紙の本
20世紀を代表するラテンアメリカ作家の怪談・奇談を15編収録した怪談集です!
2020/05/17 09:35
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、20世紀を代表するアルゼンチンの小説家ホルヘ・ルイス・ボルヘス氏などをはじめとしたラテンアメリカ作家の怖い短篇が収録された書です。ボルヘス氏は、夢や迷宮、無限と循環、架空の書物や作家、宗教・神などをモチーフとする幻想的な短編作品によって知られているとはいいながら、日本ではまだまだ知名度はそれほど高くないので、同書を読むことで、ボルヘス氏やその他のラテンアメリカ作家の新しいテイストが味わえます。同書には15編が収録されており、例えば、ボルヘス氏の「円環の廃墟」、インベル氏の「魔法の書」、モンテローソ氏の「ミスター・テイラー」、フエンテス氏の「トラクドカツィネ」、コルタサル氏の「奪われた屋敷」、ルゴネス氏の「火の雨」などがとっても面白かったです。
紙の本
題名に偽りあり…か?
2018/04/24 21:53
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kwsm - この投稿者のレビュー一覧を見る
古典的な幽霊譚あり、サイコホラーあり、さらにSFからブラックユーモア、幻想的な散文詩と多彩な作品がそろった短編集。訳者によるあとがきであえてこのタイトルを掲げたねらいが語られてはいますが、個人的には「怪談」とくくらなくてもよかったのではないかと(予想を裏切る面白さではありましたが)。
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紀伊國屋書店限定復刊。
ボルヘスやコルタサルの名前が並んでいるので、勝手に幻想小説寄りのアンソロジーだと思っていたが、かなり『怪談』寄りだった。『ホラー』ではなく『怪談』というのがピッタリなものが多い。『火の雨』や『吸血鬼』、いいなぁ……。
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■火の雨 レオポルド・ルゴネス 1874-1938 アルゼンチン 田尻陽一
ソドムとゴモラ式の天変地異を、それら悪徳から一歩退いた人物が、巻き込まれながら観察する、という趣向かな。
■彼方で オラシオ・キローガ 1878-1937 ウルグアイ 田尻陽一
愛(+)のために死世界(-)に移行した恋人同士が、くちづけという愛(+)を達成すれば、途端に消滅(ー)するしかない。この極端をこの短さで実現する短篇。
■円環の廃墟★ ホルヘ・ルイス・ボルヘス 1899-1986 アルゼンチン 鼓直
所謂まあ、完璧な短篇。
■リダ・サルの鏡 ミゲル・アンヘル・アストゥリアス 1899-1974 グアテマラ 鈴木恵子
恋のお呪いをかけようとする娘、そうとは知らない男とその家族、その間をつなぐ盲目の老人、さらには湖に姿を映して、というロマンチックな要素たっぷり。
■ポルフィリア・ベルナルの日記★ シルビーナ・オカンポ 1903-1993 アルゼンチン 鈴木恵子
『ラテンアメリカ五人集』で読んだ「鏡の前のコルネリア」も素敵だったが、本作も夢みがちな少女を描く。大変に好みだ。アドルフォ・ビオイ=カサーレスの娘。
■吸血鬼 マヌエル・ムヒカ=ライネス 1910-1984 アルゼンチン 木村榮一
ちょうど『ヤング・フランケンシュタイン』を見たタイミングで、ついつい連想してしまった。それくらいコミカル。さらにロマン・ポランスキー『吸血鬼』のシュールギャグを連想したりもした。ゴシックロマンを南米流にパロったら。本書の著者紹介では「重厚なバロック的文体を駆使して」と書かれているが、ちょっと自分の読み方はズレているかもしれない。と思って検索してみたら、『七悪魔の旅』も風刺的ユーモアらしい。
■魔法の書 エンリケ・アンデルソン=インベル 1910-2000 アルゼンチン 鼓直
明らかにボルヘスの影響があるが、この小説では読書体験そのものにボルヘス的機構が潜み、さらに内容はユダヤやキリストやという、凄まじい小説だ!
