紙の本
不気味な純文
2020/09/12 16:45
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投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
不気味系純文学のトップランナー藤野さんの短編集。自分しか覚えていない他人の家の犬、幼い頃の空がやたらと黄色かった記憶、無骨さを究めた理解できないアクセサリーにのめり込む彼女。「他者とのズレ」の中にどこか気持ちよささえ感じさせる独特で淡々とした文章が面白い。
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まさに奇想。どうしてこんなへんてこな物語を思いつくことができるのだろう、と不思議に思うほど。そして藤野さんの奇想のセンスはとても好き。
8つの短編たちのなかで好きだったのは、
はじめの『テキサス、オクラホマ』と表題作の『ドレス』。
テキサス、オクラホマの出だしが好き。
――菫の歴代の恋人たちはみな、決まってこう言う。
「なにそれ? ちょっと見せて。テキサス? オクラホマ?」
テキサス、オクラホマとプリントされた生肉色のパーカー、気になるなぁ笑。
あと、女性たちを魅了するドレスさんの作るアクセサリーとドレスさん自身も。
久しぶりに藤野さんの作品に触れて楽しかった。
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「テキサス、オクラホマ」★★★★
「マイ・ハート・イズ・ユアーズ」★★★★★
「真夏の一日」★★★
「愛犬」★★★
「息子」★★★
「ドレス」★★★★
「私はさみしかった」★★★
「静かな夜」★★★
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肉色のパーカーとドローンの療養所『テキサス、オクラホマ』
男が小さく一つになる妊娠『マイ・ハート・イズ・ユアーズ』
真夏ちゃんと個展『真夏の一日』
臼井さんと突然思い出す皮膚炎犬『愛犬』
屋上階段と子供携帯『息子』
妻のアクセサリー『ドレス』
カネコフとゲイの隣人『私はさみしかった』
レンジフードからの声『静かな夜』
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あとがきのあと「ドレス」 藤野可織氏 日常に揺さぶりかける奇想
2017/12/9付日本経済新聞 朝刊
不倫関係から夫婦になった男女のゆがんだ感情が浮かび上がる芥川賞受賞作「爪と目」など、ちょっと怖い小説を書いてきた。8編の短編を収めた本書にも、日常に揺さぶりをかけ、ドキッとさせる奇想が盛り込まれている。
冒頭の「テキサス、オクラホマ」で主人公がアルバイトをするのはドローンの保養所。「AI(人工知能)やアンドロイドが話題になっているが、機械がいかに人間に近づけるかといったことには興味がない。機械は機械の幸福を追求してほしい」。機械がリフレッシュするための保養所はそうした思いから生まれた。
「マイ・ハート・イズ・ユアーズ」は、若くて小さい男性が女性に好まれる世界。妊娠に当たって、男性は女性の体に同化し、姿を消していく。「雄より雌の方が体の大きいチョウチンアンコウの生態を参考にした。体力のない自分が出産するとしたら、と考えて書いた。読んだ夫は怖がっていましたが」と笑う。
2年ほど前から、女性であることを意識した作品を書くようになってきたという。「私は社会経験が豊かではないし、変わった人生を送ってきたわけでもないので、小説の素材はとても少ない。以前は書き手の性別なんて関係ないと思っていたが、今は持って生まれた性も素材の一つとして使っていこうと考えるようになりました」
表題作はアクセサリーなどのブランドである「ドレス」に心を奪われる恋人に男性が戸惑う様子を描く。「男の人がかわいいと思う女性の服装と、女性がそう感じるものは違っているのを面白いと思ってきた」と話す。「人と人はわかり合えないが、それでも一緒にいられる」というのは一貫した考えだ。
世界各国の作家が集まる米アイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラムに招かれ、3カ月ほどの滞在から戻ったばかり。「この体験もいずれは小説の題材になりそうです」と期待する。(河出書房新社・1500円)
(ふじの・かおり)1980年京都市生まれ。同志社大院博士前期課程修了。2006年作家デビュー。13年「爪と目」で芥川賞受賞。著書に『ファイナルガール』など。
===qte===
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まさに奇想。
暗闇の中で、膝を抱えた子どもをイメージする。
全編において、少女的な潔癖さや畏怖を感じたからか。
誰もが何かをぶち壊し、何かに怖がり怯え、何かに憧れているような叫びを感じた。
誠実な作家だと思う。
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8つの短編集。こわくてシュールで可笑しくて気持ち悪くて不安でこのひとにしか描けない世界観な気がしました。表題になっている「ドレス」が最高でした。
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ある人が「爪と眼」に寄せた書評で、
「この小説の主人公は視覚そのものである」
という趣旨のことを言っていて、成る程と膝を打ったことがある。
それ以前のデビュー作の「いやしい鳥」からずっと読み続けている作家さんなのだけれど、この人の作品が持つ「気持ち悪さ」というのは、まさに「視覚」にあるのだと思う。
だれが、どういう状況で、何の目的で、この一連の物語を目撃して、語っているのか、という。
