紙の本
シーナ少年、ふんばる
2017/09/28 07:02
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本の著者椎名誠さんは1944年(昭和19年)生まれである。
この作品では椎名さんの少年時代の話が楽しく描かれている。
ただ楽しいというのは語弊があるかもしれない。
もともと東京世田谷の大きなお屋敷のような家にいたが、四、五歳の頃に酒々井に移住、そして小学生の頃に幕張へと転居した椎名さん。しかもどうやら自分には異母兄弟もいるようで、父は厳格、母の親戚もなにやら事情がありそう。
そんな少年時代を送った椎名さんの話が楽しいというのはおかしいはずなのに、どうしてだろう、椎名さんの書く文章の弾むような快活さはどうだろう。
椎名さんはこの作品や名作『岳物語』シリーズで「家族という、まあ基本はあたたかく強いつながりであるはずの集団は、実はあっけなくもろい記憶だけを残していくチーム」ということを書こうとしたと、「あとがき」に記している。
なんともシニカルだが、きっと椎名さんは自分が少年だった頃の家族、自分が親になってからの家族を経験して、そのことに気がついたのであろう。
だが、椎名さんはそのことを悲しんではいない。
悩んでいるかどうかはわからないが、少なくとも、少年時代には「家族がそろってみんな嬉しそうに笑って寛いでいる風景」はあったが、実はそんな素敵な風景は「人生のなかでもそんなに沢山はない」ことに、大人になって椎名さんは気づく。
おそらく明るく描かれている椎名少年の時代であるが、そこには家族の難しさが内包されている。
ページを閉じたら、じんわり滲んでくる。
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椎名誠氏の私小説というか、子供のころの話。
椎名氏の小説や本ってあまり読んだことがなかった
のですが、読みやすく面白い文体でした。
それも含めて岳物語の一連を読んでみたいと
思いました。
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シーナ隊長が子ども時代を振り返ったもの。幕張に引っ越したあとのことが中心で、「つぐも叔父」など、これまでの著作でなじみのある人たちも登場する。生まれてから数年すごした世田谷時代のことは、記憶をたどったり、身内の方に尋ねてもあまりよくわからなかったようだ。それでも、隊長が自分の父のことをまとめて書いているのは初めて読んだ(私の読んだ限り、ではあるけれど。隊長は著作が多いので自信はない)。
父にまつわるエピソードもそうなのだが、どの思い出話にも、喪失感というか無常感というか、失われて帰ってこないものを思う気配が色濃く漂っている。いつもの遊び場であった幕張の海に悪ガキ仲間と出かけていったところ、すでに埋め立てが始まっている様子を目にするところなどに、そのことが顕著に表れている。
海上に組まれた土砂を流すためのパイプの上にまたがり、マコト少年たちはどんどん沖へと向かっていく。今ならそういう所に子どもが近づけることなどあり得ないだろう。お尻に感じる振動に土砂の勢いを思い、さすがの悪ガキたちもちょっと怖そうだ。自分たちが馴染んできたものが、これから大きく変わろうとしている、そしてそれについて自分たちは無力だ。そう言葉にされるわけではないが、そのモヤモヤした気持ちが伝わってくるように思った。
椎名さんは私より十五ほど年上で、とても同世代とは言えない。それでも、子どもの頃の田舎での暮らしぶりを読んでいると、ああ、やっぱり自分は「こっちの側」だなあと思う。いろんなことがきれいでも便利でもなかった時代が、自分の根っこに今もあるという気がする。
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椎名誠が幼少期の思い出を綴った私小説。
岳物語を井上靖氏の「夏草冬濤」になぞらえると、「しろばんば」に該当するような作品。
ふーんとは思えど、別段何があるわけでは無い。
氏と同時期に、氏と同じ千葉県に育った方なら感慨を持って読めそうではあります。
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椎名誠が自分の出生、少年時代を振り返って書いた自伝。
あとがきによると、子供の岳くんも親となり、孫もできた椎名誠が、伝えておきたい、と思って書いたという。
しかし、幼いので仕方がないとはいえ、最初の方はあまりに「記憶がない」で済まされてしまい、さっぱり要領をえない。しかも、異父きょうだいや叔父など、家族が複雑であるので、なおさらだ。
その後も淡々と、記憶の彼方から持ち出したり、きょうだいに聞き取りしたものからエピソードが語られる。
