか現れない本を読むようになると、ときどき出現する挿し絵ページが一時避難所のようで、次の挿し絵はいったいどこなのかと探ったものだ。
イエス・キリストの物語を、文字だけで読んだならばどうだろうか。あるいは、誰か一人の画家が手がけた挿し絵つきの本で読んだならばどうだろうか。
そう考えたとき、さまざまな時代のさまざまな画風、さまざまな画風ゆえさまざまな思想の画家が描いた名画を挿し絵のようにしてキリスト教の発祥を辿れる本書の価値は大きい。イエスの劇的な生涯のうち、いくつかのステージを、さらにインパクト強く胸に刻むことができる。
インパクト強くと言っても、十字架に掛けられたリアルなイエス・キリスト像の表紙は、いくら巨匠ベラスケスの手になるもので「最も美しいイエス像」と言われているにしても、あまりにリアルで痛そうで辛そうで直視するに堪えない。
これを表紙にするなど「悪趣味」「あざとい」と感じられもするから、引いてしまう人もいるだろう。しかし、やはり「十字架」はキリスト教にとって特別なものであり、肉体がほろびる磔刑があってこそ復活の伝説があり、世界中への伝道があったのだと読後には納得できる。
見開きごとではないが、6~7ページに1枚ぐらいは絵が入っている。「幼子イエス」「洗礼」「荒野の修行」「伝道」「奇蹟」「女たち」「使徒たち」「エルサレム」「最後の晩餐」「ゲッセマネ」「裁判」「磔刑」「復活」という13章(これは「13日」を意識!?)立てで構成されていて、各章のメインになる絵と、それをめぐる逸話に関する絵が数枚配されている。
クリスチャンやキリスト教に興味ある人、美術愛好家でなくとも、前にどこかで見たような感じのする絵が含まれていることと思う。「これは、あの場面ね」「これって、何の場面?」と、どちらの受け止め方をする人にとっても、イエスの生涯の物語の中で、それがどういう契機だったのかを追いながら確認できるのは、その場面の絵1枚きりに出会うよりも、背景や歴史を帯びた表現の価値に触れることができるので、絵の深みに入り込んでいける。
例えば、第4章「伝道」にギュスターヴ・ドレ「イエス・水上を歩く」という、本書で唯一のモノクロ作品が掲載されている。聖書の挿し絵に使われたものだが、キリスト教に詳しくない人がこれ1枚にどこかで出くわしたとしたら、「水の上を歩くなんてできっこないし……。こういう奇跡のエピソードやイメージを作って、まったく宗教ってのは勝手なガセ」と思うかもしれない。
それが、この本では、淡水のガラリア湖で出会った漁師二人がシモン改めペテロとアンデレという最初の使徒となること、さらにヤコブとヨハネ兄弟という漁師もスカウトされることを経て、船による布教がされていたことが書かれ、暴風雨を鎮め制御するイエスの超人的能力が紹介される。巻頭の「はじめに」で、塩分濃度が異常に高い死海であったなら、水上歩行に近いこともできたかもしれないという筆者の推察を読んだ後なので、弟子たちがイエスの教えに心酔し、厳しい伝道の旅の中で、現実と幻の間に何を見たのか、絵が語りかけてくるものに寛容になってくる。
使徒たちが、あるいは画家たちが現実の先に見た幻なのか、幻の先に見た現実なのかははっきりしないが、絵が見せてくれる2000年もの昔の風景に、五体を投身してしばし遊ぶのに恰好の本だ