■断頭遊戯 ホセ・レサマ=リマ 1912-1976 井上義一
寓話的な三角関係。
■奪われた屋敷★ フリオ・コルタサル 1914-1984 鼓直
イレーネの大声の寝言は近親相姦の象徴??いや全体が、社会的圧制の象徴??何を象徴しているのかがわからなければ、読み解けないが、それでも編み物に集中する妹の姿は、意味を読み取れずとも、素敵だ。
■波と暮らして★ オクタビオ・パス 1914-1998 井上義一
特定の恋人との同居の実感を、詩的に言い換えただけ、なのではないだろうか。
■大空の陰謀★ アドルフォ・ビオイ=カサーレス 1914-1999 安藤哲行
読み始めてすぐ気付いたが、『パウリーナの思い出に』で読んだことがある。コルタサルをSFに移したら、という印象。つまりは素敵。
■ミスター・テイラー アウグスト・モンテローソ 1921-2003 井上義一
独特な寓話。首狩り族という発端はステレオタイプだが、干し首を売る会社設立、アメリカで大流行���というのはむしろアメリカへの皮肉か。
■騎兵大佐 エクトル・アドルフォ・ムレーナ 1923-1975 鼓直
山尾悠子の「菊」を思い出すくらい、隠微な雰囲気。
■トラクトカツィネ★ カルロス・フエンテス 1928-2012 安藤哲行
シャルロッテ・フォン・ベルギエン(メキシコ皇后としてはスペイン語読みのカルロータ)、とのこと。初めて知った。が、それを知らずとも十分に、awful、terrible、horrible。「アウラ」の前身。溝口健二の雰囲気。
■ジャカランダ★ フリオ・ラモン・リベイロ 1929-1994 井上義一
死んだ妻の記憶に浸された男が、むかし見知ったかもしれない女を前にして、妻の記憶と女の記憶が混合していく様子が、意識の流れ的に描かれていく? ともかく凄まじい短篇だ。
ラテアメつったらマジリアっしょーという浅薄な奴を射殺したいマジリア警察としては、
そして幻想文学とかシュールリアリズムっつったら日常を飛び越えてシュールに幻想に遊べばいいんしょーという浅薄な奴らを射殺したい幻想文学警察/シュルレアリスム警察としては、
様々な方面に牽制しつつ、大いに愉しませてもらった、怪談集というよりは奇想小説集
ボルヘスとかコルタサルとかフエンテスとか贔屓筋の作家は多いが、作品としてすげえと思ったのはむしろ「魔法の書」エンリケ・アンデルソン=インベル
とか「ジャカランダ」フリオ・ラモン・リベイロとか。
つまりは至上のアンソロということだ。
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ラテンアメリカの作家というとガルシア=マルケスしか名前が浮かばなかったが、ボルヘスは読んだことがあったかも。
怪談集というより幻想小説集とか、伝奇譚という方が自分にはしっくりくるような短編集だった。
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日本人が怪談と言われて思い浮かべるタイプの作品は
ほとんど入っていないので、
看板に偽りあり、なのだが、
面白かったので許す(笑)。
また、タイトルに「ラテンアメリカ」と
冠されているが、
ブラジルの文学は含まれていない。
収録作はスペイン語で書かれた小説で、しかも、
15編中8編はアルゼンチンの作家によるもの。
全体的に、意外にしんみりしたムードが漂う。
以下、多少のネタバレ感を醸しつつ……。
■ルゴネス「火の雨」(アルゼンチン)
ある日、燃える銅の粒が雨のように降り注ぎ、
建物や人や動物を焼き始める。
単身、享楽的な生活を送っている
中年男性の語り手は、
驚き、恐怖を感じながらも、
諦めと共に恍惚とした気分で運命に甘んじる。
■キローガ「彼方で」(ウルグアイ)
両親に交際や結婚を反対された娘は
青年ルイスと心中し、自由の身となって、
嘆き悲しむ家族の様子を眺めていたが……。
■ボルヘス「円環の廃墟」(アルゼンチン)
再々読。
夢を媒介とする単性生殖の神話。
■アストゥリアス「リダ・サルの鏡」(グアテマラ)
