蘇生科学があなたの死に方を変える

投稿元：

レビューを見る

刺激的なタイトルである。僕は長寿世界一を消極的に目指しているから、他人事ではない。

冒頭に、著者が「ER」などのドラマで知った「蘇生」によって、人は蘇生できるのだ、というバイアスにかかったことが紹介される。さらに、水面下で1時間以上経過し、「チアノーゼ、呼吸停止、筋肉弛緩、瞳孔の散大と固定、脈搏触知不能」、平たく言うと死んでいる状態から、その後蘇生を施されて3時間後に生還した少女の話を知る。けれど、これは奇跡的な事実である。著者が医学生として担当した初めての患者は、検査中に心停止し、蘇生とその後の手術には耐えたが意識は二度と戻らなかった。

本書の大多数は、蘇生医学の誕生から現在までの、奇跡がそうそう起こらない時代と技術で綴られている。昔は直腸に煙草の煙を吹き込むとか、羽根で撫でるなどという術もあったのだ。

それでも脈々と蘇生医学の手法は積み上げられていく。劇的な蘇生は無いにしても、蘇生率は確実にあがっている。

ただ、そうなると今度は別の問題がつきまとう。死なないけど元の状態でもない、という蘇生状態が続くことによる医療費(≒家族の苦労)と、生死の境があいまいになってくることだ。家族は諦めがつかないだろうし、本人はまるで生き埋めにあったかのような時間が続くのかもしれない。

だが、冒頭の少女のように蘇生し、その後の人生を送ってきた人（彼女はめでたく結婚し、いまも元気なようだ）にとって、あなたのこの20年はなくてよかったんじゃないですか、なんて言えるわけがない。一応は、蘇生は重要で必要なことだと考えていいだろう。

翻って自分の身になると、長寿世界一を実現するために、何かあったら無理やり蘇生してもらいたい気もするが、お迎えがくる、っていう死に方だったらそのまま受け入れてもいいかな、とも思う。たぶん自分で選べないのだろうが。