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朝井まかての「坂の上の雲」
2017/02/11 08:59
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
明治神宮に参拝すると、その沿革を記した掲示がある。そこにはこの地が井伊家の下屋敷址ということが記されているが、じっくりと読む人はあまりいないのではないかと思う。
ましてや本殿を囲む森閑とした神宮の杜について、ここが大正期に造営されたと知る人も少ないのではないだろうか。
その事実を知ると、壮大な計画や造営に驚くばかりだ。
ではそれはどのように作られていったのか。
直木賞作家の朝井まかてさんはその過程を実に丹念に描いていく。
これは小説であるが、そこには多くの事実が描かれている。だから、巻末につけられた「参考文献」の数々を今回はじっくり見た。
それらの中から何を描き、何を省略し、何を描かなかったか。
明治神宮がどのようにして造営されていったという記録というより、その周辺で蠢く訳ありな新聞記者亮一を配することで、朝井さんは明治天皇という幕末から近代国家を成立させた帝の思いとその思いのもとに生きた明治の人たちの姿を描いていったと読める。
つまり、この作品は朝井さんの「坂の上の雲」ともいえる。
幕府の崩壊、明治という国家の誕生、日清・日露の戦争、それらを経て、日本は「帝の国」を作り上げた。
そのことを主人公の思いに託して、「明治という時代はやはり「奇跡」」であったと、朝井さんは書く。
明治神宮の造営はそういう「奇跡」が成し遂げたものだし、朝井さんがこの作品を書きあがたのもまた「奇跡」といえば大げさになるが、心のこもった一作になった。
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明治神宮をつくった人の熱意
2016/11/22 23:05
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投稿者:Freiheit - この投稿者のレビュー一覧を見る
明治神宮のある場所は荒れ地だった。それを150年かけてつくった人々の熱意が伝わる作品。明治天皇の人柄にも触れている。
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日本人にとって天皇とは何か
2016/08/18 10:06
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投稿者:のりちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
明治、大正の新聞記者の目を通して、「日本人にとって天皇とはどういう存在なのか」を明治神宮造営という一大事業を通して描いた作品。
このような作品はあまりないので大変興味深く読んだ。
主人公の瀬尾の心が段々と明治天皇の真の気持ちに迫っていくところは、なかなかの読み応えがあると思う。そしてやっとわかった東京都心のあの代々木にあんな広大な森が今ある意味が。
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明治神宮の創建と明治天皇その人の内実に迫る壮大な物語。「日本人にとっての天皇とは何か」という問いかけに対する著者なりの回答でもありましょう。読み終わった後、今上天皇のあのお言葉が、より深く心に染みます。
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浅井作品にしては、ユーモア封印してるね。非常に興味をそそられたテーマだった、そうか、明治神宮って、明治天皇崩御のあとで人工的に作られた森なんだね。ながいながいあいだ、京の都で系譜を紡いでいた天皇が、はじめて東に移ってきたのも明治天皇なんだよなあ、歴史を学んでいればわかっていたようで、あらためて思い知らされることも多く、考えさせられた。予備知識がないからいろいろ調べながら読んだら、明治天皇までは側室がいたんだねえ。大正天皇は皇后の実子じゃなかったんだね。そんな近い歴史も知らず。
天皇という日本独自の存在、じぶんのなかにある敬意、これもいったいどうして持っているんだろう?私はなにを以ってこの敬う気持ちを培ったんだろう?究極の滅私の存在だからだろうか?それをいつ想像理解できるようになったろうか?