富裕な一家の息子を慕う貧しい娘リダ・サルは、
恋を実らせるというまじないを行ったが……。
■シルビナ・オカンポ
「ポルフィリア・ベルナルの日記」(アルゼンチン)
8歳の少女ポルフィリアの家庭教師となった女性、
アントニアの恐怖体験。
女家庭教師の不安と子供たちという設定は
ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』(1898年)を
彷彿させる。
異常なのは語り手か、
それとも異様に大人びた少女なのか。
ちなみに、作者はビクトリア・オカンポの妹で、
ビオイ=カサレスの妻。
■ムヒカ=ライネス「吸血鬼」(アルゼンチン)
東欧の小国の国王の従兄弟に当たる
フォン・オルブス老男爵は、
ロンドンのホラー映画専門の制作会社に
白羽の矢を立てられ、
新作の主演を務め、尚且つ、
居城を撮影場所として提供してほしいと
持ちかけられた。
経済的に困窮していたため
申し出を受け入れた男爵は、実は吸血鬼で……。
そのまま映画になりそうな、
とぼけた味わいのホラーコメディ。
■アンデルソン=インベル
「魔法の書」(アルゼンチン)
ブエノスアイレス大学講師ハコーボ・ラビノビッチは
古書店で奇妙な手稿本を見つけ、3ペソで購入した。
それは、いわゆる「さまよえるユダヤ人」が綴った
ユダヤ世界の歴史と個人史だったが……。
「書く」「読む」という行為と
「書かれたもの」を巡るウロボロス的な物語。
ところで、ボルヘス『エル・アレフ』
https://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4582765491
で「不死の人」を読んだとき、
サラッと流してしまったが、冒頭、
貴族の女性にロンドンで『イリアッド』を売った
骨董商ヨセフ・カルタフィルスという名が
出てくるけれども、
これは、刑場へ引かれるキリストを侮辱した罰として
死ぬことも出来ず、永遠に世界をさまようと言われる
ユダヤ人が(13世紀の)イギリスに
その名で現れたという伝説を踏まえていたのだと、
今頃気づかされた――というより、
別個のものであるはずの二者の合一を描いた
この作品(1961年発表)は、
ボルヘス「不死の人」の影響を受けて
書かれたのかもしれない。
■レサマ=リマ「断頭遊戯」(キューバ)
舞台は古代の中国。
ラテン文化圏の人の
東方への憧れや幻想といった趣が感じられる。
魔術師と皇帝と后と、
皇帝を倒して国の頂点に立とうとする通称「帝王」の
残酷な四角関係。
■コルタサル「奪われた屋敷」(アルゼンチン)
寺尾隆吉・訳「奪われた家」(光文社古典新訳文庫)
を読んだが、鼓直版は初。
寺尾訳で中年の兄妹が
「物静かで素朴な夫婦のよう」
(光文社古典新訳文庫★p.11)とあるのが、
鼓訳では「兄と妹同士の慎ましやかで静かな結婚」
(本書◆p.217)で、
後者は言葉の綾かもしれないが、
背徳的な雰囲気を湛えている。
また、侵入者に気づいた兄のセリフが、
寺尾訳では「裏手を奪われてしまった」(★p.15)
であるのに対し、
鼓訳は「奥の方は連中に奪われてしまった」
(◆p.220)と、
侵入者に心当たりがあるかのように語られているのが
一層不気味。
■オクタビオ・パス「波と暮らして」(メキシコ)
海の波(の一部)を持ち帰って同棲する男。
波は女であり、我が儘で嫉妬深い。
■ビオイ=カサレス「大空の陰謀」(アルゼンチン)
モリス大尉と共に失踪した
医師セルビアン博士の手記。
戦闘機のテスト飛行の事故でケガを負い、
手当てを受けたモリス大尉が体験した
奇妙な出来事と、謎の解明。
平たく言うとパラレルワールドSFだが、
時空間のズレ、その狭間に落ち込む不安と恐怖感は
エリアーデ「ホーニヒベルガー博士の秘密」や
「セランポーレの夜」などと共通する面白さ。
■モンテローソ「ミスター・テイラー」(グアテマラ)
破産したパーシー・テイラー氏の新ビジネス。
■ムレーナ「騎兵大佐」(アルゼンチン)
「私」は古馴染の通夜で
