紙の本
わずか11歳という若さで亡くなった天才作家の評伝です。
2020/05/24 09:32
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、現代のアメリカを代表する作家スティーブン・ミルハウザー氏の傑作です。同書は、ダークで狂熱的な子どもの世界が描かれ、読んでいるうちに自分自身の子ども時代の記憶まで掘り起こされるような感覚に陥ってしまう濃密な作品です。訳者である岸本佐知子氏においては、「私の他の本を読んだ読者の方々が、いつかこの本にたどりついてくれるといいなとひそかに願っていた作品でもあるので、本当にしみじみ嬉しい」と感想を述べられています。内容は、11歳という若さで亡くなった天才作家エドウィン・マルハウスの物語です。彼は、傑作『まんが』を遺して亡くなるのですが、彼の誕生からずっと彼の傍で見つめつづけた親友ジェフリーがその評伝を書くという形式で話が進んでいきます。同書には、捨てられた遊園地、マンガ、アニメ映画、ローズへの恋など、マルハウスの子ども時代が生き生きと描かれた傑作長編です。
紙の本
暗い傑作
2019/06/04 19:08
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ワガヤ - この投稿者のレビュー一覧を見る
終始、暗い調子で話が進む。長編ということもあり、読むのが大変でした。友人のエドウィンを観察する視線が怖いです。
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ミルハウザーの処女長編が河出文庫から復刊。
福武書房(ベネッセになる前の話)からまず最初の単行本が出て、その後、白水社から単行本で復刊、そして文庫化は河出書房新社。こうなると福武書房版の単行本も欲しくなるな……(白水社版は持っている)。
本書は『伝記』の体裁を借りた長編小説だが、主人公は子供、そして『伝記』の著者も子供というユニークな設定が魅力だろう。これ以降、著者が幾度も使う『子供』や『過剰なまでの執着心を持つ人々』といったモチーフが頻出している。よく、『デビュー作にはその作家の全てがある』と言われるが、本書を読んでいるとそれもあながち間違いではないのかな、と思う。
終盤で2人の子供が夜の散歩をするシーンは何度読んでも飽きない。
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読み終わって、エドウィンよりもジェフリーのことが気になるんだけど、
これは偉大な伝記作家的にどう思うんだろう。
時々、露骨にエドウィンを蔑んでるとみられる表現があって、
ジェフリーが迂闊にも自分の気持ちを抑えられなかったのか、はたまた故意にそうしてるのか分からなくて不気味だった。
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こどもの世界の純粋で容赦ない光と闇が、無邪気に、ただしく書かれている。うつくしくおそろしい。とてつもなくおもしろかった…!
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さびれた遊園地や学校近くの雑貨屋などの細かい描写の素晴らしさにはまった。しかし読み進めて行くうちに少しずつキラキラした描写の隙間に不穏さが見えてくる。それらは決して裏表ではなく、同じもののように一緒に存在し、眩しさと不吉は同時に大きくなってゆく。
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11歳で夭折した天才作家エドウィン・マルハウス。
その伝記を親友であるジェフリーが記した。
という設定の物語。
主人公が少年で、わたしが女性であるからエドウィンやジェフリーの気持ちがよくわからないのかもしれない。
エドウィンが魅力を感じた物事に、記憶に残る少女だったわたしは特に興味も無かったように思う。
ジェフリーはエドウィンを天才と言うが、エドウィンが感性豊かな少年だとは思うものの、だから天才というのとも違うように思う。
こういうところがわたしの平凡さなのかもしれない。
エドウィンが気に入った子の影響を受けすぎるところも自分に重ねられない。
好きになったローズやアーノルドに影響されるエドウィン。こういうところに感性の豊かさは感じられるが、独創的とも思えない。天才的な発想は模倣からはじまるという考え方もあるかもしれないけれど。
少年の物語であるが、健やかさや爽やかさは感じられず、同級生の死といった暗い出来事の多い、不穏な空気に満ちた作品だった。
ジェフリーがエドウィンについて離れない様子も奇異に感じられる。
こういったことを読者に感じさせるつもりで作者はこの作品を書いたとも考えられる。
なんというか、エドウィンもジェフリーも気味が悪い。
大人の気味が悪い描写は大丈夫だけれど、子供の気味が悪い描写は苦手なのかもしれない。
子供らしさというありきたりな物差しで、子供を計ろうとするツマラナイ大人になった自分に気づかされる一冊だった。
