紙の本
冷静になろう!
2015/09/08 07:21
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ほとんど10年ぶりに芥川賞の候補になった作品だが、選考委員の評価は高くなかった。
唯一村上龍委員が推していたが、「芽吹いた退廃が、妖しい花弁に育つのを期待している」という程のことがある作品かと首を傾げたくなる。
若い女性作家と編集者の交友を描いた作品、もちろんそんな表面的な作品ではないが、そこの深部に至ると極めて一人よがりになってしまうのは、どうしてだろう。
こういう若い作家は純文学などといったきどりではなく、もっと読者を意識した小説を書くようにした方がいいのではないだろうか。
まず、主人公の周辺の人たち、特に男たちの造型がよくない。
主人公の心を狂わせる柴田という編集者、編集者にはああいう人たちもいるのかもしれないが、読者というごく日常的に生活をしている人たちからすると、その柴田は意味不明の男にしか見えない。
担当の作家、ここでは主人公萱野千紘を、もちあげたと思うと、突然ぞんざいな口ぶりに変転する。そんな男をあえて作者は造詣したのだろうが、そういう男を作る必要がわからない。
もっとも存在感があるとすれば、スナックを経営している千紘の母親だろうか。
千紘に夏の間祖父の蔵書の裁断を頼むのもこの母親で、この設定だけはなかなかのものがあったが、その設定を生かし切れていないのがもったいない。
この作品が芥川賞の候補になったのがどういう経緯か知らないが、前作『Red』が第21回島清恋愛文学賞を受賞した勢いで芥川賞を狙ったのかもしれないが、おそらくこの作者の資質は芥川賞ではなく直木賞だと思う。だとすれば、編集者が作者に書かせるべきはそういう作品ではないだろうか。
きちんとした装幀、出来栄えのいいタイトル、なのにその作品はあまりにも未熟。純文学の書き手には読者が見えていないのだろうか。
山田詠美選考委員がこの作品の選評で「冷静になろう!」という意味がよくわかる。特に「!」までついたこの選評を、作者もこの作品を共にしただろう編集者も深く受け止めてもらいたい。
紙の本
期待したいが…
2015/10/05 05:58
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投稿者:テラちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
金原ひとみ、綿矢りさらと並び、若手の期待株だが、この人はまだ、芥川賞を獲っていなかったか。デビュー当時の方が、みずみずしさがあって楽しみだった。今、スランプ?
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これを読んで、わたしは島本理生さんの描く純文学作品が好きなんだなって強く実感した。どうして彼女の描く男性たちは酷く歪んだ感性を持っていても読者を、や、わたし個人を強く惹きつけるのだろうか。ある意味で病的。
柴田さんに傷つけられて千紘がいう
――ああ、この世にはまだこんなに人を傷つける方法があったのか、と死んでいくような気持ちであった。これ見たことがある、とも。(p11)
この作品は読者が精神的に健康か否か、幸せか否かで、はっきりと意見がわかれるとおもうのだが、わたしはこれを読んでわかると強く感じた。人を傷つけることが巧い男を知っている。その男から離れたいのに離れることができず、また惹かれてしまうことも知っている。間違えている方角だとわかっていながらもついていってしまう。そしてこういう男は決まって聞き上手だし、取り込むこともやりこむことも巧い。すんでのところまでまで近づき、突然糸を切ったかのように突き放す。
――「答えを求めてもない。彼らはなにも考えてない。ただ、あなたを刺激して、自分のほうに意識を向けたら満足して気分で突き放すだけ」思わずでも、と反論していた。「意味があるかもしれないって」「思いたいよね。でも、そんなもんないよ」(p74)
千紘が自分へ向かずにいることに気づいている猪俣くんの
――「この世で自分だけが傷ついてるとおもってるだろ」「思ってるだろ。誰よりも傷ついてるのはあたしっていう自意識で生きてるよ。俺だって本当は言いたいことたくさんあるのを我慢して優しくしてるんだよ。千紘ちゃんのこと好きだから、仕方ないと思っていた。でも、あんまりだろ。俺と会ってた時期に千紘ちゃんはあの揉めた編集の男とも会ってて騒ぎ起こして。俺は、なんなんだよ。おまえにとってそんなに意味のない存在なのかよ」「なにが、違うんだよ。じゃあ説明しろよ」「俺だって、がんばったよ。それでも言われないと分かんないよ」「ごめん、本当に。思ってもないこと言った」(p92,p93)
この、“思ってもないこと言った”ってすごく優しいなって思った。思ってることしか言っていないのに、その優しさにしびれた。つづけて
――「俺、千紘ちゃんのこと好きだった。でも、やっぱ、俺のこと好きじゃない?」「あげる。千紘ちゃんは否定するだろうけど、単純な話でさ、刺すくらい好きだったんだよ。その人のこと。でも俺のことは、たまになら会えるけど、毎日一緒にいたらうっとうしい程度なんだよね」(p97)
そこからの、冒頭、千紘が柴田をフォークで刺した理由、時系列が定まり、うわーっと鳥肌立った。柴田の卑猥さに。怖い。とにかく怖い。本当にこの世にはこんなにも人を傷つけることを楽しんでいる人がいるんだなと思う。
中身としてはふわふわしていて未熟だし、確かに島本さんにしては幼稚のようにも読み取れた。100頁少しの薄い本だけど一言一言を大切に読んだ。ドリーミーで少女漫画みたいな軽さもあるけど、わたしはこの作品をすごく好きだなと、島本さん好きだなって思いました。