けして大手ではない俗新聞の新聞記者、という主の目線から語られる物語なので、皇家側だったり、造園事業側だったり、偏らずに距離感を持って読めるのは狙いでもあるんだろうけどでも、ちょっと“ドラマ”が終わらないまま頁が尽きたかなという消化不良感が残った。上原くん目線の外伝書いてほしいなあ。
でも、激動の明治という時代を、神宮造営というこの視点から描くのは斬新だとおもう。役者揃えば映画になりそう。
「ただ、かくなる上は、己がすべきことを全うするだけです。明治を生きた人間として」
この台詞は痺れた。ちょっと時代背景とか歴史を不勉強なまま読んでしまったので、予習してから読むともっと深く味わえたんだろうな。いつかもいちどリトライしたい作品。
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記者として,明治神宮の森造営にかかるあれこれを取材するうちに,明治時代,明治天皇への思いが募ってくる.二流紙東都タイムズの瀬尾亮一の成長譚でもある.そして語られている明治天皇のストイックな姿が,今の天皇陛下と重なって見え,その大変さが偲ばれた.
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『明治の杜』の話でなく、杜の主:明治天皇のお話でしたね。緑や木々の匂い立つ物語をイメージしていたが、ちょっと違った様だ。新聞記者の視点から、明治〜大正へ移りゆく時代背景もうまく描写されていたが、“杜造り物語”への期待ギャップがどうしても払拭出来ずに読了。
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明治神宮の造営を通して明治という時代と明治天皇の視線を想像する。新聞記者の主人公は途中から性格が大きく変わってしまうように感じた。でもこれを読んで明治神宮にもう一度行ってどんな木が植わっているのかみてみたくなる。
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日経の夕刊の書評の5つ星。amazonでポチろうと思ったら売り切れ、紀伊国屋のWebストアでも売り切れで俄然欲しくなり購入。よかった。明治神宮創建にまつわる物語。明治神宮の杜が人口で150年計画で作られていることは、NHKのテレビ番組などで知っていたが、裏にこんなことがあったとは。歴史小説の常でどこまで、史実かどうかわからないが、いろいろ、今の日本の課題を考えさせられる。新聞というメディアの役割、外苑の新国立競技場、退任問題、政治と経済の関わり、皇室と皇族、等。明治神宮に涼しくなったら行ってみたい。
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以前、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森~100年の大実験」を見た。神宮の森は150年計画で人工的に作られたもので、当時の予想よりはるかに都市化が進んだ100年後の今それが完成していることにとても驚き、感動した。
書き下ろしのこの本も、番組に触発されたのではあるまいか。
「東都タイムズ」はスキャンダル記事中心の三流紙で、「万朝報」を懲戒解雇されて拾われた主人公の亮一は、ネタによっては強請も働く記者だったが、探偵から仕込んだ「天皇御不例」の情報から、彼の記者魂が変わる。
渋沢栄一らの民間人が中心となり、当初、御陵を東京に建設すべしという運動を起こそうとしたが、天皇自身の希望で京都に建設されることが決まっていたため、天皇を祀る神宮を創建すべしという運動に変わった。内苑は国が作り、外苑は民間の献費で作ろうというのだが、なぜ、そういう運動が起きるのか亮一は考え込む。
一方神宮創建には大きな問題があった。神社を荘厳な神域とするためには鬱蒼とした針葉樹の森が必要であり、学者は東京の環境では無理だと否定的だったのだが、政府は場所を代々木に決定し、神宮の杜の建設を帝国大学林学科のメンバーに下命した。
亮一は、なぜ人々が明治天皇の死をこれほどまで悼むのかにこだわりながら取材を進めるようになり、同僚の女性記者とともに帝国大学林学科への取材を重ね、神宮の杜建設の企画を他社に先駆けて報道するようになって、東都タイムズの報道姿勢もスキャンダル紙を脱していく。創建当初の森は針葉樹の大木を移植して荘厳さを確保するが、いずれ枯れていくため、150年後には天然更新によって広葉樹林が形成されていくように、壮大な実験とも言うべき計画的な年次進行による林相の設計がなされた。植樹用の樹木は全国から1万本を集める計画だったのが、寄付は10万本に達した。
