紙の本
淡々と進む、地味溢れる物語。
2020/12/18 15:02
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投稿者:タオミチル - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公は、古希を迎えた独り身の男性。東京の大学卒⇒関西の大手電気メーカーの技術者として勤め、旧家の婿養子という縁で、妻亡き後の晩年の話。主人公は、舞台となる奈良県大宇陀の農夫となっていた。
...ということを理解するに至って、ああ、社会派ミステリ-ではないんだ?と思う。この作家の作品は好きでそのほとんどを読んでもいるからその延長で、農村でくり広がる社会派ミステリーか?…という心構えで読み始め、いつまでたっても何も起こらない様子にややいぶかしく思う。
しかし、それでも淡々と読み進むのに似合う、地味溢れる物語。まだ上巻ですが、ものすごく好きな高村薫作品になりそうです。
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投稿者:844 - この投稿者のレビュー一覧を見る
文芸誌「新潮」に連載されたのち単行本化されたという本書は純文学といってよいのだろうか。合田刑事は登場しない。「ぼとぼと、ばたばた、ぼとぼと、ばたばた」、雨の音が響く。「否」という打ち消しの多用。主人公、伊佐夫の単調な独り暮らしに適度な距離をもって付き従いつつ頁を繰る手はやまない。
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奈良の農村のやもめ老人の物語。
上巻は、16年前に事故にあったまま植物状態だった妻が年初に無くなった年の6月から12月までのお話で、疎植栽培への意気込み、自然茶木への愛着が描かれている一方、亡き妻、家を出た娘の過去の姿の幻を現実の中に重ねて夢想する心理が丁寧に語られていました。
事件という事件が起きるわけではなく、妻が倒れてから専業農家になった男が過去の業と農業に向かい合っている姿が淡々としていて、作者の新たなる境地のような気がしました。
ただ、アメリカに渡った離婚した娘親子、夫をなくした妻の妹家族、双子を出産した近所の出戻り娘、跡継ぎのいない本家を継ぐ予定の分家との関わりが下巻のテーマになっていくのかもしれませんね。
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わ~何?この言葉の羅列。
主人公が老人の男性であり、(伊佐夫という名前)その伊佐夫の独り言というか胸のうちでつぶやく言葉が延々と続くわけです。
あ~とっつきにくい、興味のあること何も出てこないし、全然進まへん。
もう断念しようかな。
いやしかしここで負けるわけにはいかない(?何に?)
ここは気を取り直して、集中するべく夜寝る前に読むのはやめて、昼間わざわざ時間を設けて読むことにする。
すると不思議、この羅列文にも慣れて、伊佐夫のつぶやきによって、舞台が奈良の山間の集落であること、代々続いた養子の家系で伊佐夫で4代目であること、交通事故によって植物状態になった妻を年明け早々なくしたこと、何より、偏った情熱で農業に取り組んでいること等などが分かってくる。
よし! 下巻も頑張って読んでみるか。
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小説とはこういうものでありましたね。言葉を使って世界を描く。ストーリーはほとんどなくて、それが伊佐夫の生活に重なっているのですね。高村さんのは「マークスの山」と「黄金を抱いて跳べ」など初期のしか読んでなかったけど、今を生きるためにもう少し読まなくてはと反省しました。
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読みはじめて、これは久々にダメな感じが・・・
高村さんの作品は、はじめてではないのですが、世界観も主人公にも共感できませんでした
あえなく、挫折しました
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最近の高村薫さんの小説、読むには読むのだが、なかなか理解したとは言えず、どちらかと言えば、字を目で追っているだけ、みたいな感じだった。
本作も農業に従事する老人の話って、絶対ダメだわと思い、読み始めた。
ところが、予想外に面白い。
そもそも、不倫の末に自殺を図り、その挙句16年間も植物状態になった妻をなくしたばかり、というだけで、ドラマティックではないか。
田舎暮らしというものが、全く想像できなくもなく、近所付き合い、農作業など、そうそうこんな感じなんだろうなと思いながら読むのもおもしろかった。
とにかく、どんどんページをめくりたくなり、小説の世界に没頭できた。
全く予想外であった。
最後の1ページ(下巻)はない方が良かったなあ。
これは絶対必要だったのか。
ここに持っていくために書かれたものなのだろうか。
読者に対して厳しすぎる…
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おじいさんがお米を作る話。農作業をしながらいろいろなことを考える。人っていろいろ考えているなよねとあるあるでした。
エンターテイメントでもないのでドキドキわくわくもなく淡々と話が進みます。登場人物に共感もできず、共鳴も難しい…でも物語に引きずり込む筆力は凄いと思いました。暑さも寒さも感じながら農作業と人間模様を見つめていました。
ボケかけた時の物忘れの描写は自分自身に起こったらと思うと怖かったです。
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初めての高村薫作品。会話がカッコ書きでなかったり、描写が独特で最初は取っ付きにくかったが、次第に慣れた。物語も最初は???だったが昭代の過去が描かれてからのめり込めた。女性なのに理系の知識が凄い。私の実家にはコメ農家も多いが、あそこまでこだわっている人物を見た事はない。
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入り婿先の村で、事故で植物人間となった妻の稲作を受け継いだ伊佐夫老人。
幼穂の二次枝梗原基やら穎花やら聞き慣れない稲作用語に季節の流れを表現させてるようなのが門外漢でも感じ取れる。
見え隠れする17年前の事故の真相。
続きが気になる〜!
