渋沢栄一日本の経営哲学を確立した男

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前半のみが渋沢栄一で後半のほとんどは著者の4書五経の見解なので、タイトルと内容が一致しないが、内容は面白い。

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20190421
山本七平が渋沢栄一を論じているならば避けて通るわけにいかない、という訳で手に取ったが、肝心の渋沢論は第1章のみで、他は論語から老荘に至り、ポピュリズムに落ちぶれた日本メディアに警鐘を鳴らすというよく分からない構成に陥っている。とは言え、渋沢の「論語講義」と朱子の「近思録」への入口を示してくれたキッカケの書。

ー栄一は農民であると同時に商人であり武士的気質も持っていたわけですが、当時の藍をつくる農民は、もう耕して食うという農民ではなくなっていて、いわば繊維・染料メーカーのような意識です。つくって売る。だから従来の農民意識とは異なり、生産性を高め、有利に販売し、合理化をするのにはどのようにすべきかを、藍香、栄一などは絶えず考えていたのです。そこでものの考え方がたいへん合理的であると同時に、商売ですから当然に情報に対してきわめて柔軟に対処するわけです。自分がある一定範囲内の情報で、一つの考えをまとめている。ところが別な情報を入手したとき、今までの考えをまったく変えてしまう。変えることをなんとも思っていないのです。

ーものの考え方は幕末の普通法、これは武士を除く農・工・商がその下で生きていた法律ですが、その人たちの考え方とほとんど変わっていない。（中略）ところがさまざまな新しい現象が出てくると、それに対しては実に柔軟に対応しています。これがいわゆる「不易」と「流行」ということだろうと思うのですが、全然変わらないというものがあるがゆえに、逆に外部の変化に対して少しも抵抗なく対応できる。ところが不易なるものがないと、逆に流行に対応できないと、確かに言えると思います。

ー「そもそも銀行は大河のようなものだ。役に立つことは限りがない。しかしまだ銀行に集まってこないうちの金銭は、溝にたまっている水や、ポタポタ垂れているシズクと変わりはない。時には巨商豪農の倉の中に隠れていたり、日雇い人夫やお婆さんの懐にひそんでいたりする。それでは折角人を利し国を富ませる能力があっても、その効果はあらわれない。万里を流れる勢いがあっても、土手や岡に妨げられて進むことはできない。しかし銀行を建てて巧みに流れ道を開くと、倉や懐にあった金が寄り集まって、非常に多額の資金となるから、おかげで貿易も繁盛するし、産物もふえるし、工業も発達するし、学術も進歩するし、道路も便利になるし、すべての国の状態は趣をかえる」（第一国立銀行・設立趣意書より）

ー「事業のいちばん基本は道徳だ」

ー「縦欲の病は医すべく、執理の病は医しがたし」（菜根譚）肉体の病は治すことができるが、理に執着する病は治すことができない

ー平和な時代にいかに革命を起こすか、という発想は全然なく、乱世になって混乱した社会にどうやって秩序を立てるか、いわば秩序の学というものが「論語」の非常に大きな特徴であります。

ー「有教無類（教え有りて類無し）」: 人間というのは、教育によってどうにでもなるものであって、生まれながらに類別があるわけではない。

ー「生まれながらにしてこれを知る者は上なり（生知）。学びてこれを知る者は次なり（���知）。困しみてこれを学ぶはまたその次なり（困知）。困しみて学ばざるは、民これを下となすと（下愚）。」天才はどんな壁をも突き破ってその天才を発揮し、馬鹿にはつける薬がない（東洋史学者・宮崎市定氏の現代語訳）

ー博く学びて篤く志し、切に問いて近くを思う。仁その中にあり。（中略）「博学・篤志・切問・近思」というのは学問の方法論で、博く学んで篤く志して、切に問うて近くを思う。これが孔子の学問するためのいちばん基本的なこと。ですから、自分のすぐ身近なことから学んでいけ。これは儒教のものの考え方の基本です。

ー博奕なるものあらずや。これを為すは猶お已むに賢れり。（人間は何もしないでいるというのがいちばん悪いんだ）

ー日本が中国からあらゆるものを輸入したのは唐の時代ですが（中略）日本が中国から仏教を導入したというのは実は正しくないんで、儒釈道合一論（儒教・仏教・道教の三教を基本的には同じものであるとする思想）を導入した

ーその鋭を挫き、その紛を解く。（老子）: 一刀両断するのではなく、何事も紛糾した糸を一生懸命解いていくように解いていく

ー文明の基礎は絶対的な対象への畏れである。畏れの喪失は文明の喪失であることを、もう一度、思いめぐらしてみるのも無駄ではあるまい。

ー欧米人の契約、日本人の約束（武士に二言はない、江戸の町人は必ず約束は守った）: 契約は法ですが、約束はそうではありません（グレゴリー・クラーク）

ー人間誰しも欠点を持っている。そこで孔子は「欠点のない常識的な人間を見つけて仲間になることができなかったら、つむじ曲がりか潔癖屋を探すことだ。つむじ曲がりは勉強するものだし、潔癖屋は欲望のために誘惑されることがない」と言っています。ごく単純に言えば.癖はあるけれども信頼できる人間、ということになるでしょう。潔癖だがつむじ曲がりでなく、筋を通すが角がなく、正直だがお人よしでないーこれが、孔子にとっての理想の人間です。