少年時代(幕張)のことははっきりしているので、この辺からは、なんとか読める。
しかし、起承転結があるわけでもなく、プツンと終わりを告げる。残念だけど、この作品に限っては、年寄りの昔話に耳を傾けるのは、家族だけでいいと思ってしまった。
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椎名誠さんの幼少期を描いたエッセイ。時系列は前後したりするが4-5歳頃からの自身の記憶や家族の言動などをたぐりよせながら描いたと言う。今だから書く気になれたと言う。家族全員で笑って食卓を、囲んだ時というのは思い返せば一生のうちで、そう何回もなかったのだなと回想するシーンが心に残る。家族との時間はかけがえのないものだと気づく。
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椎名誠が、自身の幼少期を思い出しながらつづった一冊。
豪快でハチャメチャで愉快な探険隊シリーズをはじめ、作者のエッセイを夢中で読んでいたのは、数十年前。独身だった当時、こんな人と結婚したい!と言ったら、職場の先輩に家族は大変よ~と言われたことを思い出す。
今ならその意味は十分理解できるけれど、当時は奥方である渡辺一枝さんのエッセイまで読むほど憧れの存在だった。
そして最近、新聞で椎名氏の取材記事が連載されていたのを目にし、そんな懐かしい気持ちがよみがえり本作を手に取る。
作品としては、幼少期の記憶を思い出すがままに書き連ねているため、特にオチがあるわけでもなく、そこで終わり?というエピソードの連続で、久し振りの再会としてはいささか拍子抜け。
仲間や家族のことは客観視しておもしろおかしく書けても、自身の曖昧な記憶を頼りに脚色もせず読み物とするのは、やはり難しいようだ。
かつて夢中になった作家が、時を経てからもおもしろく読めるとは限らない。
が、その昔『岳物語』が大好きだった私としては、少年だった岳くんのその後やお孫さんたちの様子は気になる。今さらながら、未読のそちらも読んでみようかな。
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海辺の町で暮らした椎名誠氏の少年時代のエッセイ。複雑な大家族のなかで暮らす日常やいたずら小僧たちとの日々が、「昭和」という時代の残影とともに描かれている。
浜寺という海辺の町で少年時代を過ごしたぼくには、むかしは夏になると浜辺に掘っ立て小屋のような脱衣場を兼ねた「海の家」が林立し、海水浴に来た客たちに飲み物や軽食を提供していたという遠い過去の記憶が鮮明に蘇ってきた。
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内容(「BOOK」データベースより)
父がいた。母がいた。きょうだいがいた。シーナ少年が海辺の町で過ごした黄金の日々。『岳物語』前史、謎多き大家族の物語。
今まで沢山の自叙伝のような私小説を書いてきた椎名氏。これもまたその中の一冊なのですが、とうとう総決算として家族の事を書き記しておこうと思われたのですね。少年椎名誠と彼を取り巻く家族の肖像です。
家族という単位で食卓を囲み集まる期間は驚くほど短いという彼の言葉が想像以上に僕の胸に刺さりました。丁度僕自身、娘が親離れの頃なので、次第に家族がバラバラになっていく実感をしているからなのでしょう。静かな生活になって行って、にぎやかだった我が家を懐かしく思い出すんでしょう。
ワクワクするような少年小説というより寂寥感漂う小説です。誰もが年老いていずれ去っていく。僕らもそうだし僕らの子供もいずれ通過していく道です。でも少しずつ離れてまた新しい家族の単位を作っていく。それを静かに見守る事が出来る、それは幸せな事ですね。分かっちゃいるけど寂しいです。
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椎名誠が自身の子ども時代をモデルにした「岳物語」の父親バージョン。
主に、戦後の千葉・幕張で過ごした就学前から小学校までの誠少年の一家の物語。幕張メッセやディズニーランドができる前の海辺の町。みぼうじん会(未亡人会)があったり、金物集めのおじさんがいたり、埋め立て地造成のためのトロッコがあったり、書いておいてほしかった時代だと思う。
「岳物語」と、それに続く孫との関りなどの一連の家族成長物語の根幹は、ここにあったのだなあ。
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【きっかけ・目的】
この歳になって再び椎名誠である。原点回帰と言っていい。自分の活字中毒の出発点でもある椎名さんの私小説を手に取る。
【感想】
