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紙の本
隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
著者 クリストファー・プリースト (著),古沢 嘉通 (訳),幹 遙子 (訳)
近未来。フリーカメラマンのタラントは、旅行先のトルコで反政府ゲリラのテロに遭い、最愛の妻を失う。ロンドンに帰るため、海外救援局に護送されるタラントだが、彼の現実は次第に歪...
隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
隣接界
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商品説明
近未来。フリーカメラマンのタラントは、旅行先のトルコで反政府ゲリラのテロに遭い、最愛の妻を失う。ロンドンに帰るため、海外救援局に護送されるタラントだが、彼の現実は次第に歪み始め、隣り合う世界に侵食されていく…。【「TRC MARC」の商品解説】
近未来英国、フリーカメラマンのティボー・タラントは、トルコで反政府ゲリラの襲撃に遭い、最愛の妻を失ってしまう。本国に送還されるタラントだが、それから彼の世界は次第に歪み始めていく……。現実と虚構のあわいを巧みに描きとる、著者の集大成的物語。【商品解説】
著者紹介
クリストファー・プリースト
- 略歴
- 〈クリストファー・プリースト〉1943年イングランド生まれ。英国SF/ファンタジイ界を代表する作家。「奇術師」で世界幻想文学大賞、「双生児」で英国SF協会賞、クラーク賞を受賞。
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紙の本
量子時代の恐怖とは
2018/08/01 23:25
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
第一次世界大戦中、ロンドンの奇術師トレントは爆撃機のカモフラージュ方法を考えるという任務のために召集され、同じ境遇のH.G.ウェルズと出会う。第二次大戦中の飛行機整備士トーランスは基地でポーランド出身の女性飛行士に出会う。そしてヨーロッパに移民が満ちて、グレートブリテンはイスラム国家になり、ロンドンは未知のテロ兵器で廃墟と化しているが、カメラマンのタラントはトルコで謎のテロ兵器により妻を失う。
これらのストーリーは、様々な異文化が交錯して揺らぎながら重なっているようでもあるが、そうなのだろうか。一方で量子力学テクノロジーがどんどん一般化されていって、現実世界に与える影響を指摘されて、政府は禁止しようとしている。規制の目を逃れて量子力学カメラを持って帰国した男に起きる奇妙なズレは、量子力学的効果なのだろうか。ズレはどんどん大きくなり、ブリテン島とは思えない謎の島国で、奇術師は公演中に失敗し、女性飛行士は最新型スピットファイアに乗り込んで故郷を目指し、ズレというには時間も空間も遠い場所に物語はどんどんジャンプしていく。そうして救いを得る魂もあるが、その逆も当然あることだろう。
理屈はどうあれ、誰の力であれ、崩れてはまた希望に向かっていく一人の男の姿には引き込まれていく。戦争による死者、テロの犠牲者たちがうず高く積まれ、時にはよみがえりする中で、間隙をぬうように生き延びているのだとしても、そこには物語というものの力が作用しているのだろう。死と生の様々な瞬間を目撃し、自身も翻弄されていく、惨禍と動揺の描写が、そこを世界の中心線にしてしまう。
変貌していってるのは世界なのか、人間の精神なのかも、もはやわからない。だが近い将来には、こういう世界が訪れるのかもしれず、それが起きる時には、誰も気づかないうちにそうなっているのだ。
そんなあやふやな予言をされても困るのである。いや、すでに世界には所詮あやふやなことや意味のわからないことが溢れているわけで、今さらもう一つ付け加えられても驚かないとも言える。素粒子レベルで世界像がひっくり返されること、戦争とテロの恐怖、そのどちらが脅威であるか比較してしまうこと自体が、我々の本当の悲しみではないだろうか。
でも、いいなあ、スピットファイア。