亮一は思う。政府の方針に反対する人も、戦争に反対する人も、みな天皇を敬慕する。漱石が書いたという奉悼文も思想と魂が分離している。旧幕臣で天皇御不例を伝えて探偵をを辞めた市蔵は、「あたしなんぞが畏れ多いことですけどね。よくぞ天皇として全うしてくださった、ああ、ありがたかったってぇ万謝の念が、神宮を造営し奉りたいってぇ志の源なんだろうって、あたしはそう解釈してんですがね。」と語る。政府から国民の精神的支柱となるよう求められ、模範のない後進アジアにおける近代立憲君主を全うした明治天皇の生身の姿を知りたいと、新聞社が倒産して浪々の身となっら亮一はつてをたどり、京都へ行って粘って元女官から話を聞くことができた。天皇が日清、日露戦争の戦死者名簿を夜更けまで暗い灯火のもとでながめ、自らの場所に立ち続けたことに感慨を深くする。人々を神宮造営へと向かわせたその根源は何だったのかを書きたいと思う。
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明治神宮の杜がこんな壮大な計画のもとに“造られた”ものだったとは知らなかった。
明治神宮造営をめぐる、政治家や学者や新聞記者の駆け引きがメインだが、根底で問いかけるのは「天皇とは日本人にとってどういう存在なのか」ということだった。政治的にも思想的にもデリケートなテーマだけど、明治天皇が“日本”という新しい国に対して抱いていた想いには、じんと来るものがあった。
読み終わって数日後(16/8/8)に今上天皇のお言葉が発表されましたが、天皇という存在が明治の時代から背負ってきたものの大きさを知った気がする。
まかてさんはすごい!歴史のメインからは外れたちいさな出来事・市井の人々を取り上げて時代を活写するのが本当にうまい。
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たしか書評に載っていて気になった本。
明治天皇の死去と神宮造営から明治天皇自身へ考えを巡らせていく記者・瀬尾亮一。
ミステリーではないし、神宮がどの形で作られることになったか現在の私たちは完成形を知っているし…となるものの、新聞社の面々の個性や亮一の興味の終着点が気になって一気に読んだ。
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明治天皇崩御から明治神宮創建のおはなし。
江戸の終わりから東京となった都でとても気高く力強くあったのだろうなと感じられる時代の象徴を祀る神社だけれども、そうか未だに未完成なんだな。
完成は150年後、まだまだ50年以上の先になってのこと。
明治神宮の森が植樹なのは知っていたけど(確かブラタモリとかでもやってた?)、ほんとうっそうと生い茂って木漏れ陽までも神々しくて、地からも天からも静謐なエネルギーを感じられるまさにパワースポットって感じがほんとうにする。
崇高な理想のもとに全国から集められた樹々がこうして造られたのかと思うと、時代の大きな思いを感じるような気がします。
明治神宮、あの森を歩くのが好きなのでなんか勝手に誇らしく思いました。
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胸が熱くなった。
この物語がどこまで史実で、どこまでがフィクションなのかはわからないけど、見え隠れする真摯な明治天皇の姿に胸が熱くなる。
幕末には興味を持ち、明治維新までは多少の知識があるが明治に入ってから、ましてや天皇についてなんて知識もなければ興味もなかったのだが、この本を読んで、神とあがめられた天皇と庶民の距離というか、人々の天皇を想う姿というのはある意味今も昔も変わらないのだと知った。
1人の人間でありながら、個を隠し日本の帝として世界に人々に向き合った明治天皇を知ることが出来た。読んで本当に良かった。
明治大正を生きた人びとが、天皇を偲んで作った明治神宮に行きたくなった。
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明治神宮の森が出来るまでの奮闘と、明治天皇の人となり。あまり思ったこともなかったけど、明治神宮の森は人工の森であり、森を創るに際し覚悟のもとに取り組んだ人々がいた。
そこに祀られている明治天皇に対する人々の東京に祀りたいとの思いがあった。
そして新しい時代に自分を殺して生きていかねばならなかった明治天皇自身の思い。
京都を出てから殆ど戻られることのなかった京都だが、死後は京都に眠りたいという思いもあった。
深く感銘させられた。
今度明治の森に踏み込み、参拝するときは思いが違ってくるだろう。