紙の本
代案を出そう。
2019/05/05 14:24
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投稿者:kc1027 - この投稿者のレビュー一覧を見る
自由貿易とグローバルガバナンスが行き詰って世界で
本書の価値はますます増している。
基点となるアイデアは2つ。
1.市場と政府は代替的なものではなく補完的なもの
よりよく機能する市場が欲しいのであれば、より良い政府が必要となる
2.経済の繁栄と安定は、労働市場、金融、企業統治、社会福祉など
様々な領域における様々な制度の組み合わせを通じて実現することが可能
ハイパーグローバリゼーションは、労働基準、法人税競争、健康/安全基準、
新興国における産業政策など民主的な選択に影響し、国家主権を侵害し、
市井の人々の思いを妨げてしまう。その表出が今の欧米の政治だ。
著者曰く、ハイパーグローバリゼーションと民主主義と国家主権は並立せず、
選択肢は3つしかない。
国際的な取引費用を最小化する代わりに民主主義を制限するか、
グローバリゼーションを制限して民主主義的な正統性を確立するか
(第二次大戦後のブレトンウッズの妥協がそれで、しばらく非常に機能した)、
国家主権を犠牲にしてグローバル民主主義に向かうか。
著者の主張は明快で、「グローバルな規制が機能する範囲は、
望ましいグローバリゼーションの範囲に限定される」ことが望ましい。
資本主義3.0をデザインするにあたり、新しいグローバリゼーションの指針は7つ。
1.市場は統治システムに深く埋め込まれるべきだ
2.民主統治と政治共同体はほとんどが国民国家として組織されており、今後とも消えそうにない
3.繁栄に「唯一の道」はない
4.それぞれの国に独自の社会体制、規制、制度を守る権利がある
5.自国の制度を他国に押し付けるべきではない
6.国際経済制度の目的は、国によって異なる制度の間に交通ルールを制定することである
7.非民主的国家は、民主国家による国際経済秩序において同じ権利や特権を享受できない
「健全で、持続可能な世界経済を可能にするには、各国が自らの未来を決める、
民主主義のための余地を残さなければならない。」
民主国家の主権者である国民は、良き社会を自らデザインし、統治せねばならない。
それぞれの、政治が大事だ。経済学はそのためにある。
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経済学はその前提をも考え政策を形成せよ
2016/06/13 08:57
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投稿者:タヌ様 - この投稿者のレビュー一覧を見る
読みごたえはあった。経済学者は経済学部にいて査読ジャーナルに投稿する人。政治経済学者は経済学部にいない、査読ジャーナルには投稿しても掲載されないことを書く人といった区分けで著者は後者と思っていたが違った。シカゴ大のJ.of P.E.やブルッキングスペーパーにしっかり掲載されている。そうか、インサイダー扱い可能なんだと。
ミクロやマクロの経済学はある前提で構築されて、その中で実証や理論式を組み立てるけど、著者ははっきりとその前提を含めて考え理論化せよである。自己満足的に構築済み体系の中で遊んでも意味のある政策の形成にはならんよと。むしろ誤導を与えるものとなると。そうなのであるけど、経済学プロパーには通じない。民主主義、国家主権、統治なんて学んでないから既存理論ありきで新たなフレームは確立していない、さりとて新た構築できないのである。
サックスやフィッシャーが主導した世銀やIMFのショック療法が介入した国々に壊滅的打撃を与え、スティグリッツのみ正しかったという事後評価を受ける時代の著作である。日本の偽装した旧マルキストは論外として社会科学者は狭い学問の中だけでなく自ら考えることを求められているのはそのとおりで正しい。
経済学理論の有効性信頼度が揺らぐ時代にはこのやりかたしかない。
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グローバリゼーションの功罪
2018/09/11 18:10
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投稿者:病身の孤独な読者 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、グローバリゼーション研究で有名な書籍であり、たびたび引用されている。本書の趣旨は単純で、グローバリゼーションと民主主義と自由主義は、トリレンマの関係であり、全てがよくなるようにすることができないという主張である。そのために、本書では膨大な歴史的見直しと経済分析が盛り込まれている。説得力もあり、面白く読める書籍である
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トリレンマ
2021/12/13 16:03