岳物語では自分の息子を主人公にすえて親子の日常を描いているが、今回は自分の幼年期から小学校時代までを題材にして書かれている。
幼年期の描写はどうも心象風景をそのまま描こうとしたのか迷いがあったのか曖昧模糊とした筆致が読みづらかった。
時代が進むにつれ書き方も記憶が確かなものになるためかしっかりしたものになり読みなれた文体になっていた。
昭和30年代高度成長期前の時代、千葉の幕張にいた少年が何を考え生活していたのか、少年椎名の目が家族を見つつ捉える様が面白い。
父親との関わりの薄さが逆に岳物語での自分の親子の関係の基になったのかと思った。
【終わりに】
もう少し、時代背景などを踏まえてその時代の空気感を出してもらいたかったなあと思う。
ただの親子関係や複雑な家族関係が成長過程の椎名少年にすごい影響を与えていたんだということはすごくよくわかった。
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10代後半から20代半ばまでの頃、ほとんどの著作をむさぼるように読んだ作家・椎名誠。椎名さんの著作にはいくつかの流れがあって、特に好きだったのが紀行ものと私小説だった。なかでも『岳物語』シリーズは、掲載誌「青春と読書」(集英社のPR誌)を定期購読して読んだほど好きな作品だった。本書はその流れを汲む作品になる。モデルは自分自身で、幼いシーナ少年と自然に満ちた千葉の風景が描かれている。
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「椎名誠」の私小説『家族のあしあと』を読みました。
『南洋犬座―100絵100話』に続き、「椎名誠」作品です。
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父がいた、母がいた、きょうだいがいた――。
「シーナ少年」が海辺の町で過ごした黄金の日々。
『岳物語』前史、謎多き大家族の物語。
累計470万部突破の私小説シリーズ、感動の最新作!
家族ほどはかなく脆く変動する「あつまり」はない――。
海辺の町へと移り住み、大家族とともに過ごした幸福な日々は、「家のヒミツ」と背中合わせなのだった。
若々しい母の面影、叔父との愉快な出来事、兄・姉・弟に対する複雑な思い、そして父との永遠の別れ…。
戦後日本の風景を、感受性豊かな少年の成長を通して描く、豊饒な私小説世界。
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「椎名誠」が、雑誌『すばる』の2015年(平成27年)4月号から2017年(平成29年)2月号までに連載していた私小説『家族がみんなで笑った日』に、書下ろしの『もうじき夏がくる』を加えた作品です、、、
『岳物語』の前史にあたる、「椎名誠」の少年時代を描いた作品です。
■むじな月
■長椅子事件
■小さな山と浅い海
■小学生もつらいよ
■トロッコ大作戦
■ドバドバソース
■おっさんのタカラモノ
■蟹をたべなさい
■シャックリの大男
■かいちゅうじるこ
■家のヒミツ
■大波小波
■もうじき夏がくる
■あとがき
複雑な家庭事情や親戚関係… 世田谷の石垣のある豪邸から、千葉の山村・酒々井(しすい)、海辺の町・埋め立て前の幕張へと移り住み、生活環境が大きく変化する中で、仲間との交流やトラブル、父の死等を経験しつつ、「シーナ少年」が成長する姿を描いた物語、、、
「椎名誠」は、どちらかと言えば、私よりも両親の世代に近い人物なのですが、私の育った環境は中国地方の山村だったので、私の少年時代とシンクロする部分が多く、感情移入しながら読めました。
木登りをしたり、瓦屋根の上に登ったり・そこから庭に飛び降りたり、山や川を探検したり… トロッコはなかったけど、建設現場のボートで勝手に遊んだり、町の親戚を訪ねた際の路面電車の記憶や、実家ではあり得ない丼ものやラーメンの出前等、、、
あと、子供の頃って、関係が良くわからない親戚や、大人からは近寄るなと言われていた不思議なオジサン、オバサンもいたよなぁ… そして、何事もおおらかで、自己責任で危ない遊びもしていたような気がします。
懐かしい少年時代を思い起こしながら、ちょっとノスタルジックな雰囲気に浸りながら愉しく読めました。
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椎名誠な自伝小説。岳物語の椎名誠氏の子供の頃の話。子供ごころに、聞いてはいけない家族の話や、近くにいた不思議な大人、ワクワクする工事現場など、今はなくなってしまった日本の原風景である。
ところどころで、自分にも共鳴できる面もある。全て合理的で、居心地の良い現在が、必ずしも良いわけでもない気がします。