それが一読では分かり兼ねるから、気味が悪いのだ。
さて前作からしばらくぶりの新刊だけれど、今作はその「気持ち悪さ」が、「視覚」だけでなく五感の全てを侵していたように思う。
標本の手触り、犬のにおい、コーヒーの味、誰かの声、全てがざらりと喉に引っ掛かって、言葉の掌で背中を撫でられたみたいでぞっとする。
確かな実感として。
眼から得た情報が身体化されて、そうして赤ん坊が外界を識るようになっていく過程を、ふと想像した。
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ドローンの休憩所、夫を吸収して妊娠、人気の甲冑アクセ、などSFのようでいてシュールな8短編。
言葉に、普通にイメージすることと違う意味を持たせているってことがわかってくるけど、まぁそれもありかもって思うと、シュールで面白い。
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この作家を初めて読んだが、何とも不思議な感じ…。
なぜ「読みたい本リスト」に入れていたのか、読んだ後になってもわからない。
設定が斬新だなぁとは思うけど、正直、ついていけないのは、頭が固くなったせいなのか。
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SFの世界が広がる。
始まりは、私たちの「この」世界と変わらないように見えるが......。
『マイ・ハート・イズ・ユアーズ』はある動物を連想させた。
鮟鱇。
鍋にすると美味い。
鮟鱇のような生殖は幸せだろうか。
ある意味、究極の幸せかもしれない。
いなくなった相手には絶対に敵わない。
愛は美しいまま保たれるし、愛する人をまた、作る事だってできる。
愛の物語にとどまらず、現代社会のアンチテーゼが描かれている点が面白い。
それはメインの妊娠の話だけではない。
若くて小さい「男の子」がもてはやされるという背景もだ。
売れ残った男は「なんで自分がケーキ切りわけるの、それって仕事中断してまでやんなきゃいけないの?」とわめく。
うっふっふ、これよこれ、この痛烈なパンチ。
でもこれをいいねえ、と眺めているということはまだまだ、この社会はそうではないという事だ。
二編の、「息子」と「愛犬」の物語は怖い。
このものたちは存在していたのか?
それともはじめからいなかったのか?
愛されていたはず、そこにいたはずなのに、はじめからいなかったことになっている。
いや、そもそも愛されていたものがこんな状態に、なるか?
それが恐怖の根底だ。
いや、私が怖がっているのは、それが物語の中だけでは決してないこと。
先日行った区役所に貼ってあった法務省のポスターを思い出す。
イラストの笑顔とは裏腹に、内実はもっと、深い闇に満ちている。
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読み終わるのに時間がかかった。一度読んだだけだと、この本の上澄みしか理解出来ていないような気がする。文章とか空気感が繊細で美しくて好き。
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不思議な話の短編集
今までの心地悪い系の話よりもっとここじゃない世界の設定画面なのかな?理解できない話がいくつかあった。
読み手の力量も好きな怖さ度合いも違うからこの手の話ってとても難しいのだろうな。前に読んだ本のほうがわたしの好みだった。
生殖を描いた2編目はとても好み。
世界が違えば男女の関係も違うんだろうなと思えた。男性社会への抵抗も感じられてスカッとする感じもある。
ただ、妊娠の方法が岩井俊二のウォーレンの人魚に似ていたのは気になった。
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世にも奇妙な物語的な読後感の本だなと思った。特に、高等なドローンの保養所での悲劇を淡々と描いた「テキサス、オクラホマ」と男女の役割が違って子供を産む=夫を喰らうことになる「マイ・ハート・イズ・ユアーズ」、普通の彼女が鉄のアクセサリーにのめり込んでいく「ドレス」が好み。不思議で違和感があってザワザワするような世界観を描くのが上手い作者さん。
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爪と目の作家と知って腑に落ちました。常識が歪んでいくちょっと気持ち悪い感じ、うんうん、こんな感じの読み心地だったね〜と懐かしく思い出したけど、爪と目より大分読みやすかったのは人称が二人称じゃなかったからかしら??
短編集でそれぞれ完全に独立した話なのですが、それぞれ読み進めていくと、「どうもこの物語世界は、こっちの世界の法則が一部通用しない世界線らしいぞ」と薄々勘付くに至ります。
わずか数語・数行でその説明がなされた時の気持ちよさと、物語世界の法則のキミ悪さの塩梅が絶妙。
◉テキサス、オクラホマ
生肉色のパーカーと、ドローン達の保養所。
◉マイ・ハート・イズ・ユアーズ
はかなげな夫とたくましい妻の生涯一度の子作り。
◉真夏の一日
ギャラリー、ほくろ、変化した私。
◉愛犬
隣人の家にかつて住んでいたはずの犬の痕跡は跡形もなく消え去っていた。
◉息子
非常階段の南京錠がかかった扉の向こう側にいる息子。
◉ドレス(表題作)
ドレスという名のそのブランドでは、奇妙なアクセサリーを扱っていた。どう見ても珍妙にしか見えない指輪を愛用する恋人に違和感を覚える恋人は、やがて街中の女性達の間でドレス製作のアクセサリが流行っていることに気付き…
◉私はさみしかった
毎日痴漢の被害にあうという友人を痴漢し、私だけに挨拶をしないゲイに挨拶させるべく笑顔で詰め寄る私の孤独。
◉静かな夜
「家の中に誰かいる」そう怯える姪を寝かしつけた私は、気付いてしまった。確かにレンジフードの中から誰かの声が聞こえるのだ。