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投稿者:とめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
市場と政府は代替的なものではなく補完的なものであると市場は統治なしには機能しないことを、中国の貿易政策としての安い自国通貨は輸出への補助金と輸入への課税と同じ効果を持つといった歴史的事例を挙げながら、健全で持続可能な世界経済を可能にする方法を検討した書。
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「政治的トリレンマ」で有名なダニ・ロドリックが著した本。本書でもやはりメインは政治的トリレンマ(すなわち、国家主権、民主主義、グローバリゼーションのうち、2つを選択できても3つ全てを選択する事はできない)であり、その議論はとても説得力のあるものであった。それ以外にも、経済グローバリゼーションについてのロドリックの鋭い考察が記されており、一読の価値があると言える。
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効率とか域内経済の発展のための仕組みは、短期的に成功することが可能でも、それらの歪みは域外なり、少し先の未来に必ず露見する。持続性を求めるなら何かしらの不自由(ルール・関税)を選択する必要がある。抜け駆け一抜けのマネーゲームはあまりにも空しい。
フェアなゲームにするためには痛み分けが必要。。
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国家と市場は、対立する概念と考えられているが、実際は国家が市場に介入し、進展するグローバル化を管理することは可能であるというスタンスで書かれている。筆者は、民主主義、国民国家、グローバル化という三つの概念を提示し、これらのうち二つの道しか得られない状況(トリレンマ)を考えるならば、民主主義と国民国家を取り、グローバル化を管理すべきであると論じている。
グローバル化は、果たして悪い影響しか生まないのか、あるいは、良い影響も与えることがあるのか、グローバル化は国内の制度をすべてぶちこわすのか、などグローバル化を巡る論点は多い。しかし、私自身グローバル化を巡る議論は、どれも極端なものが多いと感じていた。その中で、歴史的な分析をした上で、グローバル化は国家によって管理することができるとすることを前提に論じた本書の見解は、かなり刺激的なものであった。特に、明治時代の日本を例に挙げたところが、説得性があると感じられた。
以上のように、本書は読者に対して新たな視点を提供するものと考えられる。その意味で、個人的にかなりお勧めできる本である。
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国家主権、民主主義、ハイパー・グローバリゼーションの三つを同時に満たすことは出来ない、という現実をどのように受け入れるか。グローバリゼーションによる全体の利益の増加が局所的に大きくなる不利益を十分に相殺出来るかどうかにしか正当性の根拠はないという結論は説得的。ただしその際、労働力の移動については現状をより緩和する方向に正義があるとの苦い指摘も。
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衝撃的だったのは、イデオロギーとしての「自由貿易」――瞬く間に各界を侵食し、ついには“神聖にして犯すべからざるもの”として位置づけられるまでに至った、その渦中に居た著者自身や他の経済学者らのエピソードにみる異常な空間である。
ヴァンダービルト大学経済学者ロバート・ドリスキル氏論文に関するエピソード(86~87頁)
http://book.g.hatena.ne.jp/xyn9/20140216/isbn4560082768p86
「サックス=ワーナーの分析」と経済学界の反応~著者の実体験(195~198頁)
http://book.g.hatena.ne.jp/xyn9/20140226/isbn4560082768p195
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+装丁が素晴らしい
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内取引と国際取引の大きな違いは、世界政府が存在しないこと。取引コストは当然後者のほうが当然高い。たとえ関税が下がっても法規制や治安のグローバル取引のリスクは大きい。数%の利益しかないモノを海外で売っては利益など出ない。国内で売れば、代金とモノが共に国内に残り、利益を生むるが、海外で売れば代金だけで、モノは永久に戻ってこない。国内取引は2倍の経済効果があることを忘れてはならない。
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国際経済学者の著した本で、とても読みごたえがありました。数式や図は一切使っていませんが、入門レベルの知識は前提となっています。