不謹慎な態度を取る見知らぬ男に不快感を覚えたが、
帰りに同道する羽目になり、
気分が悪くなるほどの体臭を振り撒かれて辟易。
しかし、翌朝の埋葬の折には
何故か、誰も彼のことを覚えていなかった……。
■フエンテス「トラクトカツィネ」(メキシコ)
副題は del jardín de Flandes=「フランドルの庭」。
語り手は古い屋敷で留守番を務めるが、
庭が物語の舞台であるメキシコシティと
19世紀のフランドルという異空間を繋ぐ磁場となり、
亡霊が現れる。
メキシコ皇帝マクシミリアンの后カルロタ
=シャルロッテは
ベルギー国王レオポルド一世の娘なので……。
■リベイロ 「ジャカランダ」(ペルー)
仕事に区切りのついたロレンソ・マンリケ博士は
首都リマへ戻る準備をしていたが、
目に見えない力に引き留められている。
それはジャカランダの花の色や香りと、そして……。
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ラテンアメリカには怪談というジャンルはないのだそう。
不思議な話を集めたものだといってよい。
「魔法の書」が良かった、わかりやすかった。
人間の知りたい欲望が表現されていて、読書狂の極致か。
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マジックリアリズムの金字塔。心中した男女のその後を描いた「彼方で」。おまじないに取りつかれた娘「リダ・サルの鏡」。見知らぬものに自分たちのテリトリーを侵されていく「奪われた屋敷」。少女のように無邪気な波との暮らし。やがて”女”の部分がむきだしになり...「波と暮らして」その他にも、奇妙でぞっとする短編がたくさん収録されている。鼓先生によるユーモアたっぷりのあとがきは必見!
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火の雨 ルゴネス
彼方で キローガ
円環の廃墟 ビルヘス
リダ・サルの鏡 アストゥリアス
ポリフィリア・ベルナルの日記 オカンボ
吸血鬼 ムヒカ=ライネス
魔法の書 アンデルソン=インベル
断頭遊戯 レサマ=リマ
奪われた屋敷 コルタサル
波と暮らして パス
大空の陰謀 ビオイ=カサレス
ミスター・テイラー モンテローソ
騎兵大佐 ムレーナ
トラクトカネツィネ フエンネス
ジャカランダ リベイロ
訳者あとがき
出典一覧
原著者・原題・制作発表年一覧
訳者紹介
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ラテンアメリカ諸国の短編集。題名は怪談集になっているけれど、怖いといよりも奇妙な感じで、奇譚集という感じ。
巻末の編者あとがきでは、鼓直さんによる収録の作者たちの「冥界の座談会」となっている。
作家たちは「死者の我々ほどラテンアメリカ怪談を語るのにふさわしい者はいないでしょう」と快く、ラテンアメリカの怪談(幻想文学)について語ってくれている(笑)。
ルゴネスが始まりとなりラ・プラタ河地域の幻想文学が始まり、ボルヘスに継がれ、ボルヘスを取り巻き広がっていった。
キューバのカルペンティエル(この短編には収録されていないが)が亡命中にシュルレアリストと親交を結び、シュールレアリスムの「驚異的なもの」とは、自分たちの大陸には自然や生活のなかに普通にあるよってことで「驚異的現実」⇒「魔術的リアリズム」となっていった(カルペンティエル「この世の王国」の序文にも書かれていますね)話。
宗教や神話や伝説や習俗が色濃く出るアストゥリアス、東洋哲学・宗教をもとに宇宙と生のあり方を巡るオクタビオ・パス、彼らを源流としてラテンアメリカ文学の精神と手法が各地に広がっていた。…という幻の座談会。
【「火の雨」レオポルド・ルゴネス(アルゼンチン)】
ゴモラの亡者を呼び寄せる。ー汝らの天を鐵の如くに為し汝らの地を銅の如くに為さんー レビ記二六・一九
ある日突然火の雨が降ってきた街。人々は逃げ、街は滅び、動物たちは水を求める。一人生き残った語り手も…
