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復活の地 3 (ハヤカワ文庫 JA)
復活の地3
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紙の本
SF的設定の下に繰り広げられる地震被災小説
2005/02/28 17:29
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Yumikoit - この投稿者のレビュー一覧を見る
地震災害における災害復興をテーマにしたSF。
舞台は地球から飛び立ち、殖民した星間惑星のひとつ。
しかし失われてしまった技術は、必ずしも星間旅行を容易なものとはしていない。
技術力としては今の地球とさほど変わりないかもしれない。
そして、貴族などの階級制度と、高皇…血縁で継続される王政の存在。
それは戦前の日本をモデルとした社会形態である。
首都を襲う大地震。逃げ惑う人々、遅れる行政の対応。
高皇一族も、辺境にいた一人を除いて全て死に絶えてしまう。
気高く、賢いが世間知らずのお姫さま。スミル。
アーサーヘイリーの小説にでも出てきそうな、孤高に果敢に目の前の災害に取り組む主人公、セイオ。
個々の被災に関わるエピソードやそれに取り組む数々の魅惑的なキャラクター達はよく書き込んである。
そして、筋立ても悪くない。
それでもいまいち物足りない。
もう一度やってくる大地震にどうやって立ち向かうのか。主要キャラクターの奮戦が続く。
再度やってくる大地震、というのがミソで、これが後半の山場になる。SFならではの舞台設定もここでやっと生きてくる。
しかしキャラクター達の動きも水面下に潜まり、際立ってこなくなるのは仕方ないかもしれない。だって、地震対策というのはそもそも、組織がどうとかそういうものではなく、一人ひとりの心がけが生きてくるものだからだ。
そういう意味ではSF版プロジェクトX?
スミルとセイオのエピソードは、読み終わってみるとこんなもんかな、という感じ。それなりに説得力はあるがキャラクター達の設定上与えられた個性に比べて、何かが追いついていない感じ。
むしろ、サイ王子とネリのエピソードに焦点を当ててストーリィを展開していった方が面白かったかもしれない。あるいは、侍女サユカとソレンスの恋物語に。
スケールの大きさが、文庫3冊では書き足りないのかな。
1巻目はよかったが、3巻目ともなると広げた風呂敷を畳む場所に困っている印象。
というよりも、日本のジュブナイルにありがちなキャラクター設定を持ち出さずに、もっと当たり前に正面から筋立てを考えても、重厚な感じの面白い小説になると思うんだけどな。ちょっと未消化気味。
でも、SFとしては面白い着眼点で書かれている小説。よきかな。
>>>飼主日記-Yumikoit!?
紙の本
復活の日本
2004/11/15 15:39
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:san - この投稿者のレビュー一覧を見る
文学史の中で予言的な物語というのは幾つかある。
原子爆弾を描いた某作家、タイタニックとくりそつな物語を書いた作家等
など。本作者の小川一水もそういった予言能力でもあったのだろうか?と
考えたくなるが、実はそんな事もない(中越地震直後という時期のため)。
というと、種明かしは簡単。
普遍的な災害に対する反省を多量に含む、シュミレーション物語であると
いう事。実際、本書の大まかな流れは、実は関東大震災時の日本の姿その
ものであり、その写像である。
1で書いたように、司政官シリーズを彷彿とさせるような主人公の発言や
行動、登場する女性キャラクタの言動などは実にSFチックであり、秋オタ
を刺激する…
しかし、2巻目以降、記述が実に峻烈になっていく。
軍部による被差別民の大虐殺、選民思想の強い独断的な陸軍、開明的な天
軍(日本海軍)とその動きの問題点の指摘。
そう、これは同上人物を架空の人間に、国家を架空の星間国家という骨
組みに置き換えただけの物語になっているのは明白であり、それが強く
“人間”を意識した物語として味付けされているのだ。
当時の日本は、震災復帰後から空気が澱んでいく。軍部独裁・独走へと。
本作品の最後はそうせず、救いがあるように進められ、うまくまとまって
いる。お勧めの作品だ。
では…現実の世界はどうなるのだろう!?