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薄い本であっという間に読み終わった。が、内容がめちゃくちゃ重たい。島本理生の暗さが全面に出ている感じ。心理学を学んだ人間が、うまいこと洗脳されていくところが結構リアル。本来、島本理生のぼんやりとしているのに的確な書き方が好きなんだけど、それを良くない方向に使っちゃった気がする。
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夏の裁断 / 島本理生 読了。
島本さんから発売のお知らせがあって表紙が素敵すぎる、買わねば。と思いつつ発売から1ヶ月後の今日ようやく購入。カバーの写真はもちろんのことタイトルのタイポからスピンとの色合わせまで抜群。そして本を開いた瞬間から呼吸するのを躊躇うほどの美しさ。片艶のロール紙。夏の裁断、という文字が透ける。
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1時間半ほどでするりと読み終わった。
時間軸が行ったり来たりで少し混乱するので、もう一度きちんと整理しながら読みたい。でもとにかく読んでしまいたかった。話がぜんぶちゃんと理解できなくても。この人の文章に触れたかった。今度はどんな表現でわたしを刺してくれるのか、ずっと待ってた、redは、開けられなかったから。
島本理生が描くのは恋愛じゃなくて性別だといつも思う。異性間の軋みが、いつも自分の身体に入ってきて、痛い。
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人の行為一つひとつに意味を考えがちだけど、実際は意味も意図もないことがある。
柴田さんみたいな人だとなおさら考えやすくって、意味なんてないからわかるわけないのに、千紘はそのことを受け入れられなくて考えてすり減らしていくのがよくわかる。裁断を通して、気持ちを立ちきれてよかった。
あと初めて自分と同じ読み方の苗字の登場人物が出て来てそわそわした。
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第153回芥川賞候補作。文學界6月号で読了済みだが再読。やはり、島本理生の作品は読んでいて胸が苦しくなる。感情移入をするからだろう。人間の心理を上手く描き、共感させる。そんなスタイルの作品が多い気がする。全てをぶち壊し、自ら再生をしていく。簡単にできる事ではないが主人公の千紘はやってのけた。素晴らしい。しかし、柴田はズルいなと思う。
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文藝春秋レビューより「構って系の女性作家と突撃レポーター系の編集者の設定をベタに書いた生々しく痛々しい作品」
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過去に男へのトラウマがある作家千紘,編集者柴田の狡猾な支配にぼろぼろになるが,フォークで刺すという出来事をきっかけに新しく生まれ変わる,再生の物語.しかし,過去に何があったのか想像するしかないが,おそらく実の父親との近親相姦.彼女に的確なアドバイスをくれる教授がいて本当に良かった.
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主人公に全く感情移入できなかった。
出てくる登場人物の誰もが好きになれなかった。
何だろうな…
帯に書いてあるほど悪魔な男かな?
肝心の主人公は、本当に傷ついてるの?
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島本さんは好きな作家さんですが、今回の主人公の千紘にはあんまり感情移入できなかった。
精神的に不安定で、幼い頃のトラウマがある小説家の千紘は編集者の柴田に精神的に支配される。
近づこうとすれば突き放されの繰り返し。
柴田の目的なんてほんとわからなかったし、こんなに面倒な男に関わらずに、自分のことを好きでいてくれる猪俣くんを見ればいいのに。
千紘はいつまでも柴田に執着する。
幼い頃のトラウマでさえも自分を悲劇のヒロインにするための嘘かとも疑ってしまうし、柴田とのことは録音されたものがあるから現実だとしても、やっぱり被害者意識が強い千紘は、なんだかなーと思う。
誰かに構ってもらいたい、愛されたいんだろうに、本当に自分を愛してくれる人のことは見られずに難しい相手に恋をするのは、千紘にはあわないなーと思った。
少しでも千紘が変われるかなと思えたラストはよかったかな。
個人的には猪俣くんのことを真剣に考えてほしい!
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ある意味、逃げ恥にも共通する自尊心の低さ。作家が本を裁断するという自虐行為。癌やリウマチ、糖尿病に自分の身体を蝕まれるかの様な。
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芥川賞受賞作品っぽいなと思ったら候補さくひんだったのか(¯―¯٥)
ねらってる臭がぷんぷんしたよ。
島本理生作品初読み。
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主人公の心が不安定で今にも壊れそうで、最初から最後まで息苦しかった。読み終わったあと思わず深呼吸をしてしまった。
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最後まで、どういう話なのか
消化できなかった。
でも島本さんが紡ぐ、
人間のぬかるんだ一面は
今回も私を小説へ引きずり込んでいました。