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とある子どもの伝記作家がとある子どもの作家の人生を書いた物語。エドウィンの一生が生れた際から順を追って書かれているのかと思いきや、序盤のほうでは急に成長しているエドウィンとジェフリーが出てくる場面があって、少し混乱してしまう。でも、読み続けているうちに、「ああ、これはこういう意味のある場面だったのか!」と納得できるし、最初を読んでしまえば、あとは基本的には時間軸通りに物語が進んでいるので、読みやすくなる。
エドウィンは普通の子どもだと思う。ジェフリーはエドウィンを天才であるかのように扱っているけれど、どちらかというと天才というか非凡なのはジェフリーだと思う。でも、彼はあえてエドウィンの影に潜みながら、子どもとは思えない観察眼と筆致でもってその一生を書いている。所々に多すぎるほどの自分の意見や自分の身に降りかかった出来事を書いているところを見ると、ジェフリーはただ純粋にエドウィンの伝記を書きたかったのではなく、その平凡さを嘲笑するのが目的で書いたのではないかと疑ってしまう。そう思わざるを得ないほど、ジェフリーの目は、ただ尊敬する友達としてエドウィンを見ているようなものではないと思った。
最後の結末は夏の夜に相応しい、怖いオチだった。
それと、改行がほどんどなくびっしりと文章が書かれているため、読むのに苦労した。ミルハウザーを読んだことがなかったので、短編なんかを読んで、ある程度作者に興味を持ったうえでこの長編を読めば苦しまずにすんだかな、と少し後悔した。
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やっと読み終わった。やはり私は感受性が乏しい大人になってしまったのか?全然面白さがわからなかった。これのあと、トム・ソーヤーの冒険読んでみたらすごく面白かった。大人向けのエンタメになってないとダメらしい。
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これは… 最初ワクワクして読み始めたけど、正直一読しただけでは消化し切れなかった…。けど、すごい世界観、そして緻密な描写。子どもの世界がこれか、と言われれば否と思うけど、待てよ、実は自覚はなくてもハタから見ればそういうものだったのかもと、グルグル考えさせられる。簡単には底が知れない深さを持った作品であることは確か。
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すげえなこれ。いやまったく騙された。第一部 幼年期 がいまいちピンとこなかったので中断しそうになったが、あるキャラの登場から俄然おもしろくなり… 表紙はのほほんとしてるが、読後は印象が一変する。子供向けじゃない大人向けの本です。いやほんとにw
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この本が響いたのか?響かなかったのか?
まだ分からない。
なので感想書くところまで消化できない。
消化するためのなにかが足りない(己に)。
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初めは読みづらかったけど、後半になるにつれ止まらなくなった。
自分の子どもの頃の、湿った手のひらに匂い玉がくっつくことや額に張り付く髪の毛や、セーターが首にチクチク当たることや鼻水が出てくるのにティッシュもハンカチも持ってないと気付いたときのことや、そういった些細な、ネガティヴな記憶が蘇った。
終始熱に浮かされてるような感じ。訳者あとがきにもあるように、「天才作家」と呼びながらも実はこれっぽっちもそんな事思ってない主人公の自我が滲み出る仕組みになっている。
渦中ののシーンは、冗談で終わらせようとしてたのはエドウィンの方で、それを許さず天才作家の人生を完成させたかったのはジェフリーなのかなとか思うとぞっとした。
ラストの、マルハウス一家の後に越してきた家の少年に興味を抱いて終わるのも怖い。
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ある天才少年が、夭折した親友の少年の伝記を書いた、という体裁。更には、その著者たる少年もどうやら行方不明になっているらしき導入部分があるんだけど、そこを二重にしている意義はちょっと不明(自分的に、最後までそこが気になったんだから仕方ない)。それはともかく、書かれているのはほんの10歳ちょいまでの短い一生なんだけど、内容はとても濃密。ちょっと気難しそうで、何を考えているのかも分かりづらいマルハウスくんだけど、そのせいで素っ頓狂な行動に出てしまう場面も多く、結構にシリアスな人生ながら、思わず微笑ましくなる部分もちらほら。マルハウスくんを悩ませる脇キャラも個性的で、読んでて飽きさせられない。評判通り、傑作の架空伝記小説でした。
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描写がくどくて読むのがつらい小説だった。
しかし、途中、エドウィンの死が決まり、これは小説を覆す反小説だと確信できたところ、全てがスルスルと飲み込めた。
なんと野心的な作品だろうか。
晦渋な小説内小説、小説内批評などを駆使しながら、死をも虚構する小説の見えざる虚構性を突き崩してしまっている。