【「彼方で」オラシオ・キローガ(ウルグアイ)】
交際を反対された若い恋人は共に毒を飲んだ。魂だけになりこの世に留まった彼らは夜ごとの逢瀬に幸せを感じる。だが肉体を失った愛の行く先は、もう一度死ぬことだけだった。
==
キローガの書く生命は手から抜けてゆく感じがする。作者自身の周りには本人を含めて不幸な死や自殺者が多いせいだろうか。
【「円環の廃墟」ホルヘ・ルイス・ボルヘス(アルゼンチン)】
夢によって一人の人間を生み出した男が、自分も夢によって生み出されたのだと悟る話。
夢はボルヘスのお気に入りのテーマの一つ。
<安らぎと、屈辱と、恐怖とを感じながら彼は、己もまた幻にすぎないと、他者がそれを夢見ているのだと悟った。P50>
==
この短編集のなかにあると、ボルヘスがわかりやすく感じてしまう笑
【「リダ・サルの鏡」ミゲル・アルトゥリアス(グアテマラ)】
リダ・サルは愛しい男を振り向かせる恋のおまじないを実施する。相手の服を着る。そしてその姿で鏡に全身を写さなければいけない。そんな大きなカギ身など持ってはいない。そこでリダは森へ行き…
【「ポルフィリア・ベルナルの日記」ビクトリア・オカンポ(アルゼンチン)】
アントニア・フィールディング(30歳)は、ベルナル夫人に娘のポルフィリア(8歳)の家庭教師に雇われる。
ポルフィリアは、ぜひ読んでほしいと言って日記を渡してくる。しかしそこには、書いた日よりは先の日のことが書かれている。そしてそれは現実となっているのだ。
==
すみません、よくわかり���せんでした。(-_-;)
ポルフィニアは、フィールディングに「私日記を書いたから読んで!」と渡されるが、中身はフィールディングを邪悪でふしだらな女だとして書いていて…
本人の悪口を本人に読ませるのは、ポルフィニアが子供らしい無邪気な悪意の持ち主なのか、それにしてもその日記(物語)が未来予告になっていたというのはどういうわけだ(-_-;)
【「吸血鬼」ムヒカ=ライネス(アルゼンチン)】
国王の親族でもあるザッポ十五世フォン・フォルブス老男爵に残されたのは、老朽化した屋敷と城だけだった。ザッポ男爵はその外見から吸血鬼と呼ばれていた。彼は本当に皆が思う吸血鬼そのものだったのだ。
映画会社がそんなザッポ男爵の城と屋敷と彼自身に目をつける。そしてザッポ男爵を主人公にした吸血鬼映画の撮影が始まった。しばらくすると出演者や関係者の首筋に傷ができ、だんだん無気力になっていった。
明敏なる読者なら、ザッポ男爵が本当に吸血鬼そのものだってお気づきになったことだろう。
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ちょっと面白い(笑)。本物の吸血鬼に吸血鬼役を奪いあう役者(ルーポ・ベルーシという役者なんだが、ベラ・ルゴシがモデルかな?)、大金がもらえるんなら私も映画に出してよという周りの貴族たち、どうして私は噛まれないの−と嫉妬する女性脚本家。
【「魔法の書」アンデルソン=インベル(アルゼンチン)】
古本屋で見つけた本は、全く意味をなさないアルファベットの羅列だった。だが1ページ目の1文字目である”L”から一文字一文字追ってゆくと、まるで解きほぐされるように意味のわかる言語となる。
書き手は聖書の”さまよえるユダヤ人”だという。<読者よ、旅の仲間よ、あなたはどこまで渡しについてこられるだろうか。あなたの目の前にあるのは、終わりのない物語である。いくら読み続けても、この本を終えるまでにあなたは死んでいるだろう>
それは英語だと思えば英語になり、スペイン語だと思えばスペイン語になり、フランス語だと思えばフランス語になる。
対して長くもない書物の1ページ目から最後のページまで読み終えた!…と思ったら、また最初のページに戻るように指示されている。驚いたことに、最初のページははじめに読んだときと違い、最後のページの続きになった。
一度目を離せば言葉は意味のないアルファベットの羅列に戻ってしまう。そうなったら最初の”L”から読み直さなければならない。だが二度目に読んだら、一度目に読んだ時と内容が変わっているではないか。