本作品の基本プロットが関東大震災の日本にあると書いたが、現時点で同じ
様な東海地震や関東直下地震が発生した場合、物語のように幸せな対応を
取る事が出来るのだろうか…
領土欲丸出しで迫る中国、日本の預金を当てにした政策を続ける与党、腐敗
しきった官僚制度等など、不安は尽きない。
紙の本
大災害に対処することとは
2004/11/03 18:31
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まさぴゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
星雲賞受賞作「第六大陸」に続く読み応えのあるSF秀作でした。
時代を感じ取る能力のある作家は、時に不思議なシンクロを感じさせますが、新潟県中越地震が丁度起きた頃にこの最終巻が出版されました。ニュースでは、食料が届かなかったり、食料が届くと他の物資が届かなくなったりと、兵站(ロジスティクス)がまともに機能させられない政府や自治体の無能さが印象的でした。逆に、この架空の惑星でジャルーダ総督府という軍政下の占領地域で職業的訓練をつんだ官僚セイオランカベリーが、見事に軍隊のシステムを取り入れ兵站を確保していく様は、読んでいてため息が出ました。架空世界という前提で、SFのシュミレーション機能が十全に出ている作品でした。
多きなテーマとしては、いくつかの構造があり
国家組織の運営キャパシティを超えた大災害
近代縦割り組織の横の連携不足
国王、政治家、官僚、軍人の職務
摂政スミルと若き高級官僚セイオの淡い恋物語と成長物語
列強に蹂躙されかれない開国前の野蛮な鎖国弱小国家
国際間(惑星間)の政治力学
なのですが、巻末の参考資料を見れば一目瞭然ですが、舞台設定は、大正大震災頃の帝都東京と列強に脅かされ同時にアジアを弾圧していた戦前の日本です。そして小川一水さんの過去の作品「回転翼の天使 ジュエルボックスナビゲイター」から続く、因習にとらわれた組織の無能ぶりと、それとの戦いに立ち上がる個人たちです。その他似たテーマでは、映画「踊る大捜査線」と消防士の災害救助活動を描いた曽田正人さんの傑作マンガ「め組の大吾」を連想しました。この「現場で事態に直面する人々の声を無視するな」という視点は、物凄く共感します。僕自身が、巨大組織の上層部から現場に遊離した企画案を考える職務についているので、中央集権組織での現場との軋轢は、物凄く身に染みます。また他の評者の方を見ると眉村卓さんの司政官シリーズ(どちらかというと小川さんの別作品「導きの星」のほうが、僕は連想するが)を連想するという方がいるが、むしろ田中芳樹さんの架空戦記SFモノ「七都市物語」などの方を強く連想します。けっして悲惨な現実を無視しているわけではないのに妙に理想主義的な青臭い感覚がするののが、田中芳樹さんのテイストと似ています。第三巻の縦割り組織への対抗手段として市民の連帯とボランティアを持ち出してくるあたりは非常に甘いが、同時に強固で最も対処能力溢れる危機時における軍隊を真正面から描いている点は、さすが。
まぁ、SF的設定のおもしろさはおいていて、個人的には18歳でいきなり建国以来最大の危機が訪れた国家の最高権力者となった摂政スミルが、凄く萌えた。窮地に追い込まれた健気でかつ誇り高い王女様というのは、いいキャラクターだと思う。もっと主人公との淡い恋を掘り下げてほしかったが、テーマと3巻分のヴォリュームからこの辺が限界だったのかもしれない。
小川一水さんの作品は、名前だけで必ず新刊が出るたびに購入する作家だが、星雲賞を取りハヤカワSFで文庫を出す世になった昨今、そのレベルは非常に安定してきて、ファンとしてはたまらない、今日この頃です。作風もマイナーではないので、ぜひもっとメジャーで売れて欲しいです。アニメ化やドラマ化がしやすい作品が多いと思うのですが。
紙の本
最終巻は「防災の手引き」として読んでしまいました。
2004/11/01 23:39
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぶんこ虫 - この投稿者のレビュー一覧を見る
最終巻です。
セイオとスミルの成長物語としても楽しめましたが、この巻は、その大半を「防災の手引き」として読んでしまいました。もちろん現実の災害とは違いますし、地震予知が不可能である現実を考えると、やはり物語の世界のこと、と言うしかないのですが、それでも、セイオたちが仕掛けていった事前対策のひとつひとつに「なるほど」と感心させられたり、考えさせられたり、妙に現実的な気分で読んでいました。
それにしてもレンカ帝国の幸運は、セイオに限らず、とびきり優秀な人材に恵まれたことです。災害などの緊急のときは、ハードとかソフトとかいう以前に、能動的に動ける人間がどのくらいいるかが最大のポイントでしょう。物語の世界には要所要所にそういう人々が配置されていますが、現実の世界は…、なんて、ついつい考えさせられてしまいます。
こういう現実的なことを考えながら読んでしまったSFというのも珍しいかもしれません。物語自体は、これに国レベル、星間レベルでの政治的駆け引きや権力争いなども絡んできますが、上手に織り込まれて読みやすく仕上がっています。
小川一水氏の作品のすべてを読んでいるわけではありませんが、前作「第六大陸」と本書「復活の地」は、それ以前の作品とは一味違ってきている感じがします。描かれる人物や世界がぐんと魅力的になってきましたし、何より読みやすくなりました。次はどんな物語を披露してくれるのか、楽しみにしています。