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老いと生をめぐる物語だ。
70歳の老農夫を主人公に小説を紡いでみせた作者の力量はさすがとしか言いようがない。惚けが始まった人間の意識の描写が巧みだ。
驚いたのが、稲作を科学的に説明していること。これだけの知見の集積があるなんて。それだけ歴史があるってことなんだろうけど、この知識は受け継がれていくのだろうか。下巻の最後の1頁からすると悲観的な予測しかできないけど。
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主人公の回想によって話は進んでいくのだが、冷めきった夫婦関係が暗示され、今は亡き妻の行動に対する不信感も露わなのだが、いっぽうで生前の妻の日常のしぐさや会話が甦ってくるのだから、まんざら嫌悪しているわけでもなさそうである。夫婦のうちに潜む謎を抱えながら下巻へと続く。
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山奥の寒村で自分で食うためだけの米を作る老人の独り言。土へと向かう単純作業ゆえか、どうでもいいような村の世間話から、亡くなった妻や疎遠な娘との整理のつかないわだかまりが、脈絡もなくふつふつと現れては消えていく。山奥の営々と繰り返される自然の圧に溶け込む老人の意識の滞留を、著者のねちっこいまでの活字量で再現していく試み。著者のそういうところが好きな人にはたまらないが、好きではない人は何が言いたいの? ってなるかも。
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16年前に交通事故で植物人間になってしまった妻が亡くなって,介護からは楽になったものの,いろいろな思いや日々の農作などに囚われた伊左夫.関係性をうまく築けなかった娘や孫.奈良の田舎の閉鎖社会の息苦しさ,そして何より妻の事故の真相.頭の中で物ごとや想いがあっちこっちするのが,自分のことと比べてよくわかる.
そして稲作などの農作物や生き物に対する愛があふれている.
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何とも言いようのない、重い雰囲気の物語だ。
奈良県の大宇陀という田舎で農業を営む伊佐夫が主人公。
愛妻の昭代は交通事故で植物人間となり、
何年か自宅で介護をしていたが、とうとう逝ってしまい、
一人でもくもくと農業をしながら
何の変化もない毎日を送っている。
一人娘でバリバリのキャリアウーマンの陽子と孫の彩子。
一人になった伊佐夫を気遣う、昭代の妹久代。
孤独な毎日をおくる伊佐夫だが、
それなりに身内もいることがだんだんとあかされてくる。
中盤あたりでは、
娘の陽子が二週間ほどニューヨークに行くから
彩子をその間預かってくれといわれ、
孫と二週間の同居生活をおくったりしている。
静かな静かな毎日が
少しずつ変化をつけて流れ去り、
娘と孫はニューヨークへ旅立った。
久代の夫が病死するのと引き換えに
双子を生んだばかりのシングルマザーの隣の娘が
実家へ戻って来た・・・
ほとんど会話文のない長文スタイルで
切実に田舎暮らしを描写する。
どこか懐かしい昭和の田舎暮らしを思い浮かべながら、
寡黙な主人公伊佐夫の半生がどうなるのか。
スリリングなことなど起こらないだろうと思いながらも、
気になって仕方がない。
さあ、下巻、どんな終結になるのかなあ。