この本は、読まれると同時に書かれているのだろうか。きっと神が人間を見るのもこのような形であるかと思う。そしてこの本を書いているのは私自身なのかもしれない。
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永遠に続く書物というのは、ボルヘスの「砂の本」なんかもありますね。
【「断頭遊戯」ホセ・レサマ=リマ(キューバ)】
幻術士ワン・ルンは、人の首を切りまた戻すという芸を持っていた。時の皇帝は后のソー・リンの首を切り戻すことを命じる。宮廷の陰謀を悟ったソー・リンは、幻術士とともに宮廷を逃げ出す。
やがてソー・リンは、皇帝に反逆を仕掛ける盗賊の頭の愛人となった。
数年後、盗賊は皇帝の都を攻め、ソー・リンと幻術士とがまた出会い…
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文体は豪奢だが、ヒリヒリするような緊張感がある。
【「奪われた屋敷」フリオ・コルタサル(アルゼンチン)】
ブルジョワ屋敷で兄と妹が閉じこもるように暮らしていた。あるとき屋敷の向こう側から物音がして、連中に占拠されたことを悟る。兄妹は屋敷のこちら側だけで暮らしていたがこちら側も占拠されたので、着の身着のままで屋敷を出たのだった。
==
コルタサルの出世作であり(ボルヘスが見出した)、一番の有名短編。ラテンアメリカ短編の中でもとても有名でとても意味がわからずとても印象的な一作です。やっぱり意味がわからないんですが、雰囲気は抜群なので、無理に意味わからなくてもいいやと思う。
【「波と暮らして」オクタビオ・パス(メキシコ)】
海から帰ろうとしたぼくの腕に一つの波が飛び込んできた。その時からぼくと波の暮らしが始まった。波は魅力劇で気まぐれで移動に苦労した。だからぼくは解決することにした。
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波と暮らすという非現実表現と、波を車両タンクに入れて裁判になったなど現実的なことと、波が機嫌を損ねて家が腐食したんだとか、波が魚と側蒸れることに嫉妬したとか…。そして最後がちょっと残酷でびっくりした。
【「大空の陰謀」ビオイ=カサレス(アルゼンチン)】
アルゼンチンのモリス大尉はパイロット飛行で不時着した。だが周りの人々は自分を知らないという。
再度パイロット飛行に出たモリス大尉は、今度は自分を知る人たちのもとに戻ってきた。
その話を聞いたセルビアン博士は思う。彼はきっと、同一だがわずかに異なる異世界に降り立ったのだろう。その世界の自分の研究は興味深く、自分もその世界に行ってみたいと思う。
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いわゆるパラレルワールド物です。降り立ったパラレルワールドは、ウェールズという国は存在せず、カルタゴは滅亡していない。そのためウェールズ系の人間や名前がなく、カルタゴ系の人間がいるという世界。なるほどー。
おそらく時代背景もあるのだろうか。語り手のセルビアンはアルメニア人だが、オスマン・トルコからの虐殺の際に先祖がアルゼンチンに移住したらしい(「ローチ生れのアルメニア人」と書いてあるんだが、ローチってどこだ。「ローチ、アルゼンチン」で検索したらゴ…の種類が出てきてしまった(-_-;))。そしてモリス大尉はウェールズ系なので、ウェールズが存在しない異世界にはいなかった。
…、どなたか、アルメニア、ウェールズ、カルタゴを巡ってのローマ帝国のあり方とか教えてください…
【「ミスター・テイラー」アウグスト・モンテローソ(グアテマラ)】
アマゾンのジャングルで貧乏暮らししていたアメリカ人のミスター・テイラーは、ある時原住民から”干し首”を手に入れたのです。なんとなしにアメリカにいる叔父さんにその首を送ったところ、叔父は干し首商売を始めました。
