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紺碧海岸のメグレ (論創海外ミステリ)
紺碧海岸の酒場でメグレ警視が出会った女性たち。黄昏の街角に残響する人生の哀歌。長らく邦訳が再刊されなかった「自由酒場」79年の時を経て完訳で復刊!【「BOOK」データベー...
紺碧海岸のメグレ (論創海外ミステリ)
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商品説明
紺碧海岸の酒場でメグレ警視が出会った女性たち。黄昏の街角に残響する人生の哀歌。長らく邦訳が再刊されなかった「自由酒場」79年の時を経て完訳で復刊!【「BOOK」データベースの商品解説】
3月の南仏。パリからやってきたメグレ警視は、暑さとヴァカンスの雰囲気にうんざりしながらも、ある殺人事件を捜査する。1人の男の栄華と没落、父親と息子の葛藤、男と女のままならない恋愛を巧みに描いたミステリ。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
ジョルジュ・シムノン
- 略歴
- 〈ジョルジュ・シムノン〉1903〜89年。ベルギー生まれ。幾つものペンネームを使い分けながら、大衆雑誌に数多くの小説を書いた。66年にアメリカ探偵作家クラブの巨匠賞を受賞。著書に「怪盗レトン」など。
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シムノンの特徴である、弱者あるいは不幸な者への温かいまなざしが色濃く出た初期のメグレものです。
2015/08/20 22:27
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投稿者:hacker - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書の舞台は紺碧海岸(コート・ダジュール)、パリから殺人事件の捜査のために派遣されたメグレは、映画『アニー・ホール』でダイアン・キートンを追いかけてNYから西海岸に行き、そこの強い陽射しにうんざりしたウディ・アレンのごとく、紺碧海岸の暑さと陽射しに頭がボーっとして、「仕事」になりません。事件はというと、オーストラリア人で、昔の大物スパイのウィリアム・ブラウンが住んでいる別荘から死体で見つかったというものですが、同居していた愛人とその母親の言によると、三日前に家に戻ってきた時に、背中をナイフで刺された致命傷があり、そのまま死んでしまったのを三日間ほうっておいてから、逃げ出そうとしたというもので、まったくつじつまが合いません。彼女たちによると、この男は時々数日間の「お籠り」に出かける時があって、そこから帰ってきた時の出来事だというのです。
メグレは、紺碧海岸を犬が歩くごとく、ふらふらしているうちに、ブラウンが「お籠り」の時に通っていた酒場、『リバティ・バー(自由酒場)』を見つけます。そこは、かってパリの娼婦だった肥った中年女と、若い娼婦が住んでいて、妙に居心地の良い場所でした。やがて、メグレは、ブラウンは現在の生活からの逃げ場所としてここを使っていただけでなく、そもそもオーストラリアから妻子を置いてフランスに逃げてきた男であることを知るのです。
失踪や逃避は、シムノンがしばしば扱う題材ですが、本書(1932年)に登場するウィリアム・ブラウンも、後年の傑作『ブーベ氏の埋葬』(1950年)の主人公のように、次々と自分を変えながら、逃避を繰り返す男です。ただ、こちらの方は大ブルジョアでもあり、周囲に迷惑をかけるのが生き甲斐のような、あまり好感の持てない人物で、結果として自らの死をまねくのですが、しかし刺されながらもある行動を採り、結局それがメグレの心を動かして、警察官らしからぬ決断をさせることになったのだろうと思います。
シムノンとしても、メグレものとしても、比較的軽い仕上がりですが、十分楽しめる出来です。パリに戻ったメグレが、夫人と食事をしながら「色恋沙汰だよ」と、事件についてさっぱり要領を得ない説明をして、夫人を困惑させるラストは、とても良いですね。
ただ、この邦題には疑問符です。旧題『自由酒場』あるいは原題の『リバティ・バー』の方がずっと良いです。メグレという名前を出したかったのでしょうが、それなら『コート・ダジュールのメグレ』の方が良かったと思います。