歴史的にグローバリゼーションが拡大した時期には、どのような条件が揃っていたのか。市場は統治なしには機能しない。世界経済の政治的トリレンマが存在する等々の主流派とは異なった切り口の内容が展開されています。
著者の考える健全なグローバリゼーションも提示されています。
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僕はぼんやりと「自由貿易支持派」である。ぼんやりと、というのは所詮教科書に出てくるリカードの比較優位に惹かれただけであり、それ以上に何か考えている訳ではない。あとは、より良いものが安く手に入るという直感だろうか。
さて、そんな浅はかな気持ちで本書を読み始めたのだが、唸らせられた。まず、経済史を紐解きながら、自由貿易、保護貿易の相対性を考えていく。そして、自由貿易の性質について考えて行く。安く手に入るとはどういうことなのか。本当に公正な取引なのか。この時、教科書のような単純な図式では済まされないことに気づく。そして、それは民主主義や国家主権を巻き込んだ問題になっていく。
筆者によれば、民主主義、国家主権、グローバリゼーションは、同時に追求することが不可能な目標であり、どれか一つは諦めなければいけない。そこで筆者は「完全な」グローバリゼーションを諦めるよう説く。特に、アルゼンチンやアメリカの経済危機や、日本などブレトンウッズ期の経済成長の例を引く。無秩序なグローバリゼーションがもたらした破滅と、管理されたグローバリゼーションの栄華である。この本は何も極端なことは言わない。(最後の提言は若干怪しいが)節度あるグローバリゼーションの実現である。
その前提にあるのは、よく機能する市場経済はすべて、国家と市場、自由放任と介入の組み合わせであり、経済の繁栄と安定は労働市場、金融、企業統治、社会福祉など様々な領域における様々な組み合わせを通じて実現することが可能である、という考えである。つまり、経済発展の仕方は十人十色ということである。それを国際協調の下に上から縛るのはどうなのか、という疑念がそこにはある。
当然だが、グローバリゼーションを否定するものでもない。国家の介入を徒に賛美するものではない。ただ、行きすぎたグローバリゼーションに警鐘を鳴らすものである。TPPはなかなか決まらない。ドーハラウンドに至っては開かれもしない。この一冊を読むとそれも納得がいく。
そもそもグローバリゼーション、特にスーパーグローバリゼーションというのはごく一部のグローバルエリートの特殊関心事項に過ぎない、というのは考えさせられる点である。
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”「グローバリゼーション」、「国家主権」、「民主政治」の3つは同時に達成することはできない ” という考えで、昨今の英国や米国の政治的な動きが理解できる。
グローバリゼーションを選ぶと国家主権か民主政治のどちらかが犠牲になり、いま起きている英米のグローバリゼーションへの政治的反動は、国家主権や民主政治を取り戻そうという動きということだ。
①英国のEU離脱:国家主権を取り戻す
経済的なメリットは大きいが、共通政策や膨大な規制にしばられ、国家主権が制約される。
②米国のトランプ勝利
グローバル企業や投資家と政治家が結びつき、その利害のみを保護する政治への中下層の不満を取り込んだ
グローバリゼーションへの政治的反動は、まだ続くと思われるが、米国ほどの格差社会ではなく、中下層の疲弊も少ないと思われ、TTPなどの貿易交渉は行っているが、EUほど国家主権が制限されているとは思えない日本。
通称国家として繁栄し、グローバリゼーションの恩恵を受けている日本であるだけに、グローバリゼーションへの政治的反動の動きは気になるところである。
ーーーー 追記 ーーーーーー
「『米中経済戦争』の内実を読み解く」(著者:津上俊哉)の中で
「グローバリゼーション」、「国家主権」、「民主政治」の3つに対し、「民主主義」が「自由主義」や「資本主義」と、どう折り合いをつけていくかは永遠の課題と書かれていた。
・「グローバリゼーション」=「自由主義」「資本主義」
・「民主政治」=「民主主義」
また、民主主義が資本主義に深く絶望し、忍び寄る何らかの脅威が強い恐怖をもたらすとき、社会には全体主義の種が捲かれると。
昭和初期から世界大戦までの過去の過ちを犯さないように、気をつけたい。
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170520 中央図書館
貿易は、世界の富を総量で増やすためには有益だが、リスク、不安定性の問題に顧慮が必要であり、一定の「制度」のもとで営まれなくてはならない。市場は統治なしには健全に機能し得ない、という立場。
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訳者あとがきにある通り、グローバリゼーション、民主主義、国家主権のトリレンマの解決を歴史的に分析している前半は面白く読めた。
しかし、競争的脅威以外へのセーフガード措置の拡大、国内規制への浸食を防ぐための国際金融取引の制限という、筆者の主たる提言が、どうすれば実現可能なのかは今ひとつ理解しにくい。