そこから二人は大儲け。そしてアマゾンのその国も大儲け。
国を挙げて死刑を増やし、他国に戦争を仕掛け首を作って作ってアメリカに売りまくったのです。
しかしあまりにも多くの人の胴体から首を切り離したため、もう干して売るための首がなくなってしまったのです…。
==
まあこういうオチになるよね、という結末なのですが、
民主的国家だったグアテマラに、アメリカが政治的に商業的に介入していくことへの皮肉という作品、ということ。
【「騎兵大佐」アドルフォ・ムレーナ(アルゼンチン)】
ある軍人の葬儀のときに、私は奇妙な印象を残す騎兵大佐と出会った。
だが翌日彼の話をしてもみんな怪訝な顔をするだけだった。
再び弔問に訪れた私は、部屋の中に強烈な花の匂い、いや、あの騎兵大佐の匂いを感じるのだった。
===
死神譚でしょうか。
【「トラクトカツィネ」カルロス・フエンテス(メキシコ)】
新しい屋敷の庭に現れる老婆。やがて手紙が差し込まれる。庭に出ると老婆がわたしの手を取り…
==
どうやらナポレオンの妹でメキシコ皇妃のシャルロッテと、メキシコ皇帝のマクシミリアンの亡霊話で、屋敷に残ったその怨念?に取り入れられちゃう話なんだが…、「トラクトカツィネ」がなんだか分からない(-_-;) メキシコの読者はすぐに分かるんだろうか、日本の本に入れるなら解説ほしい…。
【「ジャカランダ」フリオ・ラモン・リベイロ(ペルー)】
ジャカランダに赴任したロレンソの妻とかつての記憶の女が入り交じる。女の幻影。
===
ファム・ファタル物なのかな。
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タイトルどおりの本。とはいえ、読んでみるとよくイメージするような「怪談」とはかなり趣きが違っているのがわかる。解説にもあるけど、幻奇小説集に近い。
好きな話は「魔法の書」、「大空の陰謀」、「ポルフィリアベルナルの日記」。
「魔法の書」は、最近本を流し読みしてるうちにあれ今ってどんな流れだっけ?と思って読み返すことが多いので、なんだかリアルな怪談だった。
「大空の陰謀」… 一種のパラレルワールドもの。
「ポルフィリアベルナルの日記」… 教え子の視点を通し、主人公が自分の行いを客観視する恐怖が描かれる。教え子の少女が家庭教師である主人公を「猫」と表現したり、その視点にじっとりとした恨みを感じるのが不気味。
日本やハリウッド映画では、幽霊や悪魔といったモンスターが階段の主役となっている。でも、本書ではそういった怪物の影は薄く、不思議な現象が避けようのない災害のように描かれる。ラテンアメリカ文学にはあまり詳しくないけど、パターン化された日本の怪談との違いは、そのまま国民性にも表れているような気がした。それと、怪談なのに、全体的になんだか明るい!
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ラテンと聞くと、情熱的で暑くてまぶしくて乾燥してるイメージが有るけど、だからどんな怪談になるのか興味が有ったけど、ちょっと違ったな~。
意外と面白く読める作品が多かった。
この手のアンソロジー的な本には、必ず一つや二つ訳の分からない話が有るもので、この作品の中にも訳が分からんのが幾つか有ったけど、まぁまぁ面白かった。
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・変な短編小説の詰め合わせ。どの短編も読み味が違っていて、人によってお気に入りがかなり別れそう。
・こんなに自由なあとがき初めて見たな。
・以下、自分のお気に入り度。
☆☆☆☆☆:
『魔法の書』、『奪われた屋敷』、『波と暮らして』
常識を揺さぶられる至福の読書体験。何度でも読み返したい。
特に『波と暮らして』、海の波との同棲生活っていう意味不明な話なのに、出だしからずっと状況描写が美しくて感動した。
☆☆☆☆:
『円環の廃墟』、『ポルフィリア・ベルナルの日記』、『ミスター・テイラー』
☆☆☆:
『火の雨』、『吸血鬼